実にお久しぶりだ。
色々ショックなことが立て続けに起こってメンタルが大変な状態だったが何とか復帰した。
私の身の回りの話はさておき……。
今回のインターミッションは少し趣向を凝らし、ある数名の視点で同じ一日を過ごすということを何回か行うする形式をとろうと思う。
ただ、思ったより長くなったので華琳編は2回あるのでそこらへんよろしく。
△△日常 ○○の□□という感じのタイトルでつけていく予定(あくまで予定)だ。
あと華琳のキャラが若干迷子な気がするが、気にしたら負けだろう。
さて、話はコレくらいにして、本編へと入ろう。
――では、今宵も私の歌劇をご覧あれ――!!
何気ない日常 天の御使いと覇王の慢心
黄金の獣の枷が外れた翌日。
街はいつにも増して賑わいを見せていた。
理由は簡単。
――新たな皇帝が即位したから。
……と言うのもあるが、それに便乗してお祭り騒ぎしたい洛陽の民が、勝手にお祭り騒ぎを始めたからである。
名目は『新たな皇帝の誕生を祝して』。
名目としては実に単純だが、無碍にすれば宮城の皇帝に対する態度や皇帝の威光が疑われる。
それゆえに軽んじることはできず、皇帝や三公はそれを黙認することになった。
もっとも、それによる民からの陳情などが文官たちへのしわ寄せとして現れるのだが、それは是非もないことだろう。
ちなみに、この一件にラインハルトたちはほとんど関わっていない。
――*――*――
「申し訳ありませんが、旦那様は現在、別の方とお話されています。そのため、お待ちしていただくことになると思いますが、よろしいでしょうか?」
先日とは違うメイドさんがラインハルトさんの屋敷本館の前で、俺たちにそう告げた。
今日はオレ、華琳、桂花、秋蘭、流琉という組み合わせで屋敷に来ていた。
他のメンバー?
洛陽の練兵場が週1の一般解放されているらしく、ちょうど今日だったため、鍛錬のために春蘭、季衣、華侖、香風、凪たち武人組は練兵場に。
お祭り騒ぎも楽しそうだが、それはしばらく続くみたいなので、今日を逃すと来週までない練兵場を選んだそうだ。
秋蘭と流琉は事前に今日の話を聞いていたため、護衛に回ってくれている。
風、稟、柳琳、栄華は華琳が洛陽の政務を滞りなく引き継げるように宮城に行っている。
ついでに有望な新人が荊州あたりからやってきているのでついでにスカウトもしてくるらしい。
本当ならば桂花もそっちの予定だったが、華琳が同行を命じたから同行している。
あと、沙和はメイドさんから街で一番人気の服屋を紹介されたため見に行ってるし、真桜はラインハルトさんが設立、運営している研究所というなにやら怪しげな施設に訪問してるらしい。
……真桜、無事に戻ってこれるよな?
