恋姫✝無双 黄金の獣と聖杯戦争   作:月神サチ

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ずいぶんと間が空いてしまい、誠に申し訳ない。

振り切ったはずの魔物に、足を引かれていたのでね(終わらせたはずの仕事のことダヨ、足ひきロリBBAジャナイヨ)。

私のことはともかく。

しばらく間が空いたので、ざっとあらすじを出しておこう。

・獣殿の計画が始動。

・皇帝の妹(偽)が死んだ咎で皇帝(に化けたルサルカ)に牢屋に放り込まれた

・劉焉による皇帝(に化けたルサルカ)の放伐、宦官処刑、洛陽の上層部の掌握による情報閉鎖(なお、一部に例外アリ)が行われた。

・獣殿はあらかじめダーツによって決まった豫洲に向かうことに。


・袁術の部下になってる孫策の部下である明命に依頼を出して、一緒に豫洲へ行くことに……。

ということだ。

……長話もこのくらいにしよう。

では皆さま、私の歌劇をご覧あれ――!


第21話 獣と孫呉の姫君

洛陽から出立しておよそ一か月。

 

ようやく汝南にたどり着いた。

 

「すまん明命。ウチどこに孫策の屋敷あるか知らへんのや。あと任せてええか?」

 

御者と荷台を隔てる布が除けられ、そこから顔を見せた霞が、明命に対してすまなそうにお願いした。

 

「あ、はい!!……すみません、霞さん。ほとんど御者の役目を任せてしまって……」

 

「かまへんよ。荷台でぼーっとしとるより、よっぽどましや」

 

明命の反応に、霞はニッと笑って答える。

 

「……」

 

「ん?どないしたん、ライニ」

 

御者を入れ替わった霞を見ていると、彼女は荷台に入って私の隣に座り、問いかけてきた。

 

「私はそんなに信用ないか?」

 

私は心中を吐露すると、霞が笑顔で答える。

 

「ライニは十分信用できるで。――女が絡まないこと以外は」

 

「女がらみで信用できぬ根拠は?」

 

私が問いかけると、霞がジト目で私を見ながら、私の右腕を抱き寄せた。

 

「『女はしょせん、駄菓子にすぎん。 欲しいときにいくらでも手に入るものに、私はいちいち拘らん』」

 

「……」

 

私がかつて言った言葉を霞が真似たこと(地味に似ている)に少しばかり驚き、霞を見ると、彼女が答えた。

 

「洛陽にいる間に、ベイが『ハイドリヒ卿は昔こんなこと言ってた』って教えてくれたんや。えっと、『現地妻』やったっけ?そないなもんこさえそうやから、監視つけんと不味いとウチらは思ってな、色々あってウチが選ばれたんや」

 

私はひどい頭痛を覚え、それを誤魔化すために眉間をつまむ。

 

「……案ずるな。自分から女を漁るつもりはない。それに、基本私の元で養えぬ相手なら抱かぬよ」

 

「……それだけ聞ければ十分や。あとはウチが見張るからな」

 

霞の言葉に、思わず私は本音を漏らす。

 

「……例外が、起きなければ良いが……」

 

「ん?なんか言った、ライニ」

 

「いや……何でもない」

 

きょとんとした顔で問いかけてきた霞に対し、私は頭を振ってから答えた……。

 

 

 

 

 

――*――*――*――

 

 

 

 

 

「……」

 

「どうしたの、雪蓮。さっきからそわそわして。いつもならとっくに屋敷を飛び出してどこかに行ってるのに」

 

黒髪の女性の言葉に、雪蓮、と呼ばれた女性は複雑そうな表情を浮かべる。

 

「本当ならそうしたいんだけど、なんでか今屋敷から出たくないの」

 

「??出たいのに出たくないって、矛盾したこと言っているわね」

 

女性は首を傾げる。

 

「孫策様!!」

 

兵士が一人、息を切らせながら二人のもとに駆け寄り、先ほど雪蓮と呼ばれた女性の前で跪く。

 

