壁は所々剥がれ、床には瓦礫、照明も今や松明だけという宮殿と言うにはふさわしくない様相をしていた。
ルイズにも解る、この国はもう貴族派に勝利をもたらす、ここに長居はできない。
だが、騎士達の顔は来訪した彼女達を笑顔で迎え、この夜の祝宴のゲストとして招くという余裕の表情だ。
「どうなってるの?・・」
「・・・・。」
銀時もワルドもルイズの問いに何も言わず、騎士に招かれるまま回廊の先、大きな白い扉の前に立つ。
「どうぞ、トリステインの英傑達、今宵は朝まで飲みましょう。」
騎士は笑顔でそう言うと、白い大扉を開ける。
そこはアルビオンの王党派の騎士達が揃い、机もない、椅子もない宮殿の食堂でワイワイガヤガヤと酒を飲みかわしている光景がルイズに飛び込んできた。
「な・・・ナニコレ!?」
ルイズの驚きの第一声とは別に鈴が鳴る音に騎士達が反応し、食堂の奥の雛壇に眼を向ける。
「諸君!今日までご苦労だった、我がアルビオン国家、テューダーは今日、この日を最後に終わる。そこで諸君らにはお役御免の暇を与える!もう我に従う必要はない!好きなだけ飲み、好きな時にここから出て行け!!」
ボロボロの雛壇に上り、ウェールズは大声で騎士達に叫ぶ。
ルイズはその雛壇に駆けつけようとするが銀時に止められる。
「な・・離しなさ・・。」
「やめろ!・・・。」
銀時は厳しい表情でルイズを見る、ルイズはその表情に気圧され、ウェールズを遠くから眺めるしかできない。
ルイズはアンリエッタから預かった手紙をポケットの中で握り締める。
沈黙が流れる・・・しかし数秒の沈黙を破り、一人の騎士が叫ぶ
「誰が我がアルビオンだ!クソ皇太子!」
「おう!、俺らのアルビオンだ!お前に付いてきたつもりなんざハナからねーよ!」
「騎士の死に場所くらい自由にさせやがれ!!」
「もったいぶってないでいつものアレやれ!クソ皇太子!!」
「おら!さっさとやれや!最後の祝宴にふさわしいアレをよ!!」
「貴族派にタダでこの国はやらねぇぞ!」
食堂の会場内の罵声にも似た歓声はボルテージを上げウェールズに向けられる。
ウェールズは俯いてはいたがその歓声を聞き騎士全員に顔が見えるよう頭を上げ、にっと笑い鈴を鳴らす。
騎士はその音にまたも沈黙する。
「諸君らの覚悟、よく解った!ならば今宵は最後の祝宴を共にし、地獄の果てでもう一度酒を飲みかわそう!!諸君らにブリミルの祝福あれ!・・・・そしてぇぇぇぇぇ!」
ウェールズは自分の服をビリビリ破き、裸になった。
「「「は?」」」
ルイズと銀時、ワルドは眼を点にし、ウェールズを見る。
「テューダー家は代々、祝宴の時はフルチンだ!かんぱーいィィィィィ!!」
おおおおおおおおおおおおおおおお!
食堂の騎士達数百名は号令と共に、杯を隣通しで大声をあげ、交わす。
「いや、ちょっとまってェェェェェ!」
ルイズは眼を手で覆い、声を荒げるが騎士達の声で掻き消される。
「ナニアレ、・・国のトップってほとんどバカなのか?」
「まぁ、今日は飲もうじゃないか、銀時殿。」
「おい、てゆーかあの皇太子雛壇で踊りだしたぞ!なんで安来節?つーかどんだけち〇こでけーんだよ!こっちの国は足軽なのに向こうは大魔王じゃねーか!閣下だよ!」
「いやあああ!変態国家!!」
ルイズは銀時の後ろに隠れる、もはや見ていられない。
雛壇でブランブランさせるウェールズはふと、銀時と目があった。
「とう!!」
ウェールズは銀時の前まで風の魔法で跳躍する、空中でブランブランさせながら銀時の前に着地する。
「やぁ、飲んでるかい?」
「飲めるかァァァァ!お前何?皇太子だろ!?なんで裸?なんで下は閣下?・・・あ、なんで薔薇の匂い?」
「いやいや、これはいつものことさ、さぁ、君達も飲んで、今は酒も少ないけどシャンパンもあるから。」
「これシャンパン?ホントにシャンパン?どっから出した?聖水じゃねーだろーなテメーの。」
「ははは!来客にいきなりそんなプレイは強要しないさ!」
「やってんだな?今認めたよな?つーか・・・まぁ。」
銀時には理解できた、同じ戦場を経験した人間同士、この祝宴が何なのかを。そしてウェールズのいう諸君らの覚悟というものが何なのか。
