無限書庫の黒柩 D.Gray-man   作:黒樹

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この視点の悪いところって他者の感情を多少表現出来ないことだよね。



4夜 誤解協奏曲

 

 

 

「やっぱり帰ろうかなぁ……」

 

とてつもなく大きな断崖絶壁に溜息混じりに呟く。

雲を突き抜け、聳え立つ崖は何者も拒むかのような高さを誇り、その身を雲の彼方―――蒼の先に隠してあるだろう建物に向ける視線は遠かった。……灰色だけど。

 

「でもね、毎回こんな断崖絶壁を登るような危険な真似はしないと思うよ」

 

隣で言うフィールティアの言葉にも一理ある。

誰が命懸けで毎回、アクマと戦う上に崖上りなど命を掛けなくてはいけないのかと。

 

問題としてはもう一つ。

黒の教団に入団するには、幾つもの部門がありそのうちで比較的安全なのが研究班、つまるところ科学者なのだが、如何せん学歴などは皆無。なれば死地で右往左往するファインダーになろうかと提案が上がったのだが、それも無理難題に等しかった。

 

「そうだけどさ……。いや、もうなんで戻ってくるかなぁ」

 

あの日、幸せへの一歩を掴んだはずだった。

エクソシストなんて関わらないぞ、と意気込んだはずだったのに……。

 

「行く先ついでにイノセンスでも回収してたら、死地に赴く人いるしファインダーとかアホみたいに命かけるし、今度は黒の教団に追われるし。アイツまで追ってくるし。挙句にはこれだからな」

 

黒の教団に来た理由はいくつかある。

その一つは、イノセンス回収の目的のせいか黒の教団に追われていること。最善の注意を払って行動していたのに、何故かフード姿の二人組と情報が出回っており散々こちらも逃げ回っている。なら、教団内に潜り込めばバレないんじゃない?と至ったわけだ。

二つ目は、フィールティア曰く見てられないという事で人助け精神か、昔の情か、死に行くファインダー達を思っての行動でもある。

三つ目は、単純にエクソシストの強さを知りたかった。まさか少数精鋭で伯爵には挑まないと思うが、エクソシスト達がAKUMAレベル2と3の差に対応できるか、無駄死にだけを阻止するため。

 

 

「―――で、どうする?」

 

現実逃避から戻り、数分崖を見つめた後、問いかける。

 

「やっぱり登るしかないんだよね……」

 

「いや、他にも方法はあるけど」

 

遠い目をするフィールティアにそう答えると、彼女は一応の確認のつもりで、

 

「本当に?」

 

と、聞き返す。

 

方法はもう一つあった。おそらく、地下水路かなにか通路がありそこに突貫すれば、警備に見つかるだろうが話は聞いてもらえるかもしれない。

 

だが、もしかしたら、これは……。

 

「ファインダーになる試験かもな」

 

「試験?」

 

「そう。例えば、崖を登れればファインダーとして教団に入れるとか」

 

「でも、落ちて死んじゃったらどうするの?」

 

「死体の処理かー……。うん、ないな」

 

崖を登り、真っ逆さまに落ちる光景は身震いのするもの。血が飛び散り、肉が裂け、内臓が飛び出る。

その処理のためか、監視カメラか、小さなコウモリのような羽付きの一つ目が崖の周りを飛んでいた。

こちらをじっと見て、何匹かが距離を保っている。訝しむような視線に、俺は一瞥してからフィールティアに向き直った。

 

「俺らみたいな子供を雇うとは限らないし、登るか。危ないから掴まってろよ」

 

「うん、無理しないでね」

 

隣に立つフィールティアの膝裏に左手を、肩を横抱きにしてぎゅっと抱き締めると、彼女も合わせるように首に手を回してきた。

密着する肩、柔らかな肢体、漂う甘い香りにスゥーと意識が研ぎ澄まされる。

 

―――絶対に落とさない。怪我させない。

 

決意するのには十分だった。

こういう時に限って、失敗はしない。

 

「―――行くよ」

 

一声かけてから足に力を込める。フィールティアの腕の力も強ばるように強くなり、しっかりと固定された。

 

刹那、崖に向かって走り始める。

地面を蹴り、崖に足を掛け、次々と跳躍。

コウモリのような監視カメラは慌てて追いかけてきた。

それに構うことなく、崖を登り進める。

垂直にも等しい、断崖絶壁。殆ど足場もないというのにそれでも登り進める。もし止まってしまえば、それこそ崖の下へと真っ逆さまに落ちていくだろう。

 

