一発の銃声が響く、硝煙が上るその傘の先端が向けられたのはアンリエッタだった。
ルイズは背後のアンリエッタに血相を変えて振り返る。
アンリエッタが握った自身の杖は砕け、銃弾がアンリエッタの頬をかすめ、はるか後ろの外壁に当たっていた。
「ブツブツ言いながら放つ魔法なんてのも俺から見ればスキだらけの骨董品だぁ。悪い事は言わねぇ、全員銃に持ち替えな。」
ルイズは杖を硬く、血がにじむまで握りしめ、阿伏兎に振り下ろす。
ドォン
爆破は阿伏兎の顔のすぐそばで炸裂し、阿伏兎は涼しい顔でルイズを見た。
「だから言ってるだろう、お嬢さん、あんたらの魔法とやらは戦闘には役立たずだ。」
魔法を避けることもたやすい阿伏兎ははぁ、と溜息をつく。
「長い歴史の中でお前さんたちは忘れちまったのさ、本当の意味で戦うってことによ。」
阿伏兎は杖を下し、うつむいたルイズの前に立つ
「さぁ、お嬢さん、俺の勝ちだ、おとなしくついてきな。」
「・・・・てない。」
「あぁん?」
「私たちはまだ負けてない!!」
ルイズの右足が阿伏兎の股間に突き刺さるように放たれた。
アンリエッタは目を避ける、モンモランシーは、よし!と拳を握る。
阿伏兎は最初、涼しい顔をしていたが、どんどん顔や全身に脂汗がにじんでくる。
「特大の失敗魔法よ!!くらいなさい!!」
今まで以上のすさまじい轟音が阿伏兎の耳を劈く、ルイズの爆炎の失敗魔法が炸裂し、阿伏兎は背中から地面に倒れる。
「ルイズ!そこからはやく離れて!」
「!!!」
気が付けばルイズの上空に黒い男、阿伏兎や神威と同じ格好をした男達三人がルイズを囲むように空中に現れた。
「はーい、そこまで。」
ルイズの後方から聞こえた聞き覚えのある間の抜けた声、その声に夜兎の男たちはルイズの前に着地し、傘を下す。
「ごめんね阿伏兎、僕の勝ちだね。」
「・・・け!。」
阿伏兎はよいしょ、と立ち上がり、ルイズを見てふう、と溜息をつく。
「さぁお嬢ちゃん、これ以上犠牲者を増やしたくなかったらおとなしくきてもらうしかないんじゃないの?」
ルイズはぎり、と奥歯をかみしめる、神威はルイズの肩に手を置く。
「どっちにしろこの国で君を守る事なんてできないよ。こんなに弱い国じゃぁね。」
アンリエッタはニコリと笑いながら振り返る神威と目が合い、愕然と顔をこわばらせた
その通りだった、虚無かもしれないルイズを国外に連れ、内密と国内で使い魔を捜索させていた自分の無計画さ、この国でもあの国でも本当にすべての人間が信頼できるといえばそうではない、それなのにルイズを動かした、あまつさえ、一人で行動もさせた。
アンリエッタは自分を支える脚にさえ力がなくなり、その地面に崩れ落ちる。
「大丈夫だよ、この国なんて捨てて僕たちと遊んでればそのうち才能が開花するさ。」
「待て・・・。」
その消え去りそうな声に神威は視線を移す、そこには顔面血まみれのギーシュがヨロヨロと杖を握り、神威の方に歩み寄っていた。
「まだ・・・負けてない。決闘、・・・しろ。」
ろれつも回らないギーシュがゆっくりと神威とルイズに近寄る。
その姿はあの女好きの色男とはかけ離れた光景だった。
「ギーシュ、・・・。」
ルイズはいてもたってもいられずギーシュに走ろうとするが阿伏兎に腕をつかまれ、その動きを阻止される。
「は・・離しなさい!」
「・・・。」
阿伏兎は何も言わず、ギーシュをまっすぐ見ている。
「ルイズを賭けて勝負、しろ・・・。」
「ふーん、君、この子の事好きなの?」
「・・・・ここで退いたら、僕は貴族じゃない。僕は貴族だ、勝てない敵にも背中を見せない、・・・仲間がピンチの時は。」
