剣を抜くのも迷いはない。
痛みは感じさせない。
サイトはジェームスの首を一刀の下刎ねる。
「父上!!ああ・・・なぜ・・。」
「・・・・。」
「なぜだ!なぜ斬った!!」
迷いがあるなら目の前の友人ウェールズにかける言葉が見つからない。
「言え!!なぜ斬った!手なら他にあったはずだ!!どうしてだ!!答えろサイトォォォォォ!」
兄と慕う主は守っても絶望してる。・・・ここにはもう俺は居られない。必要じゃない。
胸倉を掴むウェールズの手はサイトを乱暴に押す。サイトは力なく後ろによろける。
「父上・・・・。」
涙を流す友人に言葉をかけるわけでもなくサイトは宮殿の部屋から出る。
隣を急いで駆けつけたルネがその惨状に驚く。
「何があった・・・おい!サイト!!」
何も言えない。ルネにも言えない。
「まさか、魔法薬・・・精神喪失、・・・食事に・・。」
部屋の兵士の言葉にルネは膝をつく。
「バカな・・・・一体いつ・・。」
クーデターは王の死により達成された。
しかし表向きには病死と発表される。その発表と同時にアルビオンの貴族派を取り込んだレコンキスタが蜂起。
後にウェールズは父の遺志を継ぎ、アルビオン王党派の指揮官の座に就く。
ここからアルビオンの内戦は始まった。
サイトは国を出奔、行方は分からず、ルネも後に続くように貴族派に寝返った。
銃士隊はウェールズの手により解体。
父、ジェームスに恩を受け、ウェールズに忠誠を誓う数千人弱の騎士達と共にアルビオン王党軍を結成。
ウェールズは復讐にかられ貴族派との内戦は激化を極めた。
舟の甲板で次に夢から覚めたサイト、行先は決めていない、酒場で知り合った男に飲み代をせびられ、その礼としてサイトはこの船に乗せてもらった。
巨大な戦艦ともいえるこの宇宙船、ユグドラシルに停泊していたこの船を見てサイトはこの船の船長、酒場で飲み代をせびったモジャモジャ頭の男に何となく乗せてもらう事にした。
「いやいや、本当にすまんきに!えーっと、カイト君じゃったっけ?」
「サイト、だよ。・・・こっちこそ悪いな、乗せてもらって。・・・・えーっと、坂本さん?」
「辰馬でいいぜよ、で?どこまで乗りたいんかのう?」
レキシントン号、指令室・・・
「提案?不審者風情の言う事を聞くとでも?」
「・・・・・宮殿への侵入は正面の長い階段一つ、あとは堅牢な外壁に囲われそこから入るのには骨を折ろう、幸い、ここにいるのは革命家の片腕、かつて夜叉と言われた男の精神を受け継ぐ鬼子、それと・・・。」
桂はぽかーんと桂の話を聞いていたキュルケ、タバサ、ギーシュを振り返る。
「いずれトリステインの英傑になるであろうメイジの卵達。・・」
桂は三人を見てにっと笑う。
「ここに今捕縛されている捕虜を宮殿正面階段に攻め入る天人共の足止めに使い、貴殿らはその隙に皇太子の首を獲るがよい。」
「「ハァァァァァァ??」」
桂を除く捕虜となった新八達が全員悲鳴に似た叫びをあげる。
ボーウッドはその叫びを聞きながら机に視線を移す。
彼が思考を巡らせるその時、指令室の見張りの兵士を乱暴に押しのけ、伝令役の武装した天人二名が部屋にどかどかと入室する。
彼らの姿、そして態度を見て、部屋の兵士がざわめく。
「作戦の号令はどうした?まさかここへきて怖気づいたとは言うまいな。」
「前線の兵士に命令すら出せんのか?人間。」
天人の戦闘員はボーウッドをバカにするような態度で言葉を放つと、ふと、正面に立つ桂の顔を覗き込む。
「おい!こいつ、桂じゃねぇのか?」
「桂!?、てめぇ、なんでここにいる?しかも捕縛されてらぁ・・。」
桂は眼を閉じ、何も言わず佇む。
「まぁいい、おい、司令官、こいつは俺らの間では賞金首になっててな、物のついでだ、連れて行くぞ。」
「偶然にしろ人間の割りにはいい仕事したじゃねぇか、賞金首ここで獲れるなんざ結構な小遣いにならぁ。」
あからさまにバカにした態度で天人達は司令官の机の前に並んで立つ。
