時々一人称っぽくなってるかもしれませんが、そこは生暖かい目で読んでもらえると幸いです。
高い壁に囲まれたその場所は、さながら陸の孤島。
中では多くの人々が、ボロい掘っ立て小屋でギリギリの生活を送っている。
しかしそれでも、壁の外に行こうとする者は一人もいない。
それもそうだろう。何せ、あの壁一つ隔てた外は、アラガミがいつ出没してもおかしくない危険地なのだから。
例え貧しくとも、生きるためにはこの限られた世界にいるしかない。
この場所の名は、フェンリル極東支部。
元々は生化学工業に特化した一企業に過ぎなかったフェンリルだが、アラガミの蔓延によって無政府状態となった世界において、他のどの企業よりも早くアラガミ、及びその体を構成する《オラクル細胞》の研究に着手し、アラガミに唯一対抗出来る《神機》を作り上げた。
更に、その神機を繰るゴッドイーターをも育成し、世界にその名を知らしめたフェンリルは、名実ともに人類最後の砦となり、『人類の保護とオラクル技術による文明の復興』を掲げ、世界中に支部を構えるに至った。
そんなフェンリル支部の中心部には、明らかに他の家屋とは異なる建物がそびえ立っている。
アラガミに襲われてもビクともしないであろう頑強そうなその建物こそ、支部の中枢を担う役割を持つ。
ゴッドイーターやフェンリルの社員などが暮らす宿泊施設、アラガミ研究のための研究所、ゴッドイーターの養成施設。そして何よりも、生きるのに必要な食料を生産するプラントなど、支部を維持、発展させる上で欠かせない設備がこの建物、及びその地下施設に全て備えられているのだ。
そんな施設である以上、普段外部の人間が出入り出来るのは、エントランスホールまでと定められており、その奥にある施設を見ることなど出来はしない。
ただ一つ、例外はある。それは――
『入りたまえ』
機械を通してややくぐもってはいるが、よく通る、凛とした男の声だった。
政治家にでもなれば、政治に興味すらない若者でさえもその声に聞き入るのではないか、そんな力のある声だ。
声に導かれるようにして入って来たのは、一人の少年だった。
黒髪黒目のその少年が、入ってまず目にしたのは、その広い空間だった。
家がひしめき合い、狭い路地ばかりの外部居住区を見慣れた彼にとって、この広い場所はなんとも落ち着かない。
そんな彼の気持ちを察したかのように、男は優しげな声色で、言う。
『少しリラックスしたまえ。その方が、いい結果が出やすい』
ありふれた言葉だが、それで本当に少し落ち着いた彼は、そこで初めて男の顔を見た。
この部屋の突き当たりの壁、その高さ5メートルほどに位置する場所がガラス張りになっており、その奥にある部屋で、男は腕を後ろに組み、悠然と立っていた。
『さて、早速だが……これより対アラガミ討伐部隊、ゴッドイーターの適正試験を開始する!』
そう、外部の人間が唯一立ち入る機会。それこそが、ゴッドイーターの適正試験だ。
とは言え、ゴッドイーターとなってしまえば、その瞬間フェンリル関係者の一員となるので、関係ないと言えばないのだが。
ともあれ、彼は今回、ゴッドイーターとなるべくここに来たのだ。
『心の準備ができたら、そこにある台座に右手を置きたまえ。それで、適正試験は終了だ』
もっと色々あるかと思っていた少年は、たったそれだけかと少し拍子抜けする。
しかしそれがかえって、一体どんな試験なのだろうかと彼を不安にさせた。
恐る恐る、部屋の中心に置かれた台座へと近づいてみると、彼の不安は更に増した。
台座の上には神機ともう1つ、ナットを半分に割ったような形の物が、上下に別れた台座の両方に取り付けられてある。普通に考えると、この台座はこれを腕に取り付けるための装置――なのだが。
普通に考えて、こんなものを腕に取り付けるのにわざわざ機械を使う必要はないだろうという事と、何よりも、台座の大きさが機械加工に使われるプレス機並にでかいことが、どうしようもなく彼の不安を煽る。
腕を押しつぶさんばかりの迫力に躊躇っていると、またしても男は、そんな彼の逡巡に気付いたかのように口を開いた。
『どうした? 怖いのかね?』
黙っていると、それを肯定の意味だと受け取ったのか、男は再び語り出した。
