恋姫✝無双 黄金の獣と聖杯戦争   作:月神サチ

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さて、あと数話で第二章が終わる(たぶん)。

……長かったな。

インターミッション2は、まだ連合が洛陽内にいる間のお話になるだろう。

私の話はこの辺で。

――では、今宵も私の歌劇をご覧あれ――!!


第29話 決戦

地鳴りとともに、東のほうから粉塵を巻き上げて押し寄せるは化外の群れ。

 

大小美醜様々ではあるが、目的はひとつ。

 

彼らの前に立ちはだかり、そして武器を構える人間の蹂躙である。

 

それこそ、知恵などほとんど持たぬ彼らの本能に刷り込まれた、唯一の使命にして存在意義。

 

数はおよそ人間の10分の1ほどだろうか。

 

しかし彼らにとってそんなのは些事に過ぎない。

 

あるものには岩すら砕く強靭な牙が、あるものには槍を通さぬ堅牢な体毛が、あるものには鉄にも負けぬ重厚な鱗があり、いずれも死など恐れていないからだ。

 

それと同時に、空にも数こそ少ないが空を飛べる彼らの同胞が空を飛行しており、空からの急襲は弓矢程度の反撃手段しか持たぬ人間からすれば、それだけで脅威となる。

 

――もっとも、それはこの世界の、この時代の武器と人物しかいない場合の話だが。

 

「チッ。やっと増援が途絶えた。あと空の敵は700……798!? まずい、まだ3割も削っていないというのか……!? マスター、魔力は大丈夫か!?」

 

連合と獣の軍の混成軍のいるところから少し離れたところ。

 

赤い弓兵は新たに魔力で矢を生み出し、黒い洋弓に番えながら問いかけた。

 

「だい……大丈夫」

 

完全に肩で息をする劉玄徳。

 

「……ッ!!」

 

魔力が切れ掛かっているマスターを見て顔を歪めるアーチャー。

 

魔力が足りない。

 

しかし肝心の魔力補給源であるマスターは魔力切れを起こしている。

 

ならば魂食いか、あるいは――。

 

「マスター、なりふり構ってる暇は無い。令呪を使ってくれ。『アーチャー、敵を全て打ち落とせ』と!!」

 

自分と出会うまで魔術のまの字も知らなかった彼女に令呪が使えるか分からない。

 

土壇場の一か八かに賭けるしかなかった。

 

「令呪をもってアーチャーに命じます。アーチャー、空にいる化け物を全て打ち落として!!」

 

それとともにマスターの手の甲にあった令呪の一画がきらめいたかと思うと消えた。

 

それと同時に私の中に魔力があふれかえり、同時に意識を集中させた。

 

――― 体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

一射では間に合わない。

 

血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood.)

 

ならばそれを超える数を同時に

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades.)

 

より早く、より正確に放つ

 

ただの一度も敗走はなく(Unknown to Death.)

 

イメージするものは常に最強の自分だ。

 

ただの一度も理解されない(Nor known to Life.)

 

己の限界を超えろ。

 

彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う(Have withstood pain to create many weapons.)

 

今の私は下っ端の掃除屋ではなく。

 

故に、その生涯に意味はなく(Yet, those hands will never hold anything.)

 

劉玄徳の使い魔(サーヴァント)

 

その体は、きっと剣で出来ていた(So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.)

 

ならば主の期待に、こたえねばなるまい――!!

 

私の番えている矢は、3本。

 

発射と同時に、その3本は閃光となってそれぞれが空を飛ぶ群れのいずれかに突き刺さる。

 

そして、その刺さった化外の体から、剣が生え、その肉体ごと剣が弾けとんだ。

 

その生えた剣を喰らって浮力を生み出す翼に穴が開いて墜落するもの、目などに当たって墜落するものなどが出たおかげで、空にいる敵がより減っていた。

 

そしてその剣が爆発することにより、先ほどの単純な壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)よりも大きな損害を与えることが出来た。

 

「……」

 

固有結界を相手の体内へ潜り込ませ、相手の体内で暴走させる。

 

固有結界の暴走にも類似するこの方法を人間相手に遣うことにならないことを祈りながら、私は狙撃を続けていると。

 

「助力します」

 

「我も手伝おうぞ」

 

「私(オレ)たちも手助けします」

 

