あの子は暗い月。
シエスタが気が付いた時には銀時の背中の上だった。銀時はゆっくりと王都からトリステインの帰り道をシエスタをおぶって帰っているところだ。
体が徐々に動く、シエスタは銀時の肩に置いた手をゆっくり動かす。
「お、薬が抜けたみたいだな。」
「あ、・・はい、なんとか動けます。」
「まぁ学院まで背負ってやらぁ、もうちょっと寝とけ。」
シエスタは銀時の背中に背負われながらあの光景を思い出す。
鬼のような彼になぎ倒され、血の海に沈むモットーの手下と本人。冷酷無比に彼らを痛めつける彼の姿を最後に自分は気を失い眠ってしまった。
「あの地下室の嬢ちゃん達も解放されたぜ、魔法衛士隊の連中があのあと突入してきた。・・・アニエスに感謝しとけよ。」
安心からの恐怖の実感、あのまま銀時が来ない場合、どうなっていたのかは想像できる。運よく自分だけは綺麗なまま助かった、だが、彼女達はどうだっただろう、これから先どうなるのか・・・想像できない、いや、したくはない。
そして銀時のあの眼、シエスタの押さえていた感情が一機に噴き出す。
「う、・・・ううう。」
涙が流れ、シエスタは銀時の背中にしがみつき、泣いた。
「私、・・・人を信用しすぎですよね。・・・平民と貴族の違いが激しいってわかってるのに、・・・自分だけが特別だ、って勘違いして、・・・こんな、・・こんなことに。」
ルイズの言葉を思い出す。 友達が信頼されるのを誇りに思う。
あの男が全て悪いとも思う反面、ルイズに合わせる顔がないとも思う、いろんな感情が入り交じり、シエスタの涙は止まらない。
「オメーは特別だよ、少なくともあの学院の連中にはな。」
「・・・・え。」
「見てりゃわかるぜ、学院のガキ全員に笑顔振り撒いて、朝からやる気を出させる、一人前のメイドカフェの従業員でもなかなかできねぇよ、そんな事、お前は特別だ、俺が認めてやらぁ。」
「・・・。」
「だから泣くな、お前はガキの前で涙なんて流すんじゃねぇ。お前を泣かせる奴がいたら代わりに俺がぶん殴ってやらぁ、その相手が鬼でも悪魔でもな。」
「・・・。」
「まぁガキの太陽は太陽らしく笑顔で輝いてな、っつーこった。お前はお前らしく何も心配しないで怪力バカメイド娘で居りゃいいんだよ。今日も明日もな。」
シエスタは涙を袖でぬぐい、銀時の天然パーマの後頭部を見る。
「はい、頑張ります!」
さわやかな笑顔は銀時には見えないが、シエスタの元気な声を聴くと銀時は彼女はもう大丈夫だろうと心の中で安心する。
「あ、もう体大丈夫なんで、降ろしてもらえます?」
「お、いいのか?」
銀時はシエスタを背中から降ろす。
「今回の事はまたお礼しますね、銀時さん。」
「銀さんでいいぜ、まぁ好きに読んでくれたらいいけどよ。」
「じゃぁ、今日はありがとう、銀さん。」
まぶしい笑顔でほほ笑む彼女に銀時は頭を掻き、俯きながらおう、と返す。
若干ながら銀時本人も恥ずかしい。
「待ちやがれテメェらァァァァ!!」
ふと後ろから男の叫び声と二人を制止する声が響く。
銀時のシエスタの前には数十名の傭兵の男、その中央にはあのモットーもいる。衛士隊の包囲から逃げ切り、頭から流れる血をぬぐいながら、血走った眼で二人に罵声を浴びせる。
「逃がさん、逃がさんぞ平民の分際で、このモットーをコケにしおって!!」
「あーあ、奴さん完全にキレてらぁ。おい、茂みに隠れてろ、俺が相手して・・・。」
「えーっと、これくらいの木がいいかなぁ、・・。」
「おい、ちょっと、話聞いてる?何やってんの?」
