私の話はさておき……。
この幕では少しだけ話が進む。
そして意外な真実が明かされるが、まだ彼はそれを知らない……。
ついでに獣殿の胃痛の原因が雪だるま式に増えている気がするが、気にしたら負けだ。
では、そろそろ幕開けとしよう。
――では、今宵も私の歌劇をごらんあれ……。
~翌日の昼ごろ、連合軍 劉岱の天幕~
「……そろったみたいですね。ではまず挨拶から……」
背まであるブロンドと、晴れた日の水面のような青い相貌を持つ女性の言葉で一同は水を打ったように静まり返った。
彼女自身が無意識のうちに振りまく威厳もあるが……。
(……どうみても鋼のアリアンロードです。本当にありがとうございました)
中世の騎士が身に纏うようなゴツい鎧を着ており、明らかに周囲から浮いているからである。
そして中世の騎士の姿を知っている北郷一刀と南雲結衣は困惑し、南雲結衣にいたっては半ばやけっぱちな心境を内心でぼやいている。
「私の名は司馬軌。字を季達と申します。今は袁本初様の下で客将として仕えており、此度は劉公山殿より本評定の司会進行の任を拝命いたしました」
凛とした声色の彼女はそういうと、一度私たちを確認するように見回す。
「では、本題に入りましょう。本日皆様にお集まりいただいたのは他でもありません。使いのものから聞いているかと思いますが、改めて伝えましょう。汜水関防衛の総責任者となっている赤騎士、および同行者4名がこの時刻に到着するとの使者が今朝方やってきたからです」
「「「「「……」」」」」
すると示し合わせたかのように天幕の入り口から兵士が入ってきた。
「報告いたします! 汜水関防衛の総責任者を名乗る赤髪の女とその同行者4名が参りました」
「武器を預かった後、こちらに通してください」
「はっ!!」
兵士が下がるのを横目に、司馬軌は一堂を見る。
「皆様に異論がないようでしたら、私が交渉の進行を務めさせていただきますがよろしいでしょうか」
「「「「「……」」」」」
「……では、私が進行を務めさせていただきます。何か意見がありましたらその都度挙手などをお願いします」
そういい終わると同時に汜水関防衛する5人がやってきた。
1人目は顔の半分が火傷あとになっている、アタッシュケースを持った赤い髪の女性。
2人目は1人目と同じく金色の髪を後ろで纏めている碧眼の女性。
3人目は体の刺青と触覚のような2本のアホ毛が特徴の娘。
4人目はその豊かな白い髪と髭から獅子を
そして5人目は……。
「おや、姉さんではありませんか。お久しぶりです、お元気にしていましたか?」
笑顔で私に向ける白銀の髪の美女。
「……ええ。おかげさまで。私の夫をもてあそんでくれてまことに感謝しています」
明らかに向こうもキレているが、それはこちらも同じこと。
私もうわべを取り繕うことなく、愚妹に怒りをぶつける。
「それはそれは。仕事ほったらかして男に現を抜かしていた姉さんにはこちらとしてもどのようなお礼をしなければならないか、考えた結果ですから、お気に召したようでしたら幸いです」
「……」
「……」
私と愚妹の沈黙が全体の沈黙となり、ほとんどのものが息を呑んだ。
「……すみません、皆さん。お願い交渉はそっちでお願いします。私は姉さんと表でお話しをしなければならないので」
「……勝手にしろ」
愚妹が赤騎士にお願いしたのを見た私は、やや怒気を孕ませながら問いかけた。
「華琳。すみませんが少し愚妹との再会を表に出てしたいのですが、かまいませんか?」
「え、ええ。かまわないわ」
私はそういうと、愚妹と共に天幕を後にした……。
――*――*――*――
「さてと、双方言いたいことがあると思いますが、どちらから話すべきだと思いますか、姉さん」
天幕どころか、連合のいる場所からかなり離れたところまで来ると、愚妹が唐突に振り返って問いかけた。
「……ねりこ……私の式から聞きましたが彼がサーヴァントになったと聞いています。それは貴方のせいですか?」
「要因のひとつではありますが、原因そのものではありません。私は彼に英雄王の能力をインストールしましたが問題はそのあと。今この世界にある不完全な聖杯が転生した彼を誤認してサーヴァントとして認定している。おかげで変なリミットがかかり、彼の出せる力が大幅に制限されており、存在自体が不安定になっています。おかげでこの外史そのものも不安定になっています。なので私がこまめにメンテしてます」
