ソードアート・オンライン 〜直死が視る仮想世界〜   作:プロテインチーズ

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オリジナルの話に入りました。訂正いれるかもです。
誤字、指摘、評価等お願いします。

オリジナルなので感想とか評価怖いですけどどんどん来てください!


殺人記録Ⅰ

「クソッタレが!」

 

 目の前の数体の《mob》どもに囲まれながら一人でそう叫んでいた。

 最前線の迷宮区で他のプレイヤーが来る事を祈りながら《片手剣》と《盾》を構える。じわじわと追い詰められている。命がなくただ与えられた命令をこなすだけの《mob》に俺は殺される。

 

 攻略組でもない俺が、狂ってるという言葉がふさわしいあいつら(・・・・)から逃げた果てが、この最前線の迷宮区だった。

 攻略組でもない俺がこんな場所は場違いだ。中層プレイヤーとまではいかないが、準攻略組とも言えないレベルだ。この世界と戦おうとする攻略組でもなく、受け入れようとする中層プレイヤーでもない、まさしく半端者。

 

 こんな場違いな場所に来たのは、俺が犯した罪を考えれば、ここで攻略組の真似事をして死んだら少しでも償えると思ったからなのだろう。それに温い中層プレイヤーとは違うと思いたかった。ここでなら死ねると思った。この世界に囚われた人々に貢献したかった。俺の命はそれぐらいの価値があると思いたかった。

 

 これが夢ならーーー早く覚めろーーー

 

 HPがレッドまで達している。命がなくただ与えられた命令をこなすだけの《mob》に俺は殺される。ここまでか。呆気ない。

 

 ーーーあぁ、終わりか。

 

「ーーーあぁ、終わりか」

 

 抵抗する気も失せて持っていた。《片手剣》と《盾》を下げようとする。その時だった。

 

 何が俺の目の前を横切り、そして、《mob》があっという間に消えた。それが引き金となって他の《mob》どもも次々と切り裂かれていった。やがて全ての《mob》が青いポリゴン片となってしまった。

 

「大丈夫か、お前? 攻略組なら引き際ぐらい弁えろよな、全く」

 

 そう言ったのは墨汁よりも黒い髪と瞳。深い藍色のライダースーツのような服を着た中性的な少年だった。いや、口調が男勝りなだけで女なのもしれない。どちらにしても俺の短い人生の中で見た事がない程の美形だった。

 こんな奴があれだけの《mob》を? それも最前線の迷宮区の?いわゆる本当の攻略組なのか、こいつ。

 

「お前、結晶あるよな? とにかくアイテム使ってさっさとここから消えた方がいい」

 

 そいつはさっきの戦闘は嘘のように憂鬱そうな雰囲気を漂わせ始めた。一方的にそう告げると俺に背を向けた。やっぱり攻略組か。それもソロの事を考えたら最上位だろう。あの強さなら納得出来る。 俺がいた場所より奥に去って行った。

 

 この後、こいつは迷宮区を攻略して俺の事など記憶の彼方に消えていくのだろう。このデスゲームをクリアする為に。あんな強さがあるのなら……もし、俺に……

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、お前」

 

 俺はポーションを飲む事も忘れてそいつを呼び止めていた。何言ってんだ、俺?

 

「ん? 何だ、《圏内》までのボディーガードならしないぜ。結晶くらいあるだろう」

 

 呼び止められても驚くような反応もせず気怠げな様子は変わらなかった。

 

「ち、違う……」

 

 俺は何を言おうとしている? 何が言いたい? とにかく一人にして欲しくなかった、今は。

 

「お、俺はお前みたいな攻略組じゃない。結晶を使うのはもったいない。だから《圏内》までついてきて欲しい」

 

 厚かましい事を言う俺にそいつは訝しげだった。確かにこんな場所にある攻略組以外が来るなんて死にたがりか馬鹿しかいないだろう。それに俺が《圏内》に戻ったらあいつら(・・・・)に……

 

「お前、攻略組じゃないのか。だったら俺と同じだな。死なれたら寝覚めも悪い。前にもこんな事あったしな。ついて行ってやるよ」

 

 あっさりOKされ、呆気に取られてしまった。それに攻略組じゃない? あの強さで?

 

「お前、攻略組じゃないのか?」

 

「どうだって良いじゃないか、そんな事。それよりさっさとポーションでも何でも良いから飲め」

 

 俺はアイテムストレージからポーションを取り出して飲んだ。たったそれだけでHPがグリーンへと戻った。HPは赤から緑に簡単に戻るのに……俺の中のオレンジは決してグリーンにはならない。

 

「おい、行くぜ。えーっと、キース?」

 

 俺がぼーっとしていると俺の名前を呼んでそいつが振り返った。

 そいつが俺の名前を口にした事が何故か意外に感じたのだ。そして俺の中で小さな喜びがあった。

 その時に初めて俺はそいつの名前を見た。

 そこには《Shiki》と書いてあった。

 あぁ、俺はその名前を知っている。知らない筈がない。

 ーーーだって俺はその《孤高の英雄》に憧れていたのだから。

 

