「ふふふ、勝負はこれからです」
《クリッター》の効果でモンスターカードを手札に入れ、サラはどこか根暗な人を思わせる怪しげな薄笑いを浮かべた。
生まれ出でた奇怪な一眼の魔物は、その大きな目でボクをジロリと睨んだ気がした。
でも《サクリファイス》って、ちょ……なんで?
このカードはインダストリアル・イリュージョン社の会長ペガサス・J・クロフォードが自分のために作ったマスターオリジナルだったよネ?
ボクの記憶が間違っていなければ、デュエルモンスターズ月刊情報誌増刊号の『決闘者の王国大会特別編集号』にそう載っていた。
それなのに……なぜ、サラがそのカードを。
ボクの困惑をよそに、サラは身構えて高らかに宣言した。
「《RELINQUISHED》の特殊効果発動!」
特殊効果……って、ああっ――!
ボクは重要な事を思い出した。《サクリファイス》の特殊効果……それは。
「ダーク・ホール!」
宣言と同時に、目の前の奇怪な魔物の腹部にある口が大きくふたを開ける。
直後、立体映像であることを忘れるような、凄まじい突風が巻き起こり、ボクは反射的に踏ん張った。
次に目を開けたときには、魔物の身体に《光を纏う聖騎士》が吸収された後だった。
確か吸収したカードの力をそのまま受け継ぐんだったっけ……マズい。
「そしてモンスターを吸収した《RELINQUISHED》の攻撃、画閃斬殺!」
再び開いた《サクリファイス》腹部から、ボクにとっては馴染み深い、いつもなら敵を切り裂いてくれる閃光の軌跡が、今はこちらに襲い掛かってくる。
閃光は涼風の如く場を奔り、その後にはアッサリと角切りにされた《黎明の天使-サリザエル》が電子の塵となって霧散した。
【アキラ:LP3550】(-450)
ううう、ダメージは多くないけど相手モンスターの能力と吸収された《光を纏う聖騎士》の攻撃力が厄介だ。
しかしボクは内心それほど取り乱してはいない。なぜなら手札には《聖なるバリア-ミラー・フォース》があるからだ。
一ターン早くセットしておけば、被害は《光を纏う聖騎士》だけで済んだのに……残念。でも、クヨクヨしてはいられない。
前のターンでセットしなかったのなら、次のターンでセットすれば良いだけのこと。
そのあとは運悪く相手に除去魔法が来ないことを祈るだけだ。はんにゃーはーらーなんまいだーほーほけきょ……あれ、違ったっけ?
「私はカードを一枚セットして、ターンエンド」
「ボクのターン、ドロー」
引いたカードは《光の護封剣》だ。さて、どうしようかナ。
いきなりここで《聖なるバリア-ミラー・フォース》を伏せたら、あからさま過ぎて警戒されるだろうか。
サラの手札に除去魔法がある可能性を考慮して、先に《光の護封剣》を使ってオトリにしてみようか……うーん、悩むところだ。
手っ取り早いのが《天使王カタストロフ》を出すことなんだけどね。
吸収されたカードより攻撃力も守備力も高いし、対象を指定する効果は通用しないから一対一なら《サクリファイス》を無力化できる。
でも無いものねだりをしても仕方がない。どんなに考えても、今のボクの手札に《天使王カタストロフ》が無い事実は変わらないのダ。
「ボクは守備モンスターをセット、さらにカードを一枚伏せてターン終了だヨ」
長考したあげく決めたのは、結局最初に考えていたことそのまま。守備モンスター出して《聖なるバリア-ミラー・フォース》をセットするだけ。
上手く行けば良いんだケド……なーんか上手く行かない気がするなあ。
勘が当たってヤマ張った部分ばかり入試に出てきたときの受験生のような、あのサラの表情がねえ。どうしても引っかかるのサ。
「私のターンです。ドロゥ」
引いたカードを見てサラは小首を傾げた。そしてボクの場を一瞥する。
なんだろ。使うタイミングが難しいカードでも来たのかナ。
それともボクの場の伏せカードを警戒して、モンスターを攻撃表示で出すべきか攻撃後に召喚するべきか迷っているのだろうカ。
そのまま観察を続けていると、考えがまとまったのだろうか、サラは手札からカードを一枚引いてデュエルディスクへとセットする。
「私は《闇の鎖使い》を召喚。守備モンスターへアタック!」
よし、罠にはまってくれたゾ。
ボクはニヤけそうになる口の端を堪えて、罠カードを翻した。
「リバースカードオープン、聖なるバリア-ミラー・フォ――」
しかし最後まで言う事が出来なかった。
「リバースカードオープン。カウンター罠《THORNY RESTRAINT》!」
「にゃんとぉ!?」
予測していなかった事態に間の抜けた驚きの声が漏れる。