「命令をしな、人間、前線にいる人間の兵士全員、宮殿に突撃だ。」
「あとは俺たち春雨にまかせなぁ・・なぁに、何人くたばってもらっても構わねぇよ?どーせ今日でこのしょうもない国の内戦は終わりだぁ、まぁその後の事はしらねぇけどな。」
言葉の一つ一つに怒りを覚える回りの兵士と新八達、だが、・・その兵士の面々の表情が天人二人の後ろにいつの間にか佇むある人物を見て一気に変わった。
「面白い話だな、侍よ。」
天人二人の頭を左右の片手で掴み、その男は低い声で桂に話す。2メートルは超える身長に白髪、白鬚、年老いた人間と言うより類人猿のような顔、そして顔や腕、首、甲冑に包まれた巨漢から覗く肌から見える無数に刻まれた古傷。
「ホ・・・ホーキンス将軍!?」
兵士一人の言葉と同時にその将軍と呼ばれる男は天人二人を司令官机に頭から叩きつけた。
バキバキバキと音を立てながら机は木っ端微塵、天人は堅い床に頭をめり込ませる。
「その提案、ワシは乗った、・・・ボーウッド、貴様はどうする?」
明らかに好戦的なその表情を彼に向け、ボーウッドは粉々になった机と天人に踵を返す。
「レキシントン号を全速前進ハヴィランドへ!前線兵士の全てを宮殿に突撃させろ!!この国の戦に横槍を入れる宮殿内全ての不埒な天人共に目にモノ見せてやれェェェェェェ!!」
その言葉と同時に司令官の兵士達から雄たけびが上がった、指令は速やかに前線に伝えられ、作戦は今まさに最初の思惑とは別の形で実行される。
「感謝する、将軍殿。」
「何、・・・だが忘れるな侍よ、皇太子の首をあの不埒な天人共に獲られた場合、貴様の提案は失敗に終わる、その時は貴様の首を貰うぞ。」
ホーキンスはそう桂に言い残すとのしのしと巨漢を指令室の外へと進ませる。
「ふ、とりあえず窮地は逃れたな、キュルケどの・・・。」
桂は不敵に笑うとホーキンスの後ろ姿を見送りキュルケに振り返る。
「「「「なにやっとんのじゃァァァァァ!!!」」」
桂の後頭部をキュルケと新八が蹴る。
縄はいつの間にかほどかれていた二人は桂の体中を蹴りまくる。
「交渉してると思ったらなんで皇太子の首取り合戦みたいにしてくれてんのよ!!」
ゲシゲシゲシゲシ
「こんなの銀さん達がさらに窮地に立つでしょうが!なんてことしてくれるんじゃァァァァ。」
ドカドカドカドカ
「大丈夫アル。」
「なにが。」
神楽の言葉に無表情に問いかけるタバサ。
神楽はタバサに向かってにぃっと笑う。
「うちの銀ちゃんから首なんて誰も獲れないアル、心配する事なんてないネ。」
「・・・。」
タバサは無言で理解できる気がした。あの男の人間の範疇を超えた強さの前にはこの神楽の言っていることも納得できる。あの桂の提案、意外にうまく運ぶ気がする。
「お前無表情アルな~、中二アルか?」
「・・・・・。」
「タバサって本名アルか?」
「・・・・・。」
「その髪の毛染めてるアルか?」
「・・・・・。」
「・・・・もしもーし!!聞こえてるアルかァァァァァ!」
「うるさい、冷やし中華。」
大声で叫ぶ神楽を一瞬で冷凍保存、凍結させ、タバサは指令室を後にする。
「ああー・・・・死ぬ、今回は僕死んじゃう。」
そしてギーシュの嘆きはだれも聞いてなかった。
春雨第六師団、戦艦内部・・
ルイズの意識がはっきりしてきた、でも心とは思ってもいない事を自分が言っている。
ワルド様・・・おかしい。
どこまでも行きますわ?・・・違う。
なぜこんな言葉を彼に放つ、そして彼のあの眼、瞳はあんなにドス黒かっただろうか。
「よぉ、ご苦労さん。」
目の前の男はこの巨大な戦艦の内部の一室で壁を背にして煙管を吸う。
見たことある、あのフーケ事件の時にいた男、タカスギ。
「礼を言う、おかげで速やかに彼女を回収できた。」
回収・・・?
「彼女を聖地に連れて行けば高杉、お前の願いも結願するだろう。」
願い?・・・聖地?
