ソードアート・オンライン 〜直死が視る仮想世界〜   作:プロテインチーズ

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すいません! 遅れました! シリカ編は完結まで書けているので駆け抜けます!

後書きで一つ皆さまにお尋ねしたい事があります。


悪鬼蝟集Ⅴ

 《笑う棺桶》。それはSAOに捕らわれている全プレイヤーから畏怖の対象となっているオレンジギルド。先程のタイタンズハンドのような強盗紛いの三下とはその凶悪さは段違いであり、PKつまり殺人が専門のレッドギルドと呼ばれており彼ら自身もそう名乗っている。彼らは冷酷かつ狡猾な殺人手段を次々と考えだしその犠牲者の数は三桁を及んでいる。そしてその忌むべき名は、地に膝をついているキースにとって絶対に忘れられない因縁の相手でもあった。

 黒いポンチョを羽織ったプレイヤーが4人。今、キースに向かって麻痺毒が塗ってある《暗器》を投げ、甲高い声で喚いているのは《ジョニー・ブラック》だ。顔を紙袋で覆っている子供が冗談をしているような見た目だがその言動を考えると狂気にしか感じられない。

 

「裏切者のキースちゃんがこんな中層にいるなんてなぁ。ヘッドも来れば良かったのに! なぁ、モーナス」

 

「隣にいるのは、《黒の剣士》か。そこの、小娘も、殺すがな」

 

 小柄な体格に細見の体型。髑髏の形をした仮面で口元以外を多い赤く輝く瞳を持ち、途切れ途切れに話すプレイヤーは《赤眼のザザ》。鋭い突きを生かした《エストック》を主武器としている。《ジョニー・ブラック》とともに《笑う棺桶》の幹部をしている実力者だ。

 

「……キース殺す……《黒の剣士》も殺す……ヘッドから言われた。それだけ……」

 

 4人の中で圧倒的な体格をしているのが《暴虐のドーガ》。先の軽装な2人は違って、黒く装飾性がない金属鎧を黒ポンチョの下に着ており、自身の身長よりも長い《棍棒》を振り回すパワーファイターだ。その圧倒的な筋力値から繰り出される威力は例え《攻略組》であっても直撃を受ければ一たまりもないだろう。

 そしてその3人の背後からキース達を見つめ、ジョニーに話しかけられたのが《笑う棺桶》の副リーダーとされる《モーナスエイド》だ。あまり表に出る事がなくその実力は未知数とされている。個性溢れる見た目をしているこの面々の中で唯一、顔を出している。その裏表のなさそうな優しい印象を与える柔らかな微笑を浮かべたままのその表情は到底、レッドギルドの副リーダーには、少なくともキリトとシリカには見えなかった。

 

「うん。そうだね。キース君は一応、僕達の仲間だった訳だしヤルのは最後にしてあげよう。お友達ごっこをしていた《黒の剣士》とそこのお嬢さんが死んでいくさまを特等席で眺める権利を与えてあげるね」

 

 その穏やかな笑みを崩さないままさらりと悍ましい事を告げるモーナスエイドにキリトとシリカの先程あった印象が逆転する。やはりこの男もレッドだと。その見た目に騙されたプレイヤーが何人も毒牙にかかったのだ。

 

「じゃあ俺がキースをヤルからさぁ! ザザとドーガが他の2人な!」

 

 ジョニーの宣言にキリトはすぐに相棒たる自身の《片手剣》を取り出す。シリカを逃がそうと、様子を見るがその表情は恐怖で青ざめており、足も小鹿のように震えている。すぐに《転移結晶》を使わせようと口を開くが、中断する。まだ1対1ならまだしも麻痺が解けていないキースを守りながらでは結晶を使っている間にシリカが確実に殺されてしまう。

 

「てめぇら、殺すのは俺だけにしろ! キリトとシリカには手出すんじゃねえ!」

 

 視線だけで人を殺さんばかりにモーナスエイドを睨むキースだが、麻痺状態で何も出来ない有様では《笑う棺桶》の面々は全く意に介さない。

 

「ふぅん。この状態になったのは君のせいだというのに?」

 

 悪い事をした子供を諭すようにモーナスエイドは言った。

 

「僕達から逃げて自分の正体を隠してそこの2人といたんだろ。君は馬鹿じゃない。裏切った自分が僕達に報復されるかもしれない事ぐらい分かってたはずだけどね?」

 

