決闘者の遺産R   作:びく太

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第十一話:デュエリストvsDUELIST

 朱に染まった町並みの中、開けた場所にて二人の美少女が対峙する。

 木が一本、土管が三つ積み上げられた何気ない空き地であろうとも、デュエリスト同士が肉薄すれば、そこは闘いのフィールドと化すのダ。

「Are you ready?」

 古き良き日本の風情を思わせる場所にそぐわない、流暢な英語が涼風のように耳へと届く。

「OK!」

 返事と同時に、ボクたちは自身の闘志を伝えるように胸元にデュエルディスクを構えた。

『Let's play the……』

 横風が吹き付け、ボクたちの髪が柳のようになびいて頬にかかる。

 互いに髪をかき上げ、そして闘いの開始を宣言した。

 

『Duel!』

 

 デュエルディスクのランプを確認……緑か。先攻はサラだ。

「ドロゥ……」

 サラはデッキから初期手札五枚と、ドローフェイズによりさらに一枚のカードを引く。

 ボクもデッキから初期手札五枚をドローだ。

「リバースカードセット。裏守備モンスターを召喚してエンド」

 サラは伏せカードと守備モンスターを一枚づつか。まずは様子見かナ。

 

「ドロー」

 ボクの今の手札は……《光を纏う聖騎士》、《死者蘇生》、《ドリアード》、《ベビードラゴン》、《天使の施し》の五枚。

 それと今引いてきたドローカード《剣の精-ブレード・スピリッツ》で、合計六枚だ。

 まあ、悪くないネ。《天使の施し》で来るカードによっては、早い段階に力で押し切って勝てるかもしない。

「手札から《天使の施し》を発動するヨ」

 言った瞬間、サラの手が動いた――なんか来る。

「リバースカードオープン、《ANTI-SPELL FRAGRANCE》。その魔法カードの発動はネクストターンまで待ってもらいます」

「にあっ!?」

 えと……テキストは分からないけど、このビジュアルエフェクトは間違いなく《魔封じの芳香》だ。

 確か、これって希少カードだケド、効果が使いにくくて人気の無いマニアックなカードだったハズ。

 一体どんなデッキなんだろ。このカードを使うデッキなんてあまり聞いた事がない。

 それはともかくとして、今はその効果で《天使の施し》が、一度場にセットして次のターンにならなければ使えなくなってしまった。

 サラも同じ拘束を受けるはずだから、次のターンにサラが魔法を使うことも無い。今セットしても除去されることはないだろう。

 よし。

「ボクはカードを一枚セット。そして手札から《剣の精-ブレード・スピリッツ》を召喚。裏守備モンスターに攻撃」

 いくつもの剣が複雑に絡み合った異様な剣の集合体が具現化され、それは回転しながらサラの裏向きカードへと攻撃を仕掛けた。

「《MONSTER OF CHAIN》破壊、リバース効果を発動」

 斬り裂いたモンスターは闇色の鎖に呪われし魔物……確か、このモンスターは日本名は《鎖の魔物》だったハズ。

 瞬間、魔物の身体に取り付いていた鎖が弾けるように飛び掛り、ボクの《剣の精-ブレード・スピリッツ》を絡め取った。

「あうっ……」

 やられた。鎖に絡め取られたカードは永続的に攻撃表示を禁止され、強制的に守備表示にさせられてしまう。

 これじゃあ、《剣の精-ブレード・スピリッツ》を出した意味がない。このカードは攻撃力は高いが、守備力がゼロなのが欠点だ。

 しかし、なってしまった事は仕方ない。イチイチ考えるよりも、次の手次の手……と。

「それじゃ、ボクはカードを一枚伏せてターンエンド」

 

「私のターン」

 ターンの開始を宣言して、彼女はデッキからカードを引く。そのシャープで切れのある引き方は、まるでカードで軌跡を描くようだ。

《魔封じの芳香》で、お互いの魔法カードの使いどころが難しくなった。次の展開を予想した上で魔法カードを伏せなければならない。

 下手したら除去カードで一気に破壊される恐れもあるから、不用意にセットは出来ない。読み合い勝負といったところかナ。

 でも、もしかしたら彼女はデッキに魔法カードが少ないのかもしれない。

《魔封じの芳香》一枚で何が分かるのかと言えば、そうなんだケド……そう考えれば、このカードを入れている意味が少し分かるからネ。

「一枚カードをセット。そして《SCORCHING CHAIN》を召喚――アタック!」

 うあ、また英語表記だ……って当たり前か。サラはアメリカのデュエリストなんだから、カード表記も向こうのモノに決まっている。

 え~と……たぶん日本名《灼熱の鎖》だろう。瞬間的に判別しにくい……ううう。

 まあ、とにかく。炎を帯びて真っ赤に燃えた鎖が現れ、拘束されているボクのカードを締め上げ、破壊した。

「ターン、エンド」

 

