東京喰種√H   作:三木春

9 / 9
≪登場人物モデル≫
アンドレア  :ディノ・デ・ラウレンティス
エドワルド  :デヴィッド・ストラザーン
シスター   :ラウラ・パウジーニ
ロベルタ   :アレッシア・テデスキ
アーデルフ  :マティアス・ハビッヒ

色々展開を考えていると2ヶ月経ってしまっていました。
エタるよりは書きたいと思って投稿です。


相 対 : 09

連携もせずに突っ込んできた捜査官の命を3()()()の赫包から伸ばした赫子で刈り取った。

シスターの言葉を裏切るようで人間を喰えず、かといって喰種を襲っても、その度ジャンニを自分に託した母親の顔が脳裏をよぎる。命を奪うことでしか生きられない我が身を呪った夜は数えきれない。にも関わらず、今夜だけで既に3人の命を奪っている自分の何と醜く愚かなことか。

 

思考の海に漂ったわずかな瞬間に、倒れた仲間に目もくれずにもう一人の捜査官が迫る。

クインケの形状は槍。踏込と同時に心臓目掛けて穂先が突き込まれる。左足を下げて半身になり回避。同時に右足を軸に回転し、クインケに背を向けながらも1本目の赫子で柄を絡め取る。

赫子の間合いの外に包囲網を作り、援射に徹する三下共を2本目の赫子をなぎ払って牽制。

得物を掴まれ、間合いに入り込まれて進むも引くもできなくなった捜査官の胴体を本命の赫子で狙う。

 

だが、対する捜査官――アーデルフ準特等とて肩書に足る実力を持っている。

間合いに入り込まれた瞬間、槍を手放して倒れ込むように姿勢を低くして転がり、胴体狙いの赫子を掻い潜って間合いを開ける。愛槍を手放すに忍びないが、命を手放すよりはマシ。もともと自分が仕留めねばならない相手でもない。変人共(アンドレアたち)がやって来るまで時間を稼げば勝ちだ。

……勝ちなのだが、こちらの動きに即座に対応して背後から軌道を変えて迫ってくる赫子の気配を察するに、今回ばかりは勝ちを拾うのが相当に難しいことは認めざるを得なかった。

 

間合いを取ることを諦めて弾かれた様に起き上がり、転がった先に落ちていたジェルメーヌ上等のクインケを引っ掴み、力任せに後方に向かって薙ぎ払う。

遠心力と重さを乗せて振り切られたクインケは追撃に伸びた「ルマーカ」の赫子を断ち切り、その勢いも借りてアーデルフ準特等は体を回転させ即座に喰種に向き直る。

そこでようやく自分とジェルメーヌ班の二等捜査官からの援射が入るが、喰種は怯まずに突撃してきた。

 

Scheiße!(クソッタレが!)

 

野郎、と大剣を模したクインケを構えるが、アーデルフ準特等の顔は喰種が人間の食事を取った時の如く苦い。手にした得物の相性の悪さもそうだが、元々彼にジェルメーヌ上等程の膂力はない。連携を前提にした付かず離れずの一撃離脱が彼のスタイルであり、それと人体構造そのものに反した力任せの先程の一撃で、攻めに守りにフォローにと酷使した利き腕の筋が悲鳴を上げていた。

おまけに今の今まで援射が入ると素直に引き下がっていた相手が逆に一気に間合いを詰めてきたことで虚を突かれ反応が遅れた。無論3本の赫子は待ってなどくれない。

 

無理矢理持ち上げた大剣でなんとか初撃を受け流し、大剣の腹に身を隠して追撃を避ける。

だが最後の赫子と先の2本を支点に突っ込んでくる本体に対しては、無駄な足掻きと言わざるを得ない。

 

だが、迫ってきた「ルマーカ」が鼻先でたたらを踏んだ。

一拍遅れて、あと一歩踏み込んでいれば「ルマーカ」の居たであろう位置に雷鳴を伴った一撃が突き刺さる。踏み止まったのも束の間、今度は風と共に吹き付けるかのような羽赫の弾丸の雨。

 

「失礼、遅れました。」

「……とりあえず下がってろ。残りの連中は包囲網を崩すな。指示は今から俺が出す。邪魔すんじゃねぇぞ。」

 

