さて、この話から、第二章が始まる。
複数人の思惑が交錯する果てに、何が待っているのか……。
ぜひとも自分の目で確かめてほしい。
そしてすまない。
今話の後半はかなり爛れている。
糖死や憤死の覚悟は――しなくてもいいと思うが、それなりに覚悟してほしい。
では皆さま、私の歌劇をご覧あれ――!
第19話 嵐の兆し
――洛陽某所――
「――くそっ、忌々しい獣め」
「我が物顔で洛陽に居座りよって」
悪態をつくのは、十常侍の面々。
「皇帝もあの男のいいなりになっておる。――劉協も同じ有様。このままでは我らが宮城を追われることは明白。――何らかの手を打たねばなりませんな」
「刺客を差し向けているのか?」
「差し向けているが、一向に成果が上がらん。――既に50は送りこんだが、誰も戻ってきておらんうえ、あの獣の周りの者を1人も始末出来ていない不始末だ」
「――趙忠。お前は奴を始末できんのか?この中で奴に一番近づけるのは貴様だ」
誰かがそう言うと、全員の視線が趙忠に集まる。
「――それが出来たら苦労はしません。――致死の猛毒をこれでもかと入れた食事を平然と平らげ、名工が鍛えた武器ですら傷つけられない身体の持ち主を、どうやって始末すればいいんですか?――アレはたぶん人の皮を被った化け物ですよ」
「「「「……」」」」
信用できないとばかりに疑いの目を向ける一同。
「然り然り。獣殿を害することなど、ただの人間や、そこらの毒が出来ることではない」
「「「「!?」」」」
唐突に響いた声に、一同は困惑や、恐怖の表情を見せた。
「――何者だ」
張譲の言葉に答えるように、入り口の傍に、2人の姿が陽炎のように現れた。
「私は劉君郎。宗正に任ぜられた者でございます」
頭を垂れる若い青年。
「私は管路。しがない占い師だ」
青年とは違い、どこかはっきりとしない影絵のような男。
「――劉焉といえばたしか、前漢の魯恭王であった劉余様の末裔でしたね」
少し悩んだ後、思いだして1人納得する趙忠。
「――ええ。その通りです」
彼は微笑みを浮かべる。
「――貴様本当に劉焉か?私が知るより若く見えるが……」
十常侍の一人がそう言うと、彼は肩を竦めた。
「――色々ありましてね。――それよりも皆さん、あの獣を排除、あるいは無力化したいのではありませんか?」
「「「「……」」」」
一同は黙りこんだ。
「――私に協力していただけるのでしたら、再びあなた方に栄華を取り戻すことを約束いたしましょう」
「――根拠もなしにそれを信用すると思うのか?」
張譲が問いかける。
「……言うまでもないですが、信用などされないでしょうね。――まあ、その程度は予測済みです。なので、こちらの手札をすべて開示し、これから起こることを理由を踏まえて分かり易くご説明しましょう」
彼がそう言って、指を鳴らすと、十常侍の背後に人の形をした黒い何かが現れ、短剣のようなものを喉元に突きつけた。
「……その上で、私の計画に加担するか、口を封じられるかを決めていただければよろしいかと。――目に余らない程度なら欲望に忠実に在れるように計らいますので、そちらにとっても、悪い話ではないかと思いますが……」
彼はうすら寒さすら感じさせる微笑を浮かべる。
「「「「「……」」」」」
余計なことを言うのは自分の首を絞めることを理解した十常侍の面々は沈黙を保った。
「……管路。そこの壁に例の情報などを投影してください」
「――良かろう」
管路は劉焉の言葉に頷き、懐から出した水晶玉に何か唱えると、その水晶玉が光を発した……。
――*――*――*――
『――と言うことだ、獣殿。計画は始動した。とりあえず脱獄後すぐ雲隠れできるよう旅支度して……ああ。宝物庫を持っているから不要か』
私は自室のソファーに座って、投影されたのカールの幻影からの報告を確認する。
「左様。……もっとも、まだ行き先は決まっていないが」
『……行き先は自分で決めるとか言っていなかったかね、獣殿』
呆れに似た表情のカールに対し、私は肩をすくめて答える。