南雲結衣と呼ばれていた少女と見慣れぬ褐色の肌と白い髪の女性、そして赤いジャケットとジーンズを着こなす青年とピンク色の髪と装飾がやや多いことが印象的な少女がやってきた。

 

「もはやなりふり構いません。二人はアレもって来ましたね?」

 

「はい!!」

 

「準備は大丈夫です」

 

結衣の言葉に青年と少女はバックからなにやら怪しげな本を出した。

 

「さーて、将臣のロマン技を見せてやろう」

 

女性は札を数枚ずつ上に放り投げると、どういう魔術かそれが丸まって水晶玉に変わり、宙に浮かぶ。

 

「時代考証なんて今は溝に捨てます。即席のバリスタに大砲、投石をありったけ出しますよ」

 

結衣がそういって地面に両手をつけると周囲の地面が盛り上がってバリスタや大砲、投石平気を形作られ、次々と攻撃を始めた。

 

「お主手を止めるでない。我の主の大砲やバリスタははおぬしの弓ほど命中精度も射程距離もない。数だけじゃ。我の武器は射程こそあるが威力はお主にぜんぜん劣る。あの2人の武器は射程距離、威力こそ馬鹿げているが、使えて2発ずつ。故にお主が主力じゃぞ」

 

女性に窘められて私はあわてて矢を再び放つ。

 

「いくぞ、ファンネル七重奏(セプテット)

 

七つの水晶玉がそれぞれ光線のようなものを放ち、的確に敵のいる方向を狙って攻撃している。

 

「……いける!!」

 

私はそういったころ、混成軍と化外の軍勢が衝突し始めた……。

 

 

 

 

 

――*――*――*――

 

 

 

 

「……本当に見るもおぞましい化け物だ」

 

「こ、怖い……」

 

怯える連合軍とは対照的に、毅然と佇むラインハルトの兵士たち。

 

「貴方たちに問いましょう!! 貴方たちが最も恐れることは!!」

 

彼らの前で、さながら神話の戦乙女(ヴァルキュリア)のような身なりの寧が騎乗槍(ランス)を掲げて問いかける。

 

「「「敗北にあらず、死にあらず!! 敗北し、死に、守るべきものが蹂躙されることなり!!」」」

 

兵士たちは決死の覚悟をその目に宿し、大地を振るわせんとばかりに答える。

 

「死は怖いか!!」

 

寧はさらに問いを重ねる。

 

「然り!! されど逃げて悔やむほうがよほど怖い!!」

 

「守るべきものを守れず生き残ってしまうことのほうが怖い!!」

 

「恐怖に負けて何も出来ずに死ぬのが怖い!!」

 

彼らは目前に迫る化外をさながら親の敵のようににらみ、そう叫ぶ。

 

「例え友が屍を曝そうと、敵を倒す手を止めるな!! 悲しむのは終わった後にしろ!! 今は敵を全て倒すことだけ考えるのだ!!」

 

「「「応!!」」」

 

「全軍、突撃!!」

 

寧の言葉で兵士たちが突撃する。

 

その先陣を切るのは、寧を含めた4人。

 

「化外風情が、私をとめられると思うな!!」

 

鬼気あふれる華雄の一撃で数体纏めて吹き飛ばし、

 

「マキナより鈍い相手になんかに負けへんわ!!」

 

神速と名高き張遼は的確に急所を薙ぎ、

 

「……邪魔」

 

呂布はさながら落ち葉を払うように敵を薙ぎ払う。

 

例え化外だろうが、彼女らにとっては所詮黒円卓の戦闘員に比べてはるかに弱い雑魚に過ぎない。

 

しかもどれも単純な攻撃行動しか出来ないので、避けるのもたやすい。

 

「呂奉先様に続け!!」

 

「華雄様に続くのだ!!」

 

「張遼様に遅れるな!!」

 

兵士たちが各々を鼓舞するように叫びながら突撃する。

 

「われらも向こうに遅れるな!!」

 

「あれらに出来て、我らにできぬことはない!! 我らも続くのだ!!」

 

「「「「応!!」」」」

 

曹孟徳の兵も彼らを見て自身を奮い立たせ、曹孟徳の右腕である猛将に続いた。

 

「我らも遅れるな!!」

 

「あの毛外どもの体にに我ら孫家の恐ろしさを刻み込ませるのだ!!」

 