「――どうした?」

 

孫策が怪訝そうな顔で問いかける。

 

「周泰様が……、周泰様が……!!」

 

「落ち着きなさい」

 

孫策が窘めると、兵士は呼吸が整うまで少しばかり間が空く。

 

「周泰様が、黄金の獣を連れてきました」

 

「……?黄金の獣って、あの皇帝契絆支になったって言う?」

 

孫策が目を丸くしていると、兵士が報告を続ける。

 

「はい。それと、旧董卓軍の将で、神速の二つ名を持つ張文遠が同行しております」

 

「……どう思う?公瑾」

 

孫策が反応に困るといわんばかりの顔をすると、周瑜と呼ばれた女性が眉間にしわを寄せた。

 

「……黄金の獣は洛陽で何か不祥事を起こした。そこで以前我らに作った貸しでほとぼりが冷めるまでしばらく身を寄せようと考えた。……ありえるとしたら、そんなところね。もっとも張文遠だけがどうして黄金の獣と同行してるかは分からないけれど」

 

「……なんだか、それが真実な気がして来たわ。それに洛陽から西と北の情報を黄金の獣の細作から取引してて、格安にしてもらってるって周泰が言ってたからな~。変に義理感じて、連れてきた可能性は否めないわね」

 

苦笑いする孫策。

 

「……それで、どうする。伯符」

 

「ん~。まずは周泰に詳しい経緯とか聞きましょう。それから獣さんと、張文遠と会って、どうするか決めればいいと思うわ」

 

孫策の回答を聞いた周瑜は頷く。

 

「それが妥当でしょうね」

 

周瑜の言葉を確認した孫作は、兵士の方へ向きなおる。

 

「客室を二つ用意するよう、手配して。基本綺麗にしてあるから、細かいところを綺麗にするだけで大丈夫なはずよ」

 

「はっ」

 

兵士は命令を受け、そそくさと去って行った。

 

「……ねえ、冥琳」

 

「だめ」

 

「……まだ何も言ってないわよ」

 

親友の言葉にふくれっ面になる孫策。

 

「天の御使いの代わりに、あの男の血を入れると言いたいのでしょう?」

 

「……そ、そんなことじゃないわ」

 

周瑜の言葉に対し、目を逸らしながら答える。

 

「……ならなんなの?先に言っておくけど、一騎打ちしてみたいとかはもっとだめ」

 

「……あ、あははは~」

 

「……前者については謎が多すぎる。あの男の周りの部下たちについても同様に。自分たちですら得体の分かっていない男の血を入れるのは危険でしょう。もし周陽の言うように、さーヴぁんとっていう、人ならざる者だったらどうするの?例え体を重ねることが出来たとしても、子供は生まれないと言っていたから」

 

「……」

 

「後者はあの男の実力が未知数だから。あの男が自身を含めて10人で彼の黄巾党3万を壊滅させたという話が本当ならば、卓越した武威なのは間違いない。もしさーヴぁんとなら、『殴ったら死んでた』とか平気でやりかねない化け物よ。そんな相手と戦わせられない。もっと自分の身体を大事にして」

 

「ご、ごめん冥琳……」

 

申し訳なさそうにする孫策。

 

「で、本当はどっちなの?」

 

「……どっちも、かな」

 

「……はぁ」

 

周瑜の気苦労は絶えないようだ……。

 

 

 

 

 

――*――*――*――

 

 

 

 

 

「着きました。申し訳ありませんが、しばらくお待ちください!」

 

明命はそう言って、傍にある屋敷へと駆けていった。

 

「……む、そうだ」

 

「どないしたん、ライニ」

 

私が動きだしたことに気付いた霞が問いかける。

 

「先に報酬の方を降ろして置こうと思ってな」

 

「……ああ。今は宝物庫を表立って使えへんからな」

 

私の言葉に納得した霞は立ちあがった。

 

「さてと……。これと、これと……これだな」

 

私は木箱の上のふたを開けて確認した後、降ろしやすい位置に移動させる。

 

