無限書庫の黒柩 D.Gray-man   作:黒樹

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劣化していく作者の文才。
低レベルがゴミレベルに……。


10夜 戦場崩しのラブレター

 

 

 

「さて、と」

 

切れた通信を終えて、嘆息すると目の前の少女へと視線を移し視線だけで確認をとる。と、同時にやはり声でも確認を取らなければ納得出来ないのは少なからず彼女らの意思を尊重したいからで、声を聞きたいからとか、安心するとか、そんな事情は置いておき確認の意を込めて俺は発した。

 

「……で、もしかしたらファインダー生活も終わりだけど。……付き合ってくれるか?」

 

「仕方ないよ。それに、私はいつまでもあなたと一緒だから。あの世界に二人しかいなかったからじゃないよ。私は結月を好きになったんだもん。“仕方なく”じゃないから」

 

フィールティアが先程の俺の不安への答えを出し。

 

「これでやっとオトーフが食べられます」

 

エストが月一にしか食べられなかった豆腐に目を輝かせ、

 

「マスター達といつも一緒です」

 

オルトリンデは熱くも冷めた様子もなく、

 

「火猫と一緒なのは不本意ですけど、マスターの御尊顔を四六時中眺められるのであれば私は構いません。いえ、むしろやっと堂々と抱きつけると思うと――」

 

水精霊のレヴィアタンは水とは対照的に、お湯のような熱帯びた発想を、これからに思い馳せ、

 

「……仕方ないわね。状況が状況だし。忠告を破ったユヅキなんて知らないわよ」

 

「素直に喜びましょう、闇精霊」

 

「う、嬉しいわけじゃないわよ…! そ、それは窮屈な生活には退屈してたけど。別に、夜になれば会えるんだし、いつでも会話できるのよ」

 

「……一番話しかけていたのは闇精霊だった気がしますが」

 

闇精霊のレスティアがエストにからかわれる。

 

「私は、繋がっていれば、少しでも触れられれば、いつも通りで良かったよ」

 

そして、最後にハクアが大人びた態度で着物を揺らしながら奥ゆかしく微笑む。

俺達と比べて、少し年上の彼女は、余裕を見せるような微笑みを見せるもどこか無理をしているようであった。

正確には、何かを恐れているような――まるでこの平穏が崩れ去るのを嫌っているかのような態度を見せず、そう強がっているようだった。

この言葉は彼女の本音なのか。

そう心の中で理解し、俺はふと手を伸ばしハクアの頭を撫でる。綺麗な白の髪、絹のようなそれはサラサラと揺れ凄く触り心地が良く癖になりそうだ。

 

「んっ……どうしたんですか、結月」

 

「いや、なんか撫でたくなって。……もしかして、ダメだったか?」

 

「そんなことは無いよ。私は結月に撫でてもらうのは、触れてもらうのは大好きだから」

 

「じゃあ、耳は?」

 

「ダメです。……エッチなんですから」

 

白の髪の上に立つ、二つの白く綺麗な何かがピンと張りピコピコと振れた。

それは狐耳と言われる、彼女の耳だった。

あれを触るのは思いのほか気持ち良く、彼女のお尻についている尻尾と合わせて好きなのだが。やはり流れに任せても日中に触るのはダメらしい。

なんでも、俺が触ると艶かしい反応を返してしまうとか。一度、正座をさせられた覚えがある。

 

何はともあれ全員の了承は得た。

あとは、目的を達成しつつ、あわよくばと願うのみ。

 

「本題に入るけど。これは恐らくロードの差金だ」

 

「あぁ、あの小さなヤンデレノアですか」

 

「あなたが言いますか」

「マスターは罪作りです」

「ふふ、やっぱり消しておくべきだったかしら」

 

レヴィアタンにエストがポーカーフェイスでツッコミ、オルトリンデが呆れたように言い、レスティアがなにやら憎悪の篭った物騒な声で呟く。

何故か、恋敵を、天敵(間違ってない)を蔑むような表情で思い返すように俺を見る。

 

なにやらいたたまれないので話を続けることにする。

 

「それでだ、一応、レヴィアタンは送り出した部隊の元へ向かってくれ」

 

「なっ、なんでですか!?」

 