ふと不安になっていると、声がした。
「……差し支えなければ、その相手を教えてくれる?」
はっとして華琳を見ると、華琳が目を細めてメイドに問いかけていた。
「……今は袁本初様とその家臣の方々です。その前に来た二方とそのお連れ様よりも長い時間お話なさっています」
そう答えたあと、メイドさんはああ、と付け足すように続けた。
「そういえば袁本初様が今日いらっしゃると聞いたとき、旦那様は珍しくうれしそうな様子でしたね。それに今日の料理担当にご自身とその客人の分は自分でこしらえるから、指定した食材の準備と一部下ごしらえだけお願いしてたので、そうとう気に入ってるのかな……?」
「……へぇ」
心なしかご機嫌斜めになっている華琳は短い感想を述べるだけだった。
「……そういえば、曹孟徳様は、事前にこちらに来ることを連絡したのでしょうか?」
ふと思い出すようにメイドさんが問いかけてきた。
「……一応は。でも昨日この時間といわれたのに、今日になって唐突にそれを無かったことにしてもらいたいって言われたから、その理由を問い質しに直接来ることにしたのよ」
華琳の言葉に、色々初耳な情報が入っていたが、それを聞くことは出来なかった。
「……あ~。そういうことですか」
メイドさんが何か腑に落ちたと言いたげなリアクションを取ったからだ。
「1人で納得してないで私たちに分かるように説明しなさいよ!!」
桂花が不満げにそう叫ぶ。
「あの~、つかぬ事をお伺いしますが、メイド長と閨を共にしませんでした?」
メイドさんが少しだけ申し訳なさそうに俺を見ながら問いかけた。
そうすると、桂花、秋蘭、流琉が揃ってこちらを見る。
疑いというか、軽蔑の目線で。
「何でさっ!?」
俺が絶対零度に等しい目線を向けられている中、華琳が何かを思い出したようにメイドさんに問いかける。
「……その、めいど……長……って孫公祐のことかしら?」
「はい。その方こそ旦那様が寵愛し、同時に旦那様に生涯を捧げると公言し、さらに旦那様の胃痛の原因の一つとなっている方です。もう少しあの度が過ぎる被虐願望さえどうにかすれば、旦那様の胃痛がかなり和らぐと思うのですが……」
ため息付きながら半分愚痴を零すメイドさん。
「……華琳様、どうしました?」
秋蘭の言葉に華琳がビクッと肩を動かした。
「べ、別になんでもないわよ?」
目に見える華琳の動揺ぶりに、俺たちはいろいろな情報などからピンと来た。
「……華琳。あの人に手を出したのか……」
「部屋の机に置いてあった注意事項の紙、見てなかったんですか?」
「……」
「か、華琳様。嘘ですよね? そこの万年発情男が手を出したんですよね、そうだと言って下さい、華琳様!!」
俺は困惑しながらも、至った結論を語り、流琉は俺と同様のリアクションをとりながら、確認の質問を投げかける。
秋蘭は弁護したそうだが、良識と華琳への思いの間で板ばさみになり、桂花は現実を見たくないといわんばかりに俺を悪人に仕立て上げようとしている。
「……彼からは、何か伝言あるのかしら?」
華琳は、深呼吸したあと、メイドに問いかけた。
「『卿の失敗は、その屋敷とメイドが自分の管理下にないことを忘れていたこと、彼女が素直すぎたことに違和感を感じなかったこと、そして確認を怠り、罠かも知れぬ甘言に乗ってしまったことだ。あと万一刺客ならば卿は既に死んでいるぞ。きりきり反省するべきだ。後日、出直してくるといい』……だそうです」
「……」
珍しく肩を落とす華琳。
しかしメイドは無慈悲にも追撃の手を止めない。
「旦那様も『彼女なら、どこかで気がついて止めるはずだ。……止めてもらわぬと彼女の評価を見直さねばならぬのだが……』と一昨日の夜に酒を飲みながら、メイド長とお話していましたし、今朝方の報告を聞いて、本当に動揺しておられました。『これでは卿を含めた私の花たちを勝手に摘み取って愛でかねん。……仕官の話は、最悪なかったことにするか……?』と賈文和様と相談していましたから、場合によっては……」