「ウチが下で受け止めるさかい、ライニは降ろしてや」

 

「……では、頼む」

 

「ウチに任しとき!」

 

霞はそう言って荷台から降りる。

 

私は重い箱から降ろしていくことにした。

 

「重いぞ、大丈夫か?」

 

「大丈――重っ!!」

 

油断していたのか、慌てる霞。

 

「そっと降ろしてくれ。無理なら代わるぞ」

 

「大丈夫やけど……。中に何入ってるんや?」

 

「酒。かつてその酒を巡って、戦争が起きたといわれる代物を筆頭に、古今東西の有名どころが勢ぞろいしている」

 

「――!!」

 

彼女はまさに壊れ物を扱うように静かに箱を降ろした。

 

木で出来た専用の台座に、布を被せてそこに置いた上、さらに緩衝材として木屑で覆ってあるので、そう簡単には割れないだろうが。

 

「次は本の類だ。多少ならば雑に扱っても構わん。……卿には後で用意するから、そこからくすねてはダメだぞ」

 

「嫌やわ~。ウチがそないなことするかいな。ほら、次の箱早く渡してーな」

 

霞が慌ててこちらに向きなおった。

 

私は先ほどより一回り小さい箱を渡す。

 

「……っと、やっぱ本って重い気がするんやけど」

 

「だが、その中に込められた知識は、同じ重さの金より価値があるだろうな」

 

「そりゃそうやろ。寧っぽくに言えば「ちーと」やからな」

 

霞はちゃんと酒の隣に本の入った木箱を置いた。

 

「あとはこれとこれだ。そこまで重くないからな」

 

私がそう言って、木箱を3回ほど渡す。

 

「ほいっと、……これで全部やね?」

 

「ああ。ご苦労」

 

私は荷台から降りて、霞の頭をそっと撫でながら、労う。

 

「……あの~」

 

「む?」

 

私は撫でる手を止めて、声がする方へ向くと……。

 

「こうして話をするのは初めてよね?」

 

「ああ、そうだな。孫伯符」

 

そこには明命と、孫伯符、そして周公瑾がこちらを見ていた。

 

先ほど声を掛けたのは、明命で間違いないだろう。

 

私は軽く会釈した後、自己紹介をする。

 

「私はラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。ラインハルトとでも、ハイドリヒとでも、好きに呼ぶといい。こっちは張遼。字は文遠だ」

 

「よろしく頼みます」

 

ぺこっと一礼する霞。

 

「私は孫策。字は伯符よ。よろしくね」

 

「私は周瑜、字は公瑾よ」

 

「……挨拶も済んだところで、本題に入ってもいいかね?」

 

私がそう言うと、孫伯符が待ったをかける。

 

「せっかく屋敷の前まで来てるんだから、上がっていって」

 

「雪蓮!」

 

周公瑾が親友をたしなめる。

 

「いいじゃない。黄巾党征伐の立役者ともいえる彼を家に上げないと、孫家の品位が問われるわ。それに、袁家の細作がこっちを見てるし」

 

「……」

 

孫伯符の指摘に周公瑾が険しい顔をする。

 

「……ライニ、変な真似したら報告やからな」

 

霞の言葉に、私は肩をすくめる。

 

「……善処しよう。ああ、それと孫伯符」

 

「? なにかしら」

 

私の言葉に対し、不思議そうに私を見る孫伯符。

 

「明命の護衛依頼の報酬なのだが、この箱に入っている……。ただ、中でも大きい二つは本と酒のため、重いのだ。運び入れる場所に案内さえしてくれれば、報酬を運ぶが、どうする?」

 

「え、お酒?」

 

お酒と聞いて目の色を変える孫伯符。

 

「……かつて遥か西方の国で戦争が起きるきっかけになった酒と同じ製法で作られた果実酒を始め、古今東西で名をはせた酒たちと同じ製法で作られた酒の数々だ。いずれも()()()()で取り寄せられるのは私くらいしかいないだろうから、良く味わって飲んでもらいたいものだな」

