その筋書きはありきたりだが……。
役者が良い。
中々どうして曲者揃いだ。
故に、楽しめると思うよ。
なにせ私にとっても、未知なのだから……。
プロローグ
「ここは……一体どこだ?」
どこまでも白い空間に、オレは佇んでいた。
「さてな、私も知らんのだよ」
背後からの声にオレは驚き、声から飛びのきながら、そちらの方へ身体を向けた。
そこには、カリスマあふれる黄金の獣が地面(?)に刺さった槍の傍らで佇んでいたのだ。
だがよく見てみると、彼の足は透けている。
「……ハイドリヒ卿?」
「いかにも。ただし、今の私は
オレの問いかけに対し、やや自虐めいた言葉を返した黄金の獣。
心なしか、寂しげに見える。
「……ここってどこなんですか?」
「知らんな。だいぶ前に金色の鎧を纏った男がここを通りかかったのは憶えているが、そこに奇妙な剣を落として姿を消してしまった」
獣殿が指さす場所には、
……英雄王と、黄金の獣のツーショットか、見てみたかったな。
――じゃなくて!!
「えっと、ハイドリヒ卿、貴方がここに来る前、最後にしていたことは何ですか?」
地雷な気がする質問だが、この地雷は踏まねばならない気がしたので、踏んでみる。
「私かね?カールとの一戦に興じていたな。……それがどうかしたかね?」
ああ、ニートとガチバトルしたんですね、分かります。
「……貴方の爪牙は、そこにいますか?」
恐る恐る槍を示しながら、問いかける。
「否だ。残滓こそあれ、我が
真面目な顔で考察を述べる獣殿。
そしてこちらを向くと、逆に質問を返してきた。
「して卿は何故ここにいるのかね?」
「えっと、オレは……」
自分が何故ここにいるのかを今更ながら思いだそうとすると、脳裏にある光景が流れる。
――迫りくるライト、無理やり放り投げた幼い少年。
そして自分に走る衝撃、それに伴う暗転……。
「死んだから、みたいですね」
「……そうか」
他にも何か言いたげな様子だったが、彼はそのまま押し黙ってしまった。
何か話題はないかと捜していると、獣殿が突然上を向いた。
彼の向く方向へ視線を向けると、何やら黒い点が落ちてきているのだ。
オレの目が正しければ、オレと獣殿の間に落ちる。
「…………ぁぁぁぁああああああああ!!」
女性の悲鳴のあと、ズンッ、という音とともに、それが地面に衝突した。
うつ伏せになっているのであまりわからないが、聞こえてた声などを総合すると、シルバーブロンドのロングヘアーが特徴の女の子のようだ。
「……神座のなき世界の神か」
品定めするように彼女を見た獣殿がそう言うと、彼女ががばっと立ちあがり、オレたちから距離を置いた。
どうやら彼女は女神らしい。
「げえっ!?修羅道至高天」
「……言葉遣いがあまり良いとは言えないな、
女神の反応に対し、眉をひそめつつも冷静に指摘を入れる獣殿。
「なんでこんなところに超一級危険物があるんですか!?私の手に負える代物ではないんですが……」
「私としても、何故ここにいるか、大いに疑問なのだがね。……私は危険物なのか……」
少し遅れて女神の言葉に少し傷ついたようなそぶりを見せる獣殿。
「……あれ?私を倒しに来ないのですか?」
首をかしげる彼女に対し、獣殿は肩をすくめる。
「できるモノならばしているが、今の私はこの槍に縛られている亡霊……。槍の傍らで漂い、卿らと会話する以上のことは出来んよ」
「……残留思念ってやつですか?」
女神の言葉に対し、獣殿は分からんというジェスチャーをする。
「さてな。して卿は何をしに来たのだね?」
獣殿の問いかけで女神はハッとする。
そしてこちらを向いて即座に土下座した。
「誠に申し訳ありませんでした!!」
「……あれか?うっかり手違いで死んじゃったってやつか?」
何と言うテンプレと思いつつ、問いかけると女神は顔をあげて、気まずそうに頷く。
「……これはひどいな」
「はうっ……」
獣殿の援護射撃によっていがいとある胸に手を当てる女神。
「転生特典を付けますので、ご容赦ください……」
「先に決めてしまってよいのかね?行き先が分かった後に決めたほうが面倒事も少ないと思うが……」
「あっ、それもそうですね」
獣殿のツッコミでハッとする女神。
神様の威厳0である。
それでいいのか、女神よ。
「えっと、受け入れ可能な世界は……」
どこからともなく取り出した端末を弄りだす女神。
少しすると彼女が立ち上がる。
「今受け入れ可能な世界は、ある意味貴方にとっては天国かもしれませんが、一般人では生きるのが難しいかと……」
――なにそれ、マブラヴの横浜かな?
