どうして、どうして私を置いていなくなっちゃったの……?いい子にするから戻ってきてよ……私を必要として……。
私は白が大嫌いだ。何故なら白があると比べられるから。白は善、黒は悪。皆そう言う。私を産んだ母もこう言った。
「どうしてこの子だけ黒いのかしら。他の子は白いのに。」
──傷ついた私はまだ生まれて間もないのに捨てられた。
私は街に行った。私を見た人々はこう言った。
「
──私は耐えられなくなって裏路地に逃げ込んだ。
どうして黒猫に生まれちゃったの?兄弟と同じ白猫が良かった。ならばどれだけ幸せだっただろう。私はそう思っていた。あの人に会うまでは。
あの人は寒さで震えている私を家に連れて行き、身体を綺麗に洗ってくれた。猫は水が苦手らしいが、私は大好きだ。私を綺麗にしてくれるから。あの人も驚いていた。さらに美味しいご飯を与えてくれた。私が落ち着いて来ると、あの人は私の首に綺麗な赤色の首輪を着けて、こう言った。
「貴女は今日から私の家族よ。よろしくね。」
あの人は私に「ノワール」という名前をくれた。フランス語で黒、という意味だそうだ。私はその名前がとても気に入った。
あの人はいつも私を膝に乗せながら「ノワール、貴女の毛色は素晴らしく綺麗ね。黄色の目とマッチしてかっこいいわ。」
私はそれを聴くのが嬉しかった。私の色を褒めてくれたのはあの人だけだったから。だから私の名前の意味が黒でも良かった。
私はあの人のためにいろんな事をした。お使いだってやった。周りの視線なんて気にしなかった。だって帰ればあの人が褒めてくれたから。
留守番だってやった。空き巣が入ってきたときなんか目を見て一声鳴くだけであわてて出て行った。その時はあの人はとても褒めてくれた。「貴女は最高のセキュリティね。」と言われたときは一緒に笑い合った。私はニャーニャー鳴くことしか出来なかったが。
私は初めて自分が好きになれた。見ることさえ嫌だった自分の身体が輝いて見えた。
あの人は私とって光、命の恩人だった。なのに、なのに──
──どうして私を置いていなくなっちゃったの?
あの人は元々身体が弱かったらしい。あの人のお葬式でそう親戚が話しているのを聴いた。私も薄々感づいていた。あの人は時折一日中寝ているときがあった。でもその時でさえ私は笑顔を向けていた。あの人は私には笑顔しか見せなかった。だから大丈夫だと安心していた。どうして気づかなかったのだろう。
あの人は裕福な人だった。お葬式の後、親戚が遺産について言い争っていた。醜い争い、あの人と血が繋がっているんでしょ?あの人のお葬式なんでしょ?どうしてあの人の心配じゃなくてお金の心配ばかりしているの?
沢山の調度品が売られていった。あの人とくつろいだソファー、あの人と食事をしたダイニングテーブル、あの人と……。家は空っぽになった。
家も売りに出された。高く売れるだろう、と親戚達は話していた。私は耐えられなかった。ここはあの人と私の家。どうして勝手なことをするの、と。でも猫である私は見ていることしか出来なかった。
親戚は口をそろえて私に言った。
「この猫が来たからあの子は死んだ。黒猫は不吉の前触れだったんだ。」
私は逃げ出した。それ以上聞きたくなかった。あの人の言ったことが否定された気がした。あの人が私のせいで死んだなんて信じたくなかった。
──私はまた自分の身体が見れなくなった。
あれから私は売りに出されたあの人の家の屋根を拠点にして過ごしていた。家には誰も住んでいない。沢山の人が来た。皆着飾って醜かった。あんな人をこの家に住まわせたくなかった。でも皆屋根の上の私に見て急ぎ足で去っていった。その点では自分の色が役に立った。
しばらく過ごしていると、私の周りに変なものがついてくるようになった。白くてふわふわ浮いている。それは仕切りに私の中に入ろうとした。私は必死に防いだ。白いから気に入らなかったから。威嚇をした。尻尾ではたき落とした。噛みついて引きちぎったこともある。だがそれは再生して私にしつこくまとわり付いてきた。私は殆ど寝ずにそれと戦った。
数日後、私は油断した。つい日向ぼっこをしてうたた寝してしまったのだ。それはチャンスとばかりに私の中に入ってきた。不味い、と思ったが時すでに遅し。私は光に包まれた。
身体を乗っ取られるのか、それとも迎えが……と考えを巡らせていると光が収まった。でも特に変わったことは……と思っていた時期があった。視界がとても高く、広くなっていた。あわてて手を見る。人間のそれになっていた。足も同じ…。
そう、私は人間になっていたのだ。
流石に焦った。何故人間になったのだろうか、と。その時、
「あ、やっとなった。手こずらせやがって。」
ドスン、と私の前に青年が現れた。
「効果音に悪意があるが…まぁよい。私は偉大なる大賢者だ。」
賢者?後手こずらせたってどう言うこと?