 

私はそう言って酒の入っている箱を開け、緩衝材の木屑をどけて一番上の段にある酒の一つを取りだして見せる。

 

「……ずいぶんと変わった形をしてるわね」

 

「無論、酒を入れる器も本物と同じ種類のものが使ってあるからな。封を開けるための道具も全てそろえてある。詳しくは同封した説明書を読んでもらいたい」

 

「……貴方は何者なの?」

 

周公瑾の問いかけに対し、私は少しばかり意地の悪い回答をする。

 

「さてな。私……いや、我々のいたところでは真名という風習がなかった、とだけ言っておこう。あとは――霞、離れろ!!」

 

私の言葉に霞はすぐさま飛びのく。

 

そして私は孫伯符の方に酒を放り投げ、振り向きざまに腰に佩いていた原罪(メロダック)と魔剣グラムを抜き、飛んできた飛び道具を弾いた。

 

飛び道具の飛んできた方を向くと、銀色の翁の仮面を被った黒装束の人物と、花嫁衣装に身を包んだ虚ろな瞳の少女がこちらに向かってきていた。

 

「行くぞ、バーサーカー!!」

 

「……ヤァァ!!」

 

少女の持つ戦槌(メイス)原罪(メロダック)で受け止める。

 

「ライニ!!」

 

「おぬしの相手は私だ、サーヴァントのマスターよ!」

 

そう言って仮面の人物は大剣を振りかざし、霞に攻撃を仕掛けた。

 

「させんよ」

 

私は少女を弾き飛ばした後、仮面の人物の前に立ちはだかり、魔剣グラムで大剣を受け止める。

 

「むっ!!やはりサーヴァント。この私でもかなわぬか。だが――」

 

仮面の人物はすぐさま飛びのき、私の傍に短剣を投擲した。

 

「――これで動けまい」

 

「……影縫い、か」

 

私は自分の影に、短剣が突き刺さっているのを、見ながら、そう答えた。

 

「左様。霊体化さえ出来ぬことは私のサーヴァントで確認済みだ。――やれ!バーサーカー!」

 

「ヤァァ!」

 

戻ってきた少女が私に対して攻撃を繰り出そうとした。

 

「――んなことさせるかい!」

 

「よせ! 霞!!」

 

霞が少女の戦槌(メイス)を飛龍偃月刀で受け止めた。

 

「――っ!?」

 

すると戦槌(メイス)が纏っていた電流が飛龍偃月刀を通じてしまい、霞が麻痺した。

 

崩れ落ちる霞。

 

「安心するといい、娘よ。貴様は殺さん。殺すのはサーヴァントのみ」

 

「ま、待たんかい」

 

「そうよ。待ちなさい、周陽」

 

抜剣した孫伯符が私の前に立ち、仮面の人物と、バーサーカーの前に立ちはだかった。

 

「……契約を違えるおつもりか?」

 

「そのつもりはないわ。でもね、自分の家の前で殺し合いされても困るの。それに今はこの人私の客人よ。もてなす相手に死なれたら、後味悪いしね」

 

周陽と呼ばれた人物の言葉に、反論する孫伯符。

 

「……気持ちはありがたいが、あいにく、その二人では、私を殺せんよ」

 

私は短剣を宝物庫に回収して姿勢と服装を整える。

 

「……貴方もさーヴぁんとだったのね」

 

孫伯符がそう言ったので、私は返事をした。

 

「左様。酒は私の宝具の中にある酒だ。……そっちは普通の人が飲んでも問題ない純粋な酒だ。な、霞」

 

「せやな。……あとライニ、すごく心配したんやで」

 

霞が立ちあがって、私によりかかってきた。

 

(霞の胸が、私の身体に当たって変形してる……ッ!!)

