ソードアート・オンライン 〜直死が視る仮想世界〜 作:プロテインチーズ
目の前の景色が変わるとそこは《はじまりの街》の中央広場だった。
俺だけでなく、他のプレイヤーも次々と現れた。どうやら強制転移されたのは全プレイヤーらしい。あれ程広かった中央広場も一瞬で埋め尽くされた。
プレイヤーからは困惑の声が広がる。中には「ログアウトが出来ない」と聞こえた。
俺は思わず、ギョッとしてメインメニュー中のログアウトボタンを探したがやはり、見つからなかった。
(なっ……!? どうなってんだ? この強制転移は運営からのバグ報告か?)
それにしては何かおかしい。
俺がこの異常に混乱していると事態はさらに急変した。
上空に《Warning》の文字が浮かび上がったかと思うと《System Announcement》の文字とともに空を埋め尽くし、夕焼けよりも赤く染めた。そして、ドロリと血のような赤い液体がローブを来た数十メートルの人型を形成した。
この世界に数多いる剣士ではなく、寧ろ魔法使いを思わせた。その顔は黒くどんな表情をしているのかまるで分からない。
プレイヤー達の戸惑いの声が益々大きくなる。俺はその人型の一つ一つの動きを見逃さないように観察していた。
そんな俺を含むプレイヤー達に意も介さず人型はこう言った。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
私の世界? 何を言っているんだ、こいつは。まるで自分がこの仮想世界の神とでも言っているかのような……いや、そんなふざけた事を言えるのは一人しかいない。この世界の創造者たる存在だ。
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる、唯一の存在だ』
茅場晶彦。このソードアート・オンラインの開発者の名前だ。奴ならばこの世界の所有権を唱えても問題がないだろう。まさしく《創造神》なのだから
『プレイヤー諸君の中には、ログアウトボタンがない事に気付いている者もいるだろう』
この致命傷とも言えるバグの謝罪と説明か? にしては、やはり様子が変だ。この仮想体では汗なんて流れない筈だが、何故か冷や汗を掻いた気がした。
『これはバグではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』
茅場晶彦が宣言したのは信じられない内容だった。
それが間違いのない事実であると言うかのように同じ言葉を繰り返す。
しかし、何故か俺はその内容を聞いても動揺しなかった。寧ろ、胸の内にストンと収まった。
『よって諸君らによる自発的なログアウトは一切できない。また、外部によるナーヴギアの強制ログアウトも出来ない。もしも外部の人間の手によってナーヴギアが停止、あるいは取り外しが行われた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる』
それは間違いのない事実で茅場晶彦はご丁寧に現実で流れているニュースの映像を浮かび上がらせた。
既に二一三人ものプレイヤーがこの仮想世界から、そして現実世界からもログアウト……つまり■んでいるのだ。
『しかし、充分に留意してもらいたい。今後ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。HPがゼロになった瞬間、諸君らの仮想体は永久に消滅し、同時に諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
それは仮想世界で■ぬと現実世界でも■ぬという事を意味している。そして、他のゲームのようにアイテムや魔法を使って蘇生させるという手段は出来ないという事だ。
(なるほど、茅場晶彦。お前が言っていたのはそういう事か。確かにこれはその通りだな)
ーーーこれはゲームであっても遊びではないーーー
なるほど、確かにこの世界は仮想世界でのゲームだ。しかし、少なくとも今この瞬間から遊びではなくなった。
『諸君らが解放される条件はただ一つ……このゲームをクリアすれば良い。現在君達がいるのは《アインクラッド》の最下層、第一層である。各フロアの迷宮区を攻略して《フロアボス》を倒せば上の階へ進める。第百層にいる最終ボスを倒せばクリアだ』
その内容にプレイヤー達は大反発している。確か《βテスト》でも第十層まで行けなかった筈だ。《MMOトゥデイ》にそう載っていた。蘇生可能の《βテスト》での約二ヶ月でそれだ。少なくとも同じ層までいくのにその倍はかかると思っていいだろう。
『それでは最後に、諸君の《アイテムストレージ》に私からのささやかなプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』
プレゼント? このタイミングでは嫌な予感しかしない。が、俺も周りに合わせてアイテムストレージを見てオブジェクト化する。
「手鏡?」
そこに写っているのは現実の俺と全く違うこの世界での顔。まぁ、家の者の顔を参考にしたのでそれは当たり前なのだが。
しかし、いきなり身体が発光したかと思うと同時に、周りのプレイヤーにも同じ現象が起こった。
流石の俺も、これには驚いた。光が収まり目を開けると、そこはさっきと同じ《はじまりの街》の《中央広場》だ。強制転移ではない。
しかし、周りの様子がおかしい。全てのプレイヤーの見た目が全く変わっていたのだ。中には女子から男子に変わってるネカマ野郎もいた。その現象に疑問を抱き、動揺し、驚愕するプレイヤー達。俺も持っている手鏡を見る。
そこには現実の俺の顔が写っていた。
驚きこそするものの別に身元バレを防ぐ為に使っていた顔だった為、大して思い入れなどなかった。寧ろこっちの方がやりやすいぐらいだ。
近くにいた童顏なプレイヤーと趣味の悪いバンダナをしたプレイヤーがこの現象について考察しているのを聞いた。
(なるほど。あの時、何の意味があるのかと身体をペタペタ触ったがこの時の布石か……)
その後、茅場晶彦はこれらの行動についての理由を説明した。そして、
『それではプレイヤー諸君、健闘を祈る』
こうして茅場晶彦によるこの世界のチュートリアルが終わった。全てのプレイヤーがあまりに突然すぎる事態の急変に沈黙する。
(観察する為か……茅場晶彦、お前はこの世界の神だ。認めてやる。お前は間違いなく神だ。けど例え神であろうと……)
ーーー生きているのなら、神様だって殺してみせるーーー
そして、俺の視界に映っていたのは嘆願と悲嘆に明け暮れるプレイヤー達、ではなく彼らにくっきりと纏わり付いている黒い線。それはプレイヤーだけじゃない。《アインクラッド》そのものにも伸びている。
間違いない。この仮想世界にも■は満ち溢れている。
ーーーあぁ、なんて今にも脆くて壊れそうーーー
どうでも良いですけど、きのこ先生のあの厨二臭い言い回しが好きです。