決闘者の遺産R   作:びく太

10 / 20
第十話:アメリカから来た少女

 パリッ。

 

「お」

 

 パリパリッ。

 

「おおお……!」

 

 ゴンッ!

 

「うるさい!」

 ボクはワタルの馬鹿がうるさいので、"とある方法"で黙らせた。

 たかがパックを開けるのに、イチイチ唸られても困る。

「ちょっとアキラちゃん、お店で暴力は困るよ」

 ここはボクやワタルがいつもカードを買うおもちゃ屋。

 そして今声をかけてきたのは、鼻の下の太い黒ひげが印象的な店長だ。ボクたちの間では"ヒゲ店長"と呼ばれている。

 とりあえず頭にタンコブ作って、足下でピクピク痙攣しているワタルの馬鹿は無視しておく。

 ま、いつもの事だしネ。

 

「ワタルくんも大変だねえ」

 どのパックを買おうかと物色してるボクの横で、ヒゲ店長が床で倒れているワタルに声をかける。半分心配するように、半分茶化すように。

「な……なんとかならないモンですかね……」

 かろうじて立ち上がり、おぼつかない足取りでカウンターにしがみつくワタルに、ヒゲ店長のとどめの一言が突き刺さった。

「ならないんじゃないかなあ」

「ぐはあ……」

 一言うめきをもらし、ワタルはズルズルとカウンターからずり落ちていった。

 ご愁傷サマ。

 

「さ~て、何のカードが当たったかなあ」

 店を出て帰る道すがら、パリパリとパックを空ける小気味いい音がボクの期待を膨らませる。

 買ったパックは今日発売の新シリーズだ。どんなカードが入っているのかの情報は、調べてないからまだ知らない。

 だからこそ期待に胸膨らま……膨らま……。ボクの目が、チラリとその部分に移る。

 あうう……膨らんでない。

「何だあ? いくら眺めても、お前のペチャパイは変わらねえ……ぞっ!?」

 

 どばきっ!

 

「うっさい! 余計なお世話っ!」

 右側を歩くワタルの顔面に、ボクは会心の左フックをぶち込んだ。

 くそう、つい目が行ったところを目ざとく発見されてるし。

 ワタルも変なところだけは妙に鋭い。その鋭さはデュエルとか勉強とかの方に活かしなさい。

「うああっ、足が折れた手が折れた顔面神経痛だタンコブだ出血多量だ腸チフスだ死ぬ死ぬ死ぬー!」

「んじゃ死ねぇ!」

 ボクは肘を小さく絞り、半歩踏み込んで、下半身の力と腰の回転を十分に活かした鋭い左ストレートを反射的に放った。

 

 どばきゃっ!

 

 ワタルの身体が宙に飛んだ。

 それはスローモーションのようにゆっくりと感じ、殴り飛ばされたワタルは放物線を描いて道路に落ち、パタリと倒れた。

 ……て、言うほど大層なモンでもないけどネ。

「ぐうう……ボーリョク女め。受けた暴力に対する正当な復讐をも踏み倒すのか」

「いきなり耳元で大声で叫ばれたら、誰だって殴りたくなるヨっ!」

「チッ……」

 ワタルは舌打ちをし、熱が冷めたようにオーバーリアクションをやめて立ち上がる。

 いや、「チッ……」ってアンタ、そんな簡単に……。

 結構ホンキで殴ってるんだけど、最近のこの復活の早さは驚嘆に値する。殴られなれたせいだろうか、ボクの攻撃はワタルに全く効いてないように思える。

 ま、だからこそ反射的に手が出ちゃうんだけどネ。怪我も何もしないと思うと、安心して殴れるってモンさー。

「……お前、いま邪な事を考えなかったか」

「気のせい気のせい。もー、ワタルってば、あまり神経尖らせてると将来ハゲるヨ」

「げっ、それは困る。俺はダンディでシブいナイスミドルに歳を重ねていく事を目指してるのに!」

 それは初耳だ。そもそもワタルの辞書に「人生設計」などという文字があったとわ。

 

 ボクたちは、そんないつものパターンを繰り返しながら、パックの中身を確認する。

 真新しくきらめくカードを丹念に見て、ボクのデッキにそぐわずワタルのデッキに合うカードを数枚引き抜いた。

「う~ん……はい、ワタル」

 ボクはそのカードをワタルに手渡し、

「おう。こっちはこれだけだ」

 ワタルもまた、数枚のカードをボクに手渡す。

 ボクたちが《デュエルモンスターズ》を始めた頃からの習慣は、数年か経った今でも続いていた。

 これは、なぜボクとワタルのデッキ傾向が正反対なのか、という話に直結する。

 

