ベルさんがダンジョンに挑むのは間違っているだろうか 作:ハガル_ゴールド
『こうして眠り姫は一人の若者の手によって目を覚まし、二人は末永く寄り添い幸せに暮らしました……』
夢を見ていた。
夢の主が遠い昔に聞いていた幸せな物語……そしてその物語を読んでいる懐かしく優しい声を聞きこれが夢である事を理解していた。
「お母、さん……」
大樹の根元に座り込み、小さい頃の自分と、その自分に似ている女性を見つける。
―――今はもう見る事が出来ない母の姿に少女、いなアイズ・ヴァレンシュタインはその姿を見つめたまま硬直していた。
『そう、この物語が好きなのね?』
『うん!』
幸せな光景……自分が母に笑い、母が自分に笑いかける。
どうしてなのだろうか……今まではこのような夢を見る事など無かったというのに。
『そう、私もあの人のお蔭で幸せだから……貴女も素敵な
その光景を見てアイズは手を伸ばしていくが……すぐに画面が切り替わった。
薄暗いながらも、今の自分にも見覚えのある光景であった、視線が低いので座り込んでいるかもしれないと思い周囲を見渡す。
(ダン……ジョン……?)
声に出したつもりだがまったく声が出なかった。
おまけに心なしか座り込んでいるとはいえ余りにも低すぎる―――と、ここで服装が先ほどみた己自身のものであると思い出した。
(……小さい頃の私、この記憶は……だとしたら)
『ヴォオオオオオオ』
怯えていると感じられる幼い頃の自分自身の状態でいながら通路の奥から迫りくるモンスターを見据える。
目の前に迫ってきたころ―――そのモンスターは後ろからやってきた男性に切り裂かれた。
微かに似ている男性の姿を見て、父であると理解し、恐怖から解放された少女は父に飛びつく。
『お父さんが私の英雄なの?』
『いや……私は味方であれるがお前の英雄とはなれないよ、既にお前の
『いつか……お前だけの英雄が現れてくれるといいな』
父親の笑顔……久しぶりに心が温かくなり、そして意識が浮上するのを感じる。
もっとこの夢に浸っていたいのだが……この夢を見るようになったきっかけとなった
ベルが居てくれればまたきっと、この幸せな夢を見る機会があるかもしれない――そう思って浮上する感覚に身を委ねた。
「……体が軽い」
「アイズたん、随分と明るくなったな」
「……悩んでた強さ上限を念能力で解消できる事とは違っていそうだけど」
「夢見が良かったらしいが」
ロキとフィン、リヴェリアの3人がベルとアイズが視線を合わせて並んでるところを見ていた。
他の者はダンジョンとの時間感覚のズレの影響のせいか起きては来なかったが、団長副団長および主神が揃ってるので問題ないと判断していた。
それに既に朝食の準備が行われており、時間が押しているのも影響している。
「えっと、じゃあ行きます……!」
「うん」
ベルが右手に何か、いな念の力を開く為にイメージしている鍵を握りこむ。
誰にもその鍵は見えていないが、その異質な力そのものは見えている。
……そしてベルの制約により、念を扱うためのオーラをすべて消費した。
「……顔が青いけど大丈夫?」
「いやあ……ベルさん以外のを使うと疲れが余計に実感しやすいだけなので、あはは……」
「ロキ、さっそくだけど無理があるんじゃないかな?念プラン」
「…………一種の高揚で疲れが実感しにくくなっとるんか」
ベルの言葉からしてベルさ……英雄顕現の方が格段に上の量をひねり出しているのだが、体感的な消耗具合で言えば英雄顕現の方が少なく感じているのだろう。
恩恵無しとはいえ才能を全て消費して成長しきった自分であり、ある種の自分ではない状態により余り使っていないと脳が錯覚を起こしているのかもしれない。
とはいえ、このまま中断するのは無意味に消費するだけである。
「じゃあ、精孔を開きますね」
「……うん」
そう言って、ベルにしか見えていない鍵をアイズに突き刺した。
何の違和感も苦痛も感じ取れず、アイズは首をかしげたが――――徐々にベルから
少々の驚きがあったが、ベルの真剣な表情と自身が苦痛を感じていないのだからと放っておき、徐々にアイズ自身から溢れてきた
「―――見えましたか?」
「うん、見えた」
アイズの反応を見たベルが閉じるような手順で鍵を軽く回して引き抜いた。
今現在、その鍵が見えているのはベルとアイズの両名だけ……そしてアイズは鍵の大きさに若干驚いていた。
「一旦開いたと同時に閉じましたけど……
「……こう?」
軽く深呼吸してアイズが自分の中の何かを開いた。
それと同時にどのようなものかを理解してそのままオーラを全身に纏わせる。
体感的に体力の消耗が多くなった気もするが、同時にいつも以上に力を発揮できるような気がしている。
「―――アイズたんからベルさん程ちゃうけど、何かが感じれるな」
「……成功したという事か」
「鍵では確実だろうけど、ベルのあの様子だと……あまり多用させるのは好ましくない、か」
アイズから見えないながらも感じ取れるオーラに成功したことを理解したが、最後にフィンがベルの顔色を窺って常にあの状況に陥らせるという事を理解し、余り多用するべきではないと判断した。
もしかしたら乱発する事により命の危険があるかもしれないのだ。
「その状態が
「……今のベルみたいに?」
「……そうです」
ベルの場合は制約によって全オーラ消費という事があり、長い間使い続けた事により慣れているのだ。
普通は慣れてはいけないものではあるのだが、制約によるものなのでもはや仕方がない。
「それで、意図的に溢れさせて力を爆発させるのが
「ベルさんみたいに?」
「あれは違うものです」
「アイズたんがアイズさんになってもうたらショックで寝込むとこやったわ……」
ベルさんの体格でのアイズを連想して身震いするロキ……フィンとリヴェリアは苦笑いしていた。
とにもかくにも、やはり念を覚えた事による恩恵はあると判断していいのかもしれない……ほかならぬアイズが表情で物語っていたのだから。
「あ、感じられる何かが、いや念のオーラか。それが上がった」
「……あれが錬か」
アイズの纏うオーラがこくなった事により、それが先ほどベルが説明していたものであると理解していた。
そのままアイズは軽くその場で足踏みして―――庭を全力で駆け抜けた。
「―――速くなってるな」
「これが念能力、か」
目に見えてアイズの速度がステイタス更新を踏まえたうえでも早くなっている。
オーラを爆発的に高めて自分自身の強化を行えるというのは非常に便利だろう。
それが、理解できるほど激変するのであれば尚更だ……まあ、ベルの場合見た目が変わりすぎるものがあるのだが。
「ベルさんより弱いオーラのように感じるけど、レベルは関係が無いのか……?」
「―――恩恵と別判定な可能性があるのと、そもそもベルさんは成長しきった姿やろ」
神が知らなかった新しい力であるので恩恵とは別判定な可能性があるのとベルさんの規格外さを実感させられた時間だった。
とりあえずアイズさんが念の基礎習得