さて、話はコレくらいにして、本編へと入ろう。
――では、今宵も私の歌劇をご覧あれ――!!
街へ繰り出した俺たちは、丁度どこからか戻ってきた俺についているメイドさんに案内を依頼した。
「それは構いませんが、どちらの繁華街がよろしいでしょうか? それとも、商業地区でお買い物でしょうか」
小首を傾げながら問いかけるメイドさん。
「……どういうことなの?」
首を傾げる華琳。
俺たちも首を傾げる。
その姿にハッとしたのか、メイドさんが少し慌てて説明する。
「も、申し訳ございません。洛陽の区画や種別などをご存知と勘違いしていました」
「別に怒っていないから、教えてちょうだい」
慌てるメイドさんに少しだけ眉を下げながら、華琳は話を続けさせた。
「は、はい。……現在洛陽は40ほどの地区に分かれており、商業地区、居住地区、行政区、繁華街、工業区、風致地区などがございます。そして、行政区を除いた全ての区画が複数存在します。お祭りは基本、繁華街と商業地区で行われており、繁華街では食事や催し物、商業地区では限定品などの販売などが行われています。また、繁華街ごとにも特色などがございますので……」
「なるほど。だからどこにするか聞いたのだな?」
秋蘭が結論を告げると、メイドさんは静かに頷いた。
「……貴方がお勧めのところはあるかしら?」
華琳は考えるそぶりを見せた後に問いかけた。
「それはもちろん、旦那様が直々に料理を叩き込んだ李幽遠様が暇なときに開いている『まほろば楼』がある第6繁華街です。買い物でしたら第37商業区画でしょうか。商品の種類という意味では一番豊富です」
「なら、近いほうから行きたいわ。案内よろしくね」
「承知いたしました」
完全で瀟洒な従者は優雅に一礼をした後、俺たちを先導した……。
――*――*――*――
1刻ほど歩いただろうか。
他の店よりも格段に大きな店の前まで俺たちは案内された。
「ここが、第6繁華街です。そして、こちらに見えるお店が、彼の霊帝様も認めた旦那様の料理と同じ物が味わえる名店、まほろば楼です」
心なしか自慢げなメイドさん。
「ここが……。へえ、ずいぶんと人気ね」
華琳が店の入り口から出来ている長い行列を見ながらそうつぶやいた。
「他の店よりも確実に高いですが、庶民でも少し節制すれば基本的な料理を堪能できる価格設定がされており、どの料理も完成度が相当な物ですから当然かと。ああ、あとなかなか品数なため、どれにしようか悩んだときは予算と食べたい物の方向性を伝えてくれれば予算の範囲内で要望に基本こたえてくれるのも人気の理由かと」
「……もしかなり渋った予算提示をしたらどう対応するのかしら?」
ふと気になったのか、華琳が興味深そうに問いかける。
「その場合は店側が、要望の変更か予算の調整をお願いして、それを渋った場合はお引取り願っているそうです。一応、あの店の店員に洛陽の常駐軍の兵士さんが交代で入っていますので、荒事になった場合は兵士50人以上が取り押さえることになっています。それでも駄目でしたら、店長か、店の関係者で相当の実力者が制圧します」
まあ、そんなことは一度もありませんでしたが、と追加するメイドさん。
「……軍と癒着してるようにしか見えないけれど、そのあたりは大丈夫なわけ?」
桂花が眉をひそめながら問いかけると、メイドさんがニコッとしてつづけた。
「以前までの軍部は旦那様を筆頭とした一派が目を光らしていたので素行の悪い方が店員として派遣されることはありませんでしたね。もっとも、旦那様が宮城の職から身を引いた以上、他の旦那様の麾下の方もそのうち宮城からいなくなります。そうなりましたら旦那様は人員派遣を打ち止めにするでしょう。あ、そうなれば他の要因も相まって店をたたむそうなので、堪能するなら今のうちですよ」
「えっ、お店たたんでしまうんですか?」
流琉が目を丸くして問いかけた。
「はい。一応この店の店長が旦那様の腹心で、店員の過半数も旦那様の麾下の方ですから、旦那様について行くつもりだそうです。……なお、もし洛陽にとどまるとしても、隠遁生活を旦那様が選んだ場合も店をたたむとのことです。ですから店の味を盗むなら、今のうちに通っておくことをオススメいたします」
そう言った後、メイドさんはおもむろに懐から銀色の懐中時計を取りだして時間を確かめる。
