今回の話はシエスタの学院勤務中の昼間の話です。
チクトンネ街の酒場のカウンターで血の海に沈む銀時を他所にアニエスはグラスを傾ける。
「休みの一杯はうまいな。」
「あ、・・そう、なんで俺血の海に沈んでんの?」
「それは逆ナンパを無神経な一言で片づけたトンネル工事作業者のせいだろうな。」
「もうトンネル工事ネタはやめろやァ!こりごりなんだよあの話は!」
「そうか、あのカジノの一件で味をしめたかと思ったのだが・・。」
銀時を殴った割れた酒瓶を投げ、アニエスは一枚の紙を銀時に渡す。
「ところで最近金持ちの貴族で流行っているメイドランキングというのを知ってるか?」
「何それ?加点式?透明?この前この作品98位だったぜ、一日で消えたけど。」
「ここの話じゃない、いや、ここトリスタニアの貴族で流行っているランキングだ。」
銀時はアニエスの渡す紙をまじまじと見つめる。
「ランキングっつーか金額だな。」
「ほとんどが容姿やスリーサイズを明記したものだ、その隣にこの国での金額・・・どう思う。」
「まぁ・・・あれだろうな。」
「メイド狩り、買春ともいうか、ゲスな趣味だ。」
銀時はふと、見慣れた顔のメイドの少女を紙に見つけた。無言でそのメイドの少女を一瞥し、銀時はアニエスに紙を返す。
「金持ちの貴族が己の欲求を満たすためメイドを買う、もしくは売る、そういう遊びらしい。まったく、気持ち悪いことこの上ないだろう。」
「で?銃士隊の隊長アニエスさんが自ら動きにきました?ってか。」
「いや、今日は私は休みだ、というか、銃士隊は今回の任務から外された。」
「任務?」
「別件で海賊を追っている、数日前にトリステインの海岸に海賊に襲われた舟が打ち上げられているのが見つかってな、乗組員は数名のメイドと共に惨殺。今回の任務はその調査だが、・・・銃士隊は今回の被害者が女性が多いとの理由で調査から外された。・・・感情的になるから、だそうだ。」
「感情的ねぇ。目の前の特殊戦隊アバズレンジャーがよく言うぜ。」
再び血の海に沈む銀時を後目にアニエスは店主の恐怖で震える手で注がれたグラスを傾ける。
「な、・・・なんで俺血の海に沈んでんの?」
「手が滑った、すまん。」
割れた酒瓶をぽいと捨て、アニエスは再び今回の一件の事を口にする。
「そのランキングもお前の寄ったカジノを摘発したときに見つけた。どうもゲスな趣味の貴族の連中は平民のゴロツキと結託して事に及んでいるらしいな。」
「いてて、・・で、なんでんなこと俺に言った?」
「さぁな、だが、その紙に書かれた人物の一人をお前は知っているだろう。」
「・・・・・まぁな。」
そこにはトリステイン魔法学院勤務、シエスタ。と書かれていた、丁寧にどこで盗撮したのか彼女の笑顔の写真も添付されている。
アニエスとは酒場で別れ、銀時はチクトンネ街をうろうろしていた、かぶき町にそのまま帰ってもよかったのだが、どうにもアニエスの話が気になる。
どこの国でも男と女、金のやりとりでの情事なんぞはよく聞く話だ。が、アニエスの最後の一言が気になる。
カジノの客には様々な貴族が出入りしていた、今回の海賊の事件の被害者もメイド、何か気になってしかたないんでな。
その言葉がどこか銀時自身も納得がいく、それにあのシエスタの情報。
気が付けば銀時はアニエスからあの紙をもらい、外で眺めていた。
そして、ふと立ち止まる。
「あれ、俺がこれ持ってたらあやしくね?」
「あーキミキミ、ちょっとこんなとこでなにしてんの?昼間っから。」
ナイスタイミングで銀時の後ろから町の警備兵が銀時を呼び止める。
いやな顔で銀時は壊れた人形のように警備兵に振り返る。
「何持ってるの?君、ちょっと質問いい?」
「あーいや、これはね、ちょっと見せらんないかなぁ。」
「なんで?なんで見せられないの?」
「いや、ちょっと・・・なんでもないっすって。」
「あーそこの人もちょっといい?なんかこそこそしてあやしいし。」
銀時の後ろの奥まった通路の影で確かにこそこそした黒髪の和装の男が声をかけられ立ち止まり、こちらを振り返った。
「桂じゃない銀時だァァァァァ!!」
いきなり飛び出した桂が警備兵をアッパーカット一発でノックダウンする。
「人の名前叫びながら犯罪してんじゃねェェェェェ!」
銀時の踵落としが今度は桂の頭を直撃する。
チクトンネの広場、桂と銀時は噴水の前で互いに違う方向を見ながら当たりを警戒する。
「余計なことしやがって、お前のせいでこっちも犯罪者扱いじゃねーか。」
「安心しろ、次の話になった時点でなかったことになる。」
「あ、そっか、めんどいもんね、じゃねーよ!」
「・・・・・・海賊の話はきいているな、銀時。」
「ああ、こっちの知り合いにな。で?なんか知ってんのか。」
「野次馬にまぎれて現場を見たが、海賊の仕業とはどうも腑に落ちん。」
「どういうこった?」
「舟だ、貿易で他国へ渡ろうとしているわりにはさび付いてボロボロだった、いくら数日漂流してたにしてもさび付きすぎておったわ、おかしいと思わんか?」
「・・・・。」