 始めた当時、有能なカードを集めるには、子供の身分ではとても金がかかった。

 シングル販売されている物を買うような金もないし、市販のパックを大量に買う金もない。

 そんなある時、ボクの部屋でデュエルをしている最中、不意にワタルが気づいた。

 ボクはデッキに好んで光属性のモンスターなどの『光』をイメージするカードを使い、ワタルは好んで『黒』っぽい雰囲気を持つ闇属性のモンスターカードを使っていたことを。

 少ない金で、いかに効率よく自分の好みのカードを集めて行くか……その答えがコレだった。

 それからボクたちは互いのデッキ傾向をハッキリと分け、自分のデッキにそぐわないカードを交換しあうようになった。

 

 光属性はモンスターの基本攻撃力が高くパワー重視で、それらをイメージする他のカードは攻撃に守備に回復にと、ハッキリした効果でバランスも取れている。

 闇属性はモンスターの攻撃力はそこそこだが、幅広い効果にコンボ性を含ませたテクニカルなカードが多く、他のカードも癖のある効果が多いがハマると凄まじい強さを誇る。

 そうボクたちのデッキは自然と形成されていき、そして今に至る。

 互いにデッキ傾向がハッキリし、それに慣れてしまっただけに、いまさら別のカードを入れようともお互い思わない。

 だから、もう十分なくらいにカードの集まった今でも、当時からの習慣は今なお続いていた。

 その方が、やはりお互いのためにもなるしネ。

 

「うおっ……!」

 改めて封入されていたカードを確認し、ワタルは声を上げた。どうやら良いカードがあったらしい……ぐぅ、うらやましい。

 ボクはというと、悪くはないけど、時として切り札にもなりそうなカードは無かった。主力になれそうなカードはあったけどネ。

《煌尾の狐-シャイン・フォックス》、《光の神子》、《天界の扉》とか。この三枚は、迷わずデッキかサイドデッキに入れても良いくらいボクに合っている。

 切り札にはならないけれど、それを呼び出す鍵になれるカードだ。うん、悪くない。

 

「それじゃ明日、空き地で勝負だからネ」

「おう。ちょっと負けてるからな、ここらで挽回させてもらうぜ」

 デュエルディスクを手に入れてからの、ワタルとの対戦成績はボクの11勝8敗……少しだけ勝っている。

「ふふふ、今日は良いカードが手に入ったからな。明日の俺は一味違うぜ……たぶん」

「"たぶん"なんだ……はぁ。自信があるのか無いのかハッキリしたら?」

「だが、それが良い」

「良くない!」

「ちぇ……」

 無駄に晴れやかな顔で、どこぞの漫画のネタで誤魔化そうとするワタルを、ボクはピシャリと抑えた。

 

「んじゃ、俺はちょっとナオヤんとこ寄ってくから」

「あ、そう。そんじゃ~」

「うい~」

 互いに手を上げて道を違える。

 ボクは真っ直ぐ家に、ワタルは有馬んところでデッキ調整&テストプレイってところかナ。

「明日、忘れないでネ~」

「わ~ってるよ」

 ボクは一応、念を押しておく。その言葉に振り返りもせず、ワタルは手を上げながら返事をする。

 

 そんなワタルの背を見送りながら、ボクはふと思う。

 ワタルは強いハズなんだけど、どうにも本人が自信なさ気な事ばかり言うから、いまひとつ強いような印象が無い。

 本人曰く、ワタルは「やる時はやるけど、やらん時はやらん男」だそうな。

 確かに普段はヘタレてる事も多いけど、ここ一番の勝負強さは目を見張るものがある。ワタルが相手だと優勢でも全然安心できない。

 大会では何故かボクが毎回勝っているけど、実際ワタルの終盤の追い込みの凄さは逃げ切るだけでもアップアップだ。一手間違えると、それが致命傷になる。

 王国大会にも出れたし、それなりに自分の強さに自信を持っても良いのに……まあ、王国大会での負け方のせいかも知れないけど。

 アレは酷い負け方だったからネ。ボクもワタルも。

 不幸中の幸いだったのは、相手が今では誰もが知っている強者だったことくらいだ。

 ボクは元日本準チャンプ《ダイナソー竜崎》に、ワタルは、王国大会でペガサス城までたどり着き、あの《武藤遊戯》と互角の戦いを演じた《孔雀舞》に敗れている。

 詳しく言えば、あざ笑われ玩ばれるように嵌められた逆転劇で、何もさせてもらえず蔑まれながらのパーフェクトゲームで。

 お互い、あれ以上の屈辱的な敗北はないだろう。

 