「「「「応!!」」」」

 

太史子義と、孫伯符の鼓舞と、その後姿に負けじと兵士たちも敵へと挑む。

 

「畏れることはあるでしょう。しかし抗わねば待っているのは死だけです。座して死ぬより、抗って生きる可能性をつかむのです。――私の後に続きなさい!!」

 

「「「応!」」」

 

鎧に身を包んだ司馬軌は、その騎乗槍(ランス)を掲げると、驚くべき速さで化外の軍勢に突撃し、目にも留まらぬ突きで化外たちを撃破し始める。

 

汝南、華北両袁家の兵士たちもそれに続いて決死の形相で剣を振るう。

 

「総員奮い立て!!」

 

「全力を尽くして倒すのだ!!」

 

「全てはこの一戦にあり!!」

 

関雲長、張翼徳、趙子龍の鼓舞とともに、

 

「「全軍、突撃!!」」

 

公孫伯珪、劉玄徳の鬨の声に兵士たちは突撃した……。

 

 

 

 

 

――*――*――*――

 

 

 

 

 

 

「……feuer(フォイヤー)!!」

 

私は紫煙をくゆらせながら、ドーラの列車砲で、パンツァーファウストで、飛翔して新たに西へ向かおうとする化外共を撃墜する。

 

我々は途中でハイドリヒ卿と一度合流したが、

 

「アレは私が倒す。卿らは雑魚がこれ以上混成軍に流れないように増援を潰しておいてくれ」

 

との命令をいただいたので、私は馬鹿娘と共に混成軍より東30里ほどのところで東から来る敵を迎撃していた。

 

「少佐!! こっちも手伝ってくださいよ!!」

 

なにやら崖の下から馬鹿娘の文句が聞こえるが、火器でも欲しいのだろう。

 

ピンを抜いた手榴弾を落としておく。

 

「えっ、ちょっとこれ起爆――」

 

何か声と爆発音が聞こえた気がするが無視だ。

 

「……!」

 

一息つきながら崖の下を見ると、砕けた岩に埋もれ、手だけ出ている馬鹿娘とその横を通り過ぎる化外の群れが目に入った。

 

「馬鹿娘、寝てるな!!」

 

私はそういったあと、通り過ぎた化外を砲撃し、もう一度手榴弾を放った。

 

爆破音のあと、不満そうな声が返ってきた。

 

「少佐がいきなり爆発寸前の手榴弾なんて渡すからです!!」

 

―どうやらカインと引き離されたことに不満がたまっているらしく、いつもなら不満そうに「はいはい。すみませんでしたー」と言う返事ではなかった。

 

「……男に現を抜かすとは、情けない」

 

私はとりあえず腑抜けた馬鹿娘にパンツァーファウストを3,4発ぶつけることにした……。

 

 

 

 

 

――*――*――*――

 

 

 

 

 

――AGaaaaaaaa!!

 

地面を揺らすほどの轟音で吼える巨大な生物。

 

それはさながら霊峰のような存在感と荘厳さを兼ね備えた龍といえばよいだろうか。

 

それの雄たけびと共に周囲に魔法陣のようなものが浮かび上がり、化け物が現れる。

 

「ふむ、ハンターがいるなら嬉々として狩りにきそうな姿だな」

 

私がのんきにそんなことを言っていると、向こうはこちらに気がついた。

 

『でたな。人類を新たな段階に導く力を持ちながら、徒に争いを招く邪神』

 

「……悪魔のような男と呼ばれたことはあるが、邪神と呼ばれるのは初めてだな」

 

ふと過去を思い出しながら、私は素直な感想を述べた。

 

『……ひとつ聞こう。何故貴様は人類を飢え、貧困、格差、病、死から救う術と奇跡を持ちながら、それをしようとしない』

 

「……」

 

『それだけの力を持ちながら、自分の周りのごく一部にしか、その恩恵を与えることをしない。それが私には理解できない』

 

彼の言葉に私は目を細めた。

 

「いい機会だ。卿に言っておこう」

 

『……?』

 

「ただ座して待っているだけの者に、現実に抗うことを諦めて現状に満足してしまっている者に奇跡など起こらない。そして人の生が悠久ではなく限りあるからこそ、その生は儚く、尊く輝くのだ」

 

私は口元を吊り上げ手続けた。

 