ガーンと効果音のつきそうなほど表情を絶望に変えたレヴィアタンは詰め寄ってくる。

私、役に立ちますよ。そう主張してくるのだが。

次第に、私いらない娘なんですかぁ、と泣きそうになったところで俺はまた頭を撫でた。

 

「違うからな。頼りにしてるんだよ。嫌な予感がするんだ。エクソシストが一人しかいない状況での襲撃、これは確実にあいつが狙ってやったことだ」

 

「本当に……頼りにしてます?」

 

「うん。してるから。じゃなきゃ、危ないかもしれないのにそんな所に一人で向かわせないだろ」

 

「では、行ってきますね!」

 

そういうなり、レヴィアタンを水が螺旋を描くように包み込み、弾け飛んだ時には一本の美しい槍が浮いていた。

二つに別れた槍頭、全体的に蒼く輝き、神々しいまでにもの光を放つそれは、水を光らせ反射させる。

と、その槍が中空でクルクルと回るとある方向に向かいピタリと止まり、そのまま壁を突き破って出て行った。

 

(俺が直さなきゃいけないんだろうなぁ)

 

何にせよ、彼女は、レヴィアタンは知っている。

主となるべき、契約者の居場所を。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

イノセンスを発動させ飛翔する。

目の前にはアクマが三体、それも人によく似た型は私を見下ろすように宙を浮いていた。

 

『どうしたエクソシスト? このままじゃオレラは倒せないぜ』

『ギヒヒッ、早く殺しまくろうぜ』

『待て。主君の命はまだ達成されていないぞ』

『カテぇこと言うなよ。第一に目的を達成したら教団の人間を好きに殺していいって言ったのは――』

『それ以上は言うな。主の命だぞ』

 

三体のアクマは何やら言い争うようにして、満身創痍の私を無視している。

チャンスだ。そう理解した私は限界を迎えて震える足を鞭打つように立ち上がり、一気に加速しようとして――

 

『話し合いの途中で動くとは無粋じゃないか?』

 

刀を持ったアクマに下へと叩き落とされる。

エクソシストの中で最高速度を誇る“黒い靴”。加速と初速で他を圧倒的に上回るそれでも、一気に上へと出て攻撃しようという思惑すら実行できない。まるで鉄壁のような、果てのない空の向こうを目指して飛んでいるみたいだった。

 

「キャアッ――!!」

 

壁に激突し、バラバラと崩れ落ちる瓦礫と共に、私もまた床へと崩れ落ち、

 

「ゲホッ…コホッ!」

 

肺の空気と一緒に血を吐いた。

意識が朦朧とする。

視界が歪む。

涙で世界が滲んで見える。

 

私の全てが通用しなかった。イノセンスを発動して速さを生かした撹乱からの攻撃を行おうとも、全てがその装甲に阻まれ、ダメージが通らず。

そしてその速さですら、アクマ達はものともせずついてきて簡単に囲まれ、叩き落とされてしまった。

 

『それで終わりか? つまらん』

 

刀を持ったアクマがゆっくりと降下し私の僅かに上から見下ろすような位置で止まる。

 

『なんだぁ、手応えねぇなぁ。オレラの目的の達成は結構難しいって聞いてたんだがなぁ』

 

両腕に大きな刃が生えたアクマが嗤い、ニタリと薄気味の悪い笑みのまま、もう一体のアクマに視線を移す。

 

『ナラァ。殺しちまってもイイよなぁ』

 

巨大なハサミを左腕に生やしているアクマが狂気じみた表情で私を舐め回すように観察し、私は思わず恐怖で身を竦ませてしまった。

 

悪質で歪なハサミが伸ばされ、布越しに刃の無機質な冷たい温度が肌に伝わる。ジリジリと焦らされるように刃先をゆっくりと動かされ、そして、

 

『ドーン!』

 

「ぁ……っ」

 

ジョキン!! 大きな音をたててハサミがその禍禍しい口を閉じると、私の服が前開くように切断された。

晒される、白い肌。外気に晒された肌から生温く悍ましい風が感じられ、よりいっそう恐怖は大きく増大した。

 

『ククッ、イイねイイねその表情! 仕事もカンタン、スズシロユヅキってぇ人間を怒らせればいいだけだ』

 

「……え?」

 

聞き慣れた名前がアクマの一言によって脳裏を掠め、意識が不意に現実へと引き戻された。

 

どうして、アクマが彼の名前を……?

 

彼らの目的は、結月君?