シエスタは銀時ににっこりとほほ笑み、その木にしがみつく、そしてメキメキと彼女の二回り以上はある大木を地面から引っこ抜き、・・・・
「殺せぇぇぇぇぇ!」
モットーの掛け声と同時に銀時に傭兵たちが武器を持ち、とびかかる。
その傭兵に向け、シエスタは大木を軽々と投げつけ、銀時に飛びかかる傭兵を吹き飛ばす。
「・・・・・えぇ?」
銀時が唖然とする中、シエスタは腕をまくり、屈強な傭兵の前に佇む。
「銀さんの言う通り、今日からは怪力バカ笑顔メイド、シエスタでいこうと思います。」
シエスタはどこかふっきれたようにそう言うと、傭兵の一人の頭を怪力で掴み上げ、傭兵の真ん中に投げつける、それで彼女の攻撃は終わらない。跳躍で傭兵たちの真ん中に一歩で着地すると、傭兵数名を殴りぬけ、倒れた傭兵をジャイアントスイングで武器代わりにし、次々と傭兵を倒していく。
「・・・ちょ、・・・お前、もしかして・・・白い肌に、怪力・・その戦い方。」
銀時の頭が坂本の側近、陸奥を頭ではじき出す。
そしてもう一人、自分の近くの存在、声優無駄遣いゲロイン神楽を思い出させる。
そういえばギーシュの喧嘩の時も尋常じゃない力を見せていた。
「お前夜兎ぉぉぉぉ?!」
「?なんですかそれ?」
シエスタは最後の一人、モットーの前に立ち、銀時の叫びに首をかしげる。モットーはシエスタの以外すぎる格闘に慄く。あっと言う間にモットーの傭兵は全員ノックダウン。
「な・・・なんだ、お前は・・・。」
「さぁ?わかりません、怪力バカ娘、シエスタです!!!。」
シエスタは拳を堅め、モットーの顔面を一気に殴りぬける。
モットーは血と折れた歯をまき散らしながら軽く数十m吹き飛び、バウンドしながらシエスタの視界から遠ざかる。
手をパンパンと払い、シエスタは銀時に振り返る。
「行きましょうか、銀さん、夜食なら今から作りますよ?」
「お、・・おう、・・・そうだねぇ・・っていうか俺、今回もしかしたら要らない子だったかもねぇ。」
「何がです?」
「いや、なんでもないわ・・うん、っていうか、お前、日光とか大丈夫なの?」
「別になにも・・・日焼けは気にしますけど。」
銀時は確実にこの子は夜兎だと思った、日光に丈夫な夜兎がいるのか今度神楽に聞いてみようと思い、恐る恐る、シエスタについていく。
「ああ、夜兎キャラってそんなにバンバン出していいのかよ。・・希少種じゃなかったっけ?」
「行きますよ~銀さん。」
「あ、まって、置いてかないでー!。」
「・・・・・あ、あと今日からは銀さんの専属メイドにもなろうかなぁって思いますんでよろしくお願いしますね、ご主人様。」
「は?なにそれ、俺は秋葉原のオタクじゃねーぞ?」
赤面するシエスタを他所に銀時は彼女の発言を疑問に思いつつも、夜食は何にしようかと考える。
そんなやり取りをしつつ二人は真夜中の学院に向けて続く街道を歩く。
彼女の正体が本当に分かるのはまだ先の話。・・・・・
数分後・・・
血塗れのモットーを見下ろす影は月光に照らされ、その姿を現す。
モットーは完全に気を失ってはいるが生きている。脈を確認した彼女は立ち上がり、ふうと息をつく。
「チュレンヌにモットー、吐いてもらうぞ、ダングルテールの事をな。」
月光に照らされたその姿は私服姿のアニエスだった、彼女はなにも映さぬその真っ黒い瞳でモットーを見る。
「これで二人、あと、もう一人・・・!」
そうつぶやきアニエスはモットーを引きずり、王都に向けて脚を運ぶ。
その真っ黒い眼でアニエスはただ黙々と無表情に歩く。
その黒い瞳にはただ燃える村の光景が流れていた・・・・。
彼女の話が語られるのもまだ先の話。