「それと人類を舐めるな。例えどれほどの苦難が訪れようと、人はそれを乗り越える力を持っている。人ならざるものがそれに必要以上の力を貸すのは無粋だ」

 

『……!?』

 

驚く彼に私は続ける。

 

「それに人は既に神との決別を果たし、人の未来は人が切り開く時代となった。人であることをやめた者たち(われわれ)がそのあり方を否定するのは、人に対する侮辱だ。まして卿が人類を管理するなどもってのほかだ」

 

『確かに人の生ははかなく尊いものであり、人の未来は人が切り開く時代なのは否定しない。だがどれだけ抗おうとどうにも出来ぬことがあり、理不尽な格差によってどれだけの弱者が踏み躙られ、ごく一握りの強者の糧にされているか知らぬとは言わせんぞ!!』

 

「ああ。いつの世も弱者と強者がおり、どちらにもどうしようもなり理不尽が気まぐれに襲い掛かる。弱者は強者に蹂躙され、搾取され、時には奴隷のように使役され、たとえどれだけの富や権力を持っていようと死という滅びは免れられぬ。確かに卿が管理すればそのような惨劇はきっと無くなるだろう。だが――」

 

私は手の中に聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)を顕現させる。。

 

「それでは家畜となんら変わりは無い。それが卿の人類補完計画であり、どれほどそこが理想郷であったとしても、そこに生きるのは、人間とは思えん。黄昏の理に抱かれたものとして、そのような世界を認めるわけにはいかない。実に残念だが、卿には滅びてもらう」

 

『貴様こそ滅びよ。全てを破壊する黄金の獣!!』

 

彼はそういうと、再び大地を揺らす咆哮をあげた。

 

 

 

 

 

――*――*――*――

 

 

 

 

 

「あと少しだ!!」

 

「総員、奮起せよ!!」

 

連合・ラインハルト混成軍と化外の群れの戦いは、ひとまず終結を見せようとしていた。

 

「これで――終わりだ!!」

 

最後の一体を一刀両断した曹孟徳の猛将を見た一同は、緊張の糸が切れたのか、ばたばたと倒れ、へたり込んだ。

 

しかし、まだ戦いは終わっていない。

 

「う、嘘だろ……!?」

 

兵士の一人が何かを見つけたように、東の空を指差した。

 

そこにはまだはるか遠いが、黒い点が見えた。

 

しかもそれがすごい勢いで近づいてくることを裏付けるようにどんどん大きくなっていく。

 

それはさながら山のような龍と形容すればいいのだろうか。

 

黒い巨体に先ほどまで空を飛んでいた化外たちと同じ羽を生やした何かがこちらにある程度近づいたあと、減速して混成軍の2里ほど前に降り立つ。

 

『馬鹿め、貴様の目的はこやつらが死ねば頓挫するが、私の目的は貴様が一番に死ななければならないわけではない!!』

 

そういう声が響くと同時にその龍の口に炎のようなものが現れた。

 

『あの男の目的と共に滅びろ!!』

 

「させるか、バーカ!!」

 

寧が全軍の前に駆け出して自身の体を覆い隠すほどの盾を掲げる。

 

「顕現せよ今は失われし金色の宮殿(ロード・グラズヘイム)

 

彼女の言葉に光り輝く壁が彼女の前面と連合軍を守るように展開され、同時に龍の炎が直撃した。

 

「隊長!! 早く来てください!!」

 

そう寧が叫んだ瞬間、どこからか声がした。

 

「卿の相手はこっちだ。私をおいて逃げるとはいい度胸だな!!」

 

それと共に、龍の顔の側面に金色の光が直撃し、龍の顔が明後日の方向へ向く。

 

『馬鹿な、もう追いついたと言うのか!?』

 

驚きを隠せぬ龍は光が来た先を見る。

 

そこには黄金の獣が悠然と佇んでいた。

 

「隊長!! そんな蜥蜴野郎ぶっ倒しちゃってください!!」

 

擬似宝具を解除した寧がうれしそうに光が来たほうを向いて大きな声で叫ぶ。

 

ラインハルトは桁違いの聴力で聞き取りながら、口元を吊り上げて山のような龍を見上げて告げた。

 

「残念だが、卿はもはや終わりだ。諦めて死を受け入れるといい」

 

