無限書庫の黒柩 D.Gray-man   作:黒樹

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※スローペースに飽きた模様


16夜 入団者

 

 

 

断崖絶壁を登る一人の少年がいた。英国風の服を着た白髪の短い少年だ。傍らには金のゴーレムがパタパタと飛び、追随するように少年の周りをひらひらと踊っている。

 

そうしているのも束の間、金のゴーレムは崖登りに夢中(必死)な少年の頭へと着陸。

 

「ティムキャンピー。ちょっと重い。せめて労わって!」

 

頭に登ったゴーレムへと文句を投げつけるも、少年の言うことは訊いていないのか、シーンと大人しく羽を休める、金色のゴーレム・ティムキャンピー。

一人だけ休んでずるい。

と、文句を声には出さないも、その顔には感情がありありと模写されている。

 

苦悶を漏らしながら、少年は崖上りを再開した。

器用に特出した岩肌を選び、手を掛け足を掛け、出っ張りに引っ掛けて登っていく。

周りには金のゴーレムとは違う、黒のゴーレムが複数体飛んでいる。じっと少年と金のゴーレム、ティムキャンピーを見据えながら包囲網を作り続けていた。

それをなんと捉えたのか気にした様子もなく、少年は崖の頂上へと手を掛け、腕をつっかえさせ最後の力を振り絞り登りきった。

 

「やっと…ついた…」

 

長らく目にしていなかった大地に歓喜する。だらしなく手足を投げ出し、少しの休息を楽しんだ。

 

「ここが…黒の教団本部。なんでこんなとこに作ったんだろう……っ」

 

断崖絶壁、その頂点にいかにもな雰囲気で建設された古城のような建物を見上げる。黒。円筒形。ホラーハウスのような外観は、やはりホラー映画のそれだ。

 

立ち上がりトランクを手に少年は再び前に進む。

登りきった余韻に浸っていたかったが流石に目的地を前に留まるのもいかがなものかと、思ったのだ。何よりも早く布団に入りたかった。ただそれだけ。

 

門の前へと進む。辿り着くと、少年は意を決してそびえ立つ巨大な城を見上げて声を上げた。

 

「すみませーん。クロス・マリアン神父の紹介で来ました。黒の教団幹部の方に謁見したいのですが」

 

『……』

 

「……誰もいないのかな?」

 

しかし、返らない返事に少年はポツリと佇む。

そんなはずはない。仮にも黒の教団本部。エクソシスト達の集う、総本山だ。

――とは思いもせず、少年は留守かなと悩み始める。

純粋に信じた少年は、聞こえていないのかと解釈した。

 

「すみませーん」

 

『要件を言え、少年』

 

気怠い声が返る。若い男の声に吃驚して慌てながらも、少年は詳細を伝えた。

 

「クロス・マリアン神父の紹介で黒の教団に来たんですけど、幹部の方と謁見できないでしょうか」

 

『マリアン、か……いいだろう。後ろの門番の身体検査を受けろ』

 

「はい……?」

 

門番。そんな人の気配は感じられず振り返るとそこには化物とも見て取れる何かが自分を見下ろしていた。思わずギョッとして数歩後ずさる。

そんな反応は見慣れたのか、門番――壁のような巨大な化物は少年をじっと観察する。

 

『門番。そいつ、どうだ?』

 

『スキャン開始。――バグか? ムゥウゥ?』

 

エラー発生。スキャン失敗。

再試行。エラー発生。過去のdataを検索。

既視感。既視感。――事例あり。

PENTACLE★ 検出・及び危険性増大。

AKUMAの可能性――あり。

 

 

 

――よって、GUILTY!!

 

 

 

jud.有罪判決。

被疑者=クロス・マリアン神父の知人を名乗り単身突っ込んできたAKUMA。

 

―――非常警戒宣言発令―――

 

城内のエクソシストは侵入しようとしたAKUMAを排除。死刑執行の断罪を下せ。

 

『こいつ、AKUMAだああぁぁぁ――!!!!(かも)』

 

喚き散らす門番が、診断結果を下す。

 

『額の五芒星はAKUMAの印! 伯爵の仲間だァ!』

 

「ちょっと!? 確かに呪われてますけど、ボクは立派な人間ですよ!」

 

『ギャアァァァァ━━━━━━!! さわんなボケェ』

 

必死に訴える白髪の少年を引く事も出来ず、ドンドンと叩かれながら門番は己の危機を優先する。

少年にとっては、不運だったのかもしれない。

門番にとっては、幸運だったのかもしれない。

月明かりに浮かぶ古城の月、言い争う二人(?)の頭上には一人の男が立っていた。

 

「単身で突っ込んでくるとはいい度胸じゃねぇか」

 

今宵、白髪の少年は理不尽と踊る。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

研究班が思い思いにくつろぎながら、とあるフロアで仕事の息抜きにと監視カメラの映像を眺めていた。普段は訪れない来客に団員達は目を輝かせ、面白半分で観戦に徹する。

そのフロアの一つのソファーの上で、モニターに視線を寄せながら、俺は嫉妬の視線を存分に受けながら一人の少女の太ももに頭を載せていた。

 