どうして、とまた考える。恐怖よりも、何故アクマ達が結月君という一人の人間を追っているのか気になった。

助けなきゃ。あぁ、絶対にダメだ。彼の名前を、彼の姿を表に出すのは。

結月君。一言、名前を呟くだけで勇気が力が湧いてくる。それでもやはり、私の躰は限界を迎えているのか、脚は震えるだけで立つことすらままならない。

 

『デモまぁ、何人か殺せば当たりが出るってぇハナシだからイッちまえよ』

 

首筋にハサミを開いた状態で添えられ、後は閉じるだけで私の首は飛ぶ。

 

『イイ声で喘げよ』

 

アクマがニタァと悦楽し、徐々にハサミに力を入れて私の反応を確かめるように刃先が首筋に触れた時、

 

『うつけものがッ、後ろだ!!』

 

 

 

 

 

――白銀の閃光が音を置き去りにして、私の前へと舞い降りた。

 

 

 

 

 

『アァ〜? ……あ゛?』

 

ボトッ、カラカラ。空中に舞った何かが床へと落ち、そんな音を立てて両者の間に転がった。

肉質のある、冷徹なそれ。

それは――私の首へとハサミを突き立てていた、アクマの腕そのものだった。

 

「はあぁぁぁ。ほんっとに期待裏切らねぇよな。毎回毎回、俺の平穏を崩すのはいつもアクマで、俺の大切なものを傷つけるのもまたアクマだ」

 

聞き慣れた、少し憎悪の篭った、むしろ呆れたような声が響き、銀線は右手に持った刀を振り払い血糊を飛ばす。

ただの刀。そう見えるそれは、ピリピリと雷光を走らせると共に燐光を帯び、砂のように崩れ去っていく。

 

「お疲れ様、名もなき無名の刀。……やっぱり普通の武器じゃ一度が限界か」

 

目の前に立つ少年は風化するように崩れ去っていく刀を見詰め、見送ると私に視線を向ける。

 

「大丈夫かリナリー? って、あんまりいい状況じゃないよな」

 

「結月、君……?」

 

「悪いけどリナリー、君ではこのアクマ達には勝てない」

 

目の前の驚異に対して、彼は平然とそう言った。

背中を向け、尚も歩き私の方へと歩み寄ると腰を下ろし視線を合わせてくる。そのまま彼はその身に着ている羽織を脱ぎ上半身裸になると、私に被せる。

私の胸はドキドキと高鳴り、ようやく自分がどんな格好をしていたのか理解した。羞恥で顔を染める私に彼は微笑むように普段通り笑う。

次いで、私の首筋にそっと振れた。

 

「ぅんっ……」

 

「ちょっとじっとしてろよ」

 

僅かな痛みに艶めかしく呻く私の顎に手を添え、クイッと優しく持ち上げる。そうして何度か逡巡し、視察した後に彼はどこからともなく包帯を取り出し丁寧に巻き付けていった。

 

「今度は脚、上げてくれる」

 

「……! う、…うん」

 

ついでにと脚に手を撫でるように添えられ、一瞬迷ったものの変なことにはならないと確信し、熱に惑わされながら承諾すると彼は私の脚を手一つで上げてしまった。

私と彼の間に長い沈黙が感じられ、応急処置が続く。

さっきと同様、丁寧に巻かれていく包帯に視線と意識を落とし羞恥に悶えた。

 

(んんっ……!?)

 

と、いきなり鎖骨から胸を辿りおへその上辺りまでつーっと撫でられ変な声が出そうになる。それも我慢し、壁際に追いやられた格好の私は彼を見上げた。

上目遣いに、彼を見上げ――胸の内の熱が限界温度を越す。なんとか平静を保っている私は、彼の視線が優しくていつも通りのことに安心した。

 

「はい、終了。後は……フィー、頼めるか?」

 

「それはいいけど……さっきのセクハラだよ」

 

「……ごめんなさい。無意識でやってました」

 

「まったくもう。結月ってばこう焦ってるとすぐ視野が狭くなるんだから。私はいいんだけどね」

 

どこからともなく、いつものように結月君の隣にいるフィールティアさんが呆れたように言う。

その奇妙な空気に私は困惑した。

目の前にアクマという状況は変わらない。それなのに、彼と彼女は何の恐れもなく二人して会話している。

 