「……皆さま、気持ち急ぎ足で私についてきてくださいませ。特別なお客様限定の部屋にご案内いたします」
「急に私たちをせかすとは、どうしたんだ?」
秋蘭の問いかけに歩きだそうとしたメイドさんが振り返り、じれったそうな顔をして答える。
「今から部屋に行けば、日替わりのちょっとした催しを見ることが出来るからです。代金は全て旦那様が負担いたしますのでお早くお願いします」
メイドさんはそう言うと、気持ち急ぎ足で店に向かうので、俺たちもそれに続いた。
入り口にはどこかで見たことある気がする女性の店員さんがおり、左右に扉があった。
右側は開かれているが、左側は閉じられていた。
丁度別の客が店員さんから説明を受けていたが、俺たちに気が付いたのか不快そうにこちらを見る。
「おい、横入りするな。この俺がわざわざ一般人風情とともに並んでいるというのに……」
比較的服装が良い男がそう言うが、メイドさんはそれをガン無視して定員に告げる。
「VIP用の部屋に5名を連れていきます。代金は旦那様にと、店長に連絡ください。識別子はメフィストフェレスで」
メイドさんがそう言って懐から何かを取りだして見せると、店員さんがハッとする。
「……! 分かりました。どうぞこちらに」
そういって店員さんが鍵を懐から取りだして左側の扉を開く。
「おい! なんで俺は一般人と同じであいつらは特別………」
メイドさんの後に続く俺たちの後ろから、先ほどの男の声が聞こえたが、扉が閉じると完全に扉の向こうからの音が消えた。
20メートルほどのあかいカーテンとカーペットの通路を通り抜けるとホールのような天井の高い場所にたどり着く。
(……上映中の映画館よりは、明るいかな?)
俺はふと懐かしいものを感じながら、感想を思い浮かべた。
俺たちが入った入り口の対面に舞台みたいなものがあり、それと入り口の間に10個ほどのテーブルとそれぞれに10脚ほどの席が用意されていた。
舞台は比較的細長く見えるが、背後に紅の幕があるので、幕の後ろがメインの部分なのだろう。
そして俺たちの他にも何組か客はいるみたいだが、姿はぼんやりしていてよく見えない。
舞台には照明が当てられているので、相対的に周囲がさらに暗く見えるのもあるのだろうが。
「(では、皆さまこの席にどうぞ)」
メイドさんが小声で入り口と舞台の中間地点くらいにある席の一つに俺たちを案内した。
そして俺たちが座るのを確認した後、小声で続けた。
「(丁度今から今日のちょっとした催し物がありますので、まずはそちらから堪能ください。その催し物が終わると明かりがついて、店員が来ます。そのため、注文はそれまでお待ちください。私は少し用事がありますので失礼します。催し物が終了するまでには戻りますので)」
メイドさんはそう言うとそのまま入り口の方へと去っていった。
「……何が始まるのかしら?」
華琳が首を傾げていると、舞台を照らしていたライトが消える。
そしてしばらくすると舞台袖がライトアップされる。
「ようこそ、まほろば楼へ。これから予定通り、半刻の時間で3曲の歌を披露させていただきます。いずれも心をつかむと私は思います。……ぜひとも、最後まで堪能ください」
彼がそういって舞台の裏側に入ると、紅の幕が左右に開かれ、舞台全体が気も地明るめに照らされる。
そこにはベースを始めとした楽器を持つ人たちと、中央に立つチャイナドレス姿の、黒髪の美女がいた。
そして音楽が流れ始め、女性が歌を歌い始め、それとともに踊りだす……。
――*――*――*――
「――以上で本日午後予定していました『南雲結衣の歌唱3曲』を終了させていただきます。ご清聴ありがとうございました」
3曲連続で歌いながら踊った彼女が幕に隠された後、再び出てきた男の言葉が終わると、ホールに明かりがつく。
「……えっ、あの人結衣さんだったの?」
俺が思ったことをそのまま口に出すと、何故か華琳たち4人にジト目で見られた。
「あの左の目元にある泣き黒子が2つある人は珍しいし 前に結衣がメイドや孫公祐に化けてたとき、どちらも泣き黒子が二つあったから、たぶんそうじゃないかって私はと思っていたけど……。まさかあなた見て気が付かなかったの?」
「呆れた、アンタ本当に人のこと見てるの? そんな節穴な目で良く生活できるわね」
