カチ。
「お……」
スイッチを入れると、腕にはめた機械は小さく震え、待ち焦がれたように産声を上げはじめた。
ウィィィィィィィィン。
「おおおおおおっ!?」
勢い良く鳴り始めた駆動音は、俺の未来に新しい可能性を感じさせた。
みんな(誰だ?)聞いてくれ。俺はとうとう手に入れたぞ。
え……何かって? そんなの決まってんじゃん。《デュエルディスク》だよ、当たり前だろ。
「ふっふっふ……」
よく分からないが、自然と顔に笑みがこぼれてくる。
「ふふふ……」
我慢しようと思っているんだけど、口元が……。
「な~にニヤニヤと気色悪い顔してんのサ」
「む……」
横からいつもの声が投げかけられた。
「ふっふっふ……今日の俺は機嫌が良いから許してやるぜ」
言葉の通り今日の俺はデュエルディスクを手に入れた事で、ものすごく機嫌が良い。
「はいはい……」
そして、そいつは例の如くいつも通り、呆れたように言葉を返す。
ちなみに、横で悪態ついてる女は和泉 晶(いずみ あきら)と言って、俺の幼馴染で生意気なボーリョク女だ。
黙っていれば、それなりにかわいいのだが……いかんせん男勝りの性格がね。
俺でなければ人生15年で100回くらいは死んでるかも知れない。
とにかく恐ろしい女だ。
ゴンッ!
「声に出てる、声に出てる」
……ってぇ~、本気でゲンコツかよ。
とまぁ、こんなヤツだ。
ついでに(ついで!?)俺の名前は松山 渉(まつやま わたる)だ。
俺はオフィシャル・カード・ゲーム『デュエルモンスターズ』で、日本チャンプを目指している。
将来『デュエルキング』になる名前だから覚えておいた方がいいぜ……たぶんね。
そして今、俺の腕で心地良い駆動音を鳴らしているこの機械は、決闘盤(デュエルディスク)と言う。
これは、今まで謎の多い会社だった海馬重機工業が、近年事業転換を図り、新たに海馬コーポレーションとしてホビー部門へと進出する足がかりとなるべき重要な新製品……らしい。
いや、俺も親父から少し聞いただけだから良く分からないんだけどね。
この『デュエルディスク』は、俺が日本チャンプを目指している『デュエルモンスターズ』を、より発展して遊べるようにする為のニューハードって話だ。
親父の話では、この商品が発売できるようになるまで、様々な産業スパイにデータを狙われ、陰で多くの戦いもあったらしい。
このデュエル・ディスクってヤツは本来、カードゲームをなんとかビジョンとかで立体映像化し、より臨場感を持ってカードゲームを遊べるように、より愛着を持ってもらえるように作られたものだ。
しかしこの立体映像技術を悪用すれば、戦争や犯罪にも使えてしまうと言う危険も孕んでいて、会社側もデータを守るのに必死だったらしい。
子供達に、より楽しく遊んでもらえるように作られた物なのにな……。
ま、とにかく。
今、俺の腕にあるデュエルディスクは先行試作品で、特定の地域のみと、関係者以外には売られていない。
それなのに何故俺がこのデュエルディスクを持っているかと言うと、親父が海馬コーポレーションの社員である上、俺自身がデュエルモンスターズのプレイヤー……つまり決闘者(デュエリスト)だからだ。
そんなわけで、この先行販売されたニューハードのテストプレイヤーに選ばれたわけだ。
この商品を本格的に販売する前に、やはりテストしておきたい事があるんだろうが……まぁ、俺はどうせ良く分からん。
とにかく近い将来、このデュエルディスクが無ければ、大きな大会には出られなくなるかもしれないと言う話だ。
具体的には、持ち主のデュエリストIDやデュエリストネームが記録され、デュルディスク同士でデュエルをすると、対戦相手の成績・自分の成績から勝敗によって自動的にポイントがもらえるようになるらしい。
そしてデュエルディスクの中にあるデュエルプレートと呼ばれる何やら良く分からない透明な板をカード屋にあるパソコンで海馬コーポレーションのメインコンピューターに記録させる。そうしてデュエリストとしての点数が本部にも記録され、公正に成績を管理できるようになるらしい。
