東京喰種√H   作:三木春

4 / 9
※原作との設定的な矛盾について
とりあえず、自分で判明した部分は編集し直しました。
内容が二転三転して申し訳ありません。

≪登場人物モデル≫
アンドレア:ディノ・デ・ラウレンティス
ロベルタ :アレッシア・テデスキ


邂 逅 : 04

天使の笑顔を伴った悪魔が去って行った後、2人の喰種捜査官は、コーヒーの入ったカップを片手に作戦会議を行っていた。

 

「それにしても毎度毎度、お前も相当物好きだな。面倒事ばかり引き受けてきやがって。甘い一夜でも期待してるのか?」

「いえ、そういうわけでは…」

「止めとけ。アイツお前をちょっと変わった芸のできる犬位にしか見てないぞきっと。顔も性格も母親に似てとんでもないからな。育て方を間違ったんだろう、ほいほい釣られるような男なんぞ扱き使ってなんぼだと思ってる。」

「…とにかく、さっさと行って調べてしまいましょう。」

 

元はと言えば、貴方が捜査会議を何度もさぼるからでしょうが。後、ロベルタ(姪っ子)が聞いたら傷つくんじゃないでしょうかその言い方。青年は心中でさらに言い返す。言葉には出さない。口喧嘩でこの中年に勝つなど土台無理、余計な言質を与えるべきではない。

 

ロベルタから渡された建物の見取り図を広げつつ、叔父からこき下ろされるここにはいない彼女を気遣う青年。だが自分が、11歳の誕生日に「私、叔父さん嫌い。笑って見せても言うこと聞いてくれないんだもの」と面と向かって言い放った悪魔を心配していることは、知らぬが仏というやつである。

 

こうして喰種が目撃されたという古いアパルタメントに赴こうとしている時点で、すでにその悪魔に扱き使われている気がするが、目撃されたのが「ルマーカ」とあれば放置しておく訳にもいかなかった。

 

「さて、どう攻めたもんかね。中途半端にオンボロな建物だ。こっちの気配を殺してもくれんし、連中の赫子を防いでもくれん。」

「見取り図ではエレベーターがありますね。」

「乗るか?」

 

小馬鹿にしたような口調でアンドレアが問う。無論、戦隊ものの特撮の如く、こちらの準備が終わるまで行儀よく待ってくれる喰種など現実には存在しない。自分から身動きの取れない場所に入るのは避けるべきだ。

 

「待ち伏せされる危険もありますし、木造の扉を手で開ける古いタイプのものです。喰種がその気になれば内部に侵入するなり、扉ごと赫子で攻撃するなりできます。乗るのは最終手段にしましょう。階段は…」

「狭い。おまけに柱に纏わりつくような折り返し形の階段だ。見通しも悪い。4階までしかないのがせめてもの救いだな。」

「…やはり、2人で調べるには危険ですね。」

 

思ったよりも難易度が高いと分かった調査にか、それとも眠気覚ましに淹れた安物のインスタントコーヒーのまずさにか、青年が顔を顰めながら言葉をこぼす。

 

「エレベーターも階段も駄目。いっそヘリが使えりゃ楽なんだが。」

「只の調査に使えるわけないじゃないですか。燃料代だって馬鹿になりません。でも、ヘリ、か…」

 

実際の所、聖騎士の位階にある自分なら申請書と報告書を提出すればいくらでも使えるのだが、若造を鍛えるべくここは黙って見守ることにする。

決して、書類を書くのが面倒なわけではない。

それにこの若造、こういう時に意外と面白いやり方を思いついたりするのだ。

 

「ちょっと待っていて下さい。騎士フェレッティから資料を貰ってきます。」

 

図面をじっと眺めていた青年はエレベーターと階段の位置を確認し、これならなんとかなるかな、と呟いて席を立つ。どうやらアパルタメント攻略の糸口を見つけ出したようだ。

 

「驚いたな、またあのお転婆に借りを作るとは。お前、尻に敷かれて嬉しくなるタイプなのか?」

「違います。私だって借りは作りたくないですが、喰われるよりはマシですよ。というか、解ってるなら貴方の口から一言言ってやっては頂けないでしょうか。」

「言って聞くような娘なら、端っから喰種捜査官になんぞ成らせんよ。あざとい性格は母親譲りだが、強情な所は父親に似すぎた。」

「……」

「なんだその顔。ほらさっさと貰うもん貰ってこい。」

「…失礼します。それと、あの、」

「昔の話だ。気にしちゃいない。」

 