『君がなぜ、危険と隣り合わせの戦場へ向かう道を選んだかは、私の知るところではない。しかし、君にもそれなりの理由や、覚悟があって来たはずだ』
大仰な手振りも無ければ、特別熱く語っているわけでもない。
しかしそれでも、やはりこの男の言葉には、思わず聞き入ってしまう何かがあった。
『その恐怖心を乗り越えれば、君はアラガミと戦う力を手にするのだ。勇気を振り絞れ。一歩踏み出すのだ!』
「………………」
確かに彼には、ここへ来た理由があった。
アラガミに恨みがあるわけでも、こうしなければ生きられなかったわけでもない。
しかし、彼にとっては大きな理由が。
「よし……!」
意を決し、少年は台座に手を伸ばした。
手首をナットのような物の上に置き、その先にある神機を掴む。
直後、勢いよく台座の上部が彼の腕に向けて落下してきた。
「――――――ッッッ!!!!」
瞬間、彼の腕に激痛が走る。
しかしそれは、押しつぶされた痛みなどではなかった。
何かが無理矢理腕の中に押し入り、食い荒らしているかのような、そんな痛みだ。
あまりの激痛に、腕を引き抜こうともがくが、ビクともしない。
そこでようやく、彼は悟った。この大仰な機械は、あの腕輪を嵌める時、対象者が動かないよう無理矢理押さえつけるための物なのだと。
「うっ……あぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!」
男が何かを言っている気がするが、痛みのあまり、先ほどまではあんなに聞こえていた声すらも、彼の耳には入らなかった。
このまま意識を手放してしまえばどれほど楽だろうと思いながらも、同時に、そんなことをするわけにはいかないことも分かっていた。
そんなことをすれば、確実に死ぬ。
「ぐっ……はぁ、はぁ、はぁ………」
どれだけ時間がたっただろうか。突然痛みが消えたかと思えば、落下した時とは対照的に、ゆっくりと台座が持ち上がっていく。
荒い呼吸を落ち着けて、フラフラと立ち上がった彼は、ふと、自分の体に違和感を覚えた。
体が軽い。更に、何気なく持ち上げた右腕には、先ほど握りしめていた神機がある。
ゆうに子供の身長くらいはありそうな鉄の塊が、いともたやすく持ち上がっていることに驚いていると、神機の柄のあたりから、黒い木の枝のような触手が伸びてきた。
触手は迷いなく右腕に取り付けられた腕輪の穴をとおり、体の中へと入って来る。
しかし、先ほどのような痛みはなかった。いやむしろ、体の奥底から、ふつふつと力が湧き上がってくる。
『おめでとう、神崎キオ君。……君がこの支部初の、“新型”ゴッドイーターだ』
キオと呼ばれた少年は、新型という言葉に疑問を感じ、改めて己の神機を見やる。
彼にはあまり神機の知識はなかったが、それでも、時々出撃途中のゴッドイーターと出くわすことはあったので、この神機のおかしなところはすぐ目についた。
この神機は、見るからに近接戦用の剣であるにも関わらず、その柄のあたりから、どう考えても銃としか思えない砲身が飛び出しているのだ。
『そう言えば、君は何も知らないのだったね……なんなら、私の口から説明してもよいのだが』
男は、一瞬考えるような素振りを見せると、再び顔を上げる。
『いや、今はやめておこう。後で詳しく説明するので、今は体を休めるといい。気分が悪いなどの症状がある場合は、すぐに申し出るように』
やや疑問が残る形となったが、ともあれ、こうして少年は無事、ゴッドイーターとなったのだ。
一旦神機を預けたキオは、一般人も出入りするエントランスで待つように言われた。
一般人も出入りする、とは言っても、フェンリル関係者以外では、何かしらの必要物資の支給を申請しに来る人か、ゴッドイーター相手に商売をする商売人くらいしかいない。
なので、そのエントランスにある長椅子に、足をブラブラさせながら座っている少年を見たとき、キオはすぐ彼がゴッドイーターだと分かった。
だからなのか、キオは何気なく、彼のすぐ隣に腰を下ろした。
「ねぇ、ガム食べる?」
すると座ってすぐ、少年の方から話しかけて来た。
いきなりで少し戸惑ったが、彼なりに話しかけるきっかけを作ろうとしているのかと思い、素直に手を伸ばした。
「うん、じゃあもらうよ。ありがと」
