召喚師の人間讃歌   作:鎌鼬

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第3話

 

 

「オラオラオラァ!!走れ走れぇ!!いいかぁ?人間ってのはその気になれば簡単に限界超えれるんだよぉ!!限界超えてからこそが本番だぁ!!」

「ひぃぃぃ!!!!」

 

 

レイアがヴァルハラから持ち出したであろう神槍を振り回しながら【敏捷】のステータス上ではギリギリ追い抜ける速度でスズランを追いかけている。スズランは手首と足首に重りを付けた状態でレイアから全力で逃げている。前に一度追いつかれてフルボッコにされたという経験があるから追いつかれたくないんだろう。

 

 

とば言ってもスズランの【体力】では後十数秒もすれば疲労のバッドステータスが追加されるだろうが。

 

 

「ほら〜後二十秒だ〜頑張れ頑張れ〜」

 

 

それを蒼星石はワインボトル片手にゲラゲラ笑いながら眺めていた。足元にある空のボトルの数は既に五本は転がっている。この男、スズランがレイアに追いかけられ始めてからそれを酒のツマミにしていたのだ。

 

 

「鬼畜しかしないんですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

【最果ての地】にて、誰にも届かないスズランの絶叫が響き渡る。

 

 

ことの始まりは一週間前。スズランは時間にして六十時間悩んで答えを出した。それを早いというのか遅いというのかは個人によって違うだろうが蒼星石とレイアは早いと考えていた。

 

 

スズランの出した答えは、蒼星石に送ってもらうという事。ただでさえ命を助けてもらったという恩があるのにさらに頼み事をするというのは厚かましすぎるだろう。だが蒼星石はそれを快諾、そしてレイアが折角だから鍛えてやると申し出たのだ。

 

 

スズランはその申し出に悩んでいた様だったが最終的にはそれを受け入れて、始まりの戦乙女(ヴァルキリー)式鬼ごっこの場面になる。

 

 

「カヒュー……カヒュー……」

「おぉ……なんか不安になる呼吸音になってる」

「お前のせいだからな……でもこれで【体力】と【敏捷】は上がるからな。そう考えると是非もないよね!!」

 

 

この【eternal fantasy online】には一般的なオンラインゲームになる様なレベル設定が設けられていない。その代わりにステータスやスキルは使えば使う程に上がる様に設定されている。例えば【筋力】を上げたければ身体を動かして負荷をかければ良いし、【耐久】を上げたければ攻撃を受けて耐えれば良い。

 

 

スキルは使えば使う程に練度が上がっていき補正がかかる様に設定されていて、始まりの1では情け程度の補正しか無いが、それが上がっていくにつれて跳ね上がってくる。とはいえどスキルを習得する為にはそのスキルの習得条件を満たした上でスキル屋に行かねばならない。残念だがスズランは今スキル無しの状態である。

 

 

【鑑定】のスキルを通して確認するとレイアのトレーニングによって重点的に上げられているのは【敏捷】と【体力】、それと重りを付けているからか【筋力】と二つほどでは無いが上昇していた。どうやらスズランは【短剣】スキルを取る予定らしく、それなら【敏捷】と【体力】を上げなければとはレイアの言だ。

 

 

【短剣】は普通の武器に比べて火力が低いが手数が多い。なので戦い方は必然的に足を止めて打ちあうのでは無くて動き回って隙を狙うものになる。その為に【敏捷】と【体力】を上げて常に動き回れる様にしているのだとか。一瞬蒼星石の頭の中にパーティーを組んでいた事がある短剣使いの顔が出てくるが、そいつの戦い方は先手必勝に一撃必殺というアサシンの戦い方だったので参考にならないと思って消した。【アサシン】のスキルを取っている奴よりもアサシンらしい戦い方をしているのはどうしてだろうか?