この点数は公式大会での対戦の組み合わせやシード権などの特典とかにも影響すると言う話だ。
いや、これはまんま親父の受け売りで、俺もよく知らないんだけどね。
まぁ、別にそれだけで手に入れたいってワケでもないんだけどね。
やっぱ一番の理由は、何と言ってもいつでもどこでもリアルな立体映像のデュエルができるって事だろ。
今までは、ゲームセンターにある『デュエルボックス』じゃないとリアルなデュエルが出来なかったんだよなぁ。
でもデュエルボックスって人気があるから、いつも人が並んでてナカナカ使えないんだ。
しかーし。コレで俺はどこでもリアルなデュエルが出来る。
親父の計らいで、関係者とは言えないアキラにもデュエルディスクが届く予定なんだけど、来るのはどうやら明日らしい。
だから、今日はアキラとは出来ない。
そんなわけで今日は、同じく親父が海馬コーポレーションに勤めていてデュエルディスクを手に入れた友人と空き地で待ち合わせだ。
「え~と、まだ来てないか」
お……来た。ちょうど良いタイミングだ。
「お~い、直也ぁ」
待ち合わせていたのは元クラスメイトの有馬 直也(ありま なおや)だ。
こいつは学校で最初にデュエルディスクを手に入れたヤツで、かなり自慢しまくってたのを覚えている。
でも他にデュエルディスク持ってるヤツが居ないから、結局はデュエルは机の上でやってたんだけどな。
それでもなんとかビジョンシステムとかで、カードイメージを立体映像化するのだけは出来たから、結構人が集まってたけど。
ふっふっふ。とにかく今日は俺の"黒デッキ"でギャフンと言わせてやるぜ。
「おおっ、ワタルも手に入れたみたいだな。デュエルディスク」
「当たり前じゃん。それでせっかくデュエルディスクが2つあるんだから、こうやってデュエルに誘ったんだろ」
「そうなんだよ。いくらデュエルディスクを持ってても、他に相手が居ないとなぁ……」
そりゃそうだ。たった独りで天国に居ても決して幸せにはなれない……と言うのと同じだ。
喜怒哀楽ってのは、良くも悪くも共有してこそ意味があるものだ。と、アキラのおじさんが以前言ってたのを覚えている。
そんなこんなで、道端でデュエルするワケにもいかないし、空き地で思う存分やってみようと言う話になったわけだ。
道端でやって車に轢かれたくないし、立体映像に驚いて車が事故ったりしないようにしないといけないからな。
親父に『それだけは絶対に気をつけろ』と念を押されたし。
「それじゃあボクは見てるよ」
そう言って、アキラは木陰にチョコンと座った。
その目は、これから主流となるであろう新しいデュエルの形を一足先に見れると言う期待に満ちていた。
「おし、それじゃあ……」
ナオヤは慣れた手つきでデュエルディスクを操作し始める。
そして準備が出来たのか、その顔は待ち焦がれていた瞬間への期待に笑みが隠せずにいた。
「…………………………」
え……っと……。
デュエルディスクのスイッチは入れたが、俺の手はそこで止まってしまう。
「どうしたの?」
いつまでたってもデュエルを始めずにデュエルディスクを見ている俺を不思議に思ったアキラが、側に寄って来た。
「あのさぁ……」
俺は重く口を開いた。
「…………?」
「デュエルディスクでのデュエルって、コレをどうすればいいの?」
ズワシャァァァァ!
いきなりの俺の言葉にアキラとナオヤは豪快なヘッドスライディングをかます。
それは野球の世界大会で貴重な追加点をあげた、某選手に匹敵するものだったとかなかったとか。
「おまっ……マジかよ!?」
「説明書くらい見なさいよネー!」
俺は嘆きながら怒る二人に文句を言われながら、デュエルディスクを使ってのデュエルの仕方を教わった。
……って、なんでまだ持ってないアキラがデュルディスクの使い方を知ってるんだ。
まぁ、いっか。
「それでは改めて……」
俺はデュエルディスクにデッキをセットし、身構えた。
「今度は大丈夫だろうな……」
いぶかしげな表情で、ナオヤも改めて身構え……大きく息を吸った。
『デュエル!』
今ここに、カードゲームの新たな可能性が幕を開ける。