「どういたしましてっと」
受け取ったガムを口に放り込むと、少々薄いが甘い味が口いっぱいに広がった。
普段あまり腹にたまらない物を食べる機会のなかったキオは、新鮮な気分でしばらく味わっていると、またしても彼の方から話しかけて来た。
「アンタも適合者なの?」
適合者、というのは、間違いなく神機使いのことだろう。
そしてアンタもということは、やはり彼もゴッドイーターだということか。
「うん、さっき適合したところ」
そう言うと、少年の表情がパッと明るくなった。
「やっぱり! 実は俺も1時間くらい前に適合したばっかでさ、ちょっと不安だったんだよ。ほら、神機使いって怖い人多そうじゃん? 新人が俺一人だったらどうしようかと思ってたんだよー!」
次々とまくし立てる少年の勢いに、キオは少し押され気味になって聞いていると、ようやく落ち着いたのか、彼は最後に手を伸ばしてきた。
「俺、藤木コウタ! よろしく!」
なんだかあれよあれよと言う間に話が進んでいる気がしたが、まぁ悪いやつではなさそうだ、と結論づけたキオは、軽く微笑むと、言った。
「俺は神崎キオ。よろしく」
握手に応じ、お互いに笑い合う。
しかし、そんな風に喋っていたせいだろう。自分達に近づく足音に、2人は全く気がつかなかった。
「自己紹介は既に済んだようだな。ならば立て」
「へ?」
突然の声に驚き、コウタは間の抜けた返事を返す。
声のした方を振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
何かのファイルを片手に彼らを見据える彼女の眼光は鋭く、まるで蛇に睨まれた蛙のような気分になる。
「立てと言っている……立たんか!!」
「「はいっ!」」
まるで軍の教官のような迫力に、思わずキオはピシッと起立してしまう。
コウタに至っては、早くも苦手意識を持ったのか、視線を合わせないように天井を見上げてしまっている。
「予定が詰まっているので簡潔に話すぞ。私の名前は雨宮ツバキ。お前たちの教練担当者だ」
訂正。のような、ではなく、本当に教官だったようだ。
「まずはメディカルチェックを済ませたのち、基礎体力の強化、基本戦術の習得、各種兵装の扱いなどのカリキュラムをこなしてもらう。今までは守られる側だったかもしれんが、これからは守る側だ。つまらんことで死にたくなければ、私の命令には全てYESで答えろ。いいな?」
直立したままピクリともしない2人を見て、ツバキは一瞬だけ呆れ顔になる。
しかし、すぐに元の凛とした表情に戻ると、
「分かったなら返事をしろ!!」
と、彼らを怒鳴りつけるのだった。
「「はいっ!」」
そして、本日2度目となる教官の怒声を聞きながら、キオは、絶対にこの人には逆らうまい、と心に誓うのだった。
一五○○までに、ペイラー・サカキ博士の研究室までくるように。との指示を受けたキオは、今現在その研究室に向かっている――のだが。
「……ここ、どこ?」
初めて来る場所。それに加え、こんなにも大きな建物に入った経験のない彼は、探し始めてすぐ迷子になってしまったのだ。
こんなことなら、最初にちゃんとツバキ教官から道を聞いておくんだった。と後悔しながら、ならば次に会った人に道を聞こうと心に決めてウロウロと歩いていると、彼の前から一人の少女が歩いてきた。
作業用のズボンと白いタンクトップを着込んだ彼女は体中がオイルで汚れており、いかにも整備士と言った感じの出で立ちだ。
「君、今日来た新人?」
「えっ? あ、うん」
道を聞こうと口を開きかけたタイミングで先に声をかけられ、キオは少々間の抜けた返事を返してしまう。
しかし、これでようやく道が分かる。そう思い、キオは改めて口を開いた。
「ねぇ、ペイラー・サカキ博士の研究室ってどこにあるのか教えてくれない?」
すると、彼女は突然笑い出した。
何がおかしいのかと首を傾げていると、そんなキオの様子に気付いた彼女は、彼に理由を説明すべく口を開く。
「実はさ、ツバキさんに頼まれてたんだ。『今日来た新人、どうせ研究室への道もわからずウロウロしているだろうから、見かけたら声をかけてやってくれ』って」
大当たりである。
「そういうわけだからさ。取り敢えず研究室へはそこのエレベーターを使って、3つ下の階に行ったら、まっすぐ進んだ突き当たりのところにあるから」
