無限書庫の黒柩 D.Gray-man   作:黒樹

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D.Gray-manの情報見てテンション上がった。
ヒャッハー!
という感じで、投稿。


1夜 滅びた国

 

 

東洋の国。約300年前までは鎖国もせず他国と交流を持っていた極東の国――日本。

そこはいまや地獄のようだった。血とオイルの匂いで溢れかえり、故郷の面影は遠の昔に消え去ってしまった。

約300年前、他国との交流を絶ち、絶海の孤島となりえた国がこうなった経緯は――語られることは無い。いや、語れる人間が存在しないと言った方がいいのだろう。

鎖国を果たした日本に300年前、その表現が正しいのかは判断しかねるが、1人の異人が表れた。

 

『千年伯爵』と名乗り、世界との断絶を図った日本に目をつけた異人。彼は鎖国した日本の裏で《AKUMA》と呼ばれる兵器を作り出し、瞬く間にに民を殺し力を増強させていった。

 

《AKUMA》

アクマは『機械』『魂』『悲劇』を材料に千年伯爵が製造する生きた悪性兵器。ダークマターから造り出された魔導式ボディの原型へ、死者との絆の深かったものの願いによって魂を拘束し生まれる。

 

たったそれだけの事に、人々は希望に魅入られ千年伯爵に頼った者達は兵器を造り出し殺された。製造を願った者はその罪の重さを理解しろ、と言われんばかりにアクマに殺されて皮となる。それも愛した人の魂に。

 

伯爵が行ったのは、日本の民に希望を魅せて騙す詐欺にも似た行為なのだが、これだけで日本は壊滅した。

日本の人口の約9割がアクマ、そして、生き残った人々の1割がアクマから身を潜め生活している。

歴史の行方と人々の生きる場所を失った日本は、対処するべく武器を持たず、また小さな兵器もアクマの前では有効な打撃にもならず、文明までも手放してしまった。外に出るための船を持つことも出来ず、唯一の対抗手段を得た後のヴァチカンへの協力要請も出せないまま、現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年と少女もその1人だった。唯一生き残った人間の中で、幼い頃から逃げ回り生き延びていた2人。助けを望むも自分たちは世界の終わった後に生を受け、対抗手段を講じれないまま、ひっそりと生きた。

 

2人は特別な力を得ている。

 

そのうちの彼女もまた、罪を犯そうとしていた。

 

 

「お母さん……」

 

 

涙を流しながら金髪の少女は願う。

死んでしまった、AKUMAに殺された母親にもう一度会いたいと心の闇を抱えていた。もし、自分がこの身体に宿る“神の力”を使えたなら、母親は死なずに済んだんじゃないかと。

 

「おや♡ まだ日本にも人間が残っていたんですネ♡」

 

その彼女の心につられてか、見るからに裕福そうな太めの人間が表れた。

丸いフォルム、妙に長い帽子、シルクハットだろうか。眼鏡をかけ耳はトンガリ、口は大きく歯もそれに合わせて並びは良い。

 

「――貴女は母親を生き返らせたいデスか♡?」

 

「お母さんを……生き返らせれるの?」

 

悪魔の誘いに無知な少女はのってしまう。悪魔の声に耳を傾けたのがいけなかったのか、無知な少女の心にはアクマ製造の知識はなかった。

 

ただ一つだけ。

『死者を蘇らせたいと願う』事だけは、死んだお母さんと幼い頃から腐れ縁と言えばいいのか、幼馴染みの少年から言われてたな。

なんて、頭の中を過ぎ去るも――やはり彼女は願ってしまう。

 

「お母さんを……生き返らせれるの?」

 

「ええ♡」

 

と言って貴族風の太っちょはどこからともなく、プラモデルの原型のようなものを取り出した。

 

「これは我輩が造り出した魔導式ボディ♡ あなたが願えば魂をこの仮初の肉体に定着させることで生き返らせることができマス」

 

枠組みに固定された骨組みに少女は、その姿を認めて力なくずるずると足を引き摺りながら近づく。

そして、呼んでしまった。

 

「お母さん……っ!」

 

稲妻のような雷鳴が轟き、魔導式ボディに堕ちる。

ギギギ――と、動き出す“AKUMA”の骨組み。骨組みは上半身だけを固定具から外れるとその両の針のような手を憎しみ見て、叫ぶ。

 

「フィールティア! よくも私をアクマにしたなっ! もう解放されたと思っていたのにっ!」

 

「えっ……?」

 

これがアクマ? あの、AKUMA?