「きょ、今日のところはコレで失礼します!!」
俺はメイドさんの会話をぶっちぎる様に割り込みをかけると、華琳を横抱きにしてそのまま屋敷の門へ向かって走り出した。
「えっ、ちょっと、一刀!? 一体どうしたの!?」
急な俺の行動に動揺する華琳。
彼女の問いかけを俺は無視して走り続ける。
「あ、おい、北郷!!」
「お兄様!?」
「あんた華琳様連れてどこ行くのよ!!」
背後から聞こえる声もガン無視。
俺はまず、その場を後にすることしか考えていなかった……。
――*――*――*――
「……これでよかったの? 将臣」
ポン、という音と共に、先ほどのメイドが、ロリツインテの少女に変化する。
「ああ。コレで足元をすくわれる可能性が減るだろう。彼女も馬鹿ではない。1の失敗から、10のことを彼女は学べるのだからな」
玄関口の柱の陰から、ラインハルトが姿を見せてそう告げた。
「……彼女の代わりに華琳の相手した私になにか無いのですか?」
結衣の言葉にラインハルトは少し困った顔をした後、答えを出す。
「……二人目?」
「節操の無い男の折檻は貴方だけで手一杯だと、私は学びました」
ため息付きながら結衣はそう告げたあと、続ける。
「貴方が死を望むその日まで、私を傍に置くこと。……もう絶対に逃がしませんからね」
「……卿がそれを望むなら、私は拒む理由はない。だが、良妻賢母の鑑ともいえる卿ならば引く手数多だろうに何故私のところが良いのか理解できん」
ラインハルトの言葉に結衣は珍しく八重歯を見せる。
「……ふん。私は愚妹とは違ってひねくれものですからね。理解できなくて当然です。貴方は大人しく私を傍に置いていれば良いんですよ。良いですね?」
「分かった。だがカールや黒円卓の面々と喧嘩などするなよ?」
「当然。私と愚妹は水銀の蛇が大嫌いですし、向こうも同様なので関係は冷戦同然です。が、協力する必要があるときは息を合わせることくらい出来ますから」
「……? 卿がカールを知っているのは理解できるが、何故カールは卿を知っているのか?」
結衣の言葉から浮かんだ疑問点を指摘すると、彼女は珍しく困惑する。
「ええ、まあ……」
目を明後日の方向に向けながら答える結衣。
このように言うときは、拷問しても口を割らないので言及しても徒労に終わるのがほとんどだ。
「……それはさておき、流石にコレで覇道を諦めるなど万一があったらアレだ。アフターケアをしておいてくれ。あと明後日の午後が空いてるが、どうすると聞いておいてくれ」
「分かりました。先回りして美花に口裏あわせしてもらいましょう……」
結衣はそういってすぐさま姿を消した。
それを見た私は、そのまま屋敷の中に戻った……。
――*――*――*――
しばらく華琳を抱えてやや人が少ない区画を選んで街中走った後、そっと下ろすと彼女は動揺しながら俺に問いかけた。
「一刀、一体どうしたの……?」
「分からない。でもあそこにこれ以上いたら駄目な気がした」
「……」
華琳は困惑しながら俺を見てる。
たぶん、失敗することに慣れていない彼女だからこそ、思わぬ失敗で動揺したのだろう。
「華琳があんなふうに落ち込んでる姿を見てるのが、嫌だったのもある。……自分勝手かもしれないけど」
「私……落ち込んでように見えた?」
「現在進行形で見える」
いつもよりもはかなく見える華琳の様子を見ながら答えた。
「……そう」
「『失敗は人だからしてしまうのは仕方ない。大事なことは同じ失敗を繰り返さないようにすること。取り返しのつくうちに失敗しておけば、取り返しがつかないときにきっと失敗しないから、出来るうちに一杯しておけ』……じいちゃんの受け売りなんだけど、今の華琳に言うべきことはコレなんだと思ったから、言わせてもらった」
俺の言葉を不思議そうに聞く華琳。