 

 

そんな疑問を振り払う様に地面に転がって死んでいるスズランに向かって【鑑定】をかける。

 

 

name スズラン

status 【筋力18】【耐久15】【体力24】【敏捷29】【魔力7】

skill 【nothing】

hospital 【tiredness】

 

 

最初に鑑定した時よりも魔力を除いたステータスは軒並み上昇している。特に【体力】と【敏捷】の上がり方は目を引くものがある。このままのペースでレイアの戦乙女(ヴァルキリー)ブートキャンプを続ければすぐに中級クラスのプレイヤーのステータスになるだろう。

 

 

だが、それではダメだと蒼星石とレイアは分かっていた。何故ならこれでは確かにステータスは上昇するだろうが戦闘経験を積む事が出来ない。どんなにスペックが優秀だったとしても戦闘で動けなければただの案山子でしかない。

 

 

だからといって戦闘経験を積ませようとしても難しい。【最果ての地】であるここには上級クラスのプレイヤーが万全の準備をして挑む様な魔物しかいない。一番弱い魔物でも中級クラスのプレイヤーが一対一でギリギリ勝てる程のものだけだ。そんな魔物とスズランを戦わせたところで負けて殺されるのは目に見えて分かっている。鍛えると言った手前、そういうところにもキッチリと配慮してやらねばならない。

 

 

「となると……やっぱりあぁした方が良いか……」

「主もそう思うか?私もそう思う」

 

 

地面で死んでいるスズランを見下しながら蒼星石とレイアはとある決断をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、明後日の朝一番で王都に向かうからそのつもりでな」

「ゴフッ!?」

「うわ汚ね」

 

 

何の脈絡も無く出てきた蒼星石の言葉にスズランは夕食のスープを気管に入れて吹き出してしまう。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください……ゲホッゲホッ……」

「あぁ、戦乙女(ヴァルキリー)ブートキャンプは終わってないから安心しな。ここじゃどうしてもステータス上げるだけで戦闘経験が積めないから王都の【初心のダンジョン】に行くことにしたんだ」

「今のスズランならソロでダンジョン行っても苦戦する程度のステータスだと思ってるから。あとは最初にスズランが装備していたのが修繕しないと使えないんだよ。多分後一、二発喰らったら耐久値超えて壊れるな」

 

 

蒼星石とレイアはスズランを王都の【初心のダンジョン】に連れて行くことにした。【初心のダンジョン】とは言葉通りに初心者向けのダンジョンで魔物は低ランクばかり、階層も5階までという親切設計になっている。そこでなら安全マージンを取りながらスズランの戦闘経験を積む事ができると考えたのだ。蒼星石としてはステータスに合ったダンジョンに放り込みたかった。過去の【eternal fantasy online】だったら間違いなくそうしていただろう。だが今の世界では死んでしまえばそこで終わりなのだ。段階を踏むことも必要だと考えて自重した。

 

 

「分かりました……」

「武器とかアイテムは向こうで最低ランクのものだけど揃えるからな」

「そ、そこまでしてもらわなくても……」

「今のスズランは裸一貫じゃないか……金も50ガルドとかいう子供の小遣い程度しか持ってないし」

「グワァ……」

 

 

レイアの言葉でスズランは机に突っ伏す。そう、スズランは現在所持金だったの50ガルド、防具は耐久値ギリギリで使い物にならず、武器も落としたのか持っていない、まさしく裸一貫の状態だった。このままの状態ではダンジョンに入るどころではない。もし入れたとしても他のプレイヤーに狙われ易くなるという危険が付き纏う。流石にそれを見過ごすことは出来なかった。

 

 

「そういうわけで戦乙女(ヴァルキリー)ブートキャンプは明日は休みだ。しっかり休んでおくように」

「イエスマム……」

 

 

レイアにそう返したが未だに立ち直れないのかスズランは机に突っ伏したまま、それを見て蒼星石は迷うこと無くストレージからワインボトルを取り出した。

 

 

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