Libera 作:一松
「・・・」
「こんなところに居たのね」
「・・・・・・魔女か」
「そんな顔をしないでよ、いつも逃げられちゃうから困ってたの。それに、君の正体を知りたいし」
「・・・」
その言葉に死神はしかめ面になり、目を逸らす。十歌はそれにも関わらず、隣に座って話を続ける。
「ねぇ、あの教会のシスターの事は知ってるでしょ?」
「・・・」
「返事くらいしたら?」
「答える必要は、ない。ただそれだけ」
「まったく・・・・・本当に掴みどころが分からない」
「分からなくて結構」
死神はそれだけ言うと、立ち上がって立ち去ろうとする。けども後ろから十歌の殺気を感じ、立ちつくす。
「・・・・・・何?」
「その仮面をはずせ」
「嫌だと言ったら?」
「・・・」
「その両目・・・・・・なるほど、本気ってことだね。ハア・・・・・面倒だけど、付き合ってあげる。けど、後悔しないでね。俺、手加減出来ないかも?」
口元を三日月の形に歪ませる死神、愉悦に浸っているかのような笑みだった。そして影から大きな鎌が出て来て、死神はそれを握る。それが合図だったかのように、両者が地を蹴った。
「・・・・?」
「どうした?シスター」
「いえ・・・・・強い気配を一瞬感じたもので」
「強い気配?」
「はい」
「悪魔かもしれないな、少し様子を見に行って来る」
「私も一緒に」
「いや、シスターはここに居てくれ」
一方で教会では優歌が何かを感じ取ったようで、神父にそう言った。神父は優歌に教会に残るように言い、そのまま外へと出て行く。
「神父様・・・・・」
「――――あらあら、神父様は出掛けてしまったようですわね」
「!だ、誰!?」
「どうもこんにちは、初めまして。私は悪魔の志乃ですわ」
ずっと隠れていた志乃は姿を見せ、優歌の目の前で丁寧に挨拶をする。優歌は警戒し、距離を取って胸元の十字架を握りしめる。
「教会に強い力を持つシスターが居ると聞きましたが・・・・・随分と可愛らしい方ですわね」
「悪魔・・・・・何でこんなところに?」
「入るのに随分と苦労しましたわよ?何せここは神聖なる教会、それ相当な力を持っていなければ入れませんわ。入るのと引き換えに、ここでは力が使えませんの。貴方に危害を加えることはありませんわ、安心して下さいまし」
志乃はそう言い、優歌に近づく。優歌は後ずさりをしながら、教会の扉の方まで行こうとする。
「だから何もしませんわよ?」
「悪魔の言うことなんて、信じられない。私は、信じない。だって、だってお姉ちゃんは・・・・・―」
「っ!」
瞬間、優歌と志乃の間に何かがよぎる。志乃は後ろに避け、優歌は驚いて目を見張る。視界に入ったのは、黒。黒いマントだった。
「え・・・・・?」
「・・・」
「これはこれは・・・・・死神でありませんの。会いたいと思っていたんですのよ、私」
「このシスターに危害を加える奴は、許さない。俺が狙いをつけている奴だ、手出しはさせない」
「誰・・・・・?」
優歌は戸惑いながら死神を見て、異常な殺気に冷や汗を流す志乃。やがて諦めたのか、志乃が死神と優歌の横を通り抜けて教会を出て行く。
「・・・」
「あ、あの・・・・・・ありがとう、ございます」
「別に」
死神はそれだけ言うと、教会を出て行こうとする。けども、何かに気付いた優歌は死神を引き留めた。
「待って!」
「・・・・・何?」
「怪我、してる」
「ああ、これ?かすり傷だから、大丈夫。放っておけば、すぐ治るから」
「ダメ!ほら、こっち来て」
「ちょっと・・・・・っ」
優歌は死神を引っ張って、自分の部屋へと連れて行く。椅子に座らせ、棚から救急箱を取り出す。
「じっとしてて、包帯巻くから」
「だから・・・・・痛っ」
「じっとしててって、言わなかったっけ?」
「・・・・・・ごめんなさい」
「素直でよろしい」
若干涙目の死神は大人しく優歌にされるがままになり、優歌は慣れた手つきで包帯を巻き終える。
「はい、もういいよ」
「・・・・・ありがとう」
「どういたしまして。・・・・・一つ、言っていい?」
「何?」
「その仮面、取らないの?」
「取らない、取る必要がないから」
「お礼を言う時は、素顔を見せるものだと思うけど?」
「・・・」
優歌のその言葉には答えず、そそくさと部屋を出て行こうとする死神。優歌はそんな死神に、一言だけ言った。
「あっ・・・・・助けてくれて、ありがとう!その、名前を教えて・・・・・?」
「・・・・・死神、僕はそう名乗ってる。一つ、警告しておく。悪魔と魔女には気をつけて、アイツらはアンタを狙ってるから」
「え?・・・・あ」
いつの間にか死神は居なくなっており、優歌はきょろきょろと辺りを見回す。だが、どこにも死神の姿はなかった。
「何だったんだろう・・・・・?」
先程の言葉の意味を考えるが、優歌には全く分からなかった。しばらくして、神父が帰って来た。何故かボロボロな姿で帰って来た為、優歌は何があったのかを聞いた。
「ああ、気にしないでくれ。少し、度が過ぎたみたいでな・・・・」
「とにかく、ここに座って待ってて下さい。お医者様を呼んできます」
優歌はそう言い、早足で医者を呼びに行く。それを見送った神父は安堵の息をつき、そのままずるずると椅子にもたれかかって眠りについた。