 その告げられた言葉はキースの胸に深く氷柱のように突き刺さる。自分と一緒にいた2人の友人。さらに今自分を信じて一緒についてきてくれたシリカ。いつも思っていた自分がいれば2人に害が及ぶかもしれない、と。友人2人は俺の過去を話しても一緒にいてくれた。《笑う棺桶》の被害が少ない最前線で戦っていたのはその為である。しかしシリカは違う。素性を隠してオレンジを釣る囮役までさせてしまったのだ。もし、自分がそんな事をレアアイテムを取りに行こうだなんて誘わなければこんな事態に巻き込まれずに済んだだろう。

 

「こうなったのは君のせいだ、キース。《黒の剣士》が君を守って倒れるのも。そこのお嬢ちゃんが殺されるのも全て君が悪いんだ」

 違う。そう言い返したかったがうまく言葉にならない。まるで金属の塊が喉につっかえたように声を出すのが苦しい。外から見れば今にも倒れてしまいそうに見えるぐらいその表情は色を失っている。

 

「ちょっとー、モーナスー。あんまり虐めちゃ可哀想だぜ」

 

「今から、全力で走れば、間に合う、かも、しれないぞ。そんな事は、させないが」

 

 ジョニーが片手で《短剣》を弄びながら嘲笑う。ザザやドーガも口には出さないがキースのその姿を見て愉悦をかみ殺しているのだろう。その通りだ。だから、俺を放って逃げろ――そう口に出そうとした時だ。

 

「違うな。俺はそんな事でキースを変な目で見たりしない。ましてや見捨てるつもりなんてさらさらないね」

 

「……はぁ、本気かい、君? 《攻略組》ってのは戦闘ばっかで頭の螺子が外れた奴ばっかなのか?」

 

「あんたらに言われたくないね。一生分かんないだろうさ、特にあんたらみたいなオレンジ連中には、な。キースは、俺をあの時救ってくれた。俺を守ってくれると言ってくれた。なら今度は俺の番だ。俺がキースを守るよ。ここで逃げずに戦う理由なんてそれだけで充分だ」

 

 キリトが言っているあの時、というのは、所属していたギルド《月夜の黒猫団》が壊滅し自暴自棄になっていた時、キースがそれを止めたくれた事だ。あのまま放っておけば間違いなく自分は死んでいただろう。キースと出会い初めて自分がしている事の過ちに気づく事が出来た。キースは自分を守ると言った。今度は自分の番だと思ったのだ。

 そのキリトの言葉が表情を見て本気だとモーナスは悟ると、あーあと子供が遊んでいた玩具に飽きたような反応をした。

 

「お熱い友情だねぇ。そんな仲良しこよしの友情ごっこがしたいんなら一緒に地獄に送ってあげるよ」

 

「……お前たちにキースに指一本触れさせやしない。もちろんシリカにもな」

 

「キリトさん……」

 

 キリトの決意を嘲笑うモーナス。しかしそんな挑発にも乗らず《片手剣》を構えて冷静に戦力を分析する。逃げる気は全くないが、いかんせんこの戦力差は大きい。せめて《攻略組》クラスのプレイヤーがもう1人欲しいところだ。しかしないもの強請りをしても状況は変わらない。

 

「はぁ、もう御託はいいや。その目障りな虫けらを殺せ」

 

 それまでの柔らかい笑みから一変し、冷たい人形のような顔をしたモーナスが命令すると3人のレッドプレイヤーが己の武器を構えてキリトに向かってきた。

 キリトの頭にはこれまでの光景の蘇っていた。 キリトの頭にはこれまでの光景の蘇っていた。

「……殺す……《黒の剣士》……!」

 

「ひゃっはー! 死ねや!」

 

「死ね、黒の剣士」

 

 タンクのドーガが前に躍り出る。その巨体に似合わぬ速度で巨大な《棍棒》を振り回すその姿はあまり《圏外》に出ない下層プレイヤーならば《ボスmob》と勘違いしてもおかしくはないだろう。軽装で《耐久値》にそこまで経験値を割り振っていないキリトでは直撃すればHPを一気に削られるだろう。そのキリトは典型的な《STR-AGI特化型》という筋力値と敏捷値が高い。《パリィ》をしてもその高い筋力値と耐久値で力負けをしてしまい、その隙に《剣技》を叩きこまれる可能性が高い。そうなれば一環の終わりだ。キリトはその軌道を正確に見切ると後方へ飛ぶ。