「あ、betaとかはいませんよ」
――違ったらしい。
女神の言葉を聞いた後、オレは獣殿と、その傍に落ちている
「えっと、ハイドリヒ卿って、この後どうなりますか?」
「……本来ならば、完全消滅させるのですが。……もしかしてこの人を取りこんでデータインストールしろと?」
「……卿は正気かね?下手をすれば、私に呑まれるぞ」
獣殿すら怪訝な顔で問いかけてくる。
「だからまずそこの鍵剣から持ち主のデータをインストールしてくれ」
オレの指が示したものを見た女神は納得したような顔をする。
「それなら、一方的に呑み込まれることなく、魂の融合も出来ますね。……たぶん。十中八九そっちのひとの姿になると思いますが」
「ハイドリヒ卿、貴方はそれでよろしいですか?」
オレが問いかけると、獣殿は傲岸不遜な態度を見せる。
「構わん。むしろ頷かなければ消滅させられるのだろう?ならば卿と融合し、異世界という未知を経験する方が良いではないか」
不敵な笑みを浮かべる獣殿。
「……って言うことだからよろしく」
女神は複雑な気持ちを顔に出しながら、うなずく。
「私の不手際だし……仕方ない」
女神はそうつぶやいたあと、まず鍵剣を手に取った。
そしてオレの腹に剣を突き立てた。
すると身体に力が溢れ、それと同時に身体が悲鳴をあげる。
「破壊と再構築を高速で行っているのか」
「そうなりますね」
こっちがのたうち回っているというのに、2人はまるで他人事のように話している。
――良く考えたら他人事だった。
――*――*――*――
オレの体感にして30分――おそらく実際は10分くらい――経った後、痛みが急に消え、前より身体が軽く感じられるようになった。
女神が差し出した手鏡を見ると、英雄王の顔が映っていた。
「……本当にやるんですか?その人のデータだけで十分チートな気がしますが……」
女神の言葉でオレはハッとする。
「
女神は再び端末を手に取り、こちらに向ける。
「……英雄王が持ってるものなら全部ありますね」
「よかった。中身が空の宝物庫もらっても困るからな」
ほっと一息ついたところでオレは気持ちを切り替える。
「じゃあ、次は本題といきますか」
オレは獣殿に対し、不敵な笑みを浮かべてみる。
しかし、肝心なことを忘れていた。
「女神さん」
「はい、何でしょうか」
「あんた、この槍手に出来るのか?」
「……あ」
女神は困った顔をする。
「ならば、卿が手にするといい。今の卿ならばおそらく可能だろう。私が卿と同化したあと、最終調整を彼女にしてもらえばよい」
「……それもそうか」
オレは納得した後、普通に槍を手に取る。
すると鼓動が聞こえた後、声が脳裏に響く。
――私に潰されてくれるなよ?
そして先ほどとは比にならない激痛と記憶の流入が始まる。
体内が沸騰しつつ、身体を焼かれているとしか言えない痛みが全身を包む。
しかし気絶したいオレの意識とは裏腹に、五感はどんどん研ぎ澄まされていく。
そして様々な記憶が一気にオレの脳裏を駆け抜け、同時に身体に力があふれ始めた……。
――*――*――*――
やっと終わった。
なかなかどうして苦痛だったが、嘗ての既知感の
女神がこちらに手鏡を再び渡してきた。
そこに移っているのは、私の顔だ。
「女神。私の能力などはどうなっている?」
女神に問いかけると、端末をこちらに向けてから答えた。
「えっと、
バビロンとシュピーネの聖遺物の力は再現できぬと言うことか。
む?イザークとテレジアの扱いはどうなる?