「ボクのターン……ドロー」

 引いたカードは《融合》だ。さしあたって今使おうと思うようなカードじゃない。

「リバースカードオープン、魔法カード《天使の施し》を発動。スリードロー、オーケー?」

「OK」

 左腕に装着されているデュエルディスクのデッキホルダーから、カードを三枚ドローする。

 引いたカードは……《聖なるバリア-ミラー・フォース》、《ハーピィの羽根箒》、《黎明の天使-サリザエル》の三枚だ。

 ボクは手札を一見して、すぐに捨てるカード二枚を取り出す。

「効果により、手札から《光を纏う聖騎士》、《ドリアード》の二枚を捨てて……と。さらに《黎明の天使-サリザエル》を召喚」

 場に現れたのは、太陽を守護する双天使の片割れ。でも、もう一方の片割れを持っていなかったりするのが悲しいところ。それが無いと、このカードの効果は半分しか使えない。

 実は今、それをインターネットオークションで入札中だったりするんだケド。

「んで、またカードオープン。《死者蘇生》で墓地にある《光を纏う聖騎士》を特殊召喚」

「……《MONSTER REBORN》!?」

 縁なし眼鏡の奥で静かに輝いていたサラのブルー瞳が、驚きに揺らめいた。

 具現化された《死者蘇生》は現れた瞬間に塵となって崩れ落ち、それはまた別の塊となって新たな姿《光を纏う聖騎士》を投影する。

 相手の攻撃力は1700……どっちで攻撃しても倒せる。

「《光を纏う聖騎士》の攻撃――!」

 白馬に跨り、輝く鎧を纏った銀髪の聖騎士は、朝露に濡れているように美しく妖しく煌めくレイピアを構え、相手モンスターへと駆ける。

「断ち切れ、画閃斬殺!」

 刹那の内に作られた網目状の剣閃が見えた直後……え~と、《SCORCHING CHAIN》が、まるで忘れていたかのように遅れて角切りに分割される。

 

【サラ:LP3400】(-600)

 

「さらに《黎明の天使-サリザエル》の攻撃……暁光の天撃っ!」

 黎明の天使は、祈りをささげるように天を仰ぎ全身から薄蒼い輝きを放つ。

「うくっ……」

 

【サラ:LP1550】(-1850)

 

 攻撃を受けて、か細くサラが呻く。よし、これでライフに大きな差をつけた。

 しかしその表情に焦りの色は見られない。それどころか薄く笑ってすらいる。

 何かあるのか、まだ油断は出来ない。

「ボクは、カードを一枚伏せてターンエンド」

 

「ふふふ、互いの手札に差があるみたいね。でも、それだけでは私を倒せると思わない方が良いよ」

 むむむ、何やら不気味な含みを持たせた言葉だ。

 これをハッタリと思うか、本当の警告と思うかによって、戦局がガラリと変わるかもしれない。

 しかしどうやら手札は良くないらしい。攻めるなら今だけど……はて、どうしようか。

「私は裏守備モンスターを召喚。一枚伏せてターンエンド」

 

「ボクのターン、ドロー」

 引いたカードは《瞬きの封札剣》……これはまだ使うカードじゃない。勝敗を決定付けるような切り札が来ないなあ。

 ボクは引いたカードを手札に入れ、伏せていたカードを翻す。

「リバースカードオープン、魔法カード《ハーピィの羽根箒》を発動」

「チェーンして、こちらもリバースカードオープン。罠カード《WABOKU》を発動します」

 今度は英語版《和睦の使者》か……でも、これの名前って絶対に英語じゃないよねえ。和製英語かなあ、へんな名前だ。

 場では《ハーピィの羽根箒》が、サラの場の魔法・罠カードを破壊する様が投影されている。これで面倒な……う~んと《ANTI-SPELL FRAGRANCE》は片付けた。