「華琳は頭いいし、大抵のことは見たらすぐに出来るようになるから失敗らしい失敗なんてしたこと無いと思う。だから言わせてもらうけど、失敗は恥じゃない。しかも今回の失敗はコレといって失う物はなかった。あとは華琳がこの失敗から何を学ぶかだ。失敗ばっかりの俺が言うのは説得力無いけど」
「……いいえ。そういう意味なら貴方の言葉はとても説得力があるわ」
俺の言葉に華琳が頷いた。
先ほどよりも気持ち元気になったようだ。
「北郷、華琳様をこんな路地裏に連れてきて、一体何をするつもりだった……?」
振り返ると秋蘭、流琉、桂花がこちらを見ていた……。
――*――*――*――
秋蘭たちの誤解を解いた後、屋敷に戻ると孫公祐さんが玄関で待っていた。
「お帰りなさいませ、皆様」
「「「「「……」」」」」
気まずい雰囲気になる俺たち。
「曹孟徳様」
「な、何かしら?」
悪いことをしてばれた悪戯っ子のようなリアクションをする華琳。
「昨日から今朝まで旦那様の下に戻っていましたので、代理を南雲結衣さんにお願いしましたが、何か粗相はございませんでしたか?」
「「「「「えっ?」」」」」
孫公祐さんの言葉に俺たちは疑問符が浮かび上がる。
「……何言ってるの? 貴女昨日も私の身の回りの世話したじゃない」
「申し訳ございませんが、私は旦那様や寧様のような一線を画した方々のように分け身を使えるわけではありませんので、同時に複数個所に存在することは出来ません。それに、私は仕事をしていましたので時間的にも不可能です」
孫公祐さんが少しだけ眉をひそめて華琳の疑問に答えた。
「と、言いますと?」
流琉が恐る恐るといった具合に内容を問いかけた。
「朝は何食わぬ顔で転がり込んできました孫家の末娘様にメイドとしての仕事を叩き込み、昼は司馬家の5番目から末のご息女様方の仕官希望について事前面談を旦那様から命じられて行いましたし、夜は旦那様の湯浴みの世話を自主的にした後、夜伽が不慣れな呂奉先様と呂子明様と共に旦那様の夜伽を朝になるまでしていました。ああ、あと隙間に屋敷にいる皆様の分の朝食、昼食、夕食の準備と屋敷全体の掃除、衣類などの洗濯、ついでにメイド服の修復なども少々こなしました」
「……ずいぶん過密な仕事ぶりだな」
華琳ですら少し困惑しているレベルのスケジュール。
それに対する感想を秋蘭が代表して言うと、孫公祐さんが笑顔で答える。
「一応、見習いの方が何人か残っておりましたし、暇な方にお手伝いいただいたので問題はございませんでした。屋敷に移った当初に比べればこの程度はたいした仕事量ではございませんので」
「「「「「……!!」」」」」
あいた口がふさがらぬというのはまさにこのことを言うのだろう。
途中で我に帰った俺は、問いかけた。
「なら、昨日華琳に従った方は一体……?」
孫公祐さんは、しばらく考えるそぶりを見せた後に答えた。
「……おそらく結衣様ですね。寧様……李幽遠様以上の実力者で、あの赤騎士様が『アレと正面からやりあうとしても、死力を尽くして1刻持てば奇跡』というほどの実力者です。あと旦那様が『何であの姿になってるんだろう。その気になればどんな姿にもなれるのに……』と零していましたので、おそらく私に化けていたのかと……」
「もしかして、あの屋敷の前にいたメイドも……」
桂花がはっとして口にする。
「ピンポーン。大正解」
すっと、玄関の柱の陰から見知った少女が顔を出した。
「彼に頼まれたので、一芝居うちました」
ポン、という音と共に彼女の周りに煙が現れてその中から孫公祐さんそっくりの人が現れる。
「本当は夜の一件も彼女にやってもらう予定でしたが、本当に行為に及んだ場合、少々面倒なことが起きるので私が代理をさせていただきました。まあ、あの人に比べればまだまだ技術が拙いですが、悪くは無いと思いますよ」
声まで瓜二つなことに驚いていると、再びポンという音と共に彼女は元の姿に戻る。
