東方 嘘神奇想録 ~fantasy of liar and god~ 作:一生送信中@
遅くなりましたが征二編第2話投稿です。
この先の展開がどうなるのかは私にも皆目見当がつきませんがゆっくりとお付き合いいただければ幸いです。
猫車の上で強風にさらされ始めておよそ15分。
例え街の中に入ろうともスピードを緩めることなく走り続けた結果、俺は今、なんかものすごい屋敷の中にいる。いや、屋敷というより宮殿か。
いずれにしてもこないだまでの俺には縁も所縁もない場所だったことだけは確かだ。
だから思わず辺りを見回してしまってもしょうがないことだと思うし、豪華な内装に驚いたり感心したりと上京したての田舎者みたいな反応をしてしまうのも詮無いことだと思うし、そしてそんな俺を見てお燐がおかしそうに笑っているのも咎めようのないことだと思う……ことにする。
お燐に案内されるがままについていくと、やがて一つの扉の前で立ち止まった。
「えっと、ここは?」
「ここはさとり様のお部屋だよ。さ、入った入った」
「おい、ちょっと勝手に……!」
お燐はノックもなしに扉を開けると、戸惑っている俺の腕を引っ張って部屋の中へと入って行った。
「さとり様ー、お客を連れてきたよー」
お燐が声を投げかけた先には小柄な影。薄紫色の髪は扉から入り込んだ微風に揺れ、優しげな光を湛えた真紅の瞳は手許の本からこちらに向けられていた。おおよそ幼い印象を受けるが、どことなく大人びた雰囲気を持つ少女だ。彼女が「さとり様」か。
「えぇ、わたしがその「さとり様」でしょうね」
「え?」
今、俺は声に出していただろうか? いや、もしかしたら初めて見るタイプの不思議な雰囲気を持つ美少女を前にして口元が緩んでいたかもしれないが……。
「あら、美少女だなんて、嬉しいことを言ってくれますね」
……? なんだろう、さっきから地の文だけで会話が成立している気がするのは俺の気のせい?
「気のせいではありませんよ? ちなみに私が読んでいるのは地の文ではなくあなたの心ですが」
「ふぁっ!?」
メタ発言にもさらっと対応!? ツッコミスキルの高さをアピって来てますね……あ、侮れないわー。
「褒められている……ってことでいいのかしら?」
「えっと……まぁ、そうなるのかな。ところで……何から話せばよいのやらって感じなんだけど……」
「大丈夫、もう全部知っているから」
「……?」
あ、そうか。心が読めるんでしたっけね。どういう仕組みなのかとても気になるとこですが……まあ、お燐のネコミミにしても、道中で見た額から角を生やした人とか明らかに人外って感じの生物にしてもお腹いっぱいになるほど不思議だらけなんで今さらってことですね。
「意外と寛容なのね」
「見た目と違って、か? 意外だ、そういうの気にしないと思ってた」
心が読めるならその人となりの美も醜も一目で分かってしまうんだろうし、見た目で中身を判断する必要ないはずだよな。
「その言葉も意外だわ。心を読まれているという状況で冷静に頭を使えるのね。普通なら慌てふためいているうちにあれもこれもと曝け出してあっという間に自滅してしまうのに」
「あー、その『心を読まれてる』って状況に実感がないだけだよ。ってか、心が読めるなら分かってるだろ? 俺が今、とってもとっても混乱してるってことはさ」
「えぇ、手に取るように」
まったくお人が悪い。そして心臓に悪い。どの程度のレベルで心の中が見えているのか知らないけど、まかり間違って秘蔵フォルダの中身を思い出そうものなら……あ、マズイ。
と思ったが時すでに遅し。俺の頭をよぎったイケナイ画像の数々はばっちり捉えられていたらしく、ちらりとさとり様へと視線をやれば、そこには真っ赤な顔でこちらを見る読心少女の姿が。
「……ま、まさか今のも手に取るように?」
「……っ!」
言葉無く発せられた非難の声に、心の中で平謝りするしかない俺。ついでに渾身の土下座も追加入力して全力で謝罪することにするのであった。
「ほんっとうにすんませんっしたぁっ!」
* * *
こほん、と先程の羞恥を誤魔化すように咳払いしたさとり様は、未だにその頬を少しだけ赤く染めたまま俺にソファに座るようにと促した。
「まずは自己紹介をしましょうか」
「そ、そうですね」
心が読めるのに何を今さら、と思わなくもなかったが、よく考えてみれば俺は彼女の事をお燐経由でしか知らないのだ。だからきっとこの提案は俺のためにしてくれたのだろう。……決して赤く染まった顔の冷却時間を稼ぐためではないはずだ、うん。
「……、心の準備もよろしいようですね。では、わたしは古明地さとり。心を読むさとり妖怪にして地霊殿の主。あと、貴方をここまで連れてきたお燐を含む動物たちの飼い主でもあるわ」
最初の間が何だったのかが気になるところではありますが……、そこはそれ、置いておくとしましょう。話が進まないし。っていうかお燐を含む動物達? お燐はどこからどう見ても人の姿をしてましたが……いや、そもそも本人は妖怪だって言ってましたよ? ってあれ? もう、妖怪と動物は属性として一個の存在の中で共存できるのかとかそれ以前に妖怪って属性でいいのかとか色々疑問が湧いて出て来るもんだからわけわからんことになってきた。
よし、ここは本人に……って当の本人がいないじゃないか。いつの間に部屋を出て行ったんだろう。扉が開いた気配はなかったのに……まぁ、いいや。その辺りはおいおい聞いていくとしよう。
「あーっと、もう知ってるとは思うけど、俺は葛城征二。よろしく」
簡潔に名前だけを述べて一礼。さとり様が「こちらこそ」と友好的な声音で返答してくれたのを聞いて顔を上げ、すかさず言葉を続けた。
「……それでださとり様、なんだかよくわからんうちにここに来ることになったのでいろいろ説明してくれると助かったりする」
「わかったわ。少し長くなるから初めにお茶でも淹れましょう。それと、『さとり様』はやめてくれる? 貴方にそう呼ばれると変な感じがするわ」
え、ダメ? 俺の中ではすでにさとり様で定着しつつあるんだけど。
そう思ってさとり様の顔を見れば、心が読めない俺でも何を考えているか分かるくらいの苦笑いで返してくれたので今後は普通に『さとり』と呼ばせてもらうことにした。
それに満足したらしいさとりは、小さく微笑むとおもむろに立ち上がる。
「それじゃあ、お茶を淹れて来るから待っていて」
「あ、何か手伝おうか?」
「いいえ、貴方はお客なのだからゆっくりしていてくれればいいわ」
「ふむ、それもそうか。では、お言葉に甘えて」
上げかけていた腰を再びソファに沈めてくつろぐ俺。その様子を見て何がおかしかったのかさとりはもう一度小さな笑みを見せるとお茶を淹れに行ったのだった。
ちなみに、待っている間に部屋の中を見回していると、いつの間に入ってきたのか一匹の黒猫が窓際で昼寝していた。特にやることもなかったので撫でようと手を伸ばしたら思いっきりひっかかれてとても悲しい思いをしたことを報告しておく。
次回の更新はいつごろになるのでしょうね(笑)
……いや、すみません(苦笑)
なるべく早く上げます。