「ああ、最後の祝宴だ・・・明日の朝、我々は火の魔法薬、硫黄を抱いて敵軍に特攻する。」
「・・・・。」
銀時の後ろでルイズはその言葉を聞いて俯く、服のポケットに入れた亡命の手紙を握りしめる。
ここまできたのに彼らは死ぬ気だ、その覚悟を踏みにじるような真似はもう彼女にはできない、だが、この手紙はアンリエッタの願いでもある。
「ウェールズ様!アンリエッタ様からの手紙を受け取ってください!」
「アンの?・・・君は?」
「女官のルイズと申します、みなさんの覚悟は重々承知してます、ですが、この手紙を読んでもう一度考え直してください。」
ルイズはウェールズに手紙を差し出す。
「・・・・アン、そうか、彼女が。」
「こっちも仕事で来たんだ、考え直すくらいしてもらってもいいんじゃねぇか?」
銀時もウェールズを見ながら言葉を彼に向ける。
「この戦争は僕たちの戦争だ、いくらアンが僕の心配をしてくれていても、亡命なんて今更できない。それに彼女の国に僕達が亡命すれば、確実に戦火はトリステインにも飛び火する、迷惑はかけたくないんだ。」
「そんな・・・。」
「・・・解ってやりな、そういうもんだ。」
銀時はルイズの肩に手を置く、ウェールズもすまない、と言いながら彼女の後ろに回り
彼女の頭にち〇こを置く
時間が止まった。
「拙者、亡命はしないでござる、見て、ちょんまげ。」
ウェールズとルイズの身長さを用いた一発芸に騎士達は大声で笑い転げる。
ブチ・・・・
「お前はここで死ねェェェェェェ!!」
ルイズはついにぶちギレ、ウェールズを馬乗りになってボコボコにする。
それすらも騎士達の笑いのネタになり、食堂内はウェールズの悲鳴と騎士の笑い声でごった返した。
真夜中の宮殿は静かなものだった、宮殿内では硫黄を加工し自爆用のアイテムの加工、製造に一部の騎士達が働いている。
銀時は宮殿の屋上に設置されている屋外展望台に上っていた。
ここから見えるのはこの宮殿を囲む敵、貴族派の兵士が掲げる松明の群れが見える。
銀時は胡坐をかき、それをなんとなく眺めていた。
「ここにいたのか、侍の国の侍殿。」
王族の衣装に身を包みなおしたウェールズは銀時の後ろに佇む。
銀時に二つの杯と見慣れた日本酒の瓶をウェールズは向ける。
「一杯どうだい?我が友人、ミスター・シゲシゲからの昔の贈り物だ。」
「こんな時にこんなところで皇太子様も粋じゃねぇか。坂田銀時だ。」
「自己紹介ありがとう、隣、座っていいかな?」
二人の真ん中に杯を置き、日本酒を注ぐ、ウェールズはふう、と夜の風を浴びながら銀時の隣で杯を片手に持つ。
二人は杯を突き合わせ、一気に飲む。
「今は亡き、父、ジェームスは僕が幼いころ、僕を連れて君の国に訪れたんだ。」
「その時にうちの将軍と知り合ったってか?」
「ああ、小さいアンと出会ったのもそれが最初さ、・・・可愛かったな、彼女。」
「その彼女もまさかあんたが祝宴でフル〇ンしてるとは思わねーだろうな。」
「いや、当時でもやってたよ。」
「やってたの?あんたホント皇太子??」
二人はそんな会話のやりとりをしながら顔を合わせ、ニヤリと笑う。
「君みたいな人が多かったよ、どこだったっけな、・・かぶき町か。」
「ほぉ~ずいぶんとマニアックな外交じゃねーか。」
「父上がずいぶんとそこの店を気に入ってね、どうやらそこは金を払えばブタになれるとか言って興奮しているのを覚えているよ。」
「一刻も早く滅んだほうがいいな、この国のトップは。」
「はは・・今になってみればどこ通ってんだっていう話だよ。まったく、その血を僕も受け継いでいると知ったらゾッとするよ。・・・ワルド殿から密書を預かった、朝になればワルド殿が手配した密輸船がここに到着する、それに乗ってここを出てくれ、僕の優秀な騎士達とね。」
「・・・お前。」
「彼は優秀な騎士だよ、最初からこうするつもりだったらしい、剣の腕も確からしいが頭も相当キレる。アンはいい部下を持った。・・・いや、アンだからか、・・・僕のような友人を捨てるような人間には今残っている騎士達ももったいないくらいだ。」
