ROUND1 空条承太郎、草薙京に会う!
「二手…遅かったな…」
後ろに立つ神父が言う。
「ジョースターの一族は代々その血統から勇気を得て運命に打ち勝ってきた。」
自分を冷徹に見下ろす男。娘の脇腹にはナイフが突き刺さり、彼女に惚れていた男の胸には大きな穴が開いている。
「しかし弱点もまた血統故に!娘が…お前の弱点なのだ」
そして神父の姿がかき消え、顔に一瞬の衝撃を感じて…
・・・・・
「おああッ!」
ガバァッ!
飛び起きた青年の額には酷い汗がにじんでいる。
「ハアッ、ハァッ…また…あのときの夢…か…」
青年はハンカチで軽く額の汗を拭き取ると本棚に設置してある帽子掛けから黒地に緑の星のマークが入った帽子を取って被る。
白地に青いストライプのパジャマを脱いで学校指定のブレザーを軽く着崩して着替えは終了。
軽くタオルケットを整えると青年は食卓に向かった。
「おはよう…と言っても誰かいるわけじゃあないが。」
少し寂しさのにじんだそれはとてもその外見―どう見ても18歳の長身の高校生には似合わない。
事実、彼の脳に焼き付いている記憶は58年分。
空条承太郎としての40年と黒金承太郎としての18年だ。
1年前、両親+自分という核家族から一人暮らしに変わった。そんな承太郎が一抹の寂しさを覚えるのは40年の記憶に焼き付いた娘の徐倫と17年間の記憶の中にある両親のせいだろう。
「やれやれ…だな。」
ポツリと呟くと彼は手早く食事をすませて家を出た。
・・・・・
ちょうど一年前のことになる。
承太郎が学校でさして受けたくもない授業を受けているときに両親が交通事故で即死したと言う知らせが届いた。
以来彼は一人で暮らしている。もともとあまり人付き合いの良い方ではないので少し困ることはあったが今ではそれにもなれ、ごく普通のこととして受け入れはじめていた。
「やれやれ…このタイミングで赤になるか?普通。」
自分が渡る直前で変わった信号に恨めしげに舌打ちをする。そんな承太郎の目が次の瞬間大きく見開かれた。
「あぶねえッ!バアさんッ!」
横断歩道を渡りかけている老婆に車が迫っているのだ。ドライバーは携帯電話で話していて老婆のことは一切目に入っていない。
「やれやれだ…ヘヴィ過ぎるぞ!」
そういうと承太郎は素早く両手に黒いオープンフィンガーのグローブをつけると車道へ向けて飛び込んだ。
老婆と車の間に割り込むようにして走り…
「スタープラチナ…ザ・ワールド!」
ドォォーーン!
世界が承太郎を中心にして動きを止めた。
「不安はあったが…どうやらうまく止められたようだな…3秒前…」
細い老婆の体を易々と担ぎ上げて横断歩道を渡る。
「さて、それから少しばかりお仕置きしないと気がすまねえな。」
そう呟くと承太郎は時の止まった世界で動かない車の横に立つ。
「2秒前…その携帯…ブッ壊させてもらうぜ、ついでにカーステレオもな。」
グッと握りしめた拳を大きく振り、ガラスを叩き割ると続く一撃で携帯電話を破壊する。
「1秒前…チと急ぐか。オラオラァッ!」
ドゴバゴッ!
カーステレオとついでにエアコンも壊すと承太郎は反対側の歩道に抜け、指を一本立てた。
「ゼロ…時は動き始める。」
停止していた世界が再び時を刻みはじめ、老婆が驚いて周囲を見回し、ドライバーも驚いて自分の手元を見やる。
そんな様子を見届けると承太郎は帽子の位置を直して学校へ向かった。
・・・・・
喧噪の最中にある始業前の教室。ガラッとその扉を開けると承太郎は自分の席に着いた。
「おはよう、承太郎。」
話しかけてきたのは端整な顔立ちに少し細い長身を制服に包んだクラスメイト、九条典明だ。
「全く、呼び慣れた名前で呼べねえのはめんどくさい限りだな。かきょ…典明。」
典明はうっかり口を滑らせそうになった承太郎の様子に少しだけ吹き出すと
「君は苗字で呼ぶのになれすぎだよ。」
とたしなめるように言った。
九条典明、かつての名前を花京院典明という。彼は空条承太郎が死ぬおよそ20年前に命を落としており、現在会わせて36年目の人生を謳歌しているところだ。
そんな彼等は前の人生において親友とも呼べる間柄であり、そのため今世においても非常に仲がよい。
二人が談笑しているところへ更にもう一人、銀髪の日仏混血の学生、ポルナレフ(苗字は名乗っていない。)が陽気に声をかけてきた。
「よう、承太郎!典明も」
「ああ、おはようポルナレフ。」