「ということで華琳。コレに懲りたら、手を出す相手を良く考えることです。彼はそのためにわざわざ一芝居売ったのですからね。この失敗を踏まえてなお、足をすくわれたとなれば、今度は冗談抜きであの人貴女に失望するかもしれないので。良いですね?」
「え、ええ……」
華琳は面食らった様子で答える。
「というか、貴女も妖術の類が使えたのね」
桂花が顔をしかめながら問いかけると、結衣さんは鼻で笑った。
「まあ、それとなく何度か使っていましたが、ばれない様にしてましたからね。……ああ、安心してください。この手の力は彼同様に人ならざるものに対してか、必要最低限しか使いませんし、使うとしても人間に対しては直接的な害になるようなことはしませんので」
そういった後、立ち去ろうとして、途中で思い出したようにこちらを振り返る結衣さん。
「あ。『明後日の午後ならば予定は無いのだが、どうするかね?』との伝言を預かっています。何か伝言があるなら、伝言を預かりますが……」
「なら、明後日の午後、そっちに挨拶させてもらうから、よろしく。……そう伝えておいて」
華琳の言葉を聞いた結衣さんは、答える。
「分かりました。あと私から助言を一つ」
「?」
「彼は表立って暴れるより、裏方として、謀略などをしているほうが好きなようです。あと黒円卓の面々のうち、彼への忠誠が厚い方々……特に黒円卓の団員で該当する方からあなた方は栄華さんの一件で嫌われています。なので、今のうちに関係修復に努めると吉です。必ずあなたの得になるでしょう」
結衣さんはそれらを言い切ると、そのまま屋敷から去っていった……。
――*――*――*――
「黒円卓の方々の紹介をして欲しい……ですか?」
昼食を食べた俺たち。
華琳はその直後に孫公祐さんにそうお願いしていた。
あ、ちなみに俺たち5人以外のメンバーはまだ戻ってきていない。
「構いませんが、あの方々の一部は旦那様以外に横柄な態度をとり、旦那様以外の言葉はあまり聞きません。それでもよろしいですか?」
「構わないわ。……出来れば机に座ってまともな話が出来る人から紹介して欲しいけれど」
華琳はラインハルトさんがベイと呼んだ白貌の男や、赤騎士と呼ばれた女性を思い出したようで、顔をしかめながら答える。
「現在洛陽にいらっしゃるのは……。第3位のヴァレリア様、前第5位のベアトリス様、第6位のイザーク様、第10位のシュピーネ様、第11位のリザ様辺りがよろしいかと。いずれも常識のある方々ですから、予定的に問題なく、いきなり攻撃などしなければ普通にお話できる方々です。本来でしたら、7位の黒騎士ことマキナ様、第9位の赤騎士ことザミエル様も推薦できるのですが、マキナ様は本日練兵場で鍛錬なので、邪魔するのはあの方の機嫌を損ねますし、ザミエル様は少々気難しい方な上、曹孟徳様を何故か毛嫌いしていますので、お勧めできません」
俺は孫公祐さんの言葉を聞いて、先ほどの結衣さんの言葉にあった、『彼への忠誠が厚い方々』の1人なのだろうと当たりをつける。
そして俺はふと気になることがあったので、問いかけてみた。
「あの、黒円卓の順位って何か法則があるのですか?」
「そういえば、赤騎士は黒円卓屈指の実力者らしいけど、第9位と聞いたな」
秋蘭が思い出すようなそぶりでつぶやく。
「えっと、あの順位は13位である副首領の方が決めたそうで、たしか星座が関係してるとおっしゃっていました」
「……ということは、強さ順ではないのですね」
孫公祐さんの言葉に複雑そうな表情を浮かべて感想を零す流琉。
「もし格付けをするのでしたら、まず旦那様と副首領のカール・クラフト様が1,2番に並び、赤騎士、黒騎士、白騎士と3人がならび、それから他の戦闘員の方々で、非戦闘員の上にシュピーネ様、そして非戦闘員のイザーク様、リザ様が並び、少々扱いが特殊なヴァレリア様となっています」
「……副首領様が、誰なのか知らないけれど、あの赤騎士より強いわけ?」
桂花が疑わしい目で孫公祐さんに問いかけた。