 

「到着」

 

「ご苦労さま。……重くなかった?」

 

「いいや、軽いよ」

 

僅か数分で崖を登りきり、一息つくと目の前に広がっていたのは大きな塔。そのまま歩いていくと、その全長は近くに行くほど大きく見えた。

 

「すみませーん」

 

これまた巨大な門を前に、声を掛ける。

 

「……誰もいないのかな」

 

「そんな筈はないけどな。だって本部だろ。拠点をすっからかんにしてみろ、それこそ襲撃してくださいって言ってるようなもんじゃないか」

 

コウモリの羽音だけが、パタパタと返事を返すのであった。

 

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

 

それはいつも通り、兄さん達へ給仕として、補佐として科学班にコーヒーを配っていた時だった。

私の名前は、リナリー・リー。黒の教団、科学班室長の地位を得ているコムイ兄の妹。エクソシストになっている私が室長補佐として動いている時だった。

 

「ん……? 室長、なんか珍しい子供が教団を見上げてますよ」

 

「いちいちそんなの報告いらないよ。たまに崖に登りたいなー、なんて思う子だっているんだから」

 

子供。その言葉に私は少し惹かれてしまった。

黒の教団に所属しているとは違い、普通の生活をしている人。エクソシストではない人。

だから、普通じゃない私は“普通”に惹かれていた。その子達が何を思って教団を見上げているのか知りたかった。

給仕を終えた私は銀のトレイを置き、リーバー班長が注目しているモニターの前に進み出る。

 

 

―――そこに映っていたのは、綺麗で美しい2人の少年少女だった。

 

 

少年の方は綺麗な白銀に輝く髪を持ち、腰のあたりまで伸ばし、澄んだ蒼い瞳を持っていた。珍しい和服に身を包む彼は少し大人びた、そんな雰囲気。

もう一方の少女はというと、少年に負けず劣らず美しい金髪を臀部まで伸ばし、少年の瞳とは違い対照的な真紅の瞳を覗かせていた。

 

「えっ……?」

 

一瞬、少年の方がこちらの監視用無線ゴーレムに一瞥、それがなんだか気づいたようだけど……。

 

「ふむ…。監視用ゴーレムと思ってはいないみたいだな」

 

「気にした様子もないっスね」

 

私の見間違いだったらしい。

少年の瞳が、画面の向こうにいる私を見たような気がしたけど、それは一瞬、目があったと感じたからだろうか。

 

あったと思いたかったのか。

 

視線が交わったような感覚。私はそんな小さなことに温かくなりながら、モニターを見ることに時間を費やした。

あちらの会話はこちらには聞こえてこない。

それでも少年少女の会話が気になり、聞こえるかもと耳を澄ませる、そうして兄さんにゴーレムをもっと近づけさせるように頼もうと思った時だった。

 

「なっ!?」

「嘘だろおい……」

「あの断崖絶壁をいとも簡単に」

「ゴーレムを追尾させろ!」

「もうやってる」

 

少女をいきなりお姫様抱っこした少年が垂直な崖を走っていく。その姿に私は見惚れていた。

科学犯の人たちが焦る声も忘れて、私はただ綺麗に舞うその姿を見つめているだけだった。

 

「すごい……」

 

思わず漏れた感嘆の声、迷いなく進む少年の姿とそれを信じて身を委ねる少女の姿が、小さな頃に読んだ御伽噺のような情景を思い出させる。

その間にも、彼らは崖を登り詰めてしまう。

唖然とする科学班の人達を前に、少年少女は容易く崖の上に、教団の前に降り立った。

 

『すみませーん』

 

ここがどこだか知ってるのか、少年の方が門に向けて声を掛ける。

 

それに、科学班は呆然。

一瞬、襲撃者かと思えば、彼らは礼儀正しく門の内へと声を掛けたのだ。その行動に非常警戒態勢をとろうとしていた一同はまた、動けなかった。

 

「……どうします室長」

 

「んー。敵なら奇襲してきても可笑しくないんだけどねぇ。潜入にしても……まずは、AKUMAかどうか調べることからにしないと」

 

「あの身体能力はアクマかもしれませんよ」

 

「その時はその時だよー。現在、エクソシストが城内には数人いるし大丈夫でしょ」

 

コーヒーを飲みながら兄さんが言った。

ともかく、最初から疑うことには教団への入院者はいなくなってしまうだろう。

門の前で二人して話している少年達に、リーバーさんがマイクのスイッチを入れて、遠回しながら用件を聞く。

 