「意外と行きたいところが多くてな。――それに彼女たちに渡しておくための礼装を作っていたら考える時間が完全に消えていたのだ。――まあ、この大陸の地図と、ダーツを使って決める故、それほど時間はかからんよ」
『――ならばよろしいかと。――では、しばらくは連絡が取れないので、うまく合わせて頂きたい』
「委細承知した。……しくじってくれるなよ?」
私が口元を吊り上げて問いかけると、カールも口元を吊り上げた。
『無論。この程度の即興劇などでしくじる私ではない。――あと劉宏を入れ替えるのは数日中にしてもらいたい。――なにやら面倒なのが宮城でうごめいているようなのでね』
「ああ。その情報はこちらにも来ている。――劉焉が始末を依頼したら始末して構わんが、それがなければ泳がせておけ。その方があの者たちの雇い主がことを起こしやすくなるだろう」
『――了解した。では、私はこれで――……』
その言葉を最後にカールの幻影は姿を消した。
「――さて、やるか……」
私は大きなコルクボードを取り出し、そこに現在の大陸の地図を張りつけた……。
――*――*――*――
獣殿との通信を終えた私は、懐からマルグリットコレクションNo.58を取りだそうとしたが人の気配を感じたので、それを再び保存していた場所に丁寧に戻しておいた。
「……」
気配の主が部屋の前に立ってから数十秒ほどたった後、扉の向こうから声がした。
「管路、私です。入っていいですか?」
「ええ。構いませんよ」
私がそう言うと、彼は入ってくる。
彼はやや吊り目で、眼鏡をかけている、知的な印象を抱かせる青年と言えよう。
「何用ですかな?劉君郎殿」
私が問いかけると、彼は笑みを浮かべて答える。
「いえ、貴方がくれた太平要術の書と組んだ術式が私の身体によく馴染んでいましてね。お礼を申し上げに来た次第です」
「なるほど……。されど礼は不要、と申し上げておこう。貴方と私の利害が一致したから利用しているに過ぎないのですから」
私がそう言うと、彼はからからと笑う。
「まあ、そうでしょうね。精々道化を演じますので、貴方も約束を守ってくださいね?」
「――無論。劉岱の始末に、貴方の皇位継承の支援。最後に戦乱を招くこと。いずれも私の利害とそう外れてはいないのでね。破る理由はない」
「ならばよいのです。――まあ、この力があればもう独力で何とかできるんですけどね、全部」
「それは困りますな。私の書いた台本に乗ることを条件にしたはずなのですがね」
まあ、裏切ったら始末し、マレウスあたりに化けさせて演じれば問題はないのだが、それでは無粋だと獣殿が言っていたので、私は少し面倒ながら、困った声で問いかけた。
「……やれやれ。天の導きを得たと思ってやや胡散臭い占い師の手を取ったら、妖魔の類との取引に署名した気分です。対価が命ですが、内容がまあ悪くないので、そこまで嫌な気分ではありません。――無論裏切るつもりはありませんので。もし手の平を返したら、それこそあなたの本気で跡形もなく消される未来しか想像できないので」
「賢明な判断だと言っておきましょう」
「――だけど……」
「?」
「どうせ死ぬなら、この力を十全に使った上で殺されたいので、最後の相手に獣さんを指名させていただきますよ」
私はそれを聞いた途端、笑いが口から自然とこぼれた。
「――はははははは!!実に良い。その心意気や良し。無論だ。その程度の願いくらい造作もない。獣殿もさぞ喜ぶだろう」
「――では、今後の打ち合わせといきましょう。劉岱が部下を使って劉協を確保しにくる予定の日時はいつになるかですが――」
――*――*――*――
カールとの会話から数刻後。
私の執務室の隣にある応接室の一角にて――
「――ということで、今後よろしくお願いね」
「よ、よろしくお願いするもん」
「よろしくお願いしますね」
三者三様の挨拶をする空丹、白湯、端姫。
「……ねえ、ライニ」
「どうした、詠」
私の隣で、頭痛が再発したといわんばかりの顔をする詠。
「――3人も宮城内から消えたら、流石に大事になると思うんだけど。しかも全員宮城から基本出られない身分だからなおさら」
「案ずるな。マレウス、シュライバー、バビロンがそれぞれに変装している」