「それじゃ、頼む」

 

「わかったよ。――おいで、オルトリンデ」

 

右手を上げ何やら謎の言葉を唱えるフィールティアさん。

同時に右手の甲に紋章が紅蓮の輝きを放ち、同じく紅蓮の炎が辺りを舞い踊った。光が、炎と共に彼女を包み込み、露散すると中央には何やら人影が見えた。

 

そう、それは、―――異形。

 

紅蓮の炎のようなショートの髪。

紅く光る紅の瞳。

更には、頭に猫の耳とお尻に尻尾をつけた人型の少女が姿を現した。

 

「ごめんね、手伝ってくれる?」

 

「命とあらば。私はマスターに付き従うまでです」

 

二人が私の脇へと歩み寄ると、同時に肩を担ぐように腕を差し入れ、立たされる。

そのまま立ち去ろうとして、私はそれを拒んだ。

 

「待って、結月君が……!!」

 

「ダメだよ、リナリーちゃん」

 

「でも……! フィールティアさんは結月君が心配じゃないの!?」

 

俯き加減にフィールティアさんはしばらく顔を逸らす。これまで何度も討論して、出たような答えを彼女は返した。

 

「私だって心配じゃないわけないじゃない。でもね、リナリーちゃんは自分のことをわかってる? 今のあなたは、無様に私に運ばれてるしかないんだよ。抵抗できる?」

 

言われて身体に力を込めようとすると、力は入らずだらしなく私は彼女の肩に身を預けるだけだった。

 

「そんなリナリーちゃんが結月の力になったってただの足手纏いだよ。それにね、リナリーちゃん」

 

気づけば結月君とは離れ、階段をゆっくりと降りていた。悲痛な顔でフィールティアさんは私を一心に運び続ける。その顔を見て、私は察した。

一番、近くに在りたいのは彼女であるのに。

私を安全な所へと運ぶ為に、彼の元を離れた。

それが、彼の望みであるから。

 

 

「―――結月は私との約束を、あの娘たちとの約束を破らない。だから、すぐ帰ってくるよ。それを信じて待つのが、夫婦の片割れとして当然のことなんじゃないのかな。って、私は思うんだ」

 

 

気丈に微笑んでみせる彼女の笑みは、どこか無理をしている。そう感じた私はただ俯き、気を使われたのだと悟った。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

『……話は終わりか』

 

光と影の狭間から、無機質な機械の声がした。

闇に紛れるようにして影に隠れていた、刀を持ったアクマが一歩前に進む。

 

「悪いな。待ってもらって」

 

『よい。我としても貴殿と堂々と戦いたいからな』

 

礼を重んじる一体のアクマ。しかし、それとは別に先程の腕を斬り飛ばしたアクマと、両腕に大きな刃を携えたアクマが憎悪と悦楽を込めた凶悪な笑みを浮かべて、

 

『オイオイ、取り逃がしちまったじゃねぇか。テメェ何ジャマしてくれてんだ。もう少しでイイ声聞けたのにヨォ! ブッコロしてやるッ!!』

 

腕を斬り飛ばされた方だけが突貫してきた。空を浮くように飛ぶアクマは真っ直ぐこちらへと向かって来る。重力に逆らうような飛行速度で一瞬で肉薄すると同時に、残った左腕で殴りつけてくる。

 

『死ねェェェェ!!!!』

 

全力の一撃。悪魔の放った拳を左手で受け止めた。ピタリと動かなくなった腕に、アクマは顔色を変える。

 

『なっ!? ―――……ってぇ、言うと思ったか?』

 

嘲るような笑いへとアクマの口元が歪み、弧を描くと同時に嫌な気配が触れた拳から流れ込んで来る。

咄嗟に手を離し、距離をとると、掌に違和感が走った。

刹那――掌に僅かに赤い線が現れ、小さな水溜まりが湧きだし紅い点を作った。

 

『危なかったわね。大丈夫? ユヅキ』

 

「なんとか。それよりも、レスティアは大丈夫か?」

 

『え……?』

 

首を傾げるようなレスティアの様子が脳裏に浮かび、俺は確認の為に口に出すことにする。

 

「だから、契約紋章には傷はついてないけど、レスティアは大丈夫なのかと思って」

 

『……本当に馬鹿ね』

 

何故か、心配したら罵倒された。

 