「えーっと、そこの少年少女達、ここは立ち入り禁止区域だ」

 

『すみません。ここは“黒の教団”だと聞いてきたのですが』

 

「その教団に何のようだ? ここはお前達の思っているようなものではない。地獄だぞ。給料や待遇はいいが、仕事はキツイし残業代はでねぇし、子供の求めるようなものは何も……」

 

日頃の鬱憤を漏らすリーバー班長。不平不満が次々と滑るように出てくる。

出来れば、こんな危険な仕事は子供にはさせたくない。

そんな本心を隠して、リーバー班長は彼らに諦めるように促そうとする。

 

 

―――命を落とす危険。

 

 

それに触れた時、彼らの目は真っ直ぐだった。

 

『仕事が欲しい。俺は誰にも殺されないし誰も殺させない。この娘と二人一緒ならどんな仕事も生きて成功させる。逃げることなら誰にも負けない』

 

蒼い瞳がゴーレムへと視線を合わせた。

その瞬間、蒼い瞳が私を吸い込んだような気がした。

視線が交わり、目が離せなくなる。

 

 

その瞳は……。

 

 

底知れない、なにかが。

 

それでいて、優しいなにかが灯っていた。

 

 

「んじゃ、後ろの門番の身体検査受けてくれ。このもんを潜れば戻れない。……いいな?」

 

『エクソシストを強制的にエクソシストとして働かせているくせに随分と生温いな』

 

「はは……ファインダーのやる気と同じくらい、エクソシストがいたらこんなことにはなっていないんだけどな」

 

苦笑するリーバー班長の声に僅かな静寂が、同意した。最初は好き好んでエクソシストになった訳じゃない。それに同情されているような彼の言葉に、本音を隠すことが科学班の人は出来ないらしく続けて息を呑むだけだった。

 

少年と少女が言われた通り、門番の身体検査を受ける。

ゴクリ、科学班の人達は息を飲んだ―――少女が先に身体検査をX線で受け、無事通過。

次に少年が検査を受けた瞬間、僅かな心臓の鼓動にドキドキと拭えない、そんな感覚に不意に科学班が飲み物を手にし喉の乾きを潤そうとした時。

 

 

 

『コォォォイィツゥゥゥアウトォォォ―――!!!!』

 

 

 

飲み物を飲んでいた科学班が全員、喉から飲み物を吹き出した。

門番が慌てて早口に捲し立てる。

 

『コイツの背中にアクマのペンタクルが浮かんでる! 五芒星はウイルスの証! 伯爵の仲間(かも)だー!!』

 

『結月はアクマじゃないよ! むしろアクマなのは門番の方でしょ!』

 

先ほど検査を終えて“許可”を得た少女は、少年の名前だろうか叫びながら講義する。

門番がアクマ、確かにそう見えてもおかしくないのかもしれない。

 

「非常警報発令! 城内のエクソシストは!?」

 

「あっ、神田……」

 

私が何かを言う前に状況は変わっていく。

もう一つ、出現したモニターにはエクソシストである神田ユウが、警報の根源を消すために城内を相棒片手に走り向かう姿があった。

 

「ま、神田1人で大丈夫でしょ」

 

すぐにモニターの中の神田は門の上へと辿り着く。

そうして、見下げる先にはAKUMAと判定された少年と人間と判定された少女。

 

『二匹で来るとはいい度胸だな』

 

……なんか勘違いしてる。

それを訂正する、リーバーさん。

 

『待て神田、女の子の方はアクマじゃない』

 

『あ゛? じゃあアイツはなんで一緒にいるんだ』

 

『よくある話だ。昨日話していた、愛し合っていた人間が今日はアクマ。多分、おそらく、少女の方は少年がアクマになったとは気づいていないんだろう。そして、女の子は人質かもしれん。慎重に頼む』

 

哀れみと同情に包まれるリーバーさんと兄さんが酷く悲しい顔をする。

 

『ちっ、卑怯なマネをしやがる』

 

「上から上手く奇襲しろ」

 

「私も行く」

 

「……そうだな、リナリーは人質の確保に向かってくれ。それまで神田、絶対に手を出すなよ。気づかれるのもダメだ」

 

気がつけば私も手を挙げて、自分から名乗り出ていた。

きっと、私は、半信半疑だったのかも知れない。

 

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

 