「えっと、シュライバーって、あれ大丈夫なの?ライニがいない間に暴走して、宮城が血の海とか洒落にならないんだけど」
不安そうにする詠に対し、私は微笑みかけた。
「案ずるな。始末してよい者は全てリストアップして写真付きで記憶させてある上、始末するタイミングは指示してある。――動く当日になったらザミエル、寧が宮城に近づかないよう伝える故、指示に従ってくれ」
「分かったわよ……」
少し不満げな詠に対し、私はある詠唱を口にした。
「Quell->EX[lic]->{hymi REINHARD<=>EYI};」
私の詠唱と共に、私と詠の身体が光り、私と詠の間に一瞬だけ光の珠が現れる。
そして詠唱の終了と共に、光の珠が弾け、私たちが纏っていた光が消えた。
「……一体、何をしたのですか?」
「ああ、これはチェインと言ってな。相手との精神的つながりを作っただけだ。表層的な感情などが相手に伝えたり、本人の意思次第で自分の見聞きしている物事を共有することが出来たりする。――慣れれば遠方にいる相手と会話ができるようにもなる。もっとも、慣れぬうちは、相手に感情などが筒抜けのままだが」
端姫の問いかけに、私は答える。
「「「???」」」
無論理解できる3人ではなく、首を傾げる。
私がそう言うと、詠とのつながりから、恥じらいと歓喜の感情がこちらに伝わってくる。
「なにそれ!?ボクの感情とか全部ライニに筒抜けってことじゃない!!」
「ああ。――恥ずかしいがうれしいか。なかなかどうして可愛らしいな」
「~~~////!!」
顔を真っ赤にして私に抱き付いた。
「詠。私は枕ではないのだがね」
「五月蠅い!!」
恥じらい感情が溢れるほど伝わってきたのでこれ以上彼女らの前で愛でるのはやめることにした。
「――美花。3人に部屋を用意してくれ。空丹と白湯の部屋は隣同士になって、空丹の隣には一部屋空き部屋が来るように部屋を割り振ってくれ」
「承知いたしました、旦那様」
美花がそう言って、現れる。
「「「!?」」」
美花の出現に目を丸くする3人。
「――あ。ルーラ―。卿は別部屋にするかね?」
私はハッとして白湯の方へ向いて問いかける。
するとルーラ―が白湯の傍らに現れ、答えた。
「同室で問題ありませんが、食事は私の分も用意してください」
「承知した」
話が一段落したことを見計らった美花が口を開いた。
「ではこちらへ。お部屋へご案内します。――あ、旦那様」
部屋の扉に手を掛けてから、美花がこちらを向いた。
「なにかね?」
「私も旦那様とつながりたいので、ちぇいん、というのをお願いします」
「――ああ、構わんよ。ついでに雇っている侍女と、団員以外の者に言伝を頼みたい。――出来るな?」
私がそう言うと、彼女は蕩けた顔を見せた後答えた。
「もちろんですわ」
「内容は渡したいものと相談があるので、明日の明け方、夕方、および明後日、明々後日の同時刻のいずれかに屋敷の執務室に来るように。無理なものは美花に伝えること。以上だ」
「了解しました。ではお部屋へご案内いたしますので、これで……」
彼女はそう言って、部屋を後にし、それに3人が続いた。
「――詠。何時まで抱きついている?」
私が問いかけると、彼女はやっと顔をあげてこちらを見た。
伝わってくる感情が不機嫌なものなので、何か理由があるのだろう。
「最近、ボクと月がないがしろにされてる気がするんだけど」
「そんなことはないと思うがね」
私はそう反論した後、宝物庫からあるモノを取りだした。
「詠。目を閉じていろ」
「……分かったわよ」
不機嫌な彼女は態度を露骨に見せつつも、素直に従った。
私は宝物庫から出した、小指の爪ほどの大きさの水晶の付いたイヤリングを彼女の右耳に付けた。
「……なにこれ?」
目を律儀に閉じたまま、首を傾げて付けられたイヤリングを触る。
私はもう一つを反対側に付けてから、軽く唇を奪った。
「――!?」
驚いた彼女は目を見開く。
「卿に付けたそれはな、私が作った礼装だ。所持者を守るために貯蔵した魔力で障壁を展開するという、単純なものだ。あと、色違いをいくつか作ってある。これとチェインが私からのささやかな贈り物だ。恋人らしいことを、あまり出来ていないからな」