ギーシュはすうううと息を吸う、そして自分の肺が張り裂けそうなほどに雄たけびをあげるように叫ぶ。
「何が何でも仲間を救う!!それが誇り高きトリステイン貴族だぁぁぁぁ!!」
ギーシュは隠していた左手を思い切り振りかぶった、その手には砕けた青銅人形が持っていた剣。
逆手に持ち、ギーシュは刃を神威に向ける、・・・が。それはあっけなく神威の右手によって軽くギーシュの腕ごと掴まれ、刃は神威の目の前で阻止された。
「そういうのを無駄な悪あがきっていうんだよ。」
神威は目を大きく見開き、左手を貫き手の形にし、ギーシュの左胸に突きつける。
はずだった。
神威の顔面に痛みと衝撃が走ったと同時にギーシュの膝が地面につく。血がボタボタと地面に垂れ、神威は視界が揺らぐ。
「誇り高き貴族にそのキタネェ手で触れんじゃねぇよ。」
ギーシュは地面に倒れ、自分の目の前にいる黒髪の少年を見上げる。
黒のインナースーツに黒のジーンズ。その腰に携えたデルフリンガーと呼ばれる剣の柄に血が付いている。神威はその柄を見て血走った眼をし、狂喜の叫びをあげ、少年にとびかかるが。
「おせぇ。」
閃光の抜刀が神威の体を切り刻む、通常なら骨まで切り裂くその攻撃は神威の異常な筋力でダメージを削がれている、少年はダメ押しで右足で神威の胴体、腹を蹴り上げる。
神威は後方に吹き飛び、阿伏兎の隣、ルイズの隣を勢いよく通り過ぎ、学院の壁面に叩き付けられる。
激痛が少年の右肩に走る、血が吹き出し、少年は神威を睨む。
一瞬で少年の肩をえぐった神威も少年を笑顔で睨む。
阿伏兎は直感でまずいと感じ、ルイズの腕に力を込め、後方に飛ぼうと脚に力を入れる。が、すぐ目の前まで肉薄していた少年にルイズをつかむ腕を取られていた。
「わりぃけど転職させてもらうぜ、・・・採用されるかわかんねーけど。」
ルイズをつかむ阿伏兎の腕は強引に少年に引き離され、阿伏兎はにやりと笑う。
「そうかい、おめーさんが例の。」
「そう、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、平賀サイトだ。」
サイトは阿伏兎の頭に渾身の頭突きをお見舞いする。
瞬間、阿伏兎の意識は絶たれ、腕をつかまれたままうなだれるように倒れる。サイトは阿伏兎をまるでマネキンを扱うかのように、神威の方向に放り投げた。
「今日は帰れ、お前ら、そのうちまたどっかで叩き斬ってやるからよ。宇宙の暴れん坊様。?」
そのセリフに反するように、ルイズの後方から三人の夜兎の戦闘員が一列にサイトにとびかかる。
サイトはデルフを右手に強く握りしめ、ルイズの頭上を振り返りざまに切り裂く。
三人は空中で動きが止まったように硬直し、サイトの手前に着地する。
サイトはゆっくりとルイズに歩み寄り、その三人に構うことなく、ルイズと向き合う。
「ご主人様、採用ならご命令を。」
膝を地につけ、サイトは頭をルイズに下げた。
「な・・・な・・・。」
「・・・・ご命令を。」
再度、サイトはルイズに指示を乞う。
「なんでもいいから私たちを助けなさいよぉぉぉぉぉ!」
その叫びと同時にサイトの背後の夜兎三人が血を吹き出し倒れる、それと同時に学院の屋根に潜んでいた夜兎の戦闘員数十名が姿を現し、サイト目がけて突進、ダイブする。
サイトの凶暴な笑顔と淡い光が宿るサイトの瞳がルイズの瞳に映り、叫び終えてぽかんとした顔がサイトの光を宿した右目とルーンが刻まれた左目に映りこんだ。
サイトは短くこうルイズに告げる。
「御意。」