「ああ、俺はあの兵器が手に入ればそれでいい。まぁまだまだ道のりは遠そうだがな。」
兵器・・・この男は何を。
「いくぞ。・・・さぁ、ルイズ、僕と聖地に行ってくれるね。」
「はい、ワルド様。」
まただ・・・お兄ちゃん、って呼びたい、なぜ呼べない。
「それよりその娘が持っているのはなんだ?無線機のようだが・・。」
「なに?」
あ、無線機、源外さんの・・・無意識に持ってきちゃった。・・なんでだろ、サイトはここには来ないのに。・・なんでだろ・・・なんで。
ルイズの瞳から一筋の涙が零れる。
なんで私は泣いているんだろう。
「ふん・・・薬が効いていても深層意識の中でまだ自我が生きているようだな。」
「ならば仕方がない、あの女から貰ったこの先住魔法の薬を使うか。」
ワルドはルイズの顎を強引に掴む。
止めて、・・・なんでこんなことをするの?
私の好きだったワルドお兄ちゃんは?
どうして?なぜ、こんなことを・・
やめて・・・
だれか助けて・・・!
サイト!!
戦艦に響く地響きの音と体に感じる振動。
高杉は戦艦の外の景色が見えるガラス張りの展望窓に眼をやる。
「どうやら一筋縄ではいかないみたいだぜ?ワルドさんよ。」
「あれは・・・竜巻・・。」
外の光景は異常だった、巨大な竜巻が外で戦う天人の戦闘員を飲み込み、この巨大戦艦のあちこちに叩き付ける鈍い音が響く、その竜巻はやがてこの巨大戦艦を飲み込み、船の外装を傷つけるだけではなく、内部にまで風の刃が通り、戦艦にダメージを与える。
電子回路が破壊され火花がはじけ、船内が揺れる。
ウェールズの精神力を振り絞ったハリケーン。魔法を打ち尽くした彼を支える騎士達。
そしてウェールズが得意げに上空を見る。
ォォ・・・・
何かが聞こえる、風のうねりの音か?・・・ワルドは揺れの収まった船内から外を見る。
竜巻が消えた土煙が舞う景色から何かが見える、
銀色の髪を振り乱し、鋭く赤い瞳、返り血に染まった白い夜叉の姿。
「オオオオオオオオオ!」
それは空中をまるで闊歩するかのように飛翔し、展望窓を木刀で砕く。
「ソイツを返しやがれェェェェェ!!」
坂田銀時、姿を確認したワルドはその男にレイピアを迷わず突きつける。
銀時は目の前のワルドが突き出すレイピアに木刀を叩きつける。
彼は確信した、この男は裏切り者だと。
同時にワルドは理解し不敵に笑う、初めて会った時に予想していたこの男が最後の障壁だ、と
「好きなだけ暴れな、コイツは俺が預かっておくぜ。」
高杉はルイズの腕を掴み、船内の更に奥に消える。
銀時は高杉に眼もくれず、ワルドのレイピアをいなし、距離を取る。
「やはり取り戻しに来たか、銀時殿。」
「・・・てめぇ、・・・。」
「彼女の力で僕はさらに力を得る、銀時殿、悪いが君にはここで死んでもらう。」
銀時は木刀を構え、ワルドを睨む。
ワルドは銀時にレイピアを突きつけ、フェンシングのような構えを取る。
「・・・・テメェは許さねぇ、ここから消えろ。」
「それはできないね、僕は最初から力しか求めていなかったよ、あの小娘に興味はない、興味があるのはあの娘に眠る虚無の力だけだ。もちろん君にも興味はない、裏切ったことがそんなに頭に来たかい?」
銀時は構えを解き、木刀の先をワルドに突きつける。
「勘違いすんなよ、テメーがどこの誰を裏切ろうがしったこっちゃねぇ・・・・たが、兄と慕うアイツの気持ちを・・・・裏切ったな?」
銀時の脳裏に幼い自分の頭に手を添える松陽の笑顔が浮かぶ。
そして展望台でサイトと自分の過去を話すウェールズの悲しい顔。
怒りを込めた銀時の言葉にワルドは微動だにしない。レイピアの構えを崩さず、銀時を睨む。
一瞬の静寂の後、銀時とワルドの鋭い眼がさらに大きく開かれる。
ワルドは銀時が動いた瞬間を見逃さずレイピアで銀時の頭を狙い突く。
はずだった・・
ワルドの顔面に木刀が横薙ぎに叩き込まれる。
「がぁ・・・!」
顔面が吹き飛ばされるような衝撃にワルドは体制を嫌でも崩される。