申し訳なさげな顔をして出て行った青年の背中を見やりつつ、相変わらず妙な所で気をまわしやがると苦笑する。

ロベルタ・フェレッティの父親、すなわち自分の弟もまた、優秀な喰種捜査官()()()。志半ばにして喰種の咢の前に倒れた実父と同じく、娘もまた捜査官の道を歩むと知った時、自分の中に湧き上がった感情は嬉しさや誇らしさではなかった。

 

もう10年近く前の話。一生分の語彙を尽くして止めたことは覚えているが、何を言ったかは覚えていない。あの時泣きながらも決意を曲げなかった弟の一粒種が今や若くして騎士となり、男を顎で使っているとは、自分も歳を取ったものだ。

 

益体もないことを考えていると、先程送り出した青年がオフィスに入って来る所が見えた。

手に抱えている資料を見るに、おねだりは成功したようだ。代わりに何を犠牲にしたかは知らないが。まぁ、次こそはちゃんとカフェを奢ってやろう。さて、喰種好みのカフェを淹れるバールは後何処があったかね…。

 

頭の隅で次に青年を連れまわす場所を選びつつ、アンドレアはこれなら比較的安全に突入できると思います、と口火を切った青年に近づいて行った。

 

 

 

 

 

翌日。街が目覚め、人が日々の営みを始めるにはまだ少しばかり早い時間。2人の捜査官は件のアパルトメントに踏み込もうとしていた。

 

「始めるぞ。」

「お願いします。」

 

短いやり取りの後、アンドレアはアパルタメントの入り口をくぐり、エレベーターを起動させる。地上階に到着したことを確認して扉を開け、②の数字を押すと、古びたエレベーターはゆっくりと目的の階まで上昇していった。

 

 

 

 

 

古びた音が2階に響いた瞬間、“彼”は背後を振り返った。エレベーターの音だ。“彼女”が来てくれたのだろうかと顔を綻ばせ、同時に疑問が鎌首をもたげる。そうであるならいつもの如く階段を駆け上がってくるはず、エレベーターを使うなんて変だ。刹那、移民街に居る友人から聞いた言葉を思い出し、背中に氷塊を落とし込まれたかのように前進が総毛立つ。

 

「6日前にトラステヴェレ橋の近くでイタリア人を殺した喰種がいるらしくてよ。辺りに捜査官がうようよしてるらしいぜ。」

 

捜査官は()()を探している。だったら、上がって来るのは、もしかして…。

“喰種捜査官に出会ったら、赫子で作った武器で八つ裂きにされる――”

“監獄に送り込まれて、一生外から出られない――”

嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない。

 

“――コロシチャエバ?”

 

そうだ、あの時と同じだ。やられる前に、やるのだ。この階についた瞬間、“あれ”を出せば、あの時と同じ様に、力で負けていても相手を倒せる。やるんだ。やらないと、やらないと()()()()()()()()――

 

エレベーターが重い音を立てて到着を知らせた瞬間、“彼”の腰から伸びた「血の様に赫い何か」が、古びた箱をなぎ払った。

 

 

 

 

 

上手くいったが、上手くいって欲しくなかったな…と青年は轟音を響かせたアパルタメントの()()()()()()跳び下りつつ嘆息する。

 

彼の立てた作戦、それは問題のアパルタメントの隣に存在するビルから屋上へ跳び移るというシンプルなものだった。これなら階段もエレベーターも使わずに済む。

このプランに基づき、一方が屋上から、他方が地上から侵入することにし、保険として骨董品のエレベーターの構造を利用したブラフもしかけた。ガラス張りのドアを閉め、外側からガラスを割って通した細長い棒か何かでボタンを押し、あたかも誰かが乗って来ると錯覚させる小細工だ。改装途中だったのか、ガラス自体が取り払われていたのは僥倖だった。

ロベルタに頼んで調べてもらったのは、跳び移ることの出来る建物が近くにあるかどうか、そしてエレベーターの型式と構造。おかげで次のオフに彼女を含めた女性捜査官たちにランチを奢るというとんでもない約束をする羽目になったが、こうしてものの見事に引っかかってくれたのだ、それだけの価値はあったと言うことにしておこう。

 

階段を一気に駆け下り、踊り場に出る。人影が一人。いや、一匹。

こちらに背を向け、腰から伸びた赫子を背中で縦に蜷局の様に巻いている。成程「 Lumaca(カタツムリ)」とはよく言ったものだ。

 

「ルマーカ」へ走り寄りながら、左手に持ったアタッシュケースのスイッチを入れる。何がどうなってそうなっているのかは未だに良く解らないが、2秒とかからぬ間に飾り気もそっけもないアタッシュケースは赫黒い刀身を持った剣へと変貌していた。

 

イタリアに渡る際、餞別代りに受領した専用の対喰種用の武器(クインケ)。喰種と同じく赫子で作られ、毒を以て毒を制するという誠に人間らしい発想で生まれた人類の切り札。