「……お兄様」
「まあ、まさか一日に何度も会うと考えていなければ気がつかなかったりするものだ。そこまで落ち込むことではないぞ」
華琳に驚かれ、桂花に呆れられ、流琉に困惑される。
秋蘭だけが俺をフォローしてくれた。
……なんでさ。
頭抱えていると、背後から声がした。
「おやおや。数日ぶりですね、皆さん」
聞きなれた声に振り返ると、紅いチャイナドレスを着こなし、妖艶さを醸し出す先ほどの女性が口元を微かに上げながら俺たちを見ていた。
「あ、あんたよくもぬけぬけと顔出せたわね!!」
桂花がそういって立ち上がる。
「……一応私は夫見つけるまでの間、彼の愛人と私の部下2人ともどもお世話になる代わりにそれ相応の働きを見せると華琳には言いました。なので私はちゃんと義理は果たしています。そうですよね、華琳」
流し目で華琳を見ながら問いかける結衣さん。
「ええ。貴方はちゃんと約束を違えることなく私に力を貸してくれたわ。だから私は引き止めることをしなかった」
「……と言うことで、貴女には何か言われる理由はありません。ああ、個人的な恨みつらみをつぶやくのは自由ですけどね。……っと、それはともかくとして……。私の舞台はどうでしたか?」
ある意味ぶれない彼女は思い出したように俺たちへ問いかけてきた。
「本当にすごかったですよ。歌は文句つけようが無いほどでしたし、あの演奏も本当にプロのオーケストラ顔負けじゃないかと思うくらい」
俺がそう告げると、彼女は少し満足そうに頷く。
「それならば何より。あの音楽団を鍛えた彼もきっと喜ぶでしょうね」
「……ところで結衣さん。結衣さんがいう『彼』とは一体誰ですか?」
先ほどからちょくちょく出てくる謎の人物について流琉が問いかける。
「ああ、そういえば言ってなかったですね。……でも予想ついてるのでは?」
結衣さんは不敵な笑みを浮かべて問いかける。
「彼の黄金の獣か……?」
秋蘭が眉を寄せながら問いかける。
すると、彼女はニコッと笑って答えた。
「正解。まあ、何であんな姿になってるのかと、始めは驚きましたがね。まあ、本質とアレの大きさが変わってないし、外見も髪と目の色と声以外は、以前に比べても誤差の範囲なんですぐになれましたが」
「……えっ」
俺はそれを聞いて困惑する。
確かあの人はあの姿になる前は俺と同じ日本人だったらしい。
だが、結衣さんの情報が確かなら身長とか体格がもともととほとんど変わらないということに……。
「ああ、あと彼は元の姿でもかなり美形なので、アイドルにスカウトされた経験もあります」
「……へぇ、どちらにしろ美形なのね」
華琳が何故か美形という言葉に反応する。
ああ、貴女美しいものは男女問わず愛でる人でしたね。
俺が自己完結していると、結衣さんが続きを話しだす。
「まあ、諸々の事情からすぐに断りましたがね。あと――」
「結衣様、これ以上は旦那様以外が語ることではないかと」
が、いつの間にか戻ってきたメイドさんが会話に割り込みをかけた。
「……」
「……」
何故か結衣さんがメイドさんを怪訝そうにしばらく見つめる。
一方メイドさんはニコニコと結衣さんに笑顔を見せる。
しばらくして結衣さんが何かに気がついたようで、ため息をつく。
「そうですね。これ以上は彼の個人的なものになりますから、私が語ることではないでしょう」
彼女はそういうと舞台袖に向かうが、少しすると止まってこちらに向き直る。
「私は今後彼の屋敷かここ、あと彼の傍のいずれかに大体居るので用があったらとりあえずここか屋敷に来てください。暇ならお茶の相手くらいならしますので。あと栄華さんには幼女趣味を此処でやらかすと投獄されるので注意するように言っておいてください。では、私はこれで」
言いたいことはあらかた伝えたのか、結衣さんはそのまま舞台袖に姿を消す。
それを確認したメイドさんが手に持っていた物を俺たちのテーブルに置く。
どうやら採譜とお手拭、あと人数分の水とおかわり用の水差しを持ってきたらしい。
「皆様に甘味用の採譜をお持ちしました。注文も私が承ります」
そういって彼女はメモらしきものを取り出す。
「なら、俺は……」
――*――*――*――
とりあえず全員何かしら注文して、その注文した物が来るまで待っていると、入り口のほうから声がする。