「それに、新聞の情報では被害者の乗組員は全員剣で切られて死亡、メイドは全員焼死体、真っ黒コゲだったそうだ。」
「えげつねぇ。」
「別にこの国をどうこうしようとは俺は考えてはおらぬ、だが、エリザベスがその舟の出どころを調べたところ、一人の人物に行き当たったのだが・・。」
「・・・それ、この近くか?」
夜・・・
王都トリスタニアの一角にその屋敷はあった。
ジュール・ド・モットー貿易、そう大きく看板が掲げられたその屋敷の中でシエスタはいそいそと仕事をこなす、主に経理の雑務だが書類に目を通し、シエスタはいろいろなサインをモットーの代わりにハンコを押していく。膨大な書類にめまいを起こしそうだがシエスタはめげずにひたすら書類を読み、あらかじめ聞いていた従業員の契約内容を確認しながら書類にサインのハンコを押す。
「お疲れさまだね、シエスタ。休憩にしようか。」
「はい、ミスタ。」
シエスタは椅子から立ち上がり、モットーの淹れてきた紅茶を受け取る。
「すいません、わざわざ。」
「いやいや、お互い仕事してるんだ、これくらいかまわないさ。」
モットーはシエスタを休憩用のソファーに座らせ、対面に座る。
「でも助かったよ。ありがとう。」
「いえ、・・・でも、あの事件のことは同じメイドとして、心が痛みます。」
「・・・そうだね、この国は貴族と平民の扱いの差が激しいから、今回の事件も被害者が平民ばかりだ。もしかしたらろくに調査も進まないかもしれないな。」
「そんな・・・。」
「彼女達には・・・顔向けできない。」
俯いたモットーを見て、シエスタは話題を変えようと紅茶を一口飲み、あたふたと話題を探す。
「それに、彼女たちは焼死体で発見された。今の時代人間の体も魔法アカデミーのマジックアイテムと錬金を使えば肉体だけは作れる。人体錬成とでもいうのかな、・・平民の死体なんて国はろくに調査もしない。その死体が本人とも分からないのに。」
シエスタは紅茶のコップを落とし、そのソファーから崩れ落ちるように倒れる。
意識が薄れ、モットーの声が聞こえるが、体が動かない。
「でもそれでいいんだ、そんな国だから。」
突如事務室の扉が開き、モットーの後ろへ筋骨隆々の傭兵や平民のゴロツキがニヤニヤとシエスタを品定めしながら姿を現す。
シエスタは薄れる意識の中、ルイズの言葉を思い出す。
友達として誇りに思う。
その言葉だけが頭にのこったまま、彼女の動きは完全に自分の意志とは関係なく停止する。意識だけがはっきりとし、視界もそのまま、声も聞こえる。そしてそれが自分が飲んだ紅茶にあったと気が付くには時間はかからなかったが、時すでに遅し、なにもできない。
「そんな国だから俺の欲求は満たされるんだ。」
邪悪な顔を浮かべ、モットーはシエスタの髪を掴み、ニヤニヤと嗤う。
「おい、上物が手に入った。準備しろ。」
傭兵の男はこくり、と頷き、部屋を出る。
「へへ、たしかに上物だ、しかし旦那も外道ですねぇ、もう使わない舟を海賊に襲われたと偽装して従業員を船員として殺害、挙句の果てに焼死体を偽装して自分のお気に入りのメイドを地下に隠してんだからよぉ。」
「皮肉なもんだなぁ、この女も、まさか死んだ従業員の書類にハンコ押す仕事を手伝って旦那の毒牙にかかるんだからなぁ。」
「ふん、連れていけ、お前らも適当に楽しんでいいぞ?」
モットーはそう言うと事務室の隠し扉へつながる通路を本棚に隠されたスイッチで開き、階段を下りる。
シエスタはおそらくは薬で動きを封じられている、そんな彼女の眼に飛び込んできた光景、そこはまさに女の地獄、悪趣味な赤い壁に床、そして壁に置かれた一人用の檻に閉じ込められた裸の若い自分と同じくらいの年の女性。怯え切った眼でモットーを見て、次にシエスタを見る、ああ、・・次はこの子か。
そんな声が聞こえてくる気がした。
「好きにしろ。」
モットーの掛け声と共に、傭兵やゴロツキの男はニヤニヤとその顔をシエスタに近づける。
モットーの歪んだ性癖に翻弄される女性達。女性達はもうあきらめていた、この男が飽きるまで自分たちは玩具にされる。
「ぎゃああああああああ!」
突如上がる傭兵の叫びにモットーは振り返る、コツコツと階段を下りる音。
そしてそのモットーの目の前には銀髪の死んだ目の男が呑気な顔で血まみれの木刀を握り、鼻をほじりながら銀時はモットーの前に佇む。
「外道?お前らは外道なんてモンじゃねーよ、女掻っ攫って性欲満たすなんざよく聞く話だ、・・・人殺して罪から逃げようなんざよくある話だ、・・・・女監禁して蹂躙するなんざ昼のワイドショーでよくやってらぁ。」
「テメェ!!」
傭兵の一人が腰の剣を抜き、とびかかる、銀時は木刀をその傭兵の股間めがけて振り上げ、吹き飛ばす。傭兵は地下室の天井に深々とその体をめりこませる。
タダものじゃないこの男の一撃に全員が臨戦態勢になる。
「・・・・・・本物の外道ってのを見せてやるよ。」
冷徹な鋭い眼をし、木刀を肩に担いだ銀時をシエスタはその眼に焼き付ける。
前置き長くなりすぎました
今回の話で銀時の戦闘シーンはありません。
次回の話ではあの人が代わりに戦います。