「あの……」

 そんな過去の苦い記憶を思い出しながら歩いていたボクに、背後から女性の声がかかった。

 振り向けば、なだらかに背にかかる銀髪と、淡いブルーの瞳、ややもすると不健康に見られるかもしれない消えてしまいそうな白い肌。

 女性にしては背が高く、かけられた縁無し眼鏡と整った容姿から知的な印象を受ける。

 しかしどこか存在が希薄そうな、触れれば砕けてしまいそうな、そんな儚い雰囲気も感じられた。

 とりあえず……その姿は一言で言えば、紛れも無く『ガイジン』と呼ぶにふさわしいものであった。

 よし、ボクの駅前留学仕込みの英会話の出番だ。

 

「突然呼び止めてしまって申し訳ありません。《海馬コーポーレーション》までの道を教えて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」

 ぬあっ……メチャクチャ日本語上手い――つか、その辺のヘタな日本人よりも上手だ。

 あう。ボクの駅前留学仕込みの見せ所が無いゾ。

 とりあえず、ボクは普段使わないような親切丁寧な言い回しで、《海馬コーポレーション》への道を教える。

 ただ、このあたりは下町で道路が紛らわしい部分も多いから、結局ボクが駅まで案内することになった。

 

 彼女の名前は《サラ》。正しくは《サリューシャ》と言うらしいが、昔から愛称の《サラ》で呼ばれているらしい。

 聞けば、彼女は昨年大学を十六歳で卒業し、今年就職したアメリカの会社の関係で《海馬コーポレーション》に用事があって来たらしい。

《デュエルモンスターズ》絡みの用事かナ?

 近年の《海馬コーポレーション》は、かつての軍需産業のイメージはすでに払拭され、今では《デュエルモンスターズ》をメインに据えた、一流のホビー会社になっている。

 ワタルのおじさんも、その会社の大幅な方向転換によって、以前は言えなかった自分の仕事を子供にも気兼ね無く教えられるようになったと喜んでいたのを良く覚えている。

 しかし……う~ん、サラの服装は会社人とは思えないほどラフだ。長めのTシャツに破れたジーンズパンツ、肩から大きなスポーツバッグをかけている。

 端から見れば、帰郷した独り暮らしの大学生にも見える。まあ、年齢的には大学生どころか高校生なんだけどネ。

 

「アキラ……デュエリスト?」

「ん?」

 サラの言葉に振り向き、その視線を追うと、ボクが肩にかけているショルダーバッグがあった。

 その口からデュエルディスクの尻が見えていて、サラはそれを凝視し、肩からかけていた自分のスポーツバッグを降ろして、中を物色する。

「私もデュエリスト……ほら」

 そういって、バッグから取り出したデュエルディスクを嬉しそうにボクに見せた。

 ボクはちょっと驚いた。試作型デュエルディスクはアメリカにもあるのか。

 そうなると、サラは《デュエルモンスターズ》発祥の地、本場アメリカのデュエリスト……という事になる。

 

 ボクたちは、そのまましばし沈黙した。

 

 ふと、目が合った。

 サラのブルーの瞳は爛々と輝いており、顔にある微笑みは、会社人というよりも、一人の少女のそれを見せていた。

 目は口ほどにものを言う。

『やっぱりやるの?』ボクはそう自分の目に意思をこめた。

「ふふ、アキラ。デュエルしよう」

 沈黙を破る一番出しにくい最初の一言は、サラが言った。

 

 アメリカでも日本でも、デュエリストはみんな同じなのかナ。

 ワタル曰く。

『デュエリストに言葉は要らない。そこにはただ、闘いの場とデュエルがあるだけだ!』

 とか以前に、そんな何か凄そうで、実は特に意味も無いそれっぽい勢い任せのクサい台詞を吐いてたケド……何かその言葉の意味するところが少し理解できた気がする。

 

「オッケー。望むところだヨ」

 ボクはサラの言葉に笑顔で答えた。

 本場アメリカのデュエリストか……一体どんな闘い方をしてくるんだろう。

 そうしてボクたちは太陽が傾き始めた空き地へと向かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。