 

急にどこからか嫉妬の気配を感じたので、思考を切り替えた。

 

「無用な心配だ。カールの自滅因子という宿業ごと消滅するか、自殺すらできないカールが死なぬ限り、私は死なんよ。――むしろ卿が先ほどの電撃で死ぬのではないかと心配した。あまり私を心配させないでくれ。分かったな?」

 

私はそう言って人差し指で、霞の額をとん、と押した。

 

「うう~。せやかて……」

 

「返事は?」

 

「……はい」

 

「よろしい」

 

私はそう言って霞の頭を撫でたあと、周陽とバーサーカーの方へと向き直った。

 

「バーサーカーとそのマスター。今までのことは何もなかった、いいな?」

 

「……どういうつもりだ?」

 

周陽が質問で返してきた。

 

「……聖杯に私も私のマスターも執着していない。それと現在の敵は4体のサーヴァントを率いている2人のマスターだけだ。あとは正直どうでもいい。敵対するなら相手をするし、私の周りの者に害成すなら排除する。それだけだ」

 

「……分かった。今までのことは水に流す。そちらが敵対しないのであれば、それに越したことはない」

 

「……その割には、そちらから攻撃してきたと思うのだが……?」

 

私が指摘を入れると、周陽は気まずそうな顔をした。

 

「お前の実力は嫌でもわかるからな。()られる前に()れと考えてしまったわけだ。影縫いで行動を制限し、バーサーカーの宝具で倒せるか試す。出来なければすぐに孫伯符との仕事の契約を切って姿を消す予定だった」

 

「なるほど。影縫いさえ決まれば逃げることも出来るからな」

 

私は周陽の説明に納得する。

 

「……話は済んだ?」

 

「……申し訳ない、孫伯符様」

 

「すまなかったな、孫伯符。」

 

「穏便(?)に済んだから構わないわ。――ただし、周陽は罰としてラインハルトが用意してくれた報酬を運ぶのを手伝うこと。いいわね」

 

孫伯符がそう言って、酒の入っていた箱を示し、ニコッと笑った。

 

「……この程度で済んだと、割り切るとしましょう」

 

周陽はそう言って、肩を竦めたのだった……。

 

 

 

 

 

――*――*――*――

 

 

 

 

 

「……真名を普通に使ってるとか、頭おかしいんじゃねえの、この人」

 

「……(ポンポン)」

 

孫伯符の屋敷に上がった私たちは、客室にて改めて自己紹介した。

 

すると、仮面と黒装束を外した周陽(それなりの美形の男)が頭を抱え、バーサーカーがそれを慰めるような行動をとる。

 

「……え、あの長い名前って真名なの?」

 

向かいに座る孫伯符が油の切れたブリキの人形さながらのぎこちなさでこちらを見た。

 

「サーヴァントは相手のサーヴァントにその名を知られると、聖杯からその名前の人物についての情報が提供される。それゆえ、クラス名の『アーチャー』や『バーサーカー』という呼び方をし、本当の名を真名として隠している。……だが、呼んだら無礼に当たることは少ない。私の場合は、真名と言う風習がない土地で育った上、真名を知られようといまいと問題ないので、言ったのだ。『好きに呼ぶといい』とな」

 

「ちなみに、ウチの呼び方の『ライニ』は、愛称っていうてな、ライニに親しみを持ってる相手がよく使う呼び方なんや。ライニの部下はライニのことを敬意を持って『ハイドリヒ卿』、普通の人は『ラインハルト』とか、『ハイドリヒ』って呼んでるんよ。いきなり真名呼ぶんは違和感あるかもしれへんけど、ライニはそう言う男やて、割り切ってな」

 

「……そうするわね」

 

困惑の色を隠し切れていない孫伯符が霞の言葉に返事したあと、少し考えるそぶりを見せた。

 

「……うん、せっかくだし、私も真名を預けるわ。私は雪蓮。よろしくね」

 

「ちょっと雪蓮!」

 

今まで黙っていた周公瑾が雪蓮に待ったをかけた。

 

「いいじゃない。海から塩を生成する方法や、海産物に関する知識、海に面する地域で育ちやすい植物とかの情報とか、散々お世話になってるんだし。それに、私はライニのこと、気に入ったから」

 

「……勝手にしなさい」

 