『認めない、貴様など!!』

 

再び龍の口から炎が放たれ、今度は黄金の獣を襲う。

 

しかし――。

 

「無駄だ。今の私にその程度の攻撃が効かん」

 

炎が消えてもなお、その炎の直撃した場所は燃え、地面は赤い液体となっているにも拘らず、彼の男は悠然と佇んで龍を見上げていた。

 

『この、化け物が!!』

 

「化け物で構わん。あいにく、呼ばれなれているのでな」

 

『潰れよ!!』

 

龍がその大きな手を黄金の獣が佇む場所に振り下ろした。

 

その衝撃は地鳴りとなって2里離れた混成軍まで響く。

 

しかし、龍は困惑する。

 

『馬鹿な……何故潰れん』

 

なぜなら手のひらは地面に触れていなかった。

 

地面は獣がいたところを中心に蜘蛛の巣状に亀裂が入っていたが。

 

獣は龍の手のひらを片手で受け止めていたのだから。

 

「質の違いだ」

 

龍の手の下から聞こえた声に驚き反応する前に振り下ろした手が何かに持ち上げられた。

 

「では、幕引きをしよう」

 

ラインハルトは口元を吊り上げて詠唱を始める。

 

――我は終焉を望む者。死の極点を目指すもの

 

彼の体から漏れ出る黄金の輝き。

 

――唯一無二の終わりこそを求めるゆえに、鋼の求道に曇りなし。幕引きの鉄拳

 

それは色を変え、黒く染まる。

 

――砕け散るがいい――

 

その渇望は至高の終焉を望む男の渇望。

 

――人世界・終焉変生(Miðgarðr Völsunga Saga)

 

黄金の獣は人であることを辞めた存在を見据えて告げた。

 

「Auf Wiedersehen falsch Kaiser」

 

黄金の獣は常人を卓越した身体能力をもって一瞬で龍に肉薄し、次の瞬間には龍の背後でゆっくりと地面に降りていた。

 

それから数秒送れて龍の首から上がゆっくりとずれて地面に落ち、体もそれにつられて倒れた。

 

「……呆気なかったな」

 

砂のように体が崩れていく劉焉の巨大な亡骸を一瞥する黄金の獣。

 

そのあと悠然と混成軍のほうへと歩き、表情が確認できるほどの距離まで彼が近づくと……。

 

「ば、化け物……!!」

 

「く、来るな……!!」

 

「わああああああ!!!」

 

連合軍の兵は恐慌状態に陥り、我先にと逃げ出し始めた。

 

「……本当に御伽噺の英雄もびっくりよね」

 

「そうね」

 

「うわー、本当に私たちと手合わせしたとき手を抜いてたんだね。流石に私でもあのライニ相手だと一合も受けられずに死んじゃう」

 

孫伯符、周公謹、太史子義が目を丸くしながら感想を述べた。

 

「……ふふっ」

 

「か、華琳様?」

 

「どこかお体の具合が?」

 

曹孟徳の様子に彼女の部下たちが心配するが……。

 

「彼が欲しいわね。その比類なき武威も、何十手先も平然と見通すその眼も、とても気に入ったわ!!」

 

「「「「!?」」」」

 

あの怪物(バケモノ)を欲した主の発言に正気を疑う部下たち。

 

「……」

 

さながら神代の出来事が目の前で起きたことに信じられず、劉弁は呆然としている。

 

「……麗羽様?」

 

「ひ、姫?」

 

「麗羽様、何故そのような悲しそうな顔をしているんですか?」

 

華北袁家のトリオはラインハルトのいるほうを見ながら首をかしげた。

 

「……ラインハルト様がとても悲しそうに見えますの。昔の私を見てるような、そんな気がして……」

 

「(なあ、斗詩。これどうすれば良い?)」

 

「(私に聞かれても。……真直さんお願いします)」

 

「(えっ、私に振られてもどうすれば良いか分からないって!!)」

 

主の言葉に頭を抱える3人。

 

「あの男の本質は万象への慈愛。ですが、力を持ちすぎるが故に全てを壊してしまう。だからこそ、力を封じ、遠くから眺めるだけで良しとした。彼が心の赴くままに愛でるには世界はあまりにも脆いから。その力は人を恐れさせるから。実に悲しいことです。願わくば、彼に救いがあらんことを……」

 

