召喚師の人間讃歌   作:鎌鼬

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第2話

 

 

「ーーーん」

 

 

暖かな朝日を浴びてスズランは目を覚ました。低血圧なのか、ベッドから身体を起こし、そのまま動くこと無くボーッとしている。そして漸く意識が覚醒した時にやっとここが自分の知っている場所ではない事に気付いた。

 

 

彼女がいた部屋は窓際に置かれたベッドに作業台と思わしき機材の置かれた机、そして部屋の大半を覆い尽くすほどの大量の素材だった。スズランでも知っている回復薬(ポーション)の材料となる最低品質の薬草があれば、人の形をした根っこが特徴のマンドラゴラ、冒険者の登竜門とも言える竜種の鱗や牙、七色に光り輝く鉱石など。市場に出したのなら大騒ぎになるだろう伝説級の素材がそこら辺で採れる様な素材と共に投げてあった。

 

 

「ここは……」

 

 

まったく見覚えのない部屋、彼女の友人の部屋では無い。彼女が保護を受けているギルドならあり得そうだがここまで素材を蓄えていなかったはずなのでそれも無い。現状が把握出来ずに混乱しているとノックと共に扉が開き、透き通る様な白髪の女性が現れた。出るとこは出て、ヘコむところはヘコんでいる彼女の身体を見て劣等感に苛まれたスズランは悪く無い。

 

 

「ん?やっと起きたか……あぁ、動かなくても良いぞ。すぐに主を呼んでくる。詳しい説明を受けたかったらそのまま待ってると良い」

 

 

スズランが起きていることに気がつくと女性はスズランからの返事も聞かずに一方的にそう言って部屋から出て行った。

 

 

そしてしばらくするとノックと共に白髪の女性が現れ、それに続く様に【アイラブヒューマァァァァァァァァァァン!!!!】と書かれたエプロンを付けた蒼髪の男性がやって来た。

 

 

「よぅ、身体の具合はどうだ?一応鑑定してバッドステータスは全部消えてるのは確認したけど」

「えっと……大丈夫です。貴方が私を助けてくれたんですか?」

「そうだな、家に帰る途中で倒れてるの見つけたから持って帰って治療した」

「主、拾うのは良いがちゃんと面倒見るんだぞ?」

「見るわ、ってか人間を犬猫みたいに言うのやめーや」

 

 

白髪の女性の言葉に蒼髪の男性は着ていたエプロンを投げつけた。布であるはずのエプロンがビタァン!!というあり得ない効果音と共に白髪の女性の顔にぶつかるが女性はどこか恍惚とした表情でエプロンを受け取っていた。

 

 

「まぁ……このまま話ししても良いけど丁度飯の支度が出来たんだ。食べてからにしよう。動けるか?」

「えっと……大丈夫です」

 

 

スズランは少し身体を動かしたが異変は感じられない。空腹は感じているものの、それを除けばいつも以上に好調な気がする。

 

 

そしてエプロンを着て悦に浸っている女性の後頭部を迷うこと無くシバいた蒼髪の男性に戦慄しながらついて行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はふ……ご馳走様でした。美味しかったです……」

 

 

男性の用意した食事はサンドイッチとスープとサラダという簡単な物だったがこれまで食べてきた物よりも質が良く、それに空腹だったこともあって少食だったはずなのに二人前以上は食べた気になってスズランは幸せそうにしていた。

 

 

「はいはい、お粗末様」

「主、お代わり」

「お前はもう少し自重しろや……ほらよ」

「わーい」

 

 

男性は自重すること無くモリモリ食べる女性に文句を言いながらもおかわりのサンドイッチを出す。喜びながらモシャモシャと食べているがすでにスズランが食べた量の数倍食べているのだ。あんなに細い身体のどこに入ってるのだろう。

 

 

「ほい紅茶、こっち砂糖でそれミルクな」

「あ、ありがとうございます」

 

 

ティーカップでは無くマグカップで出された紅茶だったが香りは強すぎず弱すぎず。ストレートで一口飲めば渋みはほとんど感じられずフルーティーな味わい。紅茶を楽しんでふと前を見れば自分と同じ様にマグカップの紅茶の中に砂糖とミルクを情け容赦無くぶち込んでいる男性の姿が。どうやら彼は甘党らしい。

 

 

「さて……まずは自己紹介といこうか。俺は蒼星石、種族はヒューマン。こっちは戦乙女(ヴァルキリー)のレイア、【召喚師】のスキル持ってて世話の為に呼び出した。流石に俺が世話するとお巡りさん待った無しだからな……」

「あはは……私はスズランです。種族は人間、王国で友達と一緒にダンジョンに行ってたはずなんですけど……」

「王国、か……」

 

 

スズランにそう言われて蒼星石は虚空に手を差し出してそこから一枚の地図を取り出した。それを見てもスズランは驚かない。何故ならこれはこの世界にいる彼らと同じ部類の存在にとって当然のことだから。

 

 

「王国はここだな……スズランのステータスから考えると入ってたダンジョンって王都の管轄の【初心のダンジョン】か?」

「そうです」

「ふぅん……だけどここは地図でいうとこの辺りだぞ」

 

 