ウェールズは杯を置き、立ち上がる。
「友人を捨て、今回まさに覚悟を決めた部下を捨てる、僕は臆病者だよ、最後まで。
臆病者はせいぜい時間稼ぎにこの宮殿に立てこもり、時が来れば敵兵士もろとも自爆するさ、この宮殿といっしょにね。」
「俺は他所の国の人間だ、考え直せなんて言わねぇ、お前さんの好きにすればいいさ、王様だろうが皇太子だろうが国のトップは最後まで城で死ぬまで踏ん反りかえるのも仕事だ、けどよ、最後のグチくらいは聞いてやるぜ、話して見な。」
ウェールズは夜風にその金の髪をなびかせ、銀時に踵を返す。
「優しいね君は、・・・じゃぁ聞いてもらおうかな、臆病者の話を。」
宮殿内、来賓の室内でルイズは椅子に座り、小さなテーブルにウェールズから預かった水のルビーと風のルビーを手で弄りながら頬杖を付き考える。
結局使い魔は来なかった、心のどこかで期待をしていた、だが、彼は来ない、ルイズは溜息をつく。
「本当にどっか行っちゃった。」
そうつぶやいてポケットに指輪二つをしまう。懐にしまってあったからくり堂の源外から貰った携帯用転移装置、これにも期待をしたが淡い期待が叶うことはなかった。
なんだか懐かしく感じる、日数なんてそんなに立っていないのにどこか昔のような気がする、この装置にもいろいろ助けられた。どこかお守りのような感じで今日も持ってきたが本当の願いは今日、叶えられそうにない。
考えるのはもうやめよう、明日の朝、なんとかしてここを逃げなければ。・・・
ふと、扉がノックされ、ルイズは返事をする。
「眠れないか?ルイズ。」
「ワルド兄ちゃん、どうしたの?」
「僕も眠れなくてね、・・・少し話をしようかとおもって・・・ん?」
ルイズの机の上に置かれた小型の装置にワルドは眼を向ける。
「あ、・・・これは。」
「使い魔君は来なかったね。」
「・・・。」
ルイズの心をどこか理解していたのかワルドはルイズの肩に手を置く。
「あいつは・・・。」
「人間、誰でも心はうつろう物さ、人間の使い魔だ、心がある、彼も何か理由があるんだろう。ルイズの使い魔君の話はアンリエッタ姫に聞いたよ、いろいろね。」
「ワルド兄ちゃん・・・?」
ルイズはふと疑問に思った、なぜワルドは自分の使い魔の事を聞いたのか、なぜ彼はここに使い魔が来なかったと言ったのか。
来なかった事の理由を知っている?・・ああ、アンリエッタ姫に聞いたのだろう、可能性は薄いと・・でも引っかかる。
「ワルド兄ちゃん、あの・・・私の使い魔は。」
「使い魔君はもう来ないよ。・・・絶対に。」
「え・・・。」
ナニカ匂いがする、甘い匂い、この匂いはなんだろう。
「いいお香だろう、堕淫香を薄め、生成、加工したものだ、これで君は僕の言うことしか聞けない、侍の国で発禁になったモノをとあるルートで手に入れた、・・・思い人をこんな手でしかモノにできない僕は臆病者かな?」
ルイズの眼はだんだんと瞳の色が変わる、薄い紅の色に変わり、ルイズは口を開く。
「いいえ、そんなことはないわ。いいじゃない、臆病者でも。」
ワルドの口角はにやりと上がる。
「じゃぁ、ルイズ、君は僕と朝に来る密輸船に乗ってもらえるかな?」
「・・・はい、どこまでも行きます、ワルド様。」
「・・・いい子だ、・・・・・僕のルイズ。」
ワルドの瞳は黒く塗りつぶされる。
朝に向け、この宮殿内の混乱は蠢き始める。
展望台にて・・・
「銃士隊、僕専用の隊が昔、あったんだ、まぁ、今もアンは僕を真似て銃士隊を結成したらしいけど、その任務は内偵と調査、必要であれば剣もふるう。僕の場合は違う、僕の護衛、それだけだった。その隊の一人、僕が幼い時に出会った友人、サイト・ヒラガ。」
「・・・・・え?」
意外な名前が出て来た事に銀時はウェールズに振り返る。
「剣の腕は優秀、空軍に入ろうと思えば入れるほどの実力者だった、たった13歳なのにね、・・・ロンディニウムで彼と出会って意気投合し、僕の隊に迎えた、そして彼はここを半月で去った。」
「なんでまた・・・。」
「彼はね・・・。」
父ジェームスを殺したから・・・・。
続く・・