月光が辺りを照らす。暗闇に差し込む光を浴びながら、俺は頭上からの殺気に悩んでいた。

上には間違いなく、獲物を狩る猛獣がいる。

殺気を隠さない存在に視線を持っていかないことにしながら、一応の警戒はした。

 

全力無視。

 

そうだ。

ああいうのとは、目を合わせないのが通説。

 

『あれは危険よ』

 

『ユヅキ、抜くことをお勧めします』

 

頭の中でレスティアとエストの声が響き、隣のフィールティアは―――門番への抗議に夢中だった。

 

―――刹那、門の上の男が飛び出す。

 

10メートルはあろう高さから、教団の服を着た少年が刀を片手に落ちてくる。落下速度と重力に合わせて己が武器を振り下ろし。

俺はその場から、フィールティアを回収して横抱きに抱えると、飛び退った。

 

「ちっ、反応がいいな」

 

「反応もなにも殺気のせいでバレバレだよ。あとさー、よくあんな攻撃で当たると思ったもんだな」

 

「そっちこそ大した自信じゃねぇか。転換しろよ、お前の本当の姿を見せやがれ」

 

軽く悪口を叩きあいながら、お互いにお互いの行動に注意深く警戒する。

そして、もう一人、近くには気配があった。

目の前の少年、東洋の武器、刀型のイノセンスを持つ彼の他に―――

 

 

「神田」

 

 

―――天空から少女が舞い降りた。

少年の名前らしきものを呼ぶ、黒髪ロングの少女。彼女は足に緑の輝きをもたらすその靴を履き、ストンと少年の横に着地した。

 

「ちっ、俺一人で十分だ」

 

「そうだけど、話くらいは聞いた方がいいと思うよ」

 

「アクマなんだ……命乞いにもなりゃしねぇ」

 

どうやら俺は死亡確定のようで少年の方は刀をキランと煌めかせると、そう吐き捨てる。

何故か、少女と少年の間で扱いの差が酷い。

そう思ったのも束の間、少年の方が足に力を込めて地面を蹴った。

 

「叩き斬れば……中身もわかるだろ」

 

―――それじゃあ、死んだらどうするんだ?

死なないけど。というか、君には殺せないけど。

 

少女が息を呑み、叫んだ。

神田、そう少年の名前を呼ぶ。

しかし、もしここで剣を抜くことが出来ないのなら、俺は死ぬのではないか、とフィールティアの表情が曇り自身の精霊を呼び出そうとする。

 

「女の子の方は怪我させちゃダメだからね!」

 

また少女の声が届いた。

俺は、その声にフィールティアを後方へと突き出す。

取り敢えず、大丈夫だと伝えて。

 

「イノセンスっていうのは、AKUMAと戦う力であり自分の相棒とも言える。そして、アクマを倒すのに必要なのはなにもイノセンスだけではない」

 

斬撃をかわし、少年に教授するように呟いた。

 

「何をごちゃごちゃと――」

 

「だから、武器さえなければエクソシストなんてただの人間に過ぎないと言っているんだ」

 

二度目の斬撃をかわすのと同時に足を踏み込み、背を低くし一瞬で肉薄する。その瞬間、少年、神田は刀を引き戻し距離を取ろうとした。刀において間合いというものは命取りになる。それが判っているからこそ、神田は距離を保とうとするが先に動いていた俺の方が速かった。

 

「掴まえた」

 

「くっ―――がァっ!?」

 

刀を持つ右手を掴み、すかさず足を相手の足へと踏み込み掌底を顎に叩き込む。

 

「雪月華・雪の章――若雷」

 

そして、剣を持つ手に肘の打ち落としを喰らわせた。

攻撃により痺れた手は反動的に刀を離し、俺が代わりに武器を掬い上げるとその刀の峰で相手の顎を掠めるように振る。

 

「まず一人……って、危な!?」

 

少年がバタリと倒れた。

 

「はぁぁぁ!」

 

直後、数メートルは離れていたであろう少女が地を蹴り、肉薄しての回し蹴りを俺に向けて放った。

それを下にしゃがんで回避することで、なんともなしに上を見てしまうのは仕方の無いことだと言っておこう。

 

「……可愛い下着だな」

 

「!? へっ、うぁぁぁ……!」

 

見えたのは黒だった。

ズザザ、と距離をとる少女がスカートを抑えながらこちらを睨むようにしてキッと見る。心做しか、月明かりに照らされる顔が赤く差す。

 

「最低!」

 

「……ん、さっきのは見ても言わない所だよ」

 