そう言って蒼星石は王国内ではあるものの王都から遠く離れた場所を指差す。そこには森と山の絵と共に赤いドクロマークとdangerの文字が書かれていた。

 

 

「嘘……」

「多分ダンジョンの中にあった転移系のトラップに引っかかったんだろ。本当だったらダンジョン内のどこかに転移するはずなんだが……お前も知っての通りに()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

自分が予想していたよりも遠くに来ていたことにショックを受けているスズランを見ながら蒼星石は自分たちがこの世界ーーー【eternal fantasy online】の中に閉じ込められた日のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

VRMMOの作品の一つとして登場した【eternal fantasy online】は世界中で愛されているゲームだった。サービス開始当時は設定が粗く、バランスも微妙だったことから然程人気は出ていなかったがアップデートを繰り返すことで問題点を改善、僅か二年で世界中で誰もが知るゲームにへと上り詰めた。

 

 

そして今から一月程前、十月一日の午前零時と共に【eternal fantasy online】はサービス終了をすることを発表した。その時のことは今でも鮮明に思い出せる。サービス終了の前日にプレイヤーたちは時間を作って【eternal fantasy online】にログインした。プレイヤーは億を優に超えていた。蒼星石本人もゲーム内で出来た親しい友人と共に過去にあったことを振り返りながらサービスが終了し、強制的にログアウトさせられるまで【eternal fantasy online】の中にいるつもりだった。

 

 

そして九月三十日の午後二十三時五十九分、サービス終了まで一分となりカウントダウンが始まった。プレイヤーの拠点である王国の王都、帝国の帝都、教国の教都では大いに賑わっていたであろうが蒼星石は王国の【最果ての地】の森の中に作ったマイホームでサービス終了を迎えようとしていた。

 

 

そしてカウントダウンが終わり、十月一日になり、サービス終了し、プレイヤーたちは強制ログアウトされるはずーーーだったが誰一人ログアウトされること無くゲームは続けられた。

 

 

終わらないゲームに興奮は不安にへと一転し、誰かの絶叫によってそれは爆発した。その絶叫の理由は至極簡単なことーーーメインメニューの一番下にあったはずのログアウトの項目が消えているのだった。

 

 

つまりーーー億を超えるプレイヤーたちは【eternal fantasy online】の中に閉じ込められたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実際には閉じ込められたってよりも【eternal fantasy online】と全く同じ世界に転移したって方が合ってるかもしれないけどな……そこのところはレイアはどう思うよ?」

「ふむ……主から説明を受けた時には半信半疑だったが今は信じている。その質問に関しては考え方次第ではないか?閉じ込められたのならば条件は不明だが帰れる可能性はある。転移ならば帰れる可能性はほとんど無い。希望があるかどうかの違いだと思うぞ……まぁ私としてはこうして主と会話できることは嬉しいのだがな!!」

「この……!!可愛い奴め……!!」

 

 

レイアの言葉が恥ずかしいのか蒼星石の顔には朱が差していて、誤魔化すように手荒くレイアの頭を撫でる。レイアはそれでも嬉しそうにしているのだが蒼星石の目は地図を見てブツブツと呟いているスズランに向けられていた。

 

 

スズランは王都から【最果ての地】にやって来たという事実に驚愕し、絶望していたようだったが今ではどうやって王都に戻るのか、それを考えていた。

 

 

「おいレイア、見てるか?スズランの奴絶望したけど帰ろうと必死になって考えてるぞ。やっぱ人間ってのはこうじゃなくっちゃな」

「主はこう言う諦めない人間が好きなんだよな?私もこういう人間は好きだ、諦めないってだけで英雄の素質は十分にあるからな。そのまま英雄になってくれないかな……なってくれるのなら死んだ時にはヴァルハラに持ち帰る」

「出たな……北欧伝統の英雄誘欲……!!」

「あ、安心してくれ。主は間違いなく英雄だ。死んだ時には他の戦乙女を薙ぎ払ってでも私がヴァルハラに持ち帰る」

「それには喜べは良いのか……それとも死後を予約されたことに嘆けば良いのか……」

「笑えばいいんじゃないか?」

 

 

レイアの言葉に苦笑いをしながら蒼星石は紅茶を飲み干して席を立つ。

 

 

「まぁ考えると良いさ。考えて考えて考えて考えて……んで、どうしようも無くなくっても考えて、納得のいく選択肢を選んでくれ。お前が決めるまでここに居ていいからよ」

 

 

そう言って蒼星石は伸びをしながら部屋から出て行った。

 

 

困難を目の前にして諦めること無く歩もうとしている人間(スズラン)の姿を見れたことに満足しながら。

 

 

 






現状ではゲームに閉じ込められたのかゲームと同じ世界に転移したのかは不明、だけど決まった反応しかしないはずのNPCが人間と同じ反応をしているのを見て冷静なプレイヤーたちは転移説を唱えている。

スズランちゃん、初心者向けのダンジョンにいたはずなのに気が付いたらラスダンや隠しダンジョン級の危険地帯に放り込まれるというベリーハードに突入。だけど諦めてない。

そんなスズランちゃんを見て蒼星石とレイアはニッコリ。

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