「そうなんだ。ありがと」
お礼を言って立ち去ろうとするキオを、彼女は慌てて「待って」と呼び止めた。
振り返った彼に、彼女は優しげな声色で、言う。
「ツバキさん、厳しい人だから訓練とか辛いだろうけど、本当は優しい人だから、めげずに頑張ってね。……困った事があったら、私も相談くらいは乗ってあげるから」
キオのことを心配してか、そんなことを言う彼女にもう一度笑顔でお礼を言うと、今度こそ彼はエレベーターに乗り込んだ。
そんな彼の後ろ姿を見ながら、残った彼女は、一人こう呟いた。
「彼が例の新型か……ちょっと頼りない感じだけど、大丈夫かなぁ」
後にキオがこの事を聞き、ちょっとばかり落ち込んだりするのは、ずっと先の話である。
先ほどの少女に教えて貰ったおかげで、なんとか研究室にたどり着いたキオは、恐る恐るドアを開ける。
思えばここへ来てからというもの、ずっとビクビクしている気がするが……誰であれ、最初はこうなるものだと思いたい。
部屋の中は、間取りの半分ほどが大きな機械に占領されていることを除けば、至って普通の部屋だった。
そして、部屋の真ん中に唯一ある椅子に腰掛けながら、その機械類をカタカタと操作しているこの部屋の主は、キオの方をチラリと見ると、言った。
「ふむ……予想より726秒も早い。よく来たね、神崎キオ君」
これでも道に迷ったせいで遅れた方だったのだが、この人は更に遅くなると踏んでいたらしい。
予想の根拠が非常に気になるが、なんとなく知らない方がいい気がしたので、黙っていることにした。
「さて……見てのとおり、まだ準備中なんだ。ヨハン、先に君の用事を済ませたらどうだい?」
見てもただ機械をいじっているようにしか見えないが、ともかく準備中とのことなので、まずはヨハンと呼ばれた男――先ほど、適合試験の時に話していた男の話を聞くことにしたキオは、彼の方に向き直る。
しかし彼は、キオではなく博士の方を向き、口を開いた。
「サカキ博士……そろそろ、公私のけじめを覚えていただきたい」
怒っている……というよりは、やや呆れている様子の彼に対し、サカキ博士は聞く気が無いのか、黙ってキーボ-ドを叩き続けている。
しかし、博士のそんな反応にも慣れているのか、ヨハンと呼ばれた男は顔色1つ変えず、改めてキオのほうを向いて口を開く。
「さて、適合試験はごくろうだった。私は、ヨハネス・フォン・シックザール……この極東支部の支部長を務めている」
只者ではないと思っていたが、確かに、立ち振る舞いから高貴さを感じさせるこの男には、支部長という役職はよく似合っていると、キオは思った。
「彼も元技術屋なんだよ。ヨハンも、新型のメディカルチェックに興味津々なんだよね?」
たった今まで夢中でキーボードを叩いていたというのに、一応話は聞いていたのか、サカキ博士は突然話に割り込んで補足する。
そんな彼に対し、支部長は首だけ振り向くと、言った。
「あなたがいるから、技術屋を廃業することにしたんだ。……自覚したまえ」
「本当に廃業しちゃったのかい?」
突然の沈黙。過去に何かあったのか、2人の間に不穏な空気が流れる。
しかし、それも長くは続かず、支部長はフッと自嘲気味に笑うと、再びキオに話し始めた。
「さて……先ほど言ったとおり、君にはまず、《神機》という物について、簡単に説明してあげよう」
再び機械操作に夢中になったサカキ博士を尻目に、支部長は説明を始める。
その表情がどこか楽しげなのは、やはり元技術屋という経歴ゆえなのだろうか。
「君は、アラガミが何で構成されているか、知っているかな?」
「オラクル細胞……ですよね?」
「その通り。アラガミは、『考え、捕食する一個の単細胞生物』……オラクル細胞の集まりだ。そしてオラクル細胞は、この世のあらゆるものを捕食し、その性質を取り込む。これは、同じアラガミであっても例外ではない。このオラクル細胞の特性を利用し、我々が用いる武器として発展させた物こそ、神機」
「つまりある意味、神機もアラガミであると言えるわけさ」
支部長の説明を聞いて、技術屋としての血が騒いだのか、またしてもサカキ博士が横槍を入れてきた。