愚妹の言葉に私は疑問を呈した。
「……この場合、貴方は彼を回収して強制的な当外史の棄却、あるいは聖杯戦争の強制終了を外史の総統括者に働きかけるのが妥当だと思いますが?」
「残念ながら該当対象が行方不明。その上、それに比肩する権限をもつ管理者がおらず、数段劣る権限しか持たない管理者4人しかいないんです。おまけに彼を経由してみた大聖杯の中身が最悪な存在の母胎と化しているのでまずそっちを何とかしたいのに肝心の大聖杯の居場所が分からず、彼自身が生半可にこの外史に根付いているおかげで外部からは引っこ抜けないという有様です。とどめに現時点で外史を出入りできるのは管理者しかいないという有様です」
「貴方の権限なら外史を強制的に終わらせることもできたと思いますが……?」
私の疑問に愚妹がジト目で返事する。
「ほう『原発は危険だから、破壊しよう。細かいことわかんないけどとりあえず原発を内部から発破解体すれば良いだろう』なんてふざけたことできますか? そんな短絡すぎることした日には、外史世界だけではなく、こっちの管理領域まであの存在の汚染がやってくる可能性があるんですよ。私は腐っても世界の管理を任された女神なんです。あの人に一目ぼれして神の権能捨てて、仕事こっちに回してきたどっかの誰かと違って管理領域の世界を存続、剪定する責任があるんですよ!! どっかの姉さんと違ってね!!」
「うるさい!! 私だって反省したんですよ!! なのに貴方がこちらからの連絡を無視しっぱなしだから……!!」
私も愚妹の激情に感化されたのか、感情の思うままに言葉を述べた。
「こちとら自分の管理領域の調整でさえ時間加速使って処理してたのに、姉さんの分を何も引き継ぎなしで引き継いで調整やらしたので、姉さんの連絡なんて聞くひまなんかなかった! あの人がうっかり死んだのだって、元はといえば姉さんがいなくならなければなかったことだし! 恨むなら、ちゃんと引き継げるようにしてなかった自分を、女神やめた自分を恨め!!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、愚妹がフルパワーの右ストレートを繰り出した。
そしてそれを知覚したのは、私がそのストレートで吹き飛ばされ、地面に大の字で倒れてからだった。
「……調度鬱憤がたまっていたんですよ。貴方ボコボコにして憂さ晴らしと行きますか」
私が口元を吊り上げながら、立ち上がってそういうと、愚妹も同じように笑みを浮かべた。
「ハッ、今の姉さんが私に
愚妹の言葉がさながら始まりを告げるコングのように、私たちは荒野で苛烈なる姉妹喧嘩を始めたのだった……。
――*――*――*――
~一方、時間をさかのぼり結衣、寧両名が立ち去った直後の天幕~
「……それでは、そちらから要求する条件とそれに伴う見返りを提示していただきます」
司馬軌が、冷静にザミエルを見据え、問いかけた。
「そちらへの見返りは汜水関に現在駐留する軍の撤収、およびハイドリヒ卿から預かっている手紙と、先帝が弟へ綴った手紙の引渡しだ。こちらの条件はいたって簡単。劉公山の身柄引き渡し、およびこちらの軍が汜水関撤退するまでの停戦だ」
「「「「「!?」」」」」
「貴方の犯した罪は重い。容易く死ねるとは思わないでいただきたい。――劉宏様と劉協様を殺めるために暗殺者を雇い、間接的とはいえ劉協様を殺したのですからな」
険しい顔で司馬建公が劉公山に対し、そう告げた。
「……それは本当なのかしら?」
曹孟徳の疑問に、司馬建公は頷いた。
「そしてその折の失態で黄金の獣が投獄された。それにより我々の計画は大きく狂い、同時に劉焉の台頭を許す結果を招いてしまったのですからね」
「……我々?」
公孫伯珪の疑問に、司馬建公は静かに頷いた。
「太尉の私、司空の張温、司徒の楊彪 そして尚書令の王允殿。我々は彼……。黄金の獣とある契約を交わしたのですよ」
「……契約って何を契約したの?」
疑問符を浮かべながら問いかける劉元徳に対し、司馬建公はやや険しい顔をして、ザミエルを見る。
「……内容の秘匿は特に禁止していない。そちらの裁量に一任する」
振り返ってそういうと、彼女は胸ポケットからタバコを取り出して火をつけた。