『そんな傷程度で私にはダメージなんて無いし。契約紋章がなくても私はいなくならないわ。絆は絶対だもの、あなたには責任を取ってもらわなくちゃいけないんだから』

 

「そうか」

 

『それよりも、今日は誰を使ってくれるのかしら?』

 

ねっとりとした声で誘惑するようにレスティアが耳元で呟く。普段、彼女達を俺は使い分けている。その中でも使用率が高いのが、レスティアとエストの両名なのだが、先程の速さが欲しい場面ではハクアを使った。

ハクアは速さと雷を操れる。そして、雷の付加も可能だ。その代わり、付加した物は強度が無い限り一度で灰となり崩れ去ってしまう。条件は電気を通せるものであれば“何でも可能”。それ相応の強度がなければ、使う前に使い物にならなくなってしまうのだが……。

 

「出来るだけ、特別なものは隠しておく方がいいな。レスティアとエスト、頼めるか?」

 

『私はユヅキの剣、あなたの望むままに』

 

『色々と気に食わないけど……まぁ、いつも通りね』

 

右手と左手の甲から光が迸る。青白みを帯びた白、何処か暗色を秘めた明るい紫、二つの光が薄く輝き、虚空に二つの武器を具現化させた。

右手には白銀の刀身を持つ、柄が煌びやかに装飾された剣を。

左手には黒色の刀身を持ち、真っ赤な血を連想させるラインを引いた剣が。

 

 

 

「生きて逃げられると思うなよ」

 

 

 

顕現すると同時、右腕の無い“リナリーを傷つけたアクマ”に肉薄する。

 

「リナリーを傷つけた分だ。いくら醜い悪魔といえど、綺麗に咲かせてやろう」

 

刹那、右手の«魔王殺しの聖剣»が空を斬り、アクマの首筋を通過する。だが一瞬、アクマが動揺するも自分に何も無いとわかると左腕を振り上げた。

 

『ハハハハハハッ! バカめ、テメェの攻撃なんてカスリもして――……ア゛ァァ』

 

直後、嘲笑していたアクマの首がズレ、ごとりと床に転がり落ちる。

 

「――次はどっちだ?」

 

転げ落ちたアクマの首はもう言葉を話す事は無い。肉質のある音と何処か重さを持つ音がガシャリとボディから発生し崩れ落ちるのを横目に、興味ないと文字通り切り捨てた。

その中で、仲間が呆気なくやられ両腕に刃を携えたアクマが危険を感じ奇声を上げる。

 

『ギュルルァァァア――!! 死にやがれ、エクソシストォォォォォ!!』

 

予備動作を見せたアクマが一瞬で加速して上段へと跳ぶ。まるでムササビのように腕を広げ、飛びかかる姿に俺は至って冷静だった。

ゆっくりと前へと足を踏み出し、逃げる動作を見せず前進を選択する。アクマが迫り腕を交差し、俺がいた床へと寸分の狂いもなく攻撃を叩きつけた。

がしかし、直線上にいた筈の的へは攻撃は当たらず、アクマが振り返る――のだが。

 

『……ンナ、バカな……グギ、ギギァァ』

 

両腕は落とされ、胴体は二つに分かたれた後だった。

ドォォォン!! 派手な爆発音を轟かせ、爆散するアクマのボディ。爆炎を上げ赤い炎を散らす中央から、ガシャリと機械質な音がした。

 

『敵であれ見事な剣技であった。若人よ』

 

「さっきから思うんだが、お前は手を出さないんだな。お前から見ればチャンスだったんじゃないのか?」

 

『フッ、アッハハ! 我は卑怯なことはせぬ。それよりも、我はノア様から言伝を預かっているのでな。伝える前に破壊されるのは避けなければいけなかったのだよ』

 

爆炎の中を悠々と進み、達者な口を利かせる刀持ちのアクマは不敵に笑う。

まさに、それは武士の姿。

アクマの中には多くの種類が、性格が、悪質が存在するが性格が開花した時にその先ほぼすべてが決まる。最終的に行き着く先は決まっているが、このレベル3だけは例外のようでそれほど悪質を備えてはいない。

 

なんだか、興が削がれるような感覚。

破壊しなければいけないアクマに興味が湧く。しかしそれよりもアクマは気になることを口走っていた。

 

「伝言って……ロードからか」

 