 

今まで少女と少年、人々はアクマから逃げ隠れ生活してきた。何よりも生き残るために。死なないために終わった世界を生き延びてきた。

そして、子供を作り、子供にも同じ苦しみを課す。

自分たちが散々嫌だと願った世界に、どこか捨てない希望を胸に、少年少女を育てた。明日食べるものもあるかわからないこの世界で、大人達は自分達の自己満足と自分たちの罪を子孫に押し付け続ける。

 

――その罪と敵の存在を、造り出していたのは自分たちだと知らないままで。

 

「命令です。この少女を殺して皮をかぶりなさイ♡」

 

《製造者》――千年伯爵の声が耳に届く。

少女は嘘だと思った。自分の母親が、私を殺すはずないと、どこか本気で、でもどこか恐怖を感じる。

 

絶望する少女、フィールティアはただ地面にヘタリ込み最後の時を待つだけだ。

アクマとなった母親が鋭い鉤爪を振り上げ、少女に斬りかかろうとした直後――目を瞑った少女を庇うようにして1人の少年が躍り出た。

 

「ぐあぁぁぁぁ―――っ!!」

 

目を瞑った少女を抱き締め庇ったのは、まぎれもない幼馴染みの少年だ。

背中を斬り裂かれ、血が飛び散っていく。

十字に斬り裂かれた傷は血を滲ませながら、少年は少女を見てほっと息をついた。

 

「良かった……」

 

「良かった、じゃない……。なんで、なんで飛び出したの、私を庇ったの……?」

 

驚愕の表情の少女はぐったりと力をなくす少年の体を抱き締め支える。

――血が止まらない。

傷口を抑えるように抱き締め、涙を流した。

 

今、庇う必要なんてなかったはず。悪いのは全部私で願ってしまったから、死ぬのは私だった。なのに、どうしてこのまま置いていってくれなかったのか。放って置いてくれなかったのか。

 

力なく横たわり、少女の胸に抱かれる雪のような真っ白な白銀の髪の少年は答えたのだ。

 

 

「大切な人を守るのに理由はいらない。こんな世界でもう2人しかいないのに、大好きな君が死ぬことは何よりも辛いんだよ。独りぼっちで生きていくなんて、俺には到底できないんだ」

 

 

心に染み渡る言葉の数々。

現状がどうしようもなく、泣きたくなった。

 

今さら気づいてしまったのだ。

 

何年もずっと一緒にいるから、恐怖と逃げ隠れする人生の中で少女はこれが当たり前だと思っていた。母親さえ戻って、幼馴染みと少しでも笑い会えたら、それだけで十分だと思っていた。

 

なのに、今さら、少年を傷つけてから気づくなんて思いもよらなかった。

 

 

 

『“母親”より“少年”が大切になっていただなんて』

 

 

 

血が止まらない。

地面に染み着く血は広がっていく。

胸の熱さが心地好く、同時に痛かった。

涙が溢れ出て視界を歪ませる。

もう少女には、彼の体温しか感じられていない。

 

「なかなかにいい悲劇ですネ♡ 自分が願った故に大切な人が死にかけている。まぁ、庇う上でいくらか攻撃の位置から体を逸らしたようですガ。二人仲良く殺してあの世に送ってあげまス♡」

 

無慈悲にも千年伯爵は新たな命令を下す。

 

「さぁ我輩の可愛いアクマ、結びつこうとしている2人の仲を引き裂きあの世に送りなさイ♡」

 

「ア゛アァァァア――!!」

 

悲鳴にも似た絶叫をあげながら少女の母親だったアクマはもう一度殺しにかかる。

 

ガギィィン! ――と、その一撃は2本の剣によって、止められることとなる。

 

「おや……♡ まだ動けましたカ」

 

「俺が……コイツを守るんだ。だから、こんなところでくたばってたまるかよ」

 

