大和王国に来てから二日目の朝、明久は懐かしい感触で目が覚めた。すると目の前には衣服が乱れてあられもない玉藻の姿があった。というより体勢的に明久と玉藻が抱き合って寝ていた。そして玉藻とは反対側や足にかかる重圧から察するに他の奴らも近くで寝ているらしい。
「ああ、昨日はそのまま寝たんだっけか」
昨日のあの真面目な話が終わった後、宴会は普通に再会しかなり盛り上がった。
初めは馴染めていなかった雄二達も、最後の方はお酒を飲んでいないのにまるで酔っぱらったかのようなテンションになり、子供みたいにはしゃいでいた。
「おはようございます、明久」
一人物思いにふけっていると、玉藻が明久に朝の挨拶をしてきた。久しぶりの彼女との朝に感慨深いものがありながらも明久も挨拶っを返す。
「おはよう、玉藻。お前もしかして俺が起きる前から起きてたか?」
「はい! 明久の寝顔見て興奮してました!」
「お前……」
朝の玉藻とのこのやり取りは懐かしい。……そして彼女は相変わらずだった。別に彼女なら襲われても(いろんな意味で)問題ないが、流石に時と場所を考えてほしい。玉藻には無いかもしれないが、明久には(長く生きている割に)人並みの羞恥心はあるのだから。
明久は何時までも寝ている訳にもいかないので、朝食の準備をするために起き上がる。そして傍らに居て、明久と同じように起き上がろうとしている玉藻に向かって言った。
「玉藻、朝飯の準備をするから手伝ってくれないか」
「いえいえ、それは私がやりますから明久はゆっくりしていて下さい」
「いや、俺も暇だから……」
日本に行ってからの明久はフィリ達が来るまでは、当然の様に一人暮らしだった。なので家事は当然の様に全部明久がやっていた。そして、フィリ達が日本に来てからも朝食作りと他の何個かは相変わらず明久がやっていた。だから明久は習慣で玉藻と一緒に朝食を作ろう或いは、俺が作るからゆっくりしていてくれ、と言おうとしたが玉藻に口に彼女の細く綺麗な人差し指を当てられ遮られた。
「久しぶりにあなたの朝食を私に作らせて下さい」
微笑みながら言う彼女の顔はとても美しく、それを見慣れていた明久でさえ見惚れる程だった。
「貴方に私の作ったモノを食べてほしいんです」
そう言われては明久には引き下がるしかなかった。渋々玉藻のいう通りにする。
今の玉藻はまさしく良妻と呼べるものだった(普段はそれ以上に欲望やらなんやらで色々台無し)。
「ああ、明久は私が朝ご飯を作っている間にそこらへんに転がっている屍を起こしておいてください」
玉藻は最後にそう言い大広間を出ていった。
そして残った明久は未だに酒臭い大広間で、面倒くさそうにしながらも屍を蘇生(起こし)始めるのだった。
『いただきます』
朝の惨状は見る影もない大広間で、明久達は玉藻と途中から参加した藍の作った朝食を食べていた。中には二日酔いで唸っている奴らもいるが、特に吐くことが無いようなので放置していた。
ピリリリリリリ
全員でのんびりと朝食を取っていると突然電話の鳴る音が響いた。
アルトリアや幽々子等の食事に夢中なもの以外の面々が、電話の持ち主を探してキョロキョロする。
「あ……悪ぃ、俺だ」
電話の持ち主であって明久は皆にそう断りを入れると、席を立ち電話をしに縁側に出た。
「はいもしもし」
『あたしさね』
「カヲルか。どうした? こんな朝早くに。また試召戦争のシステムに異常でもあったのか?」
どうやら電話の相手は藤堂カヲルだったようだ。そして明久は彼女がプライベートでは、あまり電話をしてくることが無いのを知っているので、試召戦争の関係だとアタリを付けて問いかけてみた。
『情けない事にそうなんさね。あんた今からどれくらいで来れるかい?」
どうやら明久が協力することは最早決定事項の様だ。
「今朝飯を食ってるから少し待て。後十分後にそっちに行く」
『分かったさね』
そして電話は切れた。
明久がいる縁側の向こうの塀の影に一人の翁(おきな)が居た。そして明久は周りを警戒して声を潜めていた訳では無いので、先程の会話は当然この翁にも聞こえていた。
唇を歪めて翁が笑いながら、小さい声で独り言を言う。
「カっカっカっ、これは良い事を聞いたわい。丁度仕込みも終わったところだしのぅ」
翁は笑みを崩さずに、その場を杖を突きながら去って行く。
「儂もお主が大和(ここ)に帰って来た歓迎をしてやろう……吉井明久」
最後に言った明久の名前だけは憎々しげに言いながら、翁は静かにその場から姿を消した。
明久は電話が終わった後、大広間に戻り先程カヲルと話したことをみんなに告げた。
「ってことで、俺は一時間近く———下手するともっと掛かる。だから雄二達は凪とかに、昨日は回れなかったところを観光して来い」
「いや、それは分かったがお前………大丈夫なのか?」
雄二は『何が』とは言わなかった。だが、明久にはちゃんと伝わっていた。紫たちとの時間に比べればはるかに短いが、それでも明久と雄二達には絆がある。なのでお互いの言わんとすることは分かっていた。
「ああ、大丈夫だ。この手の事は何回かあったし、多少の事は俺の能力を使えば何とかなる」
そう言って明久は行く準備を片手間で整えている。
「あと、にとりと紫、ついでにシロウも来てくれ」
明久の呼びかけに三人は了承した。
そして彼らは全員の準備が整うと明久のスキマを使い、移動した。
水面下で蠢く邪悪な陰の存在を無視して。