 しかし同時に現れたのは、敵に和睦を告げる使者達の鬱陶しい姿……このターンの戦闘ダメージは無効か。

「――でも、攻撃はするよっ! 《黎明の天使-サリザエル》で裏守備に攻撃っ!」

 幸い相手の場に伏せカードは無い。しかし裏守備モンスターを攻撃すれば、リバース効果などで何らかのリスクは負うかもしれない。

 でも、相手のターンで受けるよりは先に知っておいた方が対策は立つ。

 襲い掛かる《黎明の天使-サリザエル》を前に、裏守備モンスター《SANGAN》が姿を現す……が、肉薄の刹那に間に割って入った使者達が、その攻撃を阻止する。

 なるほろ。ええと……《クリッター》ね。英語表記のカードはその内容を把握するのに、少しのタイムラグがある。結構メンドクサイなあ。

「このターンの召喚はせずに、ターンエンド」

 手札の《ベビードラゴン》、《聖なるバリア-ミラー・フォース》、《融合》、《瞬きの封札剣》の四枚は、念の為に温存しておく。

 今は、場に高い攻撃力を持つ二体のカードが居座っている。すぐにこれらが必要になるような事は無いだろう。

 

「私のターン、ドロゥ……」

 引いたカードを確認し、サラの顔に霞のように薄い微笑が浮かぶ。

「ふふふ、私の捕縛デッキは相手を逃さないよ」

 ――捕縛デッキ?

「私は……《POT OF GREED》を発動。デッキからカードを二枚引きます」

《強欲な壺》か……うう、壺の分際で顔がある上に歯茎が暑苦しい手札補充カードだ。この壺は歯を磨くんだろうか。

「そして場の《SANGAN》を生贄として……魔法カードを発動」

 場のモンスターを生贄に使う魔法カード――って事は、まさか。

「儀式魔法《BLACK ILLUSION RITUAL》!」

 場に一対の長足の燭台と、生贄を捧げる台座が現れ、そこに《クリッター》が捧げられる。

「う…あっ――!」

 出されたカードに、ボクは驚きのあまり仰け反った。カード名が分からなくても、その具現化されたエフェクトで分かる。

 なぜなら、それはボクが良く見ていたデュエルモンスターズの雑誌の王国大会特集ページに載っていたからだ。

 しかしボクの記憶が確かならば、それは世界に一枚しか存在しない。

 デュエルモンスターズの創始者にしてデュエルマスターでもあるペガサス・J・クロフォード専用のマスターオリジナルレア……だったハズだから。

 困惑するボクに構わず、場では台座に生まれた闇色の渦が《クリッター》を底なし沼のように足下から侵食し、飲み込んでいく。

 

「儀式モンスター《RELINQUISHED》召喚!」

 

 サラの場に現れたのは、およそ正常な生物とは思えない、悪夢にでも出てきそうな、妖しげな一眼を持つ幻想の魔物。

 それはかつて王国大会において、あのキング・オブ・デュエリストとなった武藤遊戯を敗北寸前まで追い詰めた脅威のカード。

 そのカードは日本では、こう呼ばれている。

 

《サクリファイス》――と。




●オリジナルカード解説
  「剣の精-ブレード・スピリッツ」(効果モンスター)
   攻2000 守 0 4ツ星 地属性 精霊族
   効果:このカードで相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた時、コントロールプレイヤーも同じ数値だけダメージを受ける。
  「光を纏う聖騎士」(通常モンスター)
   攻2300 守2100 7ツ星 地属性 戦士族
   説明:暗黒騎士ガイアと互角の能力を持つ最強の聖騎士。
  「黎明の天使-サリザエル」(効果モンスター)
   攻1850 守1500 4ツ星 光属性 天使族
   効果:このカードは、以下の効果をデュエル中、それぞれ一度だけ使用できる。
   ●このカードがフィールドから墓地に送られたとき、自分の墓地に「黄昏の天使-サルセリエル」があれば、「黄昏の天使-サルセリエル」をフィールドに特殊召喚できる。
   ●このカードがフィールド上に表側表示で存在するとき、このカードは対象を指定しない魔法・罠・モンスター効果を免れることが出来る。
  「MONSTER OF CHAIN」(鎖の魔物)(効果モンスター)
   ATK1200 DEF1000 4ツ星 闇属性 悪魔族
   効果(リバース):このカードが表向きになった時、フィールド上の表向きモンスター1体を永続的に守備表示にする。
  「SCORCHING CHAIN」(灼熱の鎖)(通常モンスター)
   ATK1700 DEF1200 4ツ星 炎属性 炎族
   説明:呪われた鎖を浄化焼却しようとしたが、途中で脱走した鎖型の魔物。しかし浄化の際に包まれた炎の熱は未来永劫消えることは無い。
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