「……詳細は明かしませんが、その契約の延長として出された命令のおかげで、漢は滅びることなく、そして黄金の獣の部下が彼の帰還まで反旗を翻すことなく漢の存続に尽力し手くれたのだけは確かです。もし契約がなければ、もし彼に野心があったならば、当に漢は滅び、彼を皇帝とした新たな国が漢を滅ぼして大陸を統べていたことでしょう」
「……まさか」
劉景升が首を振りながらそういうが、司馬建公は険しい顔のまま続ける。
「……信じるかどうかはあなた方に任せましょう。少なくとも、私の知る限り、彼に太刀打ち出来るものはいませんな。かつて3万の軍勢を10名で倒す作戦を実行し、その7割ほどは彼が討ち取ったものである、位しか証拠はありませんからな」
「……ライニ、あの10倍くらい一人で倒せるって言ってた。恋も少し疲れたけど、ライニは汗ひとつかいてなかった。あと本気の恋でも、手抜きのライニにもなかなか勝てない」
呂奉先がふと思い出したようにつぶやいた。
「それらの話は些事に過ぎん。全てが終わった後、ハイドリヒ卿に聞けば分かることだ。それよりも我々の交渉に対し、何らかの反応を示してもらいたい」
話が脱線しつつあることに痺れを切らした赤騎士の言葉に、連合側の一同は困惑する。
「……仮にこちらが条件を飲んだとして、そちらが約束を反故にしない保障がありません」
冷静に赤騎士に視線を向ける司馬季達。
「ならば半分は先に果たし、汜水関からの撤退まで人質を出そう。司馬建公、あと李幽遠がいれば問題ないな?」
やれやれと言わんばかりの態度とともに出された回答に、連合側は動揺を見せる。
「……こうなることも予想の上であの二人を連れてきたようですね」
「当然。必要なら呂奉先かこの馬鹿娘も人質に出す。もっとも、全人質の丁重な扱いと汜水関撤退後の開放の確約が条件だがな」
紫煙を吐き出だすとあとはそちらの判断だと言わんばかりに黙り込んだ。
「……さて、我々が現在出来ることは3つ。1つ目は提案を受け入れ、劉岱様を引き渡して汜水関を戦うことなく開放する。2つ目は提案を拒否し、汜水関を力攻めする。そして、3つ目は提案を却下して、なおかつこの場で赤騎士たちを始末して汜水関を力攻めにする。あくまで案ですので、どのような案を選ぶかはご自由に」
「まあ、3番目を実行するならここにいる全員皆殺しにするだけだ。ハイドリヒ卿はその選択肢を選ぶなら、連合の兵一人残らず皆殺しにしても構わんと言われているからな」
やや挑発気味に赤騎士が司馬季達の言葉に反応した。
「……3番目以外ないだろう!! 後顧の憂いをなくすために始末するためにも、今この連中を皆殺しにするんだ!!」
今までとは打って変わってあせった様子の劉公山。
「「「「「……」」」」」
「劉岱……」
哀れむような目で見る一堂。
「何故誰も動かん!! やれ、お前たち!!」
劉公山は天幕を守っていた兵士たちに命令するが、兵士は戸惑う。
「別に殺しにくるのは一向に構わん。だが、何万人集まろうが死ぬのはそちらだがな」
赤騎士がそういいながら兵士の一人をにらむと、
「ひっ……」
兵士は腰を抜かした。
「何をしてる! 相手は丸腰だぞ!?」
「……武器なくても、負けない」
「申し訳ありませんが、無手のほうが本領なので、初めから手加減なしと覚悟してくださいね」
「まあ、少佐に無手でもしごかれてるんで、あんまりかわらないですけど。あ、でも無手だと即死させられないかもしれないので、苦しみながら死ぬかもしれませんが」
劉公山の言葉に対し、恋は少しだけ不機嫌そうに、司馬建公は心なしかいきまいた様子で、ベアトリスは忠告するようにそうこたえた。
「……さて、3つの案どれにしますか?」
司馬季達の問いかけに連合の諸侯は黙り込んだ。
「……さすがに妾でも1つ目以外ないと思うんじゃが……」
ドン引きしながら袁公路が答える。
「むしろ、こんな人が陛下と一緒にいて、連合の盟主なのが間違いだ。こんなやつを渡すだけで汜水関を開放できるなら、喜んで引き渡す」
孔文挙がごみを見るような目で劉公山を見る。
「……特に異論がなければ、1つ目のあんで決定しますがよろしいですか?」
「そ、そんな……陛下……」
最後の希望とばかりに劉弁を見るが……。
「わが妹を殺したお前に頼っていたと思うと、吐き気がしてくる」
劉弁も汚物を見るような目で劉公山を一瞥した。
「……では、契約成立だな」