「……イザークとテレジアの立ち位置はどうなる?」
「テレジア?そんな人いないみたいですけど。代わりかなんか知りませんが、イザークさんは位相空間に城を展開していますね。上手く活用すれば、マスターがそこを拠点に出来るという強みがあります。……ちゃんと戻る方法を用意しないと棺桶ですけど」
テレジアがいないのか……。
おそらくゲオルギウスと綾瀬香純ともに、ツァラトゥストラの眷属にいるのだろう。
彼の愛する刹那の中に含まれていたからな。
どこかで再び会うやもしれん。
再会を楽しみにしておくか。
それとどこかの赤いあくまみたいなうっかりをするつもりはないから、城は団員たちの拠点になるのだろうな。
……そう言えばカールの扱いはどうなるのだ?
「カール……メルクリウスはいるのか?」
「いるみたいですね。ただし、大幅に弱体化している上、彼の力を直接的に借りるのは出来ないみたいですよ」
カールよ、卿はどこまで裏方がいいのだ。
「えっと、質問は以上ですか?」
女神は機嫌を伺うように問いかけてくる。
「ああ。十分だ」
「……あり得ないくらいの出血大サービスなんですから、平伏するくらいないんですか?」
「出血していたのは私の方なのだがね」
などと軽く返すと女神はばつの悪そうな顔をする。
「えっと、とりあえず二度目の人生に幸あれ……」
彼女がそう言って指を弾くと私の身体が透け始めた。
私は手を振って見送る彼女に対し、手を振り返しながら、意識を手放した……。
――*――*――*――
「ふむ、汚染されても聖杯……と言うことかのう」
「でもこれで少しはチャンスが出てきたわ。4騎のサーヴァントが左慈ちゃんたちの所にいる時点で絶望的だったけど、追加で七騎、あと中立のルーラーが出てきたんですもの。」
「うむ、それにどれだけ魔力やそれの代替物を持っていようと、3体目以降を保持できぬという点が救いともいえるじゃろうな。でなければ、あ奴らが全てのサーヴァントを手中におさめてしまったじゃろうからな」
「もっとも、あの2人以外で令呪が現れた者はかなりばらけているんだけどねん。各個撃破されなければいいけど……」
「そこはワシらの出番じゃろう。サーヴァントを令呪使って転移させぬ限り、先回りできるはずじゃからのう。それに、于吉らのサーヴァントは何故か知らんがワシらに攻撃して来んからの、それを利用して追い払えばよいじゃろう」
「まあそうねん。それに乙女に手をあげないなんて、左慈ちゃんたちのサーヴァントってなかなか紳士よねん。」
「ワシらが美しすぎるのも原因じゃろう。まったく、美しすぎるのは罪と言えるのう」
2人の筋肉ダルマは頷きあった後、どこかへと歩いて行った……。
――*――*――*――
「なに、これ……」
今朝起きたら右手の甲に浮かび上がっていた赤い模様に対し、私はそう言葉をこぼした。
「今日は不幸が起きる日じゃないはずなのに……」
不幸な日でもこんなことは一度もなかったけど、何かあるはず。
とにかく、月に心配されないように、どうにかして誤魔化す方が先よね。
私はひとまず、部屋の戸にある包帯を巻いて誤魔化すことにした……。
しかし、戸棚をあけたら、頭に何がが降ってきた。
「痛っ、……なにこれ」
頭をさすりながら落ちてきたものを見ると、一冊の本だった。
「……『猿でもわかるサーヴァント召喚』?」
私の手の甲にあるのと似た、紅い模様の絵が複数描かれた表紙の題名を見て、自分の手の甲の模様と見比べる。
「……読んでみれば何か分かるかもしれないわね」
警戒をしつつ、私は本を読み始めた……。
物語の始まりは、なかなかどうして、展開がゆったりだ。
だが焦ってはいけない。
空腹の時はより食べる者がおいしく感じられるのと一緒だ。
気長に待ってくれたまえ。