『ご名答。我らが主君の姫君から仰せつかっている。内容を伝える、心して聞け』

 

そして、アクマは書簡のようなものを取り出し、サラサラと読み上げていく。

 

 

『やっほー元気ー? ボクは元気だよぉ。でもね、結月が引っ越して幾年。ボクはずうーっと退屈だったんだ。毎日学校に行って、帰ったら宿題ってー……ボクには必要ないのにねぇ。千年公も手伝ってくれるんだけど、やっぱり君がいきなり消えてからキレてたよ。ほら、逃げるのはわかるけどさぁ。宿題をやってくれる人が減ったからボクも千年公もティキもぷんぷんだよ! まぁ、それよりも君が昔あれを盗んじゃったことに激おこなんだけど。じゃあまたね、今度はベッドの上で』

 

 

ものすごく不穏な言葉が最後に付け加えられ、俺は絶句する。目の前のアクマは書簡を綺麗に折りたたみ、歩を進め距離を縮めるとポンと先程の密書を手渡してきた。

 

剣が―――震える。

言わずもがな、エストとレスティアの二人がカタカタと震え、掠れるような声で動揺を隠しながらも話しかけてきた。

 

『……この際、問い詰めるのはナシにするわ。でも不愉快ね、後でわかってるわよね?』

 

『私も不愉快です。……後でいろいろ要求します』

 

「ちょっと待って、俺は無実だ。要求には応えるけど無実だから!」

 

剣の震えが強くなる。

振動し、打ち震えるような感覚が手に伝わる。

そして、一瞬にしてその感覚は消えた―――柄を握る感覚と共に。

 

「ちょっ!? レスティア、エスト!?」

 

『……気分が悪いわ』

 

『私も胸が苦しいです。熱くて熱くて、どうやら冷却時間というなのインターバルが必要のようです』

 

「誤解だって……。って、聞いてる?」

 

覚えておけというのは後の話ではなかったのか。

応答が無く俺は脱力した。どうやら拗ねてしまったらしく二人はしかとを決め込み、話にすら応じなくなってしまった。

仕方なく、もう一人の大切な娘へと話しかける。

ただ、先程の会話を聞いていた場合、望みはものすごく薄いのだが……。

 

「…………えっと、ハクア…?」

 

息を飲む音が聞こえた。その数秒後、聞き慣れた柔らかく優しい声音で白狐の少女は応えた。

 

『……はい。なに? 結月』

 

声からして彼女は少しだけ不機嫌だ。思わず地雷とかを踏み抜かないよう慎重になり、俺はワードの中から適切な言葉を探す。

それでも、俺はやはり言い訳とかそういう話は苦手だ。無根の事実がちらほらあるとしても、誤解を招かれたのは罠だとして、それを踏まえた上でも誤解される自分が悪いと思っている。

ただ、その悪いところがわからない。

もはや反省のしようが無いと他人には言われるのだが、俺はそれでも悪いと思っている。

 

「……力を貸してくれないか」

 

『……いいよ。私、信じてるから』

 

「ありがとう」

 

それを理解してるのか、後で追求することは濁しつつ、ハクアは了承した。

クロス元帥の言葉を借りるなら、『最高にいい女』だと俺は思う。だからだろうか、側にいて欲しいのは。彼女が控えているだけで、力が湧いてくるのは。包容力のある彼女の眼差しと気持ちが、付加を使わずして力を与えてくれる。その関係が、なんだか心地よかった。見守ってくれる彼女の全てが愛おしい――それが、俺と彼女の契約の上で力を出すために必要な儀式なのだろう。

 

「――おいで、ハクア」

 

『はい。私は私のすべてをあなたに捧げます。たとえ、あなたが世界の敵になろうとも』

 

左胸に青白い燐光が顕れ、周囲に稲妻が迸る。

ピリリッ、と空気を穿ち、その光は収束するとそれは見慣れた形状の武器になった。

 

「さぁ、仕上げだ」

『はい。……ですが、出来るだけ早く終わらせてくださいね。これは』

 

 

 

―――あなたの身を焦がす諸刃の剣なのですから。

 

 

 

互いの名を名乗ると同時、再び戦いの幕は上がった。




何か言うことがあるだろうが気にするでない。
……死亡フラグがたっただけだよ。
とまぁ、今回は一旦区切る。
次で決着かなぁ……バトルの苦手なんだよ。
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