そういうと、ザミエルはアタッシュケースを開けて中から幾つかの書簡と手紙を取り出した。
「書簡は先帝からのもので、あとはハイドリヒ卿からのものだ。表面に宛名が書かれている。もっとも、手紙はハイドリヒ卿が個人的に書いたものだから、誰の文があるかは知らん」
そういうと、彼女は空になったアタッシュケースをベアトリスに渡し、劉公山のところへと歩く。
「ひっ、くるな。くるなぁ!!」
あわてて逃げるが、すぐさま追いついて回り込み、みぞおちに一撃を加えて気絶させた。
そしてそのまま抱えると、
「では、汜水関撤退が完了しだい、そちらに使いを送る。こちらが放棄した汜水関はそちらの自由にすると良い」
そういって、ザミエルはベアトリスと共に天幕を後にした……。
――*――*――*――
~同日夕方 虎牢関 ラインハルトの部屋~
「……」
事の顛末を千里眼で見ていた私は、意識を自らの体に戻した。
「……で、交渉はどうなったの?」
ソファーに座る私の左隣でくつろいでいた詠が問いかけてきた。
「おおむね順調に行われた。その後の劉岱の兵力と劉弁の扱いも卿の予想通りだった」
「ふーん? まあ、そこらへんで落ち着くと思ってたし、妥当と言えば妥当よね」
「まだ連合が来るまでは暇だ。そろそろ兵士たちがたるんでくるころでもある。ついでに抜き打ちの確認でもしてみるか」
私がそういって立ち上がり、部屋を後にしようと扉に手をかけると、部屋の扉がノックされる。
「亞莎です。あの、先日来たお客さんがお連れ様とともにやってきました」
「……分かったすぐに向かう。応接室に通すように伝えてくれ。卿も応接室に向かってくれ」
「はい、分かりました」
元気な返事と共に、彼女は足早に去っていった。
「……何かいやな予感がする。詠、すまないがついてきてくれ」
「ライニがいやな予感するって何が起こるのよ」
困惑の色を隠せないながらも、詠が私の隣までやってきた。
「さてな。南雲将臣という男の妻を名乗るやきもち焼きにまた半殺しにされる肉体的折檻か、あるいは年単位で座敷牢に放り込まれて大根おろし以外食べれないと言う精神的折檻かもしれんな」
「なにそれこわい」
「……少なくとも今はそれを受けることはない。それを実行する当人はまだ連合の天幕にいるのだからな。それよりもいくぞ、詠」
「あ、待ってよライニ!」
私がいまだに見る悪夢の話を区切り、歩き出すと詠もあわてて私についてきた……。
――*――*――*――
「また来たぞ」
「こんにちは、貴方がお姉ちゃんたちの言ってた獣さんね」
「……急に眩暈がしてきた。と言うことで私は部屋に戻る」
なぜか孫尚香をつれているねりこに対してそういうと踵を返そうとしたが……。
「そうか。そんなに冷たくされたのなら、我がおぬしの筆おろしをしたときのことを事細かに愚痴ってから帰るほかないのじゃが」
あと女子3名がなぜかねりこの話に過敏に反応した。
「……幾つか質問がある。何故卿が孫家の末娘を連れている。そして一昨日来たばかりだというのに、何でほとんど間髪あけずに来た?」
「うむ、最初からそのように素直なら良いのじゃがな。……前者は我が汜水関の間道を抜けてるときに偶然出会った。話を聞けば目的がおぬしだと聞いての、連れて行くべきじゃと思ったわけじゃ。あと後者は主から手紙を預かってきたからのでな。……とりあえず半殺しは確定じゃと思うが、強く生きるのじゃよ」
ねりこはからから笑った後、前半にまじめな表情を、そして後半は悲壮感を帯びた態度で私の質問に答えた。
そしてねりこが胸の谷間からその手紙を出すと、女子3名が自分の胸とねりこの胸を見比べて三者三様の反応を見せる。
「……」
私は無言でその手紙を開けて読んだ後、ため息をついてから、孫尚香のほうへ向き直った。
「遅くなってすまないが、卿は何の目的で私を訪ねたか聞かせてもらいたい」
「えっとね。獣さんのところにお世話になりたいなって。これ、お姉ちゃんたちからのお手紙ね」
そういって私に彼女は書簡を渡してきた。
「……」
私は書簡を置いた後、目頭を押さえて軽く揉んだ後、孫尚香に問いかける。
「……働かざるもの食うべからず。そして食べ物を粗末にしない。私、詠の指示には従う。それが最低条件だ。卿は守れるかね?」
「まあ、当然と言えば当然よね。あ、シャオの真名の小蓮、預けるからよろしくね。あ、呼ぶときはシャオって呼んで欲しいな」