さすがに怒ったかと思い支部長の顔をうかがうも、やはり慣れているのか、特に気にした様子はなく、再び説明を始めた。
「この神機には、2つの形態が存在する。1つは、近距離戦闘用の剣形態。そしてもう1つが、遠距離戦闘用の銃形態だ。しかしこの2つの形態、特に銃形態には欠点がある。銃形態の神機は、オラクル細胞が変異した特殊なエネルギーを弾丸として放つのだが、当然、このエネルギーは無限ではない。ある程度は、神機に埋め込まれたオラクル細胞が生成してくれるのだが、その量にも限りがあるのだ。そこで今までは、剣形態の神機が、敵であるアラガミを切った際に取り込むわずかなオラクル細胞を、銃形態の神機に補充するという手段を用いていた。しかし、アラガミとの激しい戦闘中にそれを行うなど到底不可能である以上、そのやり方ではどうしても限界があったのだ。そこで、此度フェンリル本部技術開発局は、その2つの形態の可変を可能とした、新たな神機を開発したのだ。それこそが、君の神機……《新型神機》、というわけだ」
説明を聞いたキオは、ようやくあの神機の異様な形の意味が分かった。
つまり、剣の柄から飛び出た砲身は、やはり銃。その2つを戦闘中に切り替えながら、状況に応じて柔軟に戦う。それこそが、自分の役目。
「けど、この新型神機というのはなかなかやっかいでね。可変という機能をつけたせいか、従来の神機よりもより厳しい適合条件をクリアしなくては、到底扱うことの出来ない代物になってしまったんだよ」
やっかい、というわりには楽しそうにサカキ博士は言う。
そんな博士とは対照的に、支部長は「さて、ここからが本題だ」と前置きし、真剣な面持ちで再び話し始めた。
「改めて、君の任務を説明する。君の任務は、ここ、極東地域一帯のアラガミの撃退、及び、そのアラガミの《コア》の奪取だ。そしてその資源は、来るべき『エイジス計画』を成就するための礎となる」
エイジス計画。その計画の名は、キオも何度か聞いたことがあった。
人類が生き残るための最後の手段にして、人々の最後の希望。
「エイジス計画とは、極東地区沖合い、旧日本海溝付近に、アラガミの脅威から完全に守られた楽園を作るという計画なのだが……これを成すためには、まだまだ資源が足りない。君には、期待しているよ」
恐らく、支部長もまたこの計画に期待を寄せる一人なのだろう。知ってか知らずか、彼の言葉に熱がこもる。
そして、話すべきことを話し終えた支部長は、サカキ博士に「後は任せた」と告げ、部屋を後にした。
「さて……準備完了だ。そこのベッドに横になって」
「あ、はい」
言われるがまま、キオはベッドに横たわる。
そう言えば、メディカルチェックとは一体何をするのだろう。そう思った彼はサカキ博士に聞くため、体を起こそうとするが、なぜか力が入らなかった。
「少し眠くなるだろうけど、気付けば君はもう自室のベッドの上だ。戦士のつかの間の休息というやつだね。予定では、10800秒だ。ゆっくりお休み」
素直に3時間って言えばいいのに――
そんなことを考えながら、キオの意識は深い眠りへと落ちていった。
気がつくと、キオは見知らぬベッドで横になっていた。
あくびを噛み殺しながら起き上がり、大きく伸びをすると、一言。
「……ここ、どこ?」
考えること数秒。
寝ぼけていた頭もだんだんハッキリしてきて、キオはつい先ほどのことをようやく思い出す。
「そうか……ここ、俺の部屋か」
メディカルチェックに入るとき、サカキ博士は「気づけば君は自室のベッドの上だ」と言っていた。
あの言葉通りなら、この場所はキオにあてがわれた部屋ということになる。
「結構広いんだな……ゴッドイーターの部屋」
ここに来る前に間借りさせてもらっていた部屋を思い起こし、キオは思わず苦笑する。
人が一人が寝れば、もう後は誰も入れないほどの部屋で生活していたのだが、この部屋は軽く10人は寝られるのではないかというほど広い。
しかも、部屋の奥には小さな冷蔵庫や、その上にはコーヒーメーカー。更には大きなソファーなどがあり、キオはどうしても以前の生活との格差を感じざるを得なかった。
「……さて、このあとどうすればいいのかな?」
メディカルチェックのあとも、スケジュールが詰まっているとツバキは言っていた。