嵐の後、喰種の前に立っていたのは濃いカフェの匂いを染みつかせ、傍目から見ても不機嫌な表情を崩さない中年捜査官と、何が楽しいのか微笑みを浮かべる東洋人の捜査官だった。

 

 

 

 

 

最後まで抵抗していた捜査官を仕留める直前、嵐と共に死神がやってきた。

できれば余計な邪魔が入らないようにしておきたかったのだが仕方がない。この2人、特に羽赫持ちの聖騎士に背中を晒すのは危険であると身に染みて解っている。

 

隙を窺っていると、青年が実に気楽な様子でこんばんは、と話しかけてきた。

思わずマスクの下で目を見開く。

喰種相手に会話をする捜査官は少ない。特に欧州ではだ。古くは悪魔が人に似せて作ったとされた喰種と言葉を交わすこと自体が、地上におけるその存在を認めるという神への冒涜に繋がるとされたためだ。それを知ってか知らずか自分に声を掛けてきた彼は何を考えているのだろうか。

訝しみながらも警戒する姿勢を崩さない「ルマーカ」だが、次に彼の口から流れ出た言葉は彼女を更に驚かせた。

 

神よ(Condannali, o Dio)彼らを罪に定め(non riescano nei loro disegni)そのたくらみのゆえに(Scacciali per la moltitudine )打ち倒してください。彼らは背きに背きを重ねる反逆の者。(de’loro misfatti, poiché si son ribellati contro a te.)彼らを追い落としてください。」

 

人間に紛れ、日々偽りの仮面をつけて生きながら、人間を喰う罪を重ねる喰種を否定する詩編の一節。それを詩人の如く滔々と語る当の本人からは陶酔も嘲笑も憐憫も感じられない。

強いて言うなら問いかけるようなその口調に対して、「ルマーカ」は僅かな間を置き、こちらも同じく詩編の一節で応える。

 

「……主よ、憐れんでください。(Guariscimi, O Eterno, )わたしは嘆き悲しんでいます。(perché le mie ossa sono afflitte;)主よ、癒してください、(Anche la mia anima)わたしの骨は恐れ、( è grandemente afflitta;)わたしの魂は( e tu, o Eterno, )恐れおののいています。主よ、いつまでなのでしょう。(fino a quando?)

 

青年は更に笑みを深め、人間よりもなお「人」らしい喰種に更なる言葉を投げかける。

 

「おかしなことを。「人」は神の被造物であるが故に、過去の行いの如何に関わらず慈悲を与えられうるのです。人に似せて悪魔が作った「人でなし」には慈悲も憐みも適用されませんよ。()()()()()()()()()()()。」

「……例えそうであっても、神は時に私達(人間と喰種)を繋いでくれます。」

 

例え喰種であっても、救われることはある。事実自分がそうだった。

確かに青年の指摘も正しい。自分が救われたのは神によってではなく、あくまで「人」によってだ。それでも、自分の救いとなった「人」が、あの夜が、その教えによって生まれたという点においては、「ルマーカ」――シスター・マッダレーナはありもすがりもしなかった神に感謝していた。

 

「成程、それがあの少年というわけですか。」

「…どういう」

 

こと、と言葉を続けようとした矢先、再び雷鳴と閃光が彼女を襲った。

闇に慣れた目に突き刺さる光が、僅かに反応を鈍らせる。

咄嗟に距離を取ったマッダレーナは視界の片隅に赫い影を捉える。赫子で叩き落としたそれは先程仕損じた捜査官の槍だった。そして案の定合間を縫って青年が接近してくる。

 

彼が何を言おうと関係ない。陣形を整えるための時間稼ぎか何かだろう。そう気持ちを切り替えて赫子を振るう。

 

細身の剣の形状をした尾赫は受け止めずに流す。

足を止めては聖騎士の一撃を喰らってしまう。

 

赫子を基点に急所を隠して体を浮かせ、自身を中心に残り2つの赫子を回転させる。

姿勢を低くしてこれを躱し、更に踏み込んでくる青年。

 

迎え撃つために赫子を引き戻すが、彼は反応して下がろうとする。

それに追い縋ろうとした瞬間、彼の首が不自然に傾いた。

 

一瞬視界がホワイトアウトし、咄嗟に顔を覆った赫子に光が突き刺さる。

青年が隙を付いて来ることを予見し、進行方向を遮るように2本の赫子を交差させて薙ぎ払う。

鈍い手ごたえを感じて目をやるが、その先に居たのは槍の太刀打ちで赫子を食い止める捜査官だった。

――青年は、すでに間合いの内にいる。

 

