アンドレア:ディノ・デ・ラウレンティス
エドワルド:デヴィッド・ストラザーン
ロベルタ :アレッシア・テデスキ
ルナ :ナタリー・ポートマン(『レオン』のマチルダをもう少し幼くした感じ)
ジャンニ :ジェイク・ロイド
子供2人は某SFファンタジーから。顔立ち的にジェイク・ロイドはどうなのよとも思いつつ、意志の強い悪がきをイメージすると彼以外に思い浮かびませんでした。
「馬鹿野郎!!!」
怒声と共に飛んできた拳骨を甘んじて受ける。鈍い音と共に口内に広がる鉄の味。
止めの瞬間に踊り場に入ってきたのは、年端もいかない少女であった。思わずそちらに目をやった隙に、力任せに振り払われた赫子で距離を取られ、アンドレアの追撃を受けながらも持ち前の再生力で「ルマーカ」はアパルトメントから逃亡した。
「わかってるだろうが、喰種ってのは人間よりも遥かにしぶとく、頑丈なんだよ。首飛ばすまで目ぇ離してんじゃねぇ。殺されてぇのか?!」
「…申し訳ありません。」
「全く…。だがまぁ、それ以外は及第点だ。次は俺抜きであの動きをやれ。」
「…それは」
厳しいのですが、と続けようとした青年の言葉はあっさりアンドレアに遮られる。
流石はイタリア人というべきか、一度口を開くと湯水のように言いたいことを言いきるまで止まらない。おまけに声が大きい。
トラムやバス、喧噪の中でも聞こえるように自然と大声になるらしいのだが、ここは今しがた廃墟一歩手前になったアパルタメントである。近隣住民に配慮してくださいと言いたい。言えないが。
こうなってはどうしようもない。大人しく終わるのを待つばかりだ。
「阿呆。向こうのやり方は解ったが、向こうもこっちの手札を知った。次はこうはいかねぇぞ。」
「…了解です。」
「問題は手数だな。お前はクインケ一本だが、向こうは手が4つあるようなもんだ。もう一本獲物増やすか?」
「いえ、そんな器用な真似はできません。」
有馬三等ならできるだろうな…。班を共にしたとある捜査官をして、「神に触れた」と言わしめた技量なのだ。その位はお手の物な気がする。今日も喰種を鱠切りにしているだろう天才の姿が脳裏をよぎる。彼のことだ、戻ってみれば上等どころか準特等になっていても可笑しくはない。
…対する自分は一等位にはなれるだろうか。
「…おい、こら。ボケッとしてんじゃねぇ。」
再度、目に火花が散る。青年の意識は遠く海の向こうの島国からざっと10,000kmばかり引き戻されることとなった。
「で、あの嬢ちゃんは何なんだ。」
「どうやら、この近辺に住む少女の様です。この建物が秘密の遊び場になっていたのでは。」
「平日の早朝だぞ。遊び歩くにゃ早すぎる。おまけに1人だ。」
喰種じゃないのか、との言葉を飲み込んで、アンドレアは会敵の知らせを聞いて飛んできたエドワルド以下共同捜査班の集団を見やる。
件の少女は現在その中心で、同性かつ最も柔和な(内実を知っている身からすれば失笑ものだが)人相をしているロベルタから事情聴取を受けていた。
「運が良かったな。」
その集団から外れ、こちらに話しかけた男が1人。エドワルドだ。発した言葉は目当ての喰種と遭遇したことに対してか、或いは暫定Sレートに2人で挑んで無傷だったことに対してか。
欠片も感情の乗っていない言葉に応じたのは、欠片の敬意もない言葉であった。
「で、首尾は?」
「市内全域に警戒網を敷いているが、まだ発見の報告も連絡が途絶した班もない。これまでの手口から見ても、どこかに潜伏しているのだろう。」
「場所の当ては?」
「それは君の方があるのではないかね。子飼いの「犬」がいるのだろう?」