周公瑾はそう言って、用意されていたお茶を飲み始めた。

 

「さて、一段落もついたところで、本題に入っても良いかね?」

 

「……ええ」

 

私の言葉に、雪蓮は険しい顔になる。

 

「洛陽でごたごたがあってな、願わくばしばらく卿の元に身を寄せたい。何があったかは明命に聞いてくれ」

 

「それはもう聞いているわ。……後払いって言われてた報酬を先にもらって、追い払うなんてことは流石の私もしないから。いいわ。部屋を手配しておくから。別々の部屋だけど、いいかしら?」

 

「ああ、それで構わん……」

 

私はそう答えた後、雪蓮の顔を見て、ため息をついた。

 

「……なんで人の顔見てため息つくわけ?」

 

「『貴重な酒を手放したくない』と顔に書いてあるからだ。そうは思えんか、周公瑾」

 

「……悲しいことに、否定できませんね。酒で雪蓮を釣っておいて、断れないようにした貴方の強かさは見習いたいものです」

 

ため息をつきながら、何故か非難するような目でこちらを見る周公瑾。

 

「……明命」

 

「何でしょうか、ハイドリヒ卿」

 

私の声にすぐさま反応した明命。

 

「卿次第だが、例の報酬の本、希望するなら全部雪蓮の希望する酒に変えてもいいがどうする」

 

「「!!」」

 

「へっ!? えっと、その……」

 

私の言葉に即座に反応する雪蓮と周公瑾。

 

2人は明命に凄まじい威圧感をぶつけ始めた。

 

「……断金の友の友情にひびが入る音が聞こえた気がする」

 

周陽がそう呟いたところで、私はふざけるのをやめる。

 

「……冗談だ。いる間に気が向けば、酒も何本か私が出すし、いくつか頼み事を聞いてくれれば、多少の本なら追加で贈ろう。これ以上明命を威圧するのはやめてくれ」

 

私がそう言うと、2人の威圧感は消えた。

 

「気が向くようにする方法とかはあるかしら?」

 

「試行錯誤と努力してこそ、得られる物は尊い。そうは思わぬか?」

 

雪蓮の言葉に対し、私は周公瑾を見つつも答えた。

 

「まあ、そうね」

 

雪蓮がそう言った途端、誰かのお腹の虫が鳴いた。

 

「……とりあえず、お昼食べに行かない?私お腹すいちゃったわ」

 

「そうだな」

 

「いや、それには及ばんよ」

 

雪蓮たちの言葉に、私は立ちあがりながら否定する。

 

「どれ、この程度の人数なら、問題ないだろう。……霞、補助頼めるか?」

 

「簡単なことだけならできるで」

 

私は霞の言葉を確認し、雪蓮に問いかける。

 

「厨房を貸してくれぬか?材料は全て宝物庫から出す」

 

私はそう言って、宝物庫から机の上に大量の食材をせりだすように出した。

 

「私は別に構わないけど。……サーヴァントって、すごいのね……」

 

「いや、この男の宝具がいかれてるだけだと思う」

 

「……ヤァァ」

 

困った顔で、周陽はそう反論し、バーサーカーも心なしかしょんぼりした声でその言葉に賛同した……。

 

 

 

 

 

 




いかがだっただろうか。

感想、評価、誤字脱字の報告をお待ちしているよ。








~解説コーナー~



獣殿の発言

「無用な心配だ。カールの自滅因子という宿業ごと消滅するか―――」
について。

本作の獣殿は、原作の獣殿同様に「カール・クラフトの自滅因子」であるため、本体であるあのニートが死なない限り、一部例外を除いて死ぬことはありません。
裏を返せば、獣殿が生きている限り、ニート生存は確定しています。







ここから作者の独り言。


ただ、今の現状だと、まだ他にも死亡要因があるので、絶対大丈夫とは言えません……。
獣殿はそれに気が付いて……。


ここまで作者の独り言。



~解説コーナー(終)~







では、また次の幕にてお会いしましょう……。
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