であるならば、目が覚めた以上いつまでも部屋にいるわけにもいかないが、かと言ってどこへ行けばいいのかも聞いていない。
どうしたものかと考えていると、突然ドンドンとドアを叩く音が聞こえてきた。
「はいはーい、今開けまーす」
もしかしたらツバキさんだろうか? と思いながら開けてみると、そこに立っていたのはコウタだった。
先ほどと変わらず、黄色い服とオレンジのズボンに身を包んだ彼は、キオの方を見るなり、突然腹を抱えて笑い出した。
「ははははは!! お、お前、なんだよその頭!」
どうやら、原因はキオの髪にあるようだ。
癖の強い彼の黒髪は、元から少しツンツンと逆立っているのだが、これが寝起きともなると更にひどくなり、爆発したかのような髪型になるのだが、それがコウタにはツボだったらしい。
「それより、何か用? あっ、もしかして、ツバキさんに呼ばれた?」
いつまでも笑い続ける彼にキオが尋ねると、ようやく落ち着いたらしいコウタは、「そうだった!」と前置きし、口を開いた。
「今すぐ訓練を始めるから、キオを連れて訓練場まで来いってツバキさんが。早く行こうぜ!」
言い終わるが早いか、コウタは踵を返し、エレベーターの方へと走っていく。
「あっ、ちょっと待ってよコウタ!!」
慌てて追いかけながら、キオは、果たしてツバキさんの訓練とはどういったものなのだろうかと、そんなことを考えていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
荒い呼吸を繰り返し、キオとコウタの2人は訓練場を走っていた。
訓練場に着いた彼らに対し、ツバキがまず始めに命じたことは、「私がいいと言うまで全力で走れ」というものだった。
言われるがままに走り出した2人は、知らないうちに自分の足が速くなっていることに気付いた。
その上、いくら走っても全く疲れない。
いつまででも走っていられそうな感覚に楽しくなってきた2人は、言われるまでもなく全力で訓練場を何周も、何十周も走り回った。
とは言え、流石に永遠に走り続けられるわけはなく、体力の限界は突然訪れ、2人仲良く一気にペースが落ちる。
しかし、ツバキさんはその時こそを待っていたかのように、具体的な数字を俺達に示した。
「後100周!!」……と。
「俺、もう、無理……」
残りはまだ90周ほどと言ったところで、コウタはその場にへたりこんだ。
それに釣られ、キオも足を止めてしまう。
「まぁ、初日はこんなものか……」
そんな彼らの様子を初めから予想していたのか、ツバキは特に怒るでもなく、手に持ったファイルに何かをメモしていた。
そして2人に近づいて来るなり、言った。
「どうだった? ゴッドイーターになって始めてのランニングは」
聞かれ、2人は呼吸を整えながら、なんとか答えた。
「最初は、すごい速く走れて、疲れないし、驚きました……けど」
「なんでかな……急に疲れがドッと来たんだよな……」
彼らの言葉を聞いたツバキは、満足そうに頷くと、言った。
「お前達も知っての通り、ゴッドイーターは神機をコントロールするため、その腕輪から定期的に《偏食因子》を摂取している。だがこの偏食因子から得られる恩恵は、単に己の神機に喰われなくなるだけではない。同時に、人間の身体能力を極限まで高める効果もある。この高い身体能力のおかげで、ゴッドイーターはアラガミとも互角に渡り合えるわけだ。しかし、突然上がった身体能力だ。慣れるにも時間がかかる」
確かに、とキオは思った。
ゴッドイーターでない普通の人間でも、歳をとって体力が衰えると、昔の体力と同じ感覚でいるためにうまく走れず、転んでしまったりするだろう。そして小さな子供などは、自分の体力の限界が分からず、力尽きてパタッと眠るまで動き回ってしまうことが日常茶飯事だ。
「つまり今のお前達は、自分のこともわからん無知な子供と同じということだ」
ツバキの言葉に、コウタは苦笑を浮かべる。
しかし、キオは
「自分のこともわからない……か」
その言葉が、いつまでも頭の中に響き、とても笑って流すことは出来なかった。
なんか主人公あんまり喋ってない気がする。
こんなところ原作リスペクトしなくていいのになぁ……まぁ、こんなもんですかね?
えっ、戦闘はどうしたって? 多分あと2話は先になりますね!←おい