東方 嘘神奇想録 ~fantasy of liar and god~ 作:一生送信中@
「……」
ん? ここは何処だろう。という疑問に頭の中がすっかり支配されている。
しかし、情報を得ようにも辺りは真っ暗で、それどころか首が動かない。顔にはごつごつとした感触が当たり、口には砂利が侵入してくる。さっきから頭に血が上っている感覚があるし、体はおかしな体勢で固まっている。
……冷静になって考えると、どうにも現在の俺は頭を肩まで地面にぶっ刺したままブリッジしているようだ。
さっきから足がプルプルしている。運動不足がたたりつつある今日この頃の俺にはかなりつらい。
ってあれ? ちょっと待って? それ以前に、俺はなんで生きてるの?
何百メートルという地層を頭で掘削機よろしく削り突き進み、ガガガガガと頭蓋に響く破壊音を聞くこと数分。俺の頭皮もそろそろご臨終かなとか、生まれ変わることができたら墓にはきっとカツラをお供えするからな、とかなんとかくだらないことを考えていたまさにその時、がつん、と一際壮絶な音が響いたかと思ったら、俺の落下はそこで止まったのだ。
え、奇跡?
と思ったその時、俺は頭だけ地面に埋まっているにもかかわらず声らしきものを捉えた。
コレは助けが期待できるか?! とその声に集中する。
「あれ? こんなところに面白い死体がある!」
なんって不穏当な発言でしょう! 俺はまだ死んでいないというのに!
と思いながら、唯一自由な両腕を必死に動かして生きているアピールをする。
「へー、活きのいい死体だなぁ。ほんとに面白いねえ」
未だに俺のことを死体だと思っている声の主は何が面白いのか声音に嬉々とした感情をにじませた。
いや、何はともあれまずは引き抜いてくれると助かるんだが。
ぶんぶんと腕を振り回し、今度は引き抜いてくれとアピールする。……この状態でどこまで通じているかは微妙だが。
「ん? 何かを伝えたいようだけど……死人に口なし、あたいには分からないったら。……まぁ、とりあえず引き抜いてみよう」
どこか呆れたような溜息の後、俺の足に手が添えられる。と言うより、両足をそれぞれの肩に担いで思いっきり引っ張る気のようだ。
ちょ、待って、そのやり方はマズいです! 確かに引き抜いてとは言ったけど――
「も゛お゛お゛ぉぉぉお゛おおおッ!!?」
「!?」
頭が引き抜かれると同時に響いた俺の声に驚いたのか、助けてくれたどこかの誰かが俺の足を手放す。
地面に投げ出されるような恰好で倒れ伏した俺は、体が動くことを確認するとすぐさま跳ね起きて首と胴体がくっついているかを確認する。
その結果、とりあえず首はついていた。よかった、ほんとに。
……首が抜けるような思いはしたが、いや、しかし、何はともあれ助かった。
凝り固まった首を動かすと、バキバキと痛々しい音が辺りに響く。
次いで目の前の風景を見渡せば……なんと殺風景なことか。
「ここ、どこよ……」
少なくとも自由落下中に見た地上の風景ではないはずだ。
「ここは旧都のはずれだけど、それがどうかした?」
俺の疑問に答えた声にはっとする。そう言えば俺を助けてくれた大恩人に背を向けているではないか。
とにもかくにもまずは命の恩人にお礼をしなければ。
そう思って振り返った俺は途端に言葉を失った。
なんでって俺の視界に入ってきた恩人のその姿に色々と突っ込まずにはいられなかったからだ。まず目に入ったのは真紅の髪、頭の両サイドで三つ編みにして端と根元が黒いリボンで結ばれている。いわゆるおさげってやつだろう。次いで赤い瞳だ。さっき雲の上で出会った青髪の少女も赤い瞳をしていたが、こちらはもっと野性味のある雰囲気を醸し出している。
ゴスロリっぽい衣装に身を包んだその姿からはちょっとおしゃまな少女くらいの印象しかないが……今一度その頭頂部に目を向ければ、そこにはちょっと信じがたい物体が乗っかっている。
「ネコミミっすかー……」
そう、そうなのだ。愛らしい姿をしたその少女の頭頂部にはそれはもう見事な黒いネコミミが備わっていたのである。しかもそのネコミミ、時おり動いてそれが本物であることを主張しているではないか。
本物のネコミミ……そんなものを前にして、俺はこの時どう行動するべきだったのだろう。
今となっては知る由もなく、また後悔は先に立たないものだ。
だから、
「ふにゃっ!?」
触った。そりゃあもう不躾に、無遠慮に。
「なんと、まことに本物であったか……我は感極まっておるぞ……!」
「にゃ、お、お兄さんっ、なにをー……ふ、にゃぁ……」
お、おおおおお――ッ! これがネコミミ! これぞネコミミ! あったかいし、血が通っている! ここには確かな血潮の流れを感じる! 紛うことなく本物!
