オーバーロード 御伽噺   作:"A"

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毎週日曜日更新が無理だった成れの果て
独自解釈が加速する


1章 最後の日と始まりの日8

仲間たちの就寝場所を聞いたてから、半刻程経っただろうか。

意外と知らない場所が多い城内に戸惑いを覚えつつ、あちこちに顔を出しては迷いながら、無理やり起こした同性の仲間たちを後ろに引き連れたスルシャーナ。

初老という言葉が当てはまる最年長のアーラ・アラフは起きた後に朝食の準備に向かい、疲労が抜け切らない寝不足のナポリたんと芋豊T・ヒデヨシという若手の男衆が後に続く。

 

目的地までの足取りが重いスルシャーナだが、仲間たちを探し回りながらユグドラシルとの変更点について考察していた。

 

疲労と空腹という状態異常は存在していたが、それはステータスの低下というバッドステータスに含まれ、放置しても死ぬことはない。

そういったバッドステータスを回避する為のアイテムも、もちろん存在しており、維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)という飲食と疲労蓄積がなくなるアイテムがあった。

 

しかしこの世界ではどうなのだろうか。

現実世界で空腹や疲労蓄積を放置する事が出来ない様に、この見知らぬ世界でもそれは当たり前の道理となっているに違いない。

スルシャーナのように、既に死して屍となった存在でなければ、生きる為に必要な行為は何も変わらないだろう。

 

そしてもう一つ、ユグドラシルというゲーム的機能が残っていることについて。

 

未だ夢心地の女性陣を直接起こしに行くのは紳士にあるまじき行為だと諭す天使と、睡眠不足の女性を直接起こしに行くのは身の危険だと告げた悪魔が、脳内会議の中で珍しく同意見を出したことで、ユグドラシル時代の便利な機能を試そうとした。

いわゆる伝言(メッセージ)と呼ばれる通話機能を使用して、睡眠中の彼女らを起こす結論に至ったスルシャーナ。

無駄に仲の良い馬鹿な男コンビが『エンクの寝顔を拝み隊』なる物を結成して騒いだりもしたが、それを抑えつつレディ・ロッテン舞矢にモーニングコール代わりの伝言(メッセージ)を使おうとした。

 

その機能が使える事自体は、既に検証しており、今回も同様で脳内に直接響く会話が始まると考えていた矢先、通話が繋がらないという現象に見舞われる。

ユグドラシル時代にオフラインの相手へ伝言(メッセージ)を使った様な、回線が繋がらない反応が返ってきた。

 

この事から考えられることは、眠っている、もしくは意識がない相手には伝言(メッセージ)が繋がらないというゲーム機能の変化。

殴られて目に痣を作ったナポリたんを見て、フレンドリーファイアーが解禁されていることをスルシャーナが指摘し、他にも変化がないかを探している最中でもあった。

 

何かを握るように両手の指を気色悪く動かし、眠る女性陣を起こさないよう、静かに騒ぐという器用なことをする二人に先導され、スルシャーナ一行は目的の部屋の扉を見つける。

いきなりの突撃をしなかったのは幸いだが、扉の前でナポリたんと芋豊T・ヒデヨシは二人して考え込んだ。

 

「どうした?扉を前にして、いきなり善なる心が生まれた?」

寝起きのレディ・ロッテン舞矢に出会うのを回避しようという危険察知能力とも言えるかと、スルシャーナは一人心の中で呟いてみる。

お目当ての寝顔を拝見するには、共に入るであろう女傑をなんとかしないといけないことに気がついたのだろうか。

 

「エンクちゃんはどんな格好で寝ているのだろうか」

顎に手を当てながら真剣な表情でそんな事を言ってのける芋豊T・ヒデヨシと、その問いに返答することなく、目じりに皺を寄せながら力強く目を閉じて何かを想像しようとするナポリたん。

 

どんな状況でも変わらぬ仲間の姿に、この先の心配で状態異常が無効化されているのに空っぽの頭骨に頭痛が起きるが、少しだけ安心感を得る。

「何やってんだか・・・・・・」

ネグリジェなのかパジャマなのか論争を始めだして埒が明かないと察したスルシャーナは、仕方なしに扉の前で騒ぐ二人を抑えようと動いた。いや、正確には動こうと思った。

質素ながらも全体的に装飾が施されたの木製扉が、淑女が就寝する部屋の前で騒ぎ立てた二人と共に吹き飛ばされたのを見て、動くことを止めたと言い換える。

 