「……ねぇ結月くん、AKUMAが侵入してきたんだって」

 

膝枕、をしていくれているのはリナリーだった。愛おしい者を見るような瞳で、髪を撫で付けながら幸せそうに呟く彼女は動く気がないようだ。

先ほど、来客と受け答えをインカムでしていた俺はそれを適当な位置に転がしている。

団員達は非常警戒態勢に移行。その中でも焦りすら見せず、俺は欠伸を一つ。

 

「もう神田が行っただろ……仕事熱心なんだからさ」

 

もう一つのモニターには月と浮かぶ神田の姿が映っている。ご到着のようだ。

 

「結月くんってば、『クロス元帥』って訊くと急に不機嫌になるよね」

 

「フィーを奪おうとしたんだ。当然だろ」

 

それで教団大好き少女が俺を嫌うなら、それはそれでいいと思う。コムイのドス黒い殺意が消えるのなら、今も握り締めている怪しげな薬を使わないなら本望だ。

 

「私はそんなことで嫌いにならないよ。……そうやって嫉妬してくれるのは、ちょっと嬉しいしね。私にもそうしてくれるんでしょ?」

 

嗚呼、またコムイさんの殺気がドス黒さを増していく。

リナリーの笑顔とコムイの殺気、両方を取るか、リナリーの泣きそうな顔とコムイの捻れる狂気、の二つを取るか。

 

「……まぁ、そうなるかな」

 

「えへへ♪ ――あっ、ちょっと、ダメっ」

 

恥ずかしくて、さらにはコムイの殺気と怪しげな薬から目を逸らすようにリナリーのお腹へと顔を傾けると甘い声が響いてくる。

幸いにもスカートは捲れることなく、コムイの殺気が強くなったのでモニターへと視線を戻すと、幾らか殺気は和らいだ。

 

その時だ。

六幻で斬りかかった神田の攻撃が白く大きな甲殻種の手で防がれたのは。

 

科学班の面々は驚愕に目を見開き、その巨大な人間サイズの白くも輝く腕を見る。肩先から手の先まで、神々しい光を放つ巨体な手に変わったそれには、一筋の緑の傷跡がつき、蝕むように痛々しい傷がついている。

少年は驚いたように、また神田――ユウも同じくその巨大な手に目を見開く。

 

『テメェ、それはなんだ?』

 

『イノセンスです。エクソシストですよ』

 

『……おいっ、門番!!!!!!』

 

怒声が響き渡り、リーバーさんがインカムのヘッドホンを押さえて耳を塞ぐ。

門番は怯えたように、ひぃいぃい、と冷や汗を流した。

 

『……確かなんだろうな?』

 

『だっ、だってよぉ、五芒星が浮かんでんだ。バグかと思ったけど、見過ごすわけにはいかねぇしよ』

 

しどろもどろに答える門番に白髪の少年は訴えるように門番の顎を叩く。

 

『ちょっと呪われてますが僕は人間ですよ! イノセンスだって持ってますし!』

 

『ひぃぃぃいい! 触んなボケェ!』

 

『……まぁいい。切り開いて確かめればいいだけだ。文句ねぇよな、結月』

 

「あぁ、いいぞ」

 

『ちょっ、結月!? えっ、結月!? 僕のこと忘れたんですか会いましたよね、というか今なんて!?』

 

「何言ってんだお前なんて知らん。フッ――クロスの関係者は全員悪魔に決まってるだろ。第一に男の知り合いなんていないしな」

 

白髪の少年と門番の漫才に飽きたようにユウは刀を横に構える。右手で柄を持ち、左手を添える。突進体勢の構えで今度は予備動作なしに突貫した。

 

『ちょっ待った待った待った! クロス元帥から紹介状が届いているはずです。コムイって人宛に!』

 

首皮1枚のところで剣先を突きつけられ、白髪の少年を前にユウはピタリと止まった。

科学班一員の視線は観戦している……危険な薬物を手に何かを消そうとしているコムイへと、そうしてコムイは初めて来客に気づく。

 

「……あれ? みんなどうしたの? もしかして、そこの悪魔を滅するのに協力してくれるの?」

 

「どっちのこと言ってんですか。結月でもなく、というか悪魔じゃなくて、元帥からの紹介状ですよ」

 

見ればコムイの机は山のように書状が積み重ねられているのだが、クモの巣が張り、ホコリが降り積もるやらで数年触った形跡がない。

 

「そこのキミッ!!」

 

「……何故そこで俺を指す?」

 

ビシッと指を差された俺は間の抜けた声を出す、コムイはそんなこと知るかと問答無用で指示を出す。

 

「あそこの机調べて」

 

「あれだな。リナリーに膝枕してもらってるのが妬ましいんだね、お義兄ちゃん」

 