 

 《圏内》までの道のりはそこまで遠くない。俺のようなへぼいプレイヤーはそこまで深く迷宮区に潜り込めなかったからだ。

 

 やってくる《mob》は全てシキが倒した。《索敵》スキルが高いのか。《mob》が出てくるたびに俺を下がらせ一人で突っ込んでいく。見ているこっちがヒヤヒヤさせる。でも、一度戦闘が始まるとそんな不安もどこかへ消えていく。

 

 どんな反応速度をしているのか。《短剣》を使って敵の攻撃をギリギリでかわしその隙を突いて攻撃を入れたり、死角へ移動して《短剣》を振るったり、まるで暗殺者のような戦い方だった。

 

 でも、その容姿と相まって俺はその光景に見惚れていた。芸術的ともいえるその戦いは俺の目を捉えて離さない。シキは喜色も見せず、ただ面倒臭そうに落としたアイテムを回収すると、ただこちらをチラッと見て歩き始めた。俺もこの反応も慣れたので黙って付いていく。

 

「なぁ、キース」

 

 歩きながら俺を呼んだ。初めてだ、シキの方から話しかけたのは。

 

「お前攻略組でもないのに、何であんなところいたんだよ」

 

 俺からすれば訊かれたくない事だった。それを言えばどんなお人好しでも俺を遠ざける。《圏内》にいてもあいつら(・・・・)がいる。あいつらは地の果てまで裏切った俺を追いかけてくる。俺はあいつらから、全てから逃げて、迷宮区で死に場所を求めたのだから。

 

 でも、シキになら何故か話せると思った。

 受け入れてくれそうな気がした。それに受け入れられなくても、こいつになら殺されても良い。そう思った。

 

「今、ここで話したくない。聞かれたくない事だから」

 

「へぇー、じゃあ、どこで話すんだよ」

 

「宿屋だよ。お前が使ってる所でも俺が今日使う所でも良い」

 

「悪いけど俺、宿屋じゃなくて自分の寝ぐら持ってるしな」

 

「えっ……そうなのか」

 

「正確には一部屋買借りてしかいないけどな。そこでいいか?」

 

「あ、あぁ」

 

 そうして、俺は成り行きで憧れのプレイヤーの部屋に転がり込んだ。

 

 

 

 シキの部屋には人が住んでいる生活感というのがまるでなかった。

 ベッドもなく、机も椅子もない。思わず空き家かと思ってしまった。シキは躊躇いもなく入って行った。

 

「ほら、入れよ」

 

 俺はその何もない殺風景な部屋に落ち着かなかったが、シキがさっさと聞かせろと促すとそこに座り込んだ。

 

「でも、その前に一つ聞いていいか?」

 

 そうだ、話をする前にこれだけは聞いておかないと。

 

「何だよ」

 

「お前、オレンジプレイヤーについてどう思う?」

 

 予想外の質問だったのか、シキの端正な顔つきはキョトンとした。珍しいものが見れた。

 

「オレンジねぇ。嫌いだけどな。それだけだな。強いて言うなら俺の殺しの対象」

 

 そう平然というシキに俺は背筋がゾッとした。オレンジは殺しの対象……それはそうか、でも……

 

「……もし俺がオレンジだって言うならお前はどうする?」

 

 すると、シキは今まで俺の事を何とも思ってないような視線から興味の対象へと変えていた。

 俺自身はグリーンだが、PKをするにあたってオレンジじゃなくてもMPKをしたり《圏外》までグリーンの囮役として獲物を連れ出して仲間に襲わせるなどは出来る。カルマクエストなんかもこなせばオレンジからグリーンへと戻れる。

 

「俺はこの世界で人を殺したんだ……」

 

「そうは見えない」

 

「本当だ。既にMPKで11。囮役で5人殺して1人を直接殺した。俺は人殺しだ……」

 

 俺の犯した罪を聞いても動じる事がない。ただへぇと呟いただけだ。逆にそれが俺を不安にさせた。

 

「お前、驚かないのか?」

 

「俺も同じだからな」

 

 こいつ、何を言っている? いやでもさっきこいつはオレンジを殺しの対象だと言った。それは言い方を変えれば、普段からオレンジを……

 

「お前、それどういう……」

 

「今は俺の話じゃないだろ。お前の話だ」

 

 シキに言われて初めてここに来た理由を思い出した。そうだ。俺はこの何もない部屋に自分の話をしに来たんだ。

 ここはまるで今の空っぽの俺みたいだ。

 

 俺がした事を思い、話すのを躊躇しかける。汚れた俺の話なんかシキに聞かせても良いのか? 興味深々といった感じで俺を眺めている。

 するしかない。俺が言い出した事だ。グリーンにもオレンジにもなり切れなかった半端者の何の価値もない話。

 

「あいつと出会ったのはこのクソゲーが始まったあの日だった」

 

 これはそんな無価値な俺の『殺人』の『記録』。

 




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