そのために話しかけたのだ、さっさと言え。視線で促してくるエドワルド特等。だがやれやれと肩を竦める中年の隣の彼には、さっぱり話が分からない。
「もうちょっと待ってくれ。嬢ちゃんの方は?」
「確認が取れた。人間だよ。両親ともにな。」
「…すみません、「犬」というのは?」
「若造、今は黙ってろ。それで、何だってこんな時間にここへ?」
呈した疑問をあっさりと片付けられ、不服そうな表情になる青年。
一方その質問に対し始めて、エドワルドの声に僅かに「苛立ち」という名の感情が付与された。
「それが聞きたいのだが、宥めすかしても存外口が堅い。誰を相手にしても口を割らない。」
「おやおや、知られたくないと来たか…。」
「9歳の子供が相手だ。無理に吐かせるわけにもいかん。」
エドワルドが
届いたメールを一読して目を細める。成程これが黙っておきたい理由かな、嬢ちゃんや。
「エドワルド、嬢ちゃんに会わせてくれ。」
「…「犬」が何か嗅ぎ付けたのか?」
「そんな所さ。行くぞ若造、お前が聞くんだ。」
「…了解です。」
相変わらず自分の勝手で相方を連れまわす男だ。あれに反論もせずついていくなぞ、忍耐と寛容は日本人の美徳とはよく言ったものだな。エドワードは面には出さずに呆れつつ、青年の背中を見やる。彼らをロベルタと交代させるよう目線で指示しつつ、組織における協調性と柔軟性は評価すべきと、考課表に少しばかり加点した。
それでも、止めを刺し損ねた失態と日頃の勤怠も相まって、青年への考課はマイナスのままだった。
どうしよう、とルナは地面を見つめながら必死になって考える。ちょっと前から目の前にとってもきれいな人がすわって色々聞いてきた。けど彼との「ひみつのやくそく」がある。それをやぶっちゃったら二度と彼には会えなくなるかもしれない。それはいやだ。だから何を聞かれても答えなかった。
でも、心配なのだ。最近中々会うことができなくなって、心配していた時にたまたま道を走っていく彼を見つけ、思わずおいかけた。でもついた先に彼はいなくて、代わりにまっかなけんを持った大人と、“何か”が居た。“あれ”は一体何なのだろうか。彼は大丈夫なのだろうか。どこかけがしていないだろうか。
ぐるぐると頭の中でまとまらない考えが渦巻いている少女の姿に影が差す。
見上げると、“あれ”とたたかっていた男の人が自分を見下ろしていた。なんだか変な顔。シスターにおこられたと言っていた“彼”もそんな顔をしていた。
座ってもいいかな、との言葉にうなずく。ありがとうと言って目線を自分に合わせた男の人は、ごめんねとあやまってきた。
「………どうしてあやまるの?」
「怖い所を見せてしまったからね。怪我はないかい?」
「……大丈夫」
「良かった。ご両親と連絡がついたから、じき君を迎えに来てくれるそうだよ。」
それきり、男の人は何も聞いて来ない。他の人とはぜんぜんちがう。
だからほんのちょっとだけお話ししてもいいかな、と少女は思いたった。
「…“あれ”は」
「ん?」
「“あれ”は何なの?」
「あれは「
「私も、食べられちゃうの?」
「いやいや、お兄さんたちがちゃんと護るから大丈夫だよ。でも…」
「でも?」
「
「…うそ。」
どうしよう、私が黙ったまま、彼が、ジャンニが食べられてたら。
「ほんとさ。だからもし君が何か知っていたら、お兄さんに教えてくれないかな。その子も護ってあげたいんだ…。」
言って、少女を見つめる青年。
恐ろしい怪物に襲われる少年の姿を想像したのか、少女の瞳が揺らぐ。固く閉ざされていた唇がゆっくりと開く。青年はそれを見つめつつ、人の弱みに付け込むとはこの事か、と内心嘆息した。
「ご苦労さん。良いお兄さんっぷりだったぞ。」