寝起きで不機嫌なレディ・ロッテン舞矢に罵詈雑言を浴びせられた二人を回収し、シュトルフの待機する玉座の間で朝食を用意する旨を伝え、スルシャーナは被害を受ける前に早々と立ち去ることを決めた。

 

姐御はキャミソール派かと意味深な発言をする二人を両手で引きずりながら移動していると、城内を徘徊する下僕兵士達が驚いた表情を浮かべる。

壁際に寄って一礼したままスルシャーナ達が通り過ぎるまで待機する。

「済まないが兵士諸君、玉座まで案内してくれ」

 

「「承知致しました!」」

2人1組の兵士に声をかけ、目的地までの案内を頼む。

最敬礼と共に返答をすると、先導する為にスルシャーナの前に立ち、兵士は足並み揃えて歩き出した。

 

「スルシャーナさん、また迷ったんですか?」

兵士の誘導されて歩みを再開すると、右手で引きずっている片割れ、からかい半分の声でナポリたんが声をかけてくる。

今まで城内の隅々を確認したことがなく、散々迷って居たことは事実なのだが、まるで方向音痴の様に言われて心外だとスルシャーナはムッと答えた。

「指揮権があるか確認したかった。迷ってたことだけが理由じゃない」

 

NPCには指示を出せるが、末端の兵士までに干渉出来るかがわからず、試そうと考えていたのは事実である。

防衛責任者はスルシャーナが創造主のシュトルフであり、その下に仲間たちが作り上げた他のNPC、さらにその下に兵種によって分けられた下僕兵士達となっている。

プレイヤーである彼らが直接創り上げたのはNPCだけなので、彼等以外に対する指揮系統が検証が出来たことは大きい。

不明確な状況を一つずつ繋ぎ合わせて情報を得ながら、スルシャーナは伝言(メッセージ)を起動した。

「アラフさん、今から向かうよ。朝食の用意は順調?」

「うーむ、それがどうにも……」

 

自身は食事を必要としない身体となったが、仲間達は生身の身体であり、生きていくには必要な食事。

伝言(メッセージ)で連絡を入れるも、アーラ・アラフからは歯切れの悪い返事が返された。

現実世界でもやっていたから簡単な朝食なら作れると豪語していたはずだが、何か料理を妨げる問題でもあったのだろうか。

そもそも下流層には栄養価のみを考えた味気ないゼリー状の流動食か、濃い目の味付けが人気の趣向品に分類されるヌードルか、高価だがクリーンルーム完備の食品工場で生産され、温めるだけで調理済みの真空パック入り料理くらいしかない現実世界で何を調理したのだろうか。

アーラ・アラフは定年前まで勤めているし、そこそこの役職についていそうだから食材を買って料理を作れる環境に居た可能性は高い。

 

「食材なら宝物庫にいくらでもあるはずたけど」

「そうじゃなくてだな……」

食材がないのかと考えてみるスルシャーナに、どうにもアーラ・アラフは口を濁したいようだ。

とりあえず何かあったのだろうと考えるのを止め、目的地まで案内をしてくれる兵士達をぼんやりと眺めながら、NPCや下僕兵士達の食事はどうしているのだろうと疑問が浮かんだ。

 

「兵士達は普段食事ってどうしてんの?」

前を先導する二人の兵士に、名前を知らないスルシャーナはどちらともなく問いかけて確認をしてみる。

「はっ!我らは給仕婦が作る食事を頂いております!」

「食堂の使用時間は各部隊で決められております!」

どちらともなく話しかけると、両方から交互に返答を受ける。

アーラ・アラフの用意したであろう食事次第では、仲間たちの体調を想い、兵士達の利用する食堂に連れて行く決意を固めた。

 

 

 

しかし、ある程度の予想と覚悟はしていたが、アントゥールダウンの栄光ある玉座の間は悲惨なことになっていた。

壁に掲げられたギルドシンボルの戦旗は焦げ付き、赤と金色を基調とした上質な絨毯は破れ、室内を飾る調度品が散乱している。

 

敵に攻め落とされた直後のような荒れ果てた玉座を目の当たりにし、スルシャーナは何か威力の高いマジックアイテムが爆発したのではないかと思い始めるが、配信したときに運営がトチ狂ったと言われる全職種装備可能な<4000年の歴史>という攻撃力1の代わりに鍋底が接地していればどこでも料理が出来るという趣味特化武器を手にしたアーラ・アラフを見つけた。

 