そしてその傍で逃げる兵士を横目に、黄金の獣の幸を願う司馬軌。

 

「すごいのじゃ、あんな大きな龍を倒すとは、これは妾の夫にふさわしいはずじゃ」

 

「えっ、お嬢様それ正気で言ってます!?」

 

袁公路の恐れ知らずな発言に張勲が目を丸くして問いかける。

 

「……とんでもない義理の兄が出来たわね」

 

司馬家の5番目の妹の言葉に6番目の妹が頷く。

 

「……帰ったら荷物纏めたほうがよくない? あの人の身内に姉さんたちがいること知ったら、何が起こるかわからないし」

 

「あとで桜花にも相談しましょう?」

 

司馬恵達の双子の妹が思い出したように提案する。

 

「それもそうね」

 

司馬家の3人は、とりあえず今の主の下に向かうことにした……。

 

「……あんな大きな龍を一撃で……」

 

「私たちの作ったアイテムでも、あそこまですごいこと出来ないよね……?」

 

仲睦まじい錬金術師たちは驚きを隠せない様子。

 

「……これで本気ではないのか?」

 

「ええ。その気になれば世界単位で滅ぼせますし」

 

赤き弓兵の言葉に結衣はため息をつく。

 

「まあ、あやつは基本大人しいぞ。ただ、あやつの逆鱗に触れたり尻尾踏むと今の劉焉と同じ末路を辿る可能性が高いわけじゃが」

 

「……」

 

ねりこはため息つきながら獣の弁護をし、劉玄徳は何か思うところがあったのか、思考の海に身をゆだねていた。

 

「……マスター。悪いけど聖杯戦争勝ちのこる自信ない」

 

「大丈夫だ、ライダー。私はラインハルトを見たときから勝てる気がしなかったから」

 

ライダーの言葉に公孫伯珪は真顔で答えた。

 

「あのおにいちゃん、本当に強いのだ」

 

「ああ。そうだな」

 

「比類なき武威といっただけあるな。いつかあの境地にたどり着きたいものだ」

 

張翼徳の言葉に関雲長は頷き、趙子龍は畏敬の様子でラインハルトを見ていた。

 

「「……」」

 

無性に実家帰りがしたくなった司馬家の末っ子と、たいした活躍も無く終わってしまった公孫越の2人は、なぜか沈黙している。

 

「「「「……」」」」

 

死地を乗り越えたことに放心する諸侯たち。

 

一方、ラインハルトは自身の軍の前まで来ると、寧がはっとして号令をかける。

 

「一同、整列!!」

 

将兵一同が整列したところにラインハルトが口を開いた。

 

「卿らの検討により、劉焉は倒れた。その健闘を言祝ごう。例え私が去ろうと、卿らならば卿らの守りたいものを守れると信じている。では、私からの最後の命令だ。ここから洛陽まで連隊長を核とした連隊ごとに行動。虎牢関を開放し、洛陽に帰参せよ。以上だ」

 

不思議と全体に響いた声に、兵士たちは動揺するが

 

「散会!!」

 

主の言葉が終わったことを確認した寧の言葉によって解散させられた。

 

「……さて、予定がかなり狂ってしまったな」

 

「シュピーネさんに情報操作のほうはまる投げするとして、一足先に洛陽に戻ってもらった司馬建公さんに連絡も入れないといけませんね」

 

寧がラインハルトに対してそういうと、恋たちが駆け寄ってきた。

 

「なかなか大変だったが、一匹一匹はそこまでたいしたことではなかったぞ」

 

「ライニ怪我はないんか?」

 

「……おなかすいた」

 

「華雄、卿の今の実力なら当然だろう。霞、私は特に怪我などないぞ。恋、あとでご飯を用意するからもう少し我慢してくれ。では、虎牢関によった後に洛陽に帰るぞ」

 

ラインハルトは3人に対して返事をした後、指を鳴らした。

 

すると彼らの姿は音も無く消えた……。

 

 




いかがだっただろうか。

感想、評価、誤字脱字報告をお待ちしているよ。

……何?

一方的な蹂躙だったって?

いや、よく考えて欲しい。

形成位階(弱体化状態)でサーヴァントとやりあえていた時点でなんとなく結果は分かっていたと思うが……?

それはさておき……。

では、また次の幕にてお会いしましょう……。
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