「…致し方ないとは言え、幼気な子供を騙すのは気が引けます。」
「騙しちゃいない。喰種の顔を見たかもしれんのだ。狙われる可能性はあるゼロじゃない。
「
捜査員に護衛された両親と手を繋ぎながら、こちらを振り返る少女に手を振った青年は、軽くため息をついて後ろの詐欺師共に向き直る。両親がやってきたため質問はあれでお開きになったものの、自分とて詐欺の片棒を担いでいるのだ。少女の心配など頭の中に無い彼らへ物申したくなっても、批判などできたものではないことは重々承知である。
「先に教えて下さい。言われた通りにしましたが、男の子の情報はどこから出て来たんです?」
「俺が個人でやり取りしてる連中からだ。乞食だったり、ちょっとやんちゃしてる連中だったり、まぁ素性は色々あるが、捜査官をぞろぞろ連れて行けない場所には便利でな。見張りなんかもやらせてる。」
「…それで「犬」、ですか。」
先のメールは周囲を見張っていた「犬」からというわけだ。こちらが突入すれば把握できない建物の人の出入りを監視していたのだろう。気取られたくないとはいえ、増援を呼ばなかったのはこの手があったからか。永遠の都の酸いも甘いも噛み分けた、老練な捜査官のやり方であった。
「で?」
次はお前の番だと顎をしゃくるアンドレア。事前に青年に何も伝えていないのか、阿呆か貴様と隣の紅茶野郎が目線で言ってくるが、知ったことか。気付かない若造が悪い。
「家の近くを走っていく友人の姿を見たから追い駆けた、と。黙っていたのはどうやらその少年に口止めされていたそうです。」
「その子の名前は?」
「ジャンニです。どこに住んでいるかは知らないと言っていました。」
「成程…。おい「犬」は付けていないのか?」
「冗談言うなよ。連中の方がこっちより感覚が鋭いんだ。下手に尾行させたら喰われかねん。」
「他には何と?」
「家族構成なども知らないと。」
「なんだそりゃ、お手上げじゃないか。」
「黙っていろ。何故口止めされていたかは聞いたか?」
「それがなんとも。お互い2人だけの秘密にしようと約束していたと言うだけです。」
ふむ、と青年の報告を聞き顎に手を当てて考え込むエドワード。
類似した赫子痕も過去に確認されているなら、市外に潜伏する喰種と見て良かろう。先の戦闘で手負いとなったなら、兎にも角にも隠れ家で羽を休めるはず。
検問で締め上げたいが、自分のホームグラウンドたるロンドン同様、観光客で狂ったように人が出入りするローマ。捜査網を今のレベルで維持し続けることはあまり現実的ではない。奴とて傷を癒すためにも食事は必要だろう。仲間がいるにしろいないにしろ、全くの沈黙を守っておくこともできまい。
やはり、今後2、3日が勝負。切り札はあの少女。「ルマーカ」もその姿は見ているだろうし、件の少年とも繋がりがある。
右手の親指と中指で眼鏡のフレームの両端を押さえて位置を直しつつ、2人の喰種捜査官に目を向ける。野郎、扱き使う気だなと睨みつけてくる中年の視線を一蹴し、エドワードは諸君、と実に紳士的に今後の動きについて切り出した。
※「犬」について
物乞いや不法滞在者などが普通に街をうろつくローマなら十分考えられるのではないでしょうか。どこに居ても不思議はないですし、彼ら独自のコミュニティも持っています。アンダーグラウンドでの捜査にはうってつけでしょう。
とはいえ、「犬」の側も喰われかねないレベルまで協力する義理は無いですし、使えると言ってもせいぜい見張りや目撃情報の収集までではないかなと思い、本話のような扱いにしました。
~うらがき~
こんなの東京喰種じゃないわ、ただの設定パクった三流刑事小説よ!
→押井版です(白目)