ソードアート・オンライン 〜直死が視る仮想世界〜   作:プロテインチーズ

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幕間

 俺が第一層攻略という大ニュースを知ったのは、とある女性プレイヤーが迷宮区で倒れているのを見つけ一晩同じ宿で泊まった後の朝の時間だった。

 

 曰く、《フロアボス》を倒したのはソロの《短剣》使い。

 曰く、そのプレイヤーは女性で絶世の美女だった。

 曰く、そのプレイヤーは男性でこの世の男性と比べ物にならない美少年だった。

 曰く、そのプレイヤーは《フロアボス》の並み居る攻撃を全て避け、一撃でボスの身体を両断した。

 曰く、そのプレイヤーの《短剣》で《フロアボス》が持つ盾と斧が破壊した。

 曰く、そのプレイヤーは聖人で破格の性能を誇るLAボーナスを他人に無償で譲った。

 

 その他数え上げればキリがない程、憶測でしかない噂がプレイヤー間で広がっている。

 武器が《短剣》でどうやって《フロアボス》を倒すんだよ。しかもソロで。《フロアボス》の硬さだとほとんどダメージが通らないぞ。もしかしたら、第一層のどこかにあったドロップアイテムなのかもしれないが。

 

 俺も《βテスター》として第一層の《フロアボス》と戦った経験があるが、あれはソロでどうにかなる範疇を超えてる。しかもこのデスゲームでならその難易度を一気に跳ね上がる。

 

 数十人でレイドを作り、それぞれ役割毎にパーティーを組んで挑むのが普通だ。

 あくまで、俺の予想だが、そいつはパーティーを組んで挑んだのだろう。そして、無惨な事に他の仲間達はボスにやられ、身軽な《短剣》使いそいつだけが生き残り何とか討伐したってところだろう。

 

 しかし、大規模な人数で《フロアボス》に挑んだという話は聞いていない。それならばボス部屋を発見した時点で攻略会議等を開いて一度、検討すべきだからだ。数人という極少数のパーティーで行ったのだろう。

 

 それでも、俺は元《βテスター》で経験者として《フロアボス》を一人生き残り討伐したという実績は凄いと思う。普通なら一人死んだ時点で逃げてもおかしくはない。少なくとも同じ状況なら俺ならそうするだろう。この世界は生きる事が最重要なのだから。死んだプレイヤー達もかなりの手練れだったのだろう。

 

 それを無念に思うと当時に、ゲームクリアという目標を絶望視していたプレイヤー達に仲間を犠牲にしながらも一筋の光を与えてくれたという事実。

 その事を、俺は一人のプレイヤーとして尊敬した。まさしく彼こそ《英雄》の名に相応しいと思う。

 

 ーーーそのプレイヤーの名前は《Shiki》ーーー

 

 しかし、俺のこの勝手な推測は大きく外れていたのだ。

 

 

 

「それで頼んでおいた例の《英雄》さんの情報は何かあるか?」

 

 俺は鼠の髭の理由をアルゴに教えてもらおうとしたが、逆に引っかかり《体術》スキルの為の無茶なクエストを挑む事になり何とか三日でクリアした。

 その事について文句を言おうとアルゴを呼び出したのだが、実際は違う。

 三日前に全プレイヤーの希望の星となっている《英雄》についての情報を得ようと高いコルを払ってアルゴに頼んでおいた。

 

「それがあまり芳しくないネ。そもそもどのプレイヤーも《Shiki》というプレイヤーについて知らなさすぎるんだヨ。迷宮区で一人で攻略しているのを見たというのははっきりしてるんだけどネ。彼のフレンドさえいない。《圏外》にいる時以外はどこにいるのかさっぱり分からないから本人に接触も出来ないんダ」

 

「うーん。噂についてはどこまで正しいんだ? 流石に《フロアボス》をソロで倒したというのは嘘だろう? そもそもどうして奴が倒したって事が分かったんだ?」

 

 俺自身、《Shiki》というプレイヤーが第一層の《フロアボス》を倒したという事実は疑っていない。問題は情報の出所だ。

 

「それが《フロアボス》を倒した瞬間にボス部屋に到達したパーティーがいてナ。そこにいた連中から広まった話らしいゾ。で、ここからが肝心なんだが……」

 

 珍しく言い淀むアルゴ。《情報屋》として金を払ったら役割を果たしてくれる彼女にしては珍しい。

 

「そのパーティーの一人に接触できてナ。どうやら本当にソロで《フロアボス》を討伐したらしいゾ。これはパーティー内のリーダーだった奴が本人に確認している」

 

「はぁっ!? んな馬鹿な!」

 

 アルゴの話は到底信じられなかった。あまりの突拍子もない事実に俺は周りを気にせず大声を上げてしまった。アルゴの「シッ」という仕草にハッとなる。

 それにしても、あの規格外の強さの《フロアボス》をソロで……?

 

「《武器破壊》は不明だが、死ぬ瞬間は右腕がなく、円盾を持っていなかったって話ダ」

 

 それが事実なら《チーター》どころの騒ぎじゃない。確かに《短剣》は高いクリティカル率と手数の多さが武器だが……それでもどんなプレイヤースキルをしているんだ? やはり強力なドロップアイテムなのだろうか。

 

「まだ話は続けるゾ。そのパーティーのリーダーは《英雄》に『お前は元《βテスター》か?』と聞いたらしい」

 

「まぁ、そうだろうな。でもそれだったら余計にソロで戦うなんてしない筈だ」

 

 そう、俺たち元《βテスター》は《フロアボス》の強さを知っている。だからこそソロで戦うなんて自殺志願者だ。

 

「答えは否、だったらしいんダ。それにLAボーナスを譲った話ってのも本当らしいゾ。実際は無償じゃなく買い取ったらしいガ。最初は本当に、無料で譲ろうとして流石にそれは悪いからと、パーティーのリーダーが無理矢理買い取ったって経緯があるんダ。またその理由もとんでもなくてナ。『趣味が合わないから』とサ」

 

 その話に驚きを通り越して、呆れさえ出てくる。

 LAボーナスは俺達プレイヤーから喉から手が出る欲しいアイテムだ。彼に装備しないにしてもどこかの商人プレイヤーに高値で売り付けるのがセオリーだ。

 

「いやぁ、俺には出来ない真似だな」

 

「オレッチもそうサ。いや、普通のプレイヤーなら誰にも出来ないヨ」

 

「だろうな」

 

 何というか彼が何故《英雄》と呼ばれているか分かった気がした。俺達みたいな普通のプレイヤーの常識では計れないのだ。

 

「オレッチが掴んでいるのはこれくらいだナ。何か分かったら連絡するゼ」

 

「いんや、十分だ。あの噂の真偽が分かっただけでも僥倖ってやつさ……最後にちなみに《英雄》さんは女なのか?」

 

「にゃハハハ。キー坊もそこんとこ気になるのカ。アーちゃんというとびきり可愛い子がいながラナ!」

 

「アスナとはそんなんじゃないさ! ただの仲間さ」

 

「まぁ、良いサ。で、肝心の《Shiki》の性別は……キー坊には悪いがまだ不明ダナ」

 

「うん? 実際に会話した奴がいるんだろ?」

 

「それがどうも要領が得ないんダナ。男だと見れば男に見えるし、女だと見れば女に見えるって話ダ」

 

「そりゃあ、また……」

 

 俺も童顔で可愛いなんて前に言われた事があったが、同類がいたとは……俺はその事実に少し安堵していた。




《Shiki》は織さんをイメージしています。
どうでも良いですけど月姫リメイクいつ出るんでしょうね……
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