「はい。旦那様の言葉が正しければ、旦那様でさえ相打ちまで何とか持ち込むのが限界で、他の騎士団の方々では奇跡が起きてもかすり傷負わせるのがせいぜいだと」
「……あの男より強いやつなんて、想像できないのだが……」
困惑しながら言葉を零す秋蘭。
大地を溶かした炎の中で平然と佇むかの黄金の獣を思い出す俺たち。
「しかし、その方は基本旦那様とひどくご執心である女性を除けば余り人に興味を持たない方で、俗世もどうでもいいと公言されています。……最も、現在は西の蛮族撃退に他の黒円卓の方数名と8万ほどの軍勢を率いる姜伯約様と共に出撃していますので、今はお会いすることは出来ませんが」
「今から、黒円卓の関係者と顔つなぎしておきたいのだけれど、貴女なら出来るかしら?」
華琳は人材蒐集家の顔つきで問いかけた。
「……申し訳ございませんが、本日は黒円卓の方で予定を存じ上げているのはマキナ様と旦那様だけですので他の方がどこにいらっしゃるか存じ上げません。旦那様は多忙でマキナ様は先ほど述べましたように鍛錬の日なのでお勧めできません。それよりも、本日は街のお祭りを楽しむことを私は強くお勧めいたします。旦那様が過労で3回ほど倒れてまで齎した洛陽とその民が行うお祭り。ぜひとも見て頂けたらと思います」
「か、過労で3回倒れたの……?」
桂花が驚きの表情で問いかけた。
「信じるかどうかは、皆様にお任せします。……あ、申し訳ございませんが、他の屋敷のメイドたちの現状確認のために他の屋敷の班長が来ていますのでこれで失礼します……」
孫公祐さんはそう告げると、その場を後にした……。
「さてと、私たちもお祭りを楽しみましょうか。彼に誘いを断られたし、結衣の助言も今は有効に使えないでしょうから」
あの人の屋敷を出る前の様子が嘘のような、晴れやかな表情の華琳に俺は首をかしげた。
「あれ、ラインハルトさんの掌で踊らされて落ち込んでると思ったけど……」
「まあ、否定はしないわ。……けれど落ち込んでなんかいられないわ。こんなことでいちいちくよくよするのは性に合わないし、何より彼は私に期待してると思うの。でも無ければこんな気を引き締め直させる茶番なんてしないでしょう?」
「……そうだな」
俺は華琳の言葉に素直に頷く。
「それに……」
「それに?」
華琳の言葉と表情に俺は首をかしげてオウム返しをした。
「お祭りなら他の諸侯の家臣や元董卓軍の将や文官も街中に出てくると思うわ。有能な人材確保の機会を逃す手は無いでしょ?」
「……ぶれないな、華琳は」
俺は困惑しながら、感想を零した。
そうしている間に華琳はすぐさま食堂から廊下に繋がる扉に手をかけた。
「何をしているの、一刀。貴方もついてこないと駄目でしょ」
振り返り、不敵な笑みを浮かべる彼女の言葉に俺は思わずドキッとしてしまう。
「何してるのよ、この節操なしの変態色魔!! 華琳様の言うことが聞けないって言うの!?」
いつもどおり桂花は俺に罵声を浴びせ
「北郷。華琳様の姿に見惚れるのは分かる。だがいつまでもボーっとしていては駄目だぞ」
秋蘭は少し呆れ気味に俺をたしなめ
「兄様、早く行きましょう!!」
流琉が俺の手を引く。
俺はふと、昨日の夜に俺の部屋で見つけた屋敷の主からの手紙の一文を思い出す。
『束の間の平穏を、悔いなく過ごすことを切に祈る』
いつかは破綻する平穏。
それ訪れるまでに俺が出来ることは何なのだろうか。
そんな疑問が胸の中に生まれるのを感じながら、華琳たちと共に街へと繰り出した……。
いかがだっただろうか。
感想、評価、誤字脱字報告をお待ちしているよ。
今回の内容を予想できた人間は、果たして何人いただろうか……?
(それとなく伏線を張っておいたが、気がついた人はいるのだろうか?)
さて、次は同じ日の午後、お祭り騒ぎの街にて、彼らが遭遇する相手とは一体誰だろうか。
楽しみにしてくれると私としてもうれしい。
私の独り言はこのくらいにして……。
では、また次の幕にてお会いしましょう……。