『最低、ね。夜目でよく“黒”って判ったわよね』

 

『……ユヅキはしょうがないご主人さまです』

 

どうやら敵は俺のようだ。

間違いなく、俺はこれで少女に敵と認識されてしまっただろう。

……そして、フィールティアも呆れたように俺を見ている。

見えちゃったんだからしょうがないだろう、言い訳も弁解もする気が起きなかった。あとレスティア、気軽に人の心を読まないで。

 

「せやあぁぁ!」

 

 

―――上空に上がった少女が宙を舞う。

 

 

「しかしまぁ……イノセンスがあれだって判ってるのに、どうしてホットパンツとかズボン系にしないかな。スパッツでもいいと思うんだけど」

 

「見ちゃダメだからね。結月」

 

「嫌がるようなことはしないよ。……というか、不可抗力なんだけど。帰っていい?」

 

「ダメだって。和解するまで、というかあの娘に許してもらえるまで私も許さないから」

 

 

―――胡蝶のように舞う、黒の少女が天を蹴った。

 

 

その少女が天を舞う様は綺麗だった。

レスティアと同じ黒、羽はないが、羽があるような錯覚が見え、それは底冷えする冷徹な鋼鉄へと変貌する。

 

「まずは敵じゃないってことを教えないとな……」

 

そうしなければ、謝るどころか話を聞いてもらえそうにない。自分自身、少女に誤解されたままでは寝覚めも悪い上に気になって眠れないであろう。

その為には、“呪い”について説明する必要がある。

フィールティアにとっては辛い話になる上、自己嫌悪して自分を責める結果となってしまうから口にしたくはなかった事なのだが……。

 

タイミングよく俺はステップでその場を回避。

飛来する高速の少女は、美しくも当てられたものを殺する危ない刺を持ちながら、先程まで俺のいた場所を穿つ。

ドゴンッ!! そんな破壊音が少女の激突と共に、地面を抉った。

 

「ナニアレ、手加減なしじゃん」

 

目の前―――先程まで俺がいた場所には、大きなクレーターが一つ出来上がっていた。

 

「やあっ!」

 

続けて、リーチの短い蹴りが飛ばされる。先と同じくして屈んで避ける。

しかし、それはフェイントだった。

一撃目を避けられることを想定していたのか、二撃目の後ろ回し蹴りが縦に落ちる。

 

 

「それを待ってたんだ」

 

 

武器無しで、徒手のみでイノセンス持ちに勝つのは難しい上に相手を怪我させることは出来ない。

蹴り技つかいに接近戦を挑むには、それ相応の技術と強さを持ち、武器というアドバンテージを埋める必要がある。その全てが未熟な相手に勝つには、そう。

 

「きゃあああ―――!!!!」

 

 

―――攻撃手段を封じ、拘束する必要があった。

 

 

浮いた少女の体、二撃目の蹴りの時には既に体は宙に浮いておりそこに突進する。予想外の行動に少女は反応できない。振り下ろされる蹴りは弧を描き、軌跡を空に残しながら途中で止まった。

 

「まだ技が荒削りだな。そして君は、特出された蹴りが出せないことには“ただの女の子”だ」

 

イノセンスが装着されている少女の足、その太もも部分を受け止めたのだ。勢いは殺され、イノセンスが装着されていると言えども本当に装備されているのは、太股までではなく、脹脛。勢いも振り下ろす足と比べて太股の方が断然破壊力がない。

そのまま押し倒すように、少女を地面へと押さえつけた。いきなりの状況に少女は、一瞬反応が遅れ、両腕と両足を拘束する。

 

「あ……」

 

かぼそい吐息が漏れ、少女は自分の足が動かないことに気付き、暴れるも、悟ってしまう。

 

この状況が、どうしようもないことに。

 

自分の力が通用しない。その上、体が動かず押さえつけられた上に、これだけの接近。

 

「チェックメイトだ」

 

これで聞く耳を持たない娘でも話を聞いてもらえる。

やっと長い戦闘も終わりだ。その根源となった誤解を解くために、俺は和服をずらし肌蹴させる。

 

途端、少女の顔が赤くなった。

カァッと赤くなる少女の反応に俺は戸惑いながらも、説明を続けることにし、言葉を続ける。

 

「俺はAKUMAじゃない。――“呪われた人間”だ」

 

そうして見せた背中に、少女は目を丸くするのだった。




チートじみてる?
――仕様です♪
日本育ちなんです。
サラブレッドですよ。トラウマ付きの。
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