私はそう言って彼女を横抱きにして、ソファーに腰かけた。
そして私は詠を向かい合うように乗せた。
「……ありがと。――ふふん♪」
嬉しそうに私の贈り物を触る詠。
「――それとすまんな。ないがしろにしたつもりはなかったのだが、寂しい思いをさせたな」
私はそう言って彼女を抱き寄せ、頭を撫でた。
すると彼女から喜びの感覚が伝わってきた。
「べ、別にボクはそこまで寂しくなかったから。月が寂しがってたから強調するために言っただけだから」
そういいながらも照れる詠。
「――あっ……」
何かに気付いた詠は、顔を赤くする。
「――詠、どうしたのかね?」
私がそう言うと、詠は恥じらいながら答えた。
「その……当たってるのよ。アレが」
「そうだな。――この時間帯はこの部屋に人は滅多に来ない。内側から鍵がかかるのだが……どうするかね?」
私がそう言うと、彼女はもじもじしてから、私の上から降りて、部屋の鍵をかけた。
そして再び私の上に乗って、私の首に腕を巻きつけ、私を手繰り寄せた……。
――*――*――*――
――数刻後――
「――入ってませんか、それ」
「さてな」
「いや、絶対入ってますよね!?」
断定に近い口調で問いかける花音。
「羨ましいです。見られながらするのは……とても恥ずかしくて、考えるだけで蜜が溢れてきました」
顔を赤くする美花。
「――あっ……動かないで、ライニ……」
そして放心状態に近いまま、私に身体を預けている詠。
美花に合い鍵を持たせていたことを思いだした頃に、なにやら用事があった花音と寧を美花が連れて来て、今に至る。
念のため言っておくが、一部を除き、詠の服はほとんど乱れていない。
「絶対に入ってますね、これ。ずっぽりと」
「――貴方、淑女として何かを捨てていませんか……?」
寧の言葉に花音は頭が痛そうなリアクションをとった。
「それ言ったら変態メイドさんの方が女を捨てて、雌犬になり果ててるのですがそれは……」
「もはや手遅れなので、私からは何も……」
「――ですが、旦那様に抱かれているとき、花音さんも――」
「わあああああっ!!」
藪蛇をしてしまった花音が慌てて大声で美花の言葉を遮った。
「……とりあえず、用件を聞こう」
私がそう言うと、花音がハッとして答えた。
「えっと、豫洲に向かうとお伺いしましたので、
「ああ。それはあるとありがたい。頼まれてくれるかね」
「お任せください。――その、あの……ですので……」
途中から、恥じらいのせいか、小声になる花音。
「――美花さん。花音さんって、私たちよりも……」
「頭ピンク色になっていますね。――真面目な方ほど、色に溺れたらすごいというのは、あながち間違いではないようですね」
美花と寧の言葉に苦笑しつつ、私は答える。
「――ふむ、美花。鍵をかけてくれるかね?」
「分かりました」
「あ、私も一緒なんですね、やった」
寧が嬉しそうに反応した。
「花音、おいで」
私が、ソファーの隣をポンポンと叩くと、彼女はぎこちない動きで私の隣に来た。
私は彼女を抱き寄せ、唇を貪った。
「――~~~////」
すると花音の顔を赤くし、蕩けた顔をした。
「――詠」
「……なに?――ああ、そう言うことね。ボクは問題ないから」
どうやら今までの間に完全に我に返ったらしく、周囲の様子にすぐ気づいたようだ。
「では……」
「お言葉に甘えて……」
美花と寧がそう言うと、花音も上気した表情で、私の腕にその豊かな胸を吹く越しに押し付けてきた。
(――最近
自重しないと、と思いながら、私は一時の色に溺れていった……。
いかがだっただろうか。
感想、評価、誤字脱字の報告をお待ちしているよ。
――獣殿がけだものになってるって?
――(∩ ゚д゚)アーアーきこえなーい、きこえなーい。
ちなみに次回からしばらくは結構シリアス(?)な頭脳戦(?)だからそれをお待ちしている方は、それなりに楽しみにしてもらっても良いだろう。
では、また次の幕にてお会いしましょう……。