「だから、私たちのところに来てよ。文句のつけようの無い破格の待遇を用意するから~」
「求められる仕事が種馬な時点で私はとても心境が複雑なのだがね……」
どっかで聞いた覚えのある女性の声に首をかしげ、特徴的な男の声に俺たちはハッとして入り口のほうを見た。
そこには孫策と、彼女に絡まれて心なしか憂鬱そうなラインハルトさん、そして孫策の家族と孫策の家臣数名がやってきたところだった。
「む、華琳か」
俺たちに気がつくと、ラインハルトさんは腕を抱きしめてる孫策をそっとふりほどき、こちらに歩いてきた。
「すまぬが卿らの席のあと一つに、私が座っても構わぬかね?」
「あら、今日は忙しいと聞いていたのだけれど?」
「ああ。だが良く考えれば、雪蓮なら別に今話す案件でもなかったのでな」
ラインハルトさんがそういうと、孫策が文句を言い出す。
「ちょっと!! 私の扱い雑じゃない!?」
「卿の危険な発言を加味すれば妥当だと思うが」
問い詰めるような目線を孫策に向けると、孫策の傍にいた妙齢の女性がからからと笑いながら告げる。
「策殿。押しが強いのは良いが、それも程度が過ぎなければの話。現にこの男も押しが強すぎて引いておられる」
「祭殿の言うとおりだぞ、雪蓮。それに無理を押し通そうとしても、この男は首を縦に振らんだろう。せめてもう少し手順を踏むか根回しを行うとかだな……」
気苦労が多そうな女性がため息交じりでそう告げると、雪蓮が真顔になる。
それに気がついたのは別の家臣。
日本だったらテニスか何かスポーツやってそうな印象を持たせる彼女は首をかしげながら問いかけた。
「……どうしたの、雪蓮。そんな急に真顔になって」
「いや、だっておかしくない? 私の部下だった亞莎手篭めにしたくせに、私を閨で組み伏せたりしないの」
「いやおかしくないでしょ、それ」
水色の髪でお姉さんっぽい印象を持たせる人が真面目に突っ込む。
「え~、部下に手を出すなら、普通上司である私とかにも手を出すでしょ」
「雪蓮。その理論はおかしい」
気苦労が多そうな女性がそういうと、他の家臣も一同に頷く。
「というか、何か他に理由があるように見えるのは私の気のせいかね?」
珍しくラインハルトさんがジト目で孫策をみると、気まずそうにそっぽを向く。
「……雪蓮」
「私が貴方と一緒になれば、面倒ごとは全部貴方に任せられるし、子どもは優秀なのは確定だから、孫呉の未来が安泰だと思って」
「……まて、何故私との子が優秀と断言する?」
ラインハルトさんが怪訝そうな顔で孫策の言葉に対して疑問を投げかけると、彼女は笑顔で答える。
「だってあのイザークって子、つい最近まで知らなかったらしいけど貴方の子どもでしょ? それにヨハンって子もそれなり以上の才能持ってたって話聞いたわよ?」
「……情報源は?」
どうやら当たっていたのか、否定をしないラインハルトさん。
代わりに情報源を聞くことに。
「名前はシュピーネのところから。あ、真名の風習が無いから呼んでも問題ないことも確認済みよ。それで後は勘に任せてカマかけしてみたってところね」
「……」
孫策の言葉に対し、肩をすくめるラインハルトさん。
「ライニ、貴方はうまく相手を誤解させる言い回しは上手だけど、事実のとき否定しない癖をどうにかしたほうがいいわよ?」
「善処してはいるがね」
彼の言葉に孫策はうれしそうな表情を見せるが、すぐに困った顔をする。
「あ、でもちっちゃい子なら守りゆるくなるって情報ははずれね。シャオ送り込んだのに、手を出してないみたいだし。もう、シャオの既成事実楯に脅せないじゃない」
とんでもない発言にラインハルトさんが困惑した様子で答える。
「そのために彼女を放り込んだのか」
「そう。蓮華のほうが良かったのだけれど、一応監視の目があったから自由に動けたシャオに転がり込んでもらったってわけ」
「すまぬが、そういうことになりそうだったので絶対に手を出さぬつもりだった」
「本当のところは?」
「……流石に自分で用意した憲兵隊の牢に放り込まれたくは無いのもあったな」
「あら、ならシャオもイケルってこと?」
孫策が首をかしげながらラインハルトさんに問いかけたが……。
「申し訳ございませんが、孫伯符様、旦那様をこれ以上困らせることは看過できません」