速さには自信があった、この男の動きに合わせ、頭を狙うこともできた。
それができない。
体に異常があるわけではない、銀時の一撃の速さに自分が追いつけなかった事実。
床に這いつくばるワルドの前に悠然と銀時は佇む。
「貴様ァァァァァ!」
「立て、・・・アイツの気持ちを踏みにじりやがったテメェはタダじゃおかねぇ。」
怒りの眼が照明を破壊された暗い船内で赤く光る。
ワルドは口内に溜まった血を唾とともに吐き出し、起き上がる。
「兄と名乗らせておきながらテメェはアイツの心を食いモノにしやがったな?・・・・・テメェを兄と慕うアイツの心を踏みにじるような外道がアイツの隣に立っていいはずが無ェ。」
ワルドは銀時の目の前から消える。
仕込んでおいた風の幻影、目くらましに使い、瞬時に銀時の背後にまわりこんだワルドはレイピアを再度頭部に振り下ろす。
バシィ・・・
乾いた音が響き、銀時は後ろ向きでワルドのレイピアを頭上で刃を握り、動きを止める。
「アイツの隣がふさわしいのは・・・。」
銀時の頭でルイズとサイトが自分の目の前で笑い、ふざけ、ののしり合いながら歩く光景が逡巡する。
「アイツの・・・・、あの使い魔だけだ!・・・・。」
銀時は振り返り様にワルドのわき腹に渾身の一撃を叩き込む。
衝撃音が響き、次に彼の体は船内の壁に土煙と共に、叩きつけられる。
「起きろ・・・まだ終わりじゃねぇ・・。」
ワルドは壁伝いに自分の体を起こす、レイピアを握り締め想像していた相手の実力を見誤ったことに歯噛みする。
ある日、ウェールズの執務室、元はジェームスの執務室の机の引き出しから彼は遺書を見つける。内戦が始まってからこの執務室の机の引き出しはいつも開け閉めし、使用していた。・・・見逃すはずはない。
そこにはジェームス自らの罪を記した贖罪の言葉と、銃士隊の規則第一条だけを記した手紙。
王党派を語る貴族派に謀られ、サウスゴータとウエストウッドを焼き払い、自らの血縁に当たる一族を殺めた事を悔いる一文。
そして貴族派の蜂起を事前に知っていながら止められなかったことへの無念の心情。
そして全ての罪を自分が背負い、この命を持って貴族派の反乱を始まる前に終わらせようとした事。
自らの処刑方法は魔法薬を使い、自らの罪に気が触れた狂人の王は子に手をかけようとし、処断されたというシナリオ。
それにより狂った王の哀れな子、ウェールズは貴族派からも、王党派からも敵意の眼は向けられないだろう、それによりこの国での争いは終わるだろうと記されていた。
なぜこの手紙が内戦が始まってから一年・・この執務室の机に入っていたのかはわからない。
偽物ではない、父の字である。
ウェールズは絶望した、友を罵倒し、偽物の復讐にかられ軍を作り、率いる、自分を守ってくれている隊を失くし、無駄な戦死者を出す。
父の考えとは全くの反対方向へ進む自分。
これでは完全に独りよがりの傀儡劇。
同時に思った、なぜ父は私にこの手紙を渡さなかった?
なぜ、いま、ここにある?
なぜ、なぜ・・・・そう自問してもウェールズには絶望しかない。
最後の父の一文は・・・・卑怯者の父ですまない、だった。
一つだけ思った。
卑怯者の父の子も卑怯者、これでいいではないか。
戦争の勝利はどちらでもいい。
できるだけ兵を生き残らせ・・・・
最後は自分一人でこの宮殿と死ぬ。
真実を皆に知らせず、この無益な戦いを父と同じ自らの死で終わらせる。
これでいい。
ウェールズは銃士隊の規則第一条を見る。
隊士は主を守るべし、敵が主の親でも容赦するなかれ。
その一文だけで規則は二も三もない。
その言葉を見たウェールズの心にも父と同じ後悔が宿る。
友を追い払った後悔・・・・本来なら彼は民にとって、そして僕にとっても英雄だった。
そして彼は知らない、罪に苛まれるジェームスに無関係な人間を装い、薬を渡し、手紙を書かせ、手紙を隠し、シナリオを組み、人生の終わりを助けた人物がいた事を。
それら全てが真の狂った王の考えた思い付きのおとぎ話の一部と言う事を。
続く。