「賢者というのは、とても偉大な人ということだ。手こずったのは、お前が中々魂を入れさせなかったからだ。引きちぎるとか酷いぞ。」
あぁ、あのふわふわ浮いている奴?あれが魂なんだ。賢者って偉大な人なのね。
「やっと分かってくれたか!前の二人は酷かったからな~。」
前の二人?
「気にしないでくれ。どの道会うことになるから。さて、手短に言おう。ここ高くて怖いからな。まずお前を人間にしたのは私の娯楽のため。これからお前は屋敷に住んでもらう。私を退屈させるな。私が退屈になったら……」
な、なったら……?
「即猫に戻す。」
……わかったわ。退屈させないように頑張るから。
「頑張ってくれ。では、屋敷に連れて行くが……¶※☆§†☆。」
?今なんて言っ……。
青年が意味不明な言語を呟くと、一瞬で景色が変わった。しばらくして、私は瞬間移動したことがわかった。……すごい。
「すごいだろ?ここの屋敷だ。中にもう二人いるから、後はその二人に聞いてくれ。後、黒猫には戻ったり出きるからな。ではな。」
そう言うと青年は消え去った。まだ聞きたいこと会ったのに。その二人にあってなんて言えば良いんだろうか。とりあえず自分の容姿を確認するために屋敷の近くの池に言った。とても綺麗で澄んでいる。
黒いロングヘアに黒いワンピースドレスにブーツ。そして白いボレロ。黄色の目で、首にはあの人から貰った赤色の首輪……。残してくれたんだ…。
容姿を確認したところで屋敷に向かう。深呼吸を数回、ノックをする。コン、コン、コン。
数回叩くと、中からハーイ、と声が聞こえた。どうやら女の子らしい。猫耳をだして、耳を澄ましてみると、さらに会話が聞こえてきた。
「三人目、来た?」
「そうみたいね。」
「私、が、出るよ。」
「ラウラが出たら怖がっちゃうわ。」
「私、怖い?」
「ええ、初見殺し……あぁっ!泣かないで。もう言わないから。じゃあ二人で出ましょう。」
「うん……。」
その会話の後にトトト…と足音が近付いてきた。ドアが開く。
「こんにちは。三人目さん。」
「ようこそ。」
そこに立っていたのはオレンジ色の髪の少女と紫色の髪の少女。二人目は目に包帯を巻いている。
「貴女もあの自称大賢者に連れてこられたのよね?」
う、うん。自称…そこまで言わなくても良いと思うわ…。
「いいと、思う。証拠が、ないから。」
紫色の髪の子もボソボソと言った。大人しそうなのに、結構言うのね。
「まぁ入りなさい。この調子だとまだ来そうね。自己紹介はそれからにしましょう。」
オレンジ色の少女に屋敷の中へ案内される。
「これから、よろしく。」
紫色の少女も付いてくる。
「にしても、随分黒いわね。黒猫か何かかしら?」
……私が黒猫と知ったらどうするの?追い出す?
私は急に怖くなった。二人は私が黒猫と知ったら追い出すのだろうか。街の人と同じように。私は二人の返答を待った。
「街では不吉な存在とされているようね。」
ええそうよ。それで、どうするの?
「でも私はそう思わないわ。高級感があって、かっこいいと思うわ。貴女の黄色の瞳と相まって、ね。」
オレンジ色の少女はあの人と同じことを言った。その言葉、久しぶりに聞いた……。
気が付くと私の目から涙が溢れていた。視界が霞む。オレンジ色の少女が慌てているのが分かった。
「……今まで辛かったのね。大丈夫。私達は貴女をそんな風に思っていないわ。」
それ以上言わないで。
「私も、貴女のこと、かっこいいと、思う。私、貴女のこと、好き、だよ?」
ああ紫色の少女よ。とどめを刺さないで。
私は耐えきれなくなって、声を上げて泣いた。
でもその涙は今までとは違う涙だった。
『うぅ……よかったよかった。』
遥か上空、田中は望遠鏡片手に泣いていた。黒猫のドラマに感動したのだ。
『この私が感動するなんて……そうだ、この子を友達を作らせるために選んで正解だったよ……』
「それ絶対嘘ですよね。た・な・か・さ・ま・?」
『さっ西園寺…どうしてここに?!』
「田中様。国王から呼び出しですよ。」
『え。あのドSから?やだ…って何故ここにいるんだ?!ここは上空だぞ?!』
「えっ?」
メイドは少し考えてから胸を張って言った。
「空ぐらい飛べなきゃ田中様のメイドは務まりませんから!」
『ハードル高すぎっ!空飛べなくても出来るから!』
「そんなことより、国王のもとに逝ってください。」
『字がおかしいよ?!やだっ!死にたくないぃぃ!』
「田中様……」
『西園寺……』
「諦めてください。」
『』
閲覧ありがとうございました。田中様、いじられに逝ってください(笑)