自分が携えているクインケは尾赫。鱗赫持ちの「ルマーカ」とは相性は良い。

アンドレアはまだ来ていない。ここで気を引き、アンドレアと共に仕留める。青年はそう判断して「ルマーカ」に斬りかかる。

 

瞬間、蜷局を待いていた赫子がうねり、進路を塞ぐような叩き付けがやってきた。クインケで赫子を受け流し、攻撃の勢いも借りて峰についたセレーションで赫子を半ばから切断。更に踏込む。

まずは、一撃。「Bauta」と呼ばれる、口元の空いたヴェネチアンマスクに向かってクインケを突き出す瞬間――

 

「若造!!」

 

弾かれたように踏み込もうと溜め込んだ足の力を後方に解き放ち、「ルマーカ」から距離を取る。一拍おいて狭い踊り場を包み込むような赫い驟雨が「ルマーカ」に襲い掛かった。「La Tempesta()」と名を冠する羽赫のクインケ、アンドレアの攻撃だ。

たまらず()()()()()赫子を蜷局巻にして即席の盾とし、これを凌ぐ「ルマーカ」。

赫包を2つ、持っていたのか。そのまま踏み込んでいたら死角から串刺しにされていた。青年は肝を冷やしつつ、窓側へ移動する。階段とエレベーター側にはアンドレア。逃がしはしない。

 

青年を見やり、仕切り直せると判断したアンドレアは一度攻撃を止める。さて、次はどう出るかね。赫子を死角に温存するという小細工を弄してくる程度には賢しい奴だ。こっちに仕掛ければ背中を若造が斬ること位は解るだろう。優劣関係の無い羽赫の攻撃。再生能力の高い鱗赫の特性。そして逃走を妨害するためとはいえ、通常ならば避けるべき、3人がほぼ一直線に並んだ位置関係。こいつなら――

 

La Tempestaの攻撃によって巻き上がった粉塵を切り裂いて、「ルマーカ」が若造に突進する。読み通りだな。確かにくっ付いちまえば援護も難しくなるし、さっきみたいな面攻撃もできなくなる。が、こちとらそれを解っててこんな位置取りをしたんだよ。馬鹿が。

人殺しは6日前の事件が初めてだが、それ以前にも「ルマーカ」のものと同様の赫子痕が共食い現場で確認されていた。故に複数個の赫包を保有していることも初めから想定済み。先の戦闘で確認が取れたからレートはSに繰上げだ。やはり若造一人で討伐は無理だろう。程々に高レート相手の戦闘経験を積ませてやったら、さっさと仕留めちまうとするかな。

 

 

 

 

 

 

――とか、思ってるんだろうなぁ、あの顔。青年は肉薄してくる「ルマーカ」に相対しつつ、その後ろで唇を歪める中年を一瞥する。なんだあれ、子供に見せたら泣くぞ。

と、袈裟掛けに襲い掛かってきた赫子を打ち払いながら思う。どうやら後ろのなまはげを警戒し、右腰から突き出た赫子は背中で盾の如く丸めている。自分の相手は一本あれば十分という訳か、舐められたものだ。視線を惑わせるようにうねりながら地を這って伸びる赫子を受け流し、引くと見せかけ一気に接近して根元から断ち切る。恐らく「ルマーカ」は赫子2本が本来の戦闘スタイルだ。間合いの中に入り込んでしまえば、咄嗟に2本目が出る。

 

予想通り、体の右側を前面に出して2本目の赫子を使ってきた。

受け止める。が、重い。流石は鱗赫といったところか。

だが、これで決まりだ。

 

無防備になった「ルマーカ」左半身に雷鳴のような音を伴った光が撃ち込まれる。

雨の様に拡散させて広範囲を牽制することも、雷の様に収束させた赫子を見舞うこともできる、まさに嵐の名に相応しい、アンドレアのクインケからの一撃であった。

 

予想外の攻撃にぐらりと体勢を崩す「ルマーカ」。その首を刎ねるべく、青年はクインケを持ち上げる。

 

 

 

 

 

その時、絹を裂いたような悲鳴が踊り場に響き渡った。

 

 

 

 

 




※アンドレアのクインケについて
アヤトの羽赫のような範囲攻撃と、法寺の持つ「ホロウ」のようなビーム。
両方を切り替えて撃つことができるレートS+クインケ。

~うらがき~
中途半端に強い感を文章で出すのがおっそろしく難しい。
ちなみにアンドレアの一撃がなければ、足が止まった所で主人公は殺られてます。赫子を切断できたのも相性が良かっただけ。現在の彼の実力は二等以上一等未満。
それでレートSとやりあってんじゃねーよというツッコミへの回答は本編でいたします。
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