 もちろん、そんな事は《笑う棺桶》に所属する3人にはお見通しである。もっとも高い敏捷値を誇るジョニーがキリトの右側に《短剣》を、《閃光》の異名を持つ《攻略組》最速のプレイヤーが放つ正確無慈悲な《細剣》の突きに匹敵する鋭い刺突を放つザザが右側に《エストック》を突きだしていた。

 キリトはそれを視線だけで確認するとその異常な反応速度で打ち払った。力勝負で負かる判断した2人はその勢いで後退した。しかもジョニーは《投擲用》の《短剣》を投げつけてだ。何とか身体をひねりそれを躱すキリトだが、意識がそれに一瞬持っていかれてわずかに隙が出来る。それを見逃すザザではない。右手で持つ《エストック》がピンク色に輝き始めた。《剣技》の発動予兆のライトエフェクトだ。 《剣技》の発動にもすぐに反応するキリトだが《剣技》で受け止める事は不可能だ。その隙にドーガにやられてしまうからだ。

 ここでもキリトが持つ常人離れした反応速度が生きた。何とか直撃しない態勢と位置に身体を持っていき直撃を避ける事にしたのだ。しかし、そんな考えを周りの見ているだけのプレイヤー、ましてや《攻略組》でもない中層プレイヤ―が理解出来る訳がない。そしてその例に漏れずシリカも、キリトがザザの連続攻撃が直撃したと思ったのだ。

 

「キリトさん!」

 

 その叫び声が致命的だった。一瞬キリトの意識がその声に持っていかれて極僅かに反応が遅れてしまったのだ。そして、ザザの口元の笑みが浮かんでいた。その隙は直撃を与えるには十分過ぎた。

 《エストック》の連続攻撃を食らいそのまま後方へ吹き飛ぶ。キリトのレベルではまだ致命傷なりえず、HPを削れてはいないが問題はそこではない。大技というべきザザの《剣技》を真正面から受けたという事は確実に仰け反ってしまい大きな隙が出来る。その隙はシリカが見ても分かるほどの大きなものだ。そしてそこに付けこむのはザザでない。ましてや《短剣》使いのジョニーでもない。

 この3人の中でもっとも容赦のない一撃を与える事が出来るドーガだ。その《棍棒》からライトエフェクトが輝く、それもキリトの頭に向かって。

 見ていたモーナスに残虐な笑みが灯る。見ていたシリカはその光景を直視出来ず目を瞑ってしまう。キリトの脳内には、これまでの光景が走馬灯のように蘇っていた。現実世界に残してきた家族、その血縁関係を知り遠ざけていた妹、《ビーター》の悪名を気にせず付き合ってくれたアスナや、エギル、クラインそして自分を救ってくれた2人の少年の顔が次々と浮か彼らに向かって、ただ一言、悪いと呟いた。

 

「キリトぉぉお!」

 

 キースの叫び声が響いた。その眼には鮮血のようなライトエフェクトが映っていた。

 誰もが《黒の剣士》の、キリトの死を確信した。

 

 ――誰かがえっ、と呆けたように呟いた。キリトは倒れていなかったのだ。それどころかドーガの攻撃を受けてすらいなかった。

 キリトは見た。目の前に立つ巨漢のオレンジプレイヤーが棍棒を振り上げたまま硬直しているのを。そしてその首元に《短剣》が刺さっていたのだ。

 

「俺の前でそんな無様な死を視せてくれるなよ、オレンジども」

 

空より透き通った蒼眼の《死神》がそこにはいた。




この作品で初めてまともな戦闘描写のような……
何か薄っぺらい気がします。気になる点等がございましたら感想蘭にてお願いします。
それともう一つ、キャラ紹介って必要ですかね、特にオリキャラ。
必要だと思った方はメッセージでお知らせください。



どうでもいいですがSAO映画化ですね。それと本編もアリス編の後も続くとか何とか。
自分としてはSAOPの続きが読みたいんですが、一読者として本編も終わらないという事もまだまだ楽しみがあるという事で期待しております。


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