「君に『お義兄ちゃん』なんて呼ばれる筋合いはないっ!!」

 

せめてもの意趣返しに『お義兄ちゃん』と呼んでみたが激昴したコムイの拳が世界を揺るがしたところで、俺はリナリーの膝に頭を預けたまま祝詞を紡ぐ。

そして、右手を振り上げてから振り下ろし、風を机の上へと旋風を巻き起こさせた。

その中から一通の手紙を――反射的に炎を爆ぜさせ爆散させた。

 

「あっ、やべっ、つい燃やしちゃった」

 

嫉妬って怖い。

憤怒って流石は大罪。

末世まで恨みの炎で燃やせそう。

原子、いや、遺伝子すら残さない。

灰にしてやる。廃にしてやる。

 

嫉妬と憤怒で手紙って燃やせるんだねーっと、実録実験が終わったところで、リーバーさんが恐る恐る訊いてくる。

 

「なぁ、いまお前が燃やしたのって……」

 

「安心してください。あの寝盗り元帥の手紙は見つけたので」

 

「どれだ。俺には見えなかったんだが」

 

「あぁ、燃やしたからな」

 

「やっぱりか!」

 

なんで燃やしたと詰め寄って来るリーバーさんに俺は一言だけ告げる。

 

「安心して下さいって。内容は覚えてますから」

 

「そ、そうか、読み上げてくれ」

 

「えっ、読み上げるのも嫌なんですけど」

 

「じゃあ、なんで燃やした!?」

 

「記憶の一片にも置いておきたくないです」

 

「だからか、お前が、珍しく室長の言うことを訊いたと思ったらそういうことか!」

 

クロスの残した異物は早急に処理しなければいけない。ルールが招いた悲劇にリーバーさんが崩れ落ちる。

 

「あはは、ダメですよリーバーさん。結月はクロス元帥が大ッ嫌いだからそんなの任せちゃ。結月も、本当は内容くらい検討ついているんでしょ?」

 

暗闇から顔を出し、寝そべる俺の腹に跨りフィールティアが妖艶に微笑む。

本来なら、書類はキチンと整理する俺のことをわかっているからか、フィーは怒らなかった。

 

「……クロス元帥の手紙によるとこうです。近々、ガキを送るからコキ使ってやれって。ユウー、というわけで首だけ城門に飾って肉体だけ持ってきて」

 

『あ? こき使えってのに頭切り離してどうすんだ?』

 

スピーカーからユウの声が響き、口角をにやりと上げる。

 

「やだなー、ユウくん。臓器は売買してバイバイ。蕎麦の研究のための資金源にするんだよ」

 

『……なら、仕方ねぇな。六幻の錆にしてやる』

 

再度、ユウが刀を構えたところで、リーバーさんの悲鳴にも似た突っ込みが入る。

 

「何が仕方ねぇんだ、止めろ結月!」

 

「何言ってるんですか。ここはブラック企業、黒の教団ですよ。ちょっと手荒い歓迎会です。……死んだらそこまでということで」

 

私怨を込めた呪詛を吐いたところで、モニターからは白髪の少年の悲鳴が上がる。

そこでやっかみの視線がコムイから向けられた。

嬉々とした表情で、心底嬉しそうにリナリーに伝令を渡す。

 

「リナリー、ちょっと手伝って。久々の入団者だ♪」

 

「ごめんなさい、兄さん。今忙しいから」

 

そう言って髪を撫で付ける難しいお年頃のリナリーは幸せそうに拒絶した。

一方で、絶望のドン底に落とされたような、世界の終末を見たような顔のコムイは、ガトリングガンを取り出した。

 

 

 

 

 

フィールティア、リナリーの二人とコムイが暴れだしたフロアから出て正門へと向かう。

開門、と訊き慣れたことのない門番の機械音声の後で例の二人が姿を現した。

 

「まだやってるのかユウ。時間切れだ、六幻を下げろ」

 

「チッ」

 

舌打ちの後、渋々とユウは六幻を下ろす。

これに講義の声を上げるのは、白髪の少年だ。

 

「死ぬかと思いましたよ! ところで、お久しぶりです、結月にフィールティアさんも」

 

「ごめん、誰?」

 

割と真面目に首を傾げると、フィールティアがこっそりと耳打ちしてくる。

 

「アレン・ウォーカーだよ。いたでしょ、元帥に稼いだお金全部取られちゃってた子」

 

「あー……いたな。そんなやつ」

 

「覚え方酷くないですか!? 他にも印象的なところありましたよね。この顔の赤い刺青とか、隠した左手とか、白髪とか」

 

言ってて悲しいのか白髪というワードに少し過敏にアレンは言葉を強調する。

 

教団の案内を続け、コムイの元へと案内すること数十分。彼はAKUMAより悪魔らしい男が終着点にいることを、まだ知らない。

 




主人公に特性追加。
クロスの名前を聞くと、機嫌が悪くなる。
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