……時間にして十数分か。時間を忘れ、ついでに我も忘れて彼女のネコミミを触り倒した私は、つい先程少女が放った正拳を鳩尾に受けて大地に沈んでいた。
「は、はぁはぁ……お、お兄さん、一人で動いているけど、もしかして死体じゃないの……?」
顔を赤らめ、ぜぇぜぇと肩で息をしながら少女が訪ねてくる。
そのどこか幼さの残る見た目に反して、その表情や雰囲気はとても扇情的だ。俺の体の動きを奪っているこの痛みが無ければ、俺は今すぐにでもその頭(ネコミミを含む)を撫でまわすことを再開していただろう。それほどに触り心地がいいのだ、アレは。
「あ、あぁ……俺は生きてるよ……見たとおり、ピンピンしてる」
いや、今はぴくぴくしてるが。
「あ、それにしてもありがとう。身動きできないところを助けてくれて」
「え、あー、いきなり耳を触られた時は生き埋めにしてやろうかと思ったけど、まぁ、許すよ。……今回だけは」
その寛大な心に重ね重ね感謝しますとも。
「ところでお兄さんはこんなところで何をしているんだい? っていうか、よくよく見れば地底の住人ですらないじゃないか」
「……地底?」
「あぁ、そうさ。ここは地底、暗き地の洞、旧き地獄、あたい達みたいな鼻つまみ者の最後のユートピアさ」
地獄とか鼻つまみ者とかずいぶんと物騒だったり消極的な単語が耳をつく。
なんだか震え上がってしまいそうな単語だったが、それよりも。そんな場所を平然と歩くこの少女はほんとに何者なんだろう?
「あー、えっと、それで君は何者?」
素直に疑問を口にして、少女の答えを待つ。
「ん? あたいかい? あたいは火焔猫燐、お燐って呼んでおくれ」
快く自己紹介してくれたネコミミ少女――お燐は、にっと快活な笑み。連動するかのようにぴこぴこ動いたネコミミと尻尾に一瞬目を奪われたが、撫でまわしたい衝動はぐっとこらえるとしよう。それよりこちらも自己紹介しておかないと。
「俺は葛城征二だ。よろしく、お燐」
「分かった、セイジだね。よろしく」
さて、自己紹介が終わってひと段落ついたはいいがこれからどうしよう。本物のネコミミを付けた少女がいる以上、ここは俺の知ってる世界とは違うようだし……。
「セイジ? どうしたんだい?」
突然考え事を始めた俺を不思議に思ったお燐が、こちらを見て首をかしげている。
「あぁ、それがさ……」
と、俺はここに至るまでの経緯をかくかくしかじかと説明し始めた。
~少年説明中~
全ての説明を終えてお燐を見れば、腕を組んで何かを考え込んでいる様子だ。そのあまりの真剣さに、どうかしたのか、と訪ねるべきか否か迷ってしまう。しかし瞬間、まるで名案を閃いたと言わんばかりの明るい表情で、
「そうだ、さとり様のとこへ行こう」
と一言。まるで京都に行くみたいなノリで放たれたが、『さとり様』ってのは誰なんでしょうか? そもそもなぜこのタイミング? 俺は放置されるってんですか? Etcetc...
溢れる疑問は溢れるままに、一つずつ聞いていくことにしましょうか。
まずは……。
「お燐、ちょっと尋ねるが、その『さとり様』っていうのは誰なんだ?」
「ん? あたいの飼い主様のことだよ」
はい? 飼い主?
「そ、その人はどこに居るんだ?」
「地霊殿さ。ちなみに言っておくけど、さとり様は人じゃないからね」
ほわっつ? 人じゃないって何?
「そ、それで、なんでこのタイミングで行くんだい? 俺のことは放置っすか?」
「何を言ってるのさ。セイジのために行くんじゃないか。ほら、ぼさっとしてないで行くよ。早く乗りな」
え、乗る? 何に……ってその猫車ですか? でも、それ……なんだか生き物のなれの果てみたいなものが乗ってるんですが……?
「当たり前だろ。あたいは火車、死体を運ぶのが仕事の妖怪なんだからさ」
「……は?」
妖怪?
と、疑問に思ったのも束の間。
なかなか猫車に乗らない俺がじれったくなったらしいお燐が、その見た目に反した強い力で俺を猫車に乗せると、これまたその見た目からは想像もつかない速さでその場を後にするのだった。