止めたのは少年だった。

右手には白銀の剣、左手には漆黒の闇の剣。

その両手からは紋章のようなものが輝き、光を放っている。白銀の光と闇に似た紫。

 

少年は今にも倒れそうな体に力を込めて、両の手の剣を握り締める。

――迷う。迷ってしまう。これはあの娘の母親の魂だ。それを斬れようか。斬れる筈がない。そんな事をすれば、あのコに嫌われてしまう。

だけど、と少年は歯を噛み締め、痛む体に歯をくいしばりながら剣を振るい、

 

「ウオォォォォォオオ―――!!」

 

アクマを斬り裂いた。

剣を防御出来ずに斬り裂かれた少女の母親は地面に崩れ落ち、今し方自分を斬った少年と少女を見据える。

 

「……ありがとう。私の娘をお願いね。あなたにならあの娘を…任せ、られる、わ」

 

崩さっていくボディ、魂は天へと登っていく。

その場に、もはや伯爵の姿はなかった。

 

 

 

 

 

バタリと少年が倒れる。両の手の剣はカラーンと音を立てて地面を転がり、やがて消えた。

倒れ込む少年の体を少女は抱き起こし、涙を目元に浮かべて少年の頬に手を添えた。

 

「ごめんね……」

 

「泣いてばっかりだな、君は」

 

「だって、私のせいで……結月は怪我をしたんだよ。私はどうしたらいいの、嫌われるなんて嫌だよ」

 

「なにも怒ってないって」

 

渇いた笑いが少年の口から漏れる。

嫌われるのが怖い、嫌ってしまわれたら、自分はどう生きていけばいいのだろうか。

少年も、少女も、同じ気持ちだった。

死んで欲しくない。そして、ずっと傍にいて欲しい。

この願いがイケナイことなのか、血はいまも止まらずとめどなく溢れている。徐々に治まりつつはあるが、やはりこのままだと血は足りなくなってくる。お互いの血液型は一緒であるにも関わらず、器具も清潔さもない状態で輸血は自殺行為にも等しい。

 

と、少女が服を脱ぎ出す。着ているのは黒い服だ。それをビリビリと破り捨て、包帯の代わりにと不器用な手で少年の体に巻き付けていく。少年の斬り裂かれた服を血糊から剥がし、丁寧に痛まないようにと、気をつけて。

 

「君は……大事な服を……」

 

「いいの。私は、結月の方が大切だよ」

 

「だからって、誰かに見られたら……」

 

襲われかねない。そう言いかけたところで、少女は少年の口を塞ぐ。

目の前には少女の顔があった。

それも、上気した色っぽい表情で。

キスされた、と気づくには数秒かかったがゆっくりと躊躇うように離されてゆく少女の唇。

それに、少年の目は釘付けだった。

 

「……大丈夫だよ。結月が護ってくれるし、見られたとしてもアクマでしょ。それに、私は結月の服を着るから」

 

この日本は、生きる人間こそ少なく、逃げる心を癒す娯楽もない。ただ逃げるだけの人生に快楽を求めて、他の動物を殺したり、人間を殺したり、犯したりと、狂った人間が楽しんだりもする。

この2人も例外ではなく、本を読んだり、本を収集して保管を繰り返し、珍しい草花を集め、知識を全て本に委ねていた。

本を見て、実行して、満足する。知識とはこういうものなのかと。

 

血のついた服を着ようとする少女。

もしかしたら、あの雪のような白い肌に、血がついてしまうのだろうか。

それが少年は堪らなく、嫌だった。

 

「……あの黒柩には、服も入ってる。だから、まずは家に帰ろう。それから……」

 

彼女の腕を引き留め、言葉を考えた。服を着ない少女の体にドキドキしながらも、

 

「この日本を、2人で出て、一緒に暮らそう」

 

「うん……!」

 

返事を聞くと、少女をお姫様抱っこする。傷に障るからと少女が言うも、少年は無視だ。呆れながらも嬉しそうに首に抱き着いてくるあたり、嫌ではないのだろう。

 

少年と少女は旅に出る。

 

まずは、日本で集めた本と不思議な黒柩を持って。

 

頼もしい“神の力”を宿したその子達を家族に。




日本ってさ、キューブ見つかる前に滅んじゃってるよね。
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