このポルナレフも彼等同様52年分の記憶を持った男であるが、それを感じさせないほどに陽気である。三人が三人とも他殺であったにもかかわらずそのお気楽さはどこから来るのかはなはだ疑問に思うほどに。
「しかしいつも思うけど不思議だとは思わないかい?」
「スタンドが俺達と一体化していることを行っているのか?」
典明の言葉に反応したのは承太郎だ。
「ああ、スタンドとは本来傍に立つ物だろ?それが何故傍に立たないのか?少し疑問に感じてね。」
首を捻る典明ににへらにへらと笑いながら応えるのはポルナレフ。
「そんな気にすることもねえだろう?俺が見たオアシスってスタンドは本体が着るタイプだったし、承太郎の娘さんが持ってたその…ストーン・フリー…だっけか?も本体の体が糸になる能力だったんだしな。特に不思議でもねえさ。」
それとは対照的に深く考え込む承太郎は他の可能性を示す。
「あるいは…神父の能力で世界が加速し、新たに創造された際にスタンドの性質そのものが変質した…更にもう一つの可能性としては新たな肉体と古い精神の誤差による影響…だな。」
そこまで言ったところで承太郎はそれよりもと時計を示す。
「もうじきクソババアがくるぞ。席に戻れ。」
口五月蝿い担任教師(59歳、もうすぐ定年のクソババアby承太郎)が教室に入ってきて出席をとる。しかしその間も承太郎は外を見ながら、自分の名を呼ばれたときだけ微かに返事をした。
「暇だ…」
始業というのにそんなことを呟く承太郎だが、前の人生で一通りの教育はこなしてきたのでたしかに退屈だろう。ちなみに彼の職業は海洋冒険家だった。
希望の進路は水夫か探検家。大して変わっていないようだ。
・・・・・
学校が終わり、典明達と別れて歩いていると偶然承太郎とぶつかった男がいた。
「すまん。」
「悪い。…まさか…草薙!!?」
「黒金!?黒金承太郎か?」
承太郎とぶつかった男こそサザエさん方式で年号のみが進み、月日が流れない特殊な環境下で20歳、現在12回目の高校3年生というかなり風変わりな、しかし常人とは一線を画す能力を持った承太郎のクラスメイト、草薙京だ。
「奇遇だな、黒金!」
「世界ってヤツは狭いんだな。今俺とぶつかる可能性のあるヤツなんてごまんといるのに見事にクラスメイトと激突するなんてな。」
シニカルに笑んでそういう承太郎に京は軽く肩をすくめ
「で、学校終わりか?」
「放課後だろうが行ってやれ。不登校。」
ずばっといいきった承太郎は肩をひょいとすくめ
「まあ、そのまえに櫛灘の所へ行っておいた方が良いな。失踪が絶えないから心配してたぜ。」
それを言われたとたん京はバツが悪そうな顔をして
「ん…ああ…出来るだけ速く卒業できるように心がけるぜ。」
という。本人も気にしていることらしく、しかも学生鞄を肩から提げ、埃っぽくなったブレザーを着たクラスメイトの姿はどう考えても下校中。
ちなみに少し前にとある島に旅券で呼び寄せられたさい、相棒の二階堂紅丸に欺されやすそうだの満足に高校も卒業できないだの言われていたが実際の所京の頭は悪くない。ただ、いろいろあって出席日数が絶望的に足りないのだ。
「で、草薙は何やってる?まさか散歩なんて言わないだろう?」
「KOFだよ。もうじき始まるだろ?KOF。知り合いの頼みであれに参加させられることになった。」
「じゃあ何か?チームはいつものお前と、ポルナレフみたいに髪の毛おったてたヤツと、デカい柔道家と…」
「いや、真吾と…」
チームは三人一組だが、京は二人目を言ったところで急に口ごもる。承太郎は怪訝そうな顔つきで続きの言葉を待つ。と、京が蚊の鳴くような声で
「八神…庵…」
と呟いた。ガラにもなく素っ頓狂な声を上げて驚くと承太郎はコォォォォ…と呼吸を整え、
「八神庵というと、あの…まさかだろ?」
「そのまさか。」
「自分の命狙ってる奴と組むか普通?」
八神庵。草薙京を殺すことを求め、昼だろうが夜だろうが山だろうが海だろうが。どこまででも追いかけてくるある意味一番たちの悪い男だ。
しかも下手をすれば理性を吹っ飛ばす…そんな男だ。
「俺だって組みたかねエよ!でも真吾のヤツがもう京&庵チームっつってエントリーすっから出ざるをえねーんだよ!」
真っ赤になって怒る京をなだめて承太郎は家に帰り着く。
「やれやれだ…ん?手紙…なんだこれは?」
ポストに入っていた白い封筒を見て、承太郎は皮肉げに唇を歪めた。
「KOFの招待状…やれやれだが、悪くないかもしれんな。」
to be continued...→