東方 嘘神奇想録 ~fantasy of liar and god~ 作:一生送信中@
一生送信中の片割れ、葛西和春です。
この作品では、Side:SEIJI(葛城征二編)を担当させていただきます。
ゆるゆると書いていきますのでどうぞよろしくお願いいたします。
プロローグ Side:SEIJI
なにがどうって飛行機事故に巻き込まれて上空一万メートルからお送りしているわけだが。
数分前に何かが激突したみたいな大きな揺れを感じたと思ったら、あっという間に緊急事態宣言されて今に至る。
機長の話では激突したものの正体は不明で、それはつまり原因不明とほぼ同義だった。
乗客たちのパニックは一気に最高潮まで駆け上り、後ろの席の子どもは泣き出すわ隣の席の小太りのおっさんは周りに当たり散らすわで大騒ぎ。
添乗員の皆様もそんなお客さんを宥めるので大忙しというありさま。
てんやわんやの機内で俺はと言えば、「お父様お母様先立つ不孝をお許しください。なお、私の部屋のPCはハードディスクを粉々にしてくれると色々と助かります」などと呑気に考えていたものだった。
不意に機体が大きく揺れる。その直後に何とも言えない浮遊感。
あ、これ落ちてるな。
なんて確信したが最後、背中に冷たいものを感じつつ目を閉じる。
あぁ、くっそ、こんなことなら彼女の一人でも作っとくんだった。
願わくは次はそういう星のもとに生まれますように……っ。
* * *
浮遊感の消失を感じて思わず首をかしげた。
というか落下の衝撃もない。
なんでだ? まさか機長のスーパーパイロットテクでうまいこと着水したみたいなこと?
そうだとしたらなーんてラッキー……。
「はぁ?」
目を開けて
そこに広がるのは一面の雲海。頭上には抜けるような青空。
そして辺りを見回せばそこには雲の平原を楽しそうに駆ける変わった格好の人々。
……いや、いやいやいや。
俺の知ってる『人間』は雲の上を駆け回れない、歩けもしなければ立つことさえ不可能なはずだ。
そうだ、だから、俺が
むしろそうでなければなんなんだ。俺が、ただの高校生の俺が雲の上に立っているとでも言うのか有り得ない。
「ちょっとアンタ」
いきなり声を掛けられて心臓が跳ねる。
ただでさえ混乱しているというのにさらに何か畳み掛けてくるのかちくしょう。
半ば混乱を苛立ちへと変換しながら背後を振り返る。
心の荒んだ今の俺なら例え振り返った先に天空の城が悠然と浮かんでいたとしても悪態をつくことができる自信がある。
が、そこには城なんか浮いていなかった。ただただ、広大な雲海が視界を埋め尽くしているだけだ。さっきまで見ていた景色と何も変わらない。ただ一点、俺の目の前に青い髪の女の子がいたことを除けば。
空よりも濃い青色の長髪、赤く輝く瞳、頭の上には桃と葉っぱを飾り付けた黒い帽子がのせられている。
紛うことなく美少女と例えられるような容姿だ。
だが、その美少女は現在、胸の前で腕を組み、なにやら苛立っているような感じで俺を睨み付けてきていた。
「何をぼけっとしているのよ」
「え、いや、俺に話しかけたのってキミ?」
「当たり前でしょ。アタシ以外にアンタに話しかけてる奴がいる?」
青髪少女は呆れたような表情で俺を見る。まるで「バカなの? 死ぬの?」と言われているようだ。
「えっと、それで俺に何か用?」
「何か用か、ですって? アンタ本当に聞いてなかったのね、どんくさい」
ちょっと待て、なんだこのクソ生意気なお嬢ちゃんは。初対面の相手を捕まえて「どんくさい」とは何事だろう。
聞いてなかった俺が全面的に悪いのだと言わんばかりのその態度に、何とも言い難い理不尽さを感じたが、そんなことを考えている暇はなさそうだ。
こうして考え事に時間を割いている間にもどんどんその表情は不穏なものになっている。
「ま、まぁ、とりあえずもう一度聞かせてくれる?」
「……ふん。いいわ、ありがたく聞きなさい」
不機嫌さを隠そうともせずに目の前の少女は続ける。
だが、心なしか先程よりも機嫌は直っているように見えた。どうやら無視されずに話を聞いてもらえることに気をよくしているようだ。
なんだ、意外と素直な奴なのかもしれない。
「アンタにはこれから地上を偵察してきてもらうわ」
少女に対する印象を改めた矢先のことである。もう、まったく意味が分からない。突然やってきた見知らぬ場所で、見知らぬ少女に出会い、その見知らぬ少女にいきなり命令されている。
しかも、少女はと言えば得意げな表情で、ない胸をめいっぱい張ってドヤっている始末だ。
というかそもそもこの少女は何の権利があって初対面の俺に命令しているんだろう? 通りすがりもいいとこな俺にいきなり「地上を偵察してこい」なんて頭がどうかしてるとしか思えない。ってかここがどこかも理解してないのに地上もクソもないだろう。
「は?」
思わず口を付いた疑問符。
それを聞いた途端、少女の顔が険しくなる。
「は? じゃないわ。口答えは許さないし、言い訳も許可しないわ。アンタはただ、アタシの命令に従って動けばいいの。分かったわね?」
「はぁ!?」
「じゃあ、行ってきなさい」
言うが早いか、少女は俺の胸ぐらを掴む。その華奢な姿に似合わず片手で俺を持ち上げるほどの力が有るらしい。軽々と俺のことを持ち上げた青髪少女は先ほどとは打って変わった意気揚々とした顔で俺を雲海の端まで運んで行く。
……おい、まさか、ここから落とすとかいうんじゃないだろうな――。
「じゃあ、いい報告を期待しているわね」
これまでにない程のいい笑顔。
瞬間、ふわりと全身を撫でるような浮遊感。
あ、デジャヴ。
と思ったが最後、俺は二度目となる自由落下を体験することになるのだった。
はるか先の眼下には、ぼんやりとだがあの青髪少女が偵察して来いと言った「地上」らしき大地が見える。
大きな森、神社、湖に真っ赤な洋館。
あまりの高さに怖いという感情さえわいてこないな。なんて考える余裕が出る程度には恐怖感も麻痺しているらしい。それはそれでありがたいことだ。下手に恐怖が長引かなくて済む。
俺はこれからやって来るであろう痛みに備えて思い切り目を閉じた。
――その日、ここ『幻想郷』では突如響いた爆音とともに、地上に人型の穴が開くという奇妙な事件がとある新聞の一面を賑わせたという。