身を捩って心臓目掛けて突き込まれた剣先を躱し、返しにその鳩尾目掛けて蹴りを見舞う。

青年は無理をせずに後ろに跳びつつ剣身で蹴りを受けて間合いを取った。

 

マッダレーナは内心歯噛みしながらも間合いを仕切り直す。

 

先だっての戦闘に比べて青年の動きが良い。付かず離れずの間合いを保ちつつ赫子に対処してくる。こちらの間合いに持ち込もうとすると仕損じた方の捜査官が邪魔をし、踏み込もうとすれば後ろの聖騎士がそれを許さない。何よりあのクインケの射撃の度に、目と耳がほんの一瞬潰されるせいで思うように踏み込めない。

夜の戦闘は喰種に有利な状況のはずなのに、今はそれが仇となっていた。

 

――基本的に人間よりも五感に優れる喰種だが、アンドレアのクインケ、テンペスタはそれを逆手に取り、射撃の際に発生する光と高周波の音で喰種の視覚と聴覚を阻害できる。実際の所は初動がワンテンポ遅れる程度ではあるが、人間には追随できない反応速度をぎりぎり人間の枠に引きずりおろせるだけでも効果は絶大といって良い。

階級詐欺の天才ならいざ知らず、中の上程度の実力の青年が曲りなりにも打ち合えているのはこのテンペスタによる援射と、要所要所でフォローに入るアーデルフ準特等、青年たちに閃光の影響が及ばないよう背後で絶妙な位置取りを行うアンドレアによるところが大きい。

 

加えて包囲網を形成する捜査官たちからの援射も、アンドレアの指示によって急所狙いの一点集中へと変化していた。マッダレーナは赫子の1つを防御に回し、残りの1つと自身で前衛の捜査官2人を、そして最後の1つを聖騎士への備えにすることで攻撃を凌ぐ。

鱗赫であるが故に治癒力も高く現状戦闘に影響は出ていないが、徐々に攻撃のための手数が減り傷を負う回数が増えている。押されつつあることは否めなかった。

 

そしてもう一つマッダレーナの神経をささくれ立たせているのは、あれから一言も言葉を発することなく斬りかかってくる青年の瞳の中に見え隠れする「何か」だった。

それは自分が先程命を奪った女性捜査官の様な喰種への憎しみでも、哀れな同族の様な種としての欲望でも、そして勿論シスターやジャンニが向けてくれる慈愛や優しさでもない。

強いて言うなら好奇心や期待といった類のものだ。

 

何故この状況でそんな感情が浮かぶのかが分からない。ともすれば死すらありえるこの場に、殺し合いの相手に一体何を期待すると言うのか。纏わりついてくるような青年の目がただただ気色悪かった。

 

だが、差し迫って対処すべきなのはやはり聖騎士の羽赫からの攻撃だ。あれがある限りどうしても出鼻を挫かれる。少しでも明るい場所に出て目を慣らさなければいずれは押し切られてしまう。

 

――彼女の視線の先にはかつて大天使の舞い降りたとされた信仰の砦、カステルサンタンジェロが橋と共にライトアップされテヴェレ川沿いの道を照らしていた。

 

 

 

 

 

「「ルマーカ」はサンタンジェロ方面に北上中。現在損失、損耗はありません。」

「成程…。電力会社とサンタンジェロ城の管理室に連絡しろ。こちらの任意で周辺の照明を落としたい。」

「了解しました。」

 

テンペスタの光を嫌ってたか、それとも本命から遠ざけたいか。

どちらにせよ見通しの良い場所に出てくれるなら好都合。これ以上手間を掛けてもいられまい。

 

トレードマークの眼鏡を胸ポケットに収め、ジャケットを脱いで重厚なオフィスチェアに引っかけながら、エドワルド特等捜査官は目を細めつつ言葉を続ける。

 

「それと騎士フェレッティ、クインケを持って同行したまえ。以降は上空で指揮を執る。ああ、()()()()()()も一緒に持ってきてくれ。――野犬狩りと行こうじゃないか。」

 

 

 

 

 

会敵から約30分。戦闘は膠着しながらも捜査官側に主導権が移りつつあった。

 

 

 

 

 




re:第6巻を読んでの感想

鉢川さんが…。
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