半不老不死の科学者が異世界からくるそうですよ? 作:ゆっくり分隊長
暫くして試練は十六夜の勝利で終わった。
それを見た黒ウサギはコミュニティの現状を少しでも良くできるかもしれないと思い、
思わず絶賛謎のガチギレ中の尊から意識を外して大蛇へ戦利品を貰いに行ってしまう。
(...ようやく注意外したか)
幾ら怒っていてもある程度冷静な思考が出来ると自負している尊は先程からずっと黒ウサギの注意が此方に向いていたのをを感じていた。
(さて...一発かましますか☆)
大蛇と交渉中の黒ウサギを何やら真剣な表情で見つめる十六夜の背後で尊はリュックサックからいろいろな機械を取り出し用意していた。
暫くして用意が終わった尊は警戒されないよう極めて冷静に努めて声を出す。
「なぁ十六夜?」
「あぁ?なnっ..!?」
十六夜が無警戒に振り返ったところを尊の右ストレートが襲う。
十六夜にとっては大して脅威ではないその右ストレートは、それを補って余りある怒気と殺気によって回避するという選択肢になる。
咄嗟にバックステップで拳を避けた十六夜。
(...掛かったか)
十六夜が避けるの前提であった尊は内心でほくそ笑む。
そして十六夜が着地していた瞬間、周囲に仕掛けてあった感圧式の罠のうち一つが作動、十六夜の足に絡まる。
それを外そうと十六夜が尊から意識を外した隙を突いて馬乗りになる。
「いきなり何なんd...おいなんか目が怖いぞ」
大抵の事に動揺しないだけの胆力を持っているはずの十六夜が引く程度には尊の瞳からは光が消えていた。
「俺がさっき言ったこと、オボエテルカナ?」
「さっき?さっき....あっ」
十六夜はサンプルをとる間静かにしてろという言葉をすっかり忘れていた。
「俺研究の邪魔が一番嫌いなんだ。分かるか?」
だんだんと尊の顔が近づいてくる。
「どれ程綺麗かというと、こうしてキミが身をもって体感してるよね?」
さらに顔が近づき、ハイライトが消え真っ暗になった瞳が十六夜を呪い殺さんとばかりに数センチの距離まで迫っていた。
そして。
「何をしちゃってくれてるんですかこのお馬鹿様方ーーーッ!!!」
突然尊の顔が下にブレ、ハリセンを振り抜いた黒ウサギの姿と奥でドン引きしている大蛇の姿が目に入った。
「本気で叩かなくても良いじゃないか...」
「本気で叩きでもしないと十六夜さんを殺してしまいそうなほどの雰囲気を出してた人が良く言いますネ...」
十六夜も同じようにハリセンで叩いた黒ウサギは若干怒り気味だった。
「尊さんの言い分も分かりますし、それに関しては完全に、えぇ、かんっぜんに十六夜さんに非があります。ですがね?世の中には〝やりすぎ〟という言葉があるんですよ分かります?尊さん?」
「...わから「わ・か・り・ま・す?」エェワカリマス」
「ヤハハ、尊がそこまで根っからの研究者気質だったなんてな」
「十六夜さんも他人の話をちゃんと聞いて守って下さい!」
「へいへい」
「ちゃんと分かったんですか?全く...」
「善処するさ」
「善処って何ですか善処って!?」
世界の果てで途轍もない問題児共を抱え込んだ一人の少女の叫び声が空しく響いていた。