私の出した条件を了承し、そして真名を預けてきた孫尚香を見ていたねりこが私に対してジト目を向けた。
「おぬし相変わらず身寄りのない女に弱いのう。毎回女を連れ込んで主に折檻食らっておるの分かるじゃろうに……」
「……」
「……ねえ、もしかしてライニってかなり女に甘い?」
私が沈黙していると、詠がねりこに問いかけた。
「ねりこでかまわんぞ。ああ、こやつは女に甘い。最も、本当に困っていたり、自分に愛を向けている、もしくは個人的に興味を持っている相手に限るがのう。あと抱くのは美女美少女、もしくは磨けばそうなる相手だけじゃ。こやつかなりの面食いじゃからのう」
「……もしかして、シャオも抱ける相手に入る?」
ねりこの隣にいたシャオが問いかけた。
「入ってはいるが、外見がいかんせん幼いゆえ、本人的には犯罪行為に感じてしまうのじゃろう。その葛藤をどうにか出来ればいけるじゃろうて」
「ねりこ。これ以上私の胃を削るのはやめてもらいたい。最近本当に胃痛が絶えんのでな」
私がそういうと、彼女は心なしかすまなそうな顔をする。
「……おぬしをいじめるのはこの程度にしておくとするか」
そういうと彼女は立ち上がる。
「主が何かせねば、次会うのは洛陽じゃろう。それまでまたの。あでゅー!」
ねりこはそういって部屋の扉に手をかけた。
すると何かを思い出したように振り返った。
「ああ、あとそこの小娘」
「えっと……私ですか?」
ずっと聞き手に回っていた亞莎が目を丸くしながら聞き返す。
「そうじゃ。おぬしじゃ。そやつに恋焦がれてしまったのなら、さっさと思い伝えたほうがよいぞ。そやつ無駄に器が広いくせに、変なところでひねくれておるからのう。当人の口から思いを聞かねばたとえ知っていても恋人として扱ってくれんぞ。あと夜間に想いを伝えると確実にそのまま襲われるじゃろうから、気になるなら身を清めておくと良い。何十人と前例を見てきた我からの助言じゃ」
「えっ!? あの、その……」
「……」
亞莎が困惑し、内心吐血しながら私が見かけの冷静を取り繕っているうちに、ねりこはさっさと部屋を後にした。
「……まだ2回しかあってないけど、嵐みたいな人よね、ねりこって」
「否定はせん。だが彼女に助けられたこともあるゆえ、無碍に出来んがな」
私はそういうと立ち上がり、小蓮のほうへと向いた。
「シャオ、虎牢関にいる間、卿の部屋は未使用の部屋のひとつを割り当てる。好きに使うといい」
「あ、ありがとね」
私の言葉に無邪気な笑顔でシャオはお礼を述べた。
「詠、すまないが適当な空き部屋に案内してくれ。私は夕食を作る」
私がそういうと、詠はため息交じりで答えた。
「……分かった。亞莎。ライニの手伝いしてあげて」
「は、はい……」
消え入りそうな声で答える亞莎。
「ほら、さっさといくわよ」
詠がシャオの首根っこつかんで部屋を後にした。
「では厨房に行くとしようか」
「あ、あの……」
消え入りそうな亞莎の言葉に、私は足を止めて彼女のほうへ振り返る。
「私がラインハルト様を好いていることを、ご存知だったんですか?」
「……ああ。だがねりこが言ったとおり、私は変なところでひねくれ者でね。本人の口から聞かなければ気が済まない性質なのだ」
「……」
視線を右往左往させ、もじもじする亞莎。
部屋の窓から差し込む幻想的な黄昏時の光が私と亞莎を照らしていた。
もしかしたらそれが彼女に勇気を与えたのかもしれない。
「わ、私はラインハルト様のことを、一人の女としてお慕いしております。こんな私ですが、貴方様の女の一人として、お傍にお仕えさせてください」
しばらくの沈黙のあと、勇気を振り絞った彼女の言葉に、私は静かに頷いた。
「私のような女にだらしのない男でよければ構わんよ」
私の答えにほっとする亞莎。
そんな亞莎をそっと抱きしめる。
「~~~~!!」
「卿のその愛、私はうれしく思う」
しばらく抱きしめたあと、離れると目に見えて残念そうな顔をした。
私はそれを見たあと、ほほえましく思いながら耳元でささやいた。
「今宵は寝かさぬからな。――さて、夕食の支度をしなければな」
私はそういったあと、半ば夢心地になっている亞莎を連れてキッチンへ向かった……。
いかがだっただろうか。
感想、評価、誤字脱字報告をお待ちしているよ。
では、また次の幕でお会いしましょう……。