いつの間にかメイドさんがラインハルトさんと孫策の間に佇んでおり、先ほど同様に会話をさえぎった。
孫策は一瞬ムッとしたが、すぐに元の表情に戻る。
「……まっ、いいか。昨日の夜忍び込んだときに別の弱み見つけちゃったし」
「!?」
目を見開くラインハルトさんに、俺はびっくりする。
だっていつも飄々としてるから、こんなにびっくりしてる姿が想像できなかったからである。
「まて、雪蓮!! いつの間にそんなことしてたんだ!?」
「昨日の夜、みんなが寝たあとよ。シャオが手引きしてくれたし、そこまで難しいことじゃなかったわよ?」
気苦労が多そうな女性の言葉に孫策はからからと笑いながら答える。
そしてラインハルトさんに笑顔を見せて続けた。
「……大丈夫。この秘密は貴方が万一私たちを蹂躙しようとしたときの手札にするだけだから。あ、閨で蹂躙なら待ってるわよ♪」
最後の一言で何故か俺たちは素っ頓狂なリアクションを思わずしかけたが何とかこらえる。
そのまま彼女はこちらを向いて――というか性格には華琳のほうを向いてだが――告げた。
「こう見えて猫みたいに気まぐれな彼が今話したいのは私じゃなくて貴女みたいだから、今日は譲るわね」
彼女はそういうと、近くにある別のテーブルに仲間と共に座って店員さんから採譜を受け取り始める。
「……すまぬが同席しても構わぬかね?」
気のせいか苦虫を噛み潰したのをごまかすような微妙な表情をしているように見える。
「ええ。代わりに幾つか確認事項があるけれど良いかしら」
「可能な限りは答えよう」
ラインハルトさんは華琳の対面にある席に座る。
そしてメイドさんにいつもの、とだけ頼むと華琳をラインハルトさんは見据えた。
「まずは、貴方が今後どうするか、よ」
「隠遁生活でもして、のんびり土いじりするつもりだな」
彼の回答に俺は困惑する。
――この人が畑仕事する姿が想像出来ない……。
どうやら華琳たちも同じようで困惑している。
「……とりあえず次ね。貴方の子飼いの部下はどうするつもりなのかしら?」
「少なくとも黒円卓と旧董卓軍の将、あと漢に仕えていた何進、皇甫嵩、司馬家の者あたりは私についてくるだろうな。ああ、諜報機関はその精度が数段下がるかも知れぬがそちらが希望するならほぼそのまま引き渡そう。うまく運用すると良い。あとは卿らに任せよう」
「ちょっと!! それじゃ有能な人材あらかた居ないじゃない!!」
桂花が思わず立ち上がるが、丁度店員さんが注文した物を持ってきたのに気がついたようで、顔を赤くして座る。
するとラインハルトさんが首を横に振ってから答えた。
「そうでもないぞ? 私が行方くらましたころには、私が署名する必要のあるものなどほとんど来ることはなかった上、三公の残る2人もかなり有能だ。十常侍に押さえつけられていたために表立って活躍は無かったが、私が十常侍を懐柔していたころから後進の育成に奮起していたから、おそらくそろそろその成果が見えてくるだろう」
「……だが武官はほとんど居ないといってもいいのだがな」
秋蘭がそういうと、彼は首をかしげながら答える。
「100人隊長で、有能なものはそれなりに居るぞ。――私の部下が居たため日の目をほとんど浴びず、あと男がほとんどだがな」
そういうと、コーヒーを一口飲んで続ける。
「もっとも、卿らにはまだ軍部に手を出せぬがな、資料だけは諜報機関に残してある。気になるならば後々回収するといい」
「……なんかこうなることを総て予測してたみたい……」
流琉がそういうと、彼は頷く。
「ああ。大方こうなることは予想していた。もっとも、孫伯符の行動は予想していなかったが……?」
ラインハルトさんが話している途中に1人の女性が駆けて来て、彼の耳元で何かをささやく。
すると彼の表情が曇る。
「すまぬが、今日はこれくらいにさせてもらう」
そう俺たちに告げると、彼はいつの間にか戻ってきたメイドさんに一言二言告げると足早に部屋を去っていった。
蛇足だが、このあとはメイドさんに商業地区の案内をされていくつか買い物をした。
が、彼が去り際に見せていたあの表情のせいで上の空になってしまったので、今度はちゃんと楽しむと俺は心に誓った……。
いかがだっただろうか。
感想、評価、誤字脱字報告をお待ちしているよ。
では、また次の幕にてお会いしましょう……。