「いい年して何やってんの」

既に無い肺から吐き出すように深い溜息をつき、疲れるはずの無い眼窩を手で揉みながら辛辣に言ってみる。

「昔食べた事がある目玉焼きを作ろうとしたんだがな、ちょっとだけ上手くいかなかった」

目の前の年寄りはこの惨状を見ても失敗を認めようとしない。料理よりも爆発系の超位魔法でも使ったと言ったほうがまだ信じられるだろう。

 

「このやけにデカイ殻はもしや・・・・・・」

「・・・・・・赤竜(レッドドラゴン)の卵でしょうね」

ナポリたんと芋豊T・ヒデヨシが引火点が低いと設定される赤い斑模様の卵の殻を見つけて、爆心地で何が起きたのか事態を察した。

「まぁこんなことだと思ってたし、食堂に行こうか」

後でシュトルフと相談して片付けの手配をしなければと、頭の片隅で考えて女性陣に伝言(メッセージ)を送り、食堂集合に変更だと一言だけ告げる。

 

 

 

朝食には大分遅めの時間だが、食堂の給仕婦達は城の主達を最上位の対応で受け入れた。

NPCとして作った者はいないので、彼女らも下僕としてアントゥールダウンに初めから居るべく設定された存在であろう。

頭巾と給仕服が似合う妙齢の給仕婦長が手作りで出す料理は、兵士達の胃袋と心を鷲掴みにしているに違いない。

 

「初めてこの身体であることを悔やんでる」

きちんとした食材を使用して作られた食事を大興奮で食べる仲間達を見て、灰色の靄がかかった心の内を吐露するスルシャーナは、当人の知らぬ間に食事を求めて口が開いている。

芳ばしい胡桃の香り漂う楕円のパン、薔薇に似せて皿に盛りつけられた生ハム、薄く切り分けられたチーズが3種類と、肉厚なベーコンと色どり豊かな野菜がこれでもかと入ったポトフ。

現実世界では大企業役員クラスの上流階級が食べれるであろう食事風景が目の前に広がっているのだから、既に食事を必要としないとは言え、ゼリー状の経口食ばかり摂取していたスルシャーナが匂いだけで我慢するのも酷と言えるだろう。

 

「週1くらいでしか固形の食事食べてないけど、味は到底比べられないものね」

「この料理と比べたら、舞矢さんと行った父のホテルにあるお店で出たのは、サプリと添加物の塊みたい」

さらりとエンクの家庭事情が垣間見える会話たが、女性陣二人にも好評な様で会話が弾んでいた。

ナポリたんと芋豊T・ヒデヨシはハムスター並に食事を詰め込んだ両頬を膨らませて無言で食べ散らかし、アーラ・アラフは納得いかない表情だが食事を口に運ぶ手は止まらない。

 

「主様方のお口に合えばよろしいのですが、私共の料理では不安ですわ」

頬に片手を当てて困った表情を見せ、給仕長は凄い勢いで料理が減っていくテーブルの上を見て呟いた。

 

 

 

朝食後、6人は中央広場に移動し、各NPCを呼び出した。

城壁の上でギルドマークが刺繍された戦旗が城内を見下ろし、スルシャーナ達6名の前にNPC達10名、常駐下僕兵士200名が整列する。

シュトルフを代表に、後ろに9名のNPCが控え、更に彼らの後ろに1列20名の下僕兵士が10列待機。

兵士達の外套には、6本の蝋燭を灯したキャンドルと台座より両翼に生える月桂樹の葉が描かれ、スルシャーナを長とする彼らの御旗ギルドマーク。

城主シュトルフが跪くと、アントゥールダウン配下200余名が音を重ねてそれに続いた。

 

「アントゥールダウン常駐兵士200名、騎兵、歩兵、弓兵、各兵種指揮官、魔法詠唱者、隠密の9名並びに防衛責任者。古往来今、兵どもが創造主たる御身らの前に侍う」

 

 

 

 

22世紀初頭に栄華を誇ったDMMORPGの金字塔『ユグドラシル』の最後を共に過ごした6名のみのギルド

 

スルシャーナ(Sulshana)

レディ・ロッテン舞矢(Lady・Rottenmaiya)

アーラ・アラフ(Ala・Aruf)

芋豊T・ヒデヨシ(ImotoyoT・Hideyoshi)

ナポリたん(Napolitann)

エンク(Enq)

 

ギルド『SLAINE(スレイン)』は新たなる世界の始まりを迎えた。

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