翻ったボクのカードの周囲から、幾本もの茨がロケットのように勢いよく吹き出し、それは意思を持った触手のようにうねって《聖なるバリア-ミラー・フォース》のカードを絡め取った。
「これは――!」
あまりにも見慣れたエフェクトが相手ではなく自分自身に起きていることに、瞬間の戸惑いを覚えた。
現状を正しく把握できたのは、茨に絡め取られ強引に引っ張り込まれたカードが、強制的に伏せた状態へと拘束されたあとだった。
――《いばらの拘束》。
この見慣れたエフェクトは、間違いなくボクも愛用しているカード《いばらの拘束》だ。
なんてこったい。考えたら《いばらの拘束》なんて、いかにも捕縛系のカードだゾ。
彼女自身、自分のデッキは『捕縛デッキ』だって言ってたのに……なんでこのカードが思いつかなかったんだろ。
あうち、もっと良く考えるべきだったヨ。
ひとり悔やんでいる間もサラのバトルフェイズは続行されている。
ボクの守備モンスター《ベビードラゴン》は《闇の鎖使い》倒され――って、このカードは英語表記じゃなんだ――続いて《サクリファイス》によるダイレクトアタックを決められる。
【アキラ:LP1250】(-2300)
「一枚カードをセットしてターンエンド」
う、また伏せカードだ。何かの対策カードか、単なるハッタリカードか。いや、考えるだけ無駄かナ。
サラの表情を伺おうにも、絶えず微笑しているだけでそこから思考は読み取れない。
光が反射して白く光る縁なし眼鏡が彼女の瞳を隠す。なんだかそれが余計にボクの不安を掻き立てた。
ええい、迷ってても仕方が無い。
「ドロー!」
引いたカードを見て、少しだけ安堵の息を漏らした。まだボクのデッキは勝負を諦めていないようダ。
「魔法カード《運勢の宝札》を発動」
サラは動かない。少なくともあの伏せられたカードが魔法を防ぐものではないようダ。
ボクの頭くらいの大きさのサイコロが中空に出現し、見えない坂を転がるように地面へと落ちた。
運命のダイスロールだ。お願いだから『1』だけは出ないでっ。
祈るようなボクの想いが通じたのか、止まったサイコロの示す数値は『4』だった。
よっし、二枚引ければ上等。良いカードちゃん、いらっしゃ~い。
どこぞの新婚さんを招く番組の司会者よろしく、ボクはカード効果にしたがってデッキから二枚のカードを引いた。
引いたカードは《心眼の女神》と《ホウライの剣士》。それを見て、ボクは自分の手札に《融合》がある事を思い出した。
おし、ばっちぐーよデッキちゃん。これで鬱陶しい《サクリファイス》を攻略できる。
王国大会からカードは進化しているのダ。もうデッキ事情は当時のものとは一変している。かつて最強カードだったものが、今も最強だとは限らない。
……まあ、あの海馬瀬人のように、唐突に三体もの《青眼の白龍》をドカンと出す無体な御方は、とりあえず考えないようにしておこう。あれはずっと最強だし。
「ボクは魔法カード《融合》を発動。手札の《心眼の女神》と《侍少年ホウライ》を融合するヨ」
「《POLYMERIZATION》……!」
はっと顔を上げたサラの縁なし眼鏡がキラリと光を反射した。
「融合カード《時空剣士ホウライ》を融合召喚。融合召喚によりセットカードに特殊能力発動!」
侍の姿を近未来的にアレンジしたような少年剣士は、腰に佩いている太刀を抜き放ち、サラの場の伏せカードを攻撃する。
このカードは融合召喚に成功すると、その時に相手の場の魔法・罠ゾーンのカードを破壊することが出来るのダ。
もはや《サクリファイス》の装備カードと化している《光を纏う聖騎士》を狙っても良いが、ここはやはり不安を取り除く方が先だ。ダメージは覚悟してる。
「リバースカードオープン、《Dust Tornado》!」
あうっ、チェーンされた。しかもこれは――《砂塵の大竜巻》。
カウンター気味に使われたカードは、ボクの意識が追いつく前に場の《聖なるバリア-ミラー・フォース》を破壊していた。
「…………」
やられた。
いや……これでも良い。良いんだ。攻撃への不安が解消されたんだから。ボクはそう自分に言い聞かせた。
そしてその不安を振り払うように、罠カードの心配が無くなった相手フィールドのモンスター《サクリファイス》に狙いを定める。
「《サクリファイス》に《時空剣士ホウライ》で攻撃――おりゃー、時空閃・一刀!」
抜き放った太刀が閃光となって《サクリファイス》ごと空間を切り裂いた。直後、その裂けた部分を戻そうと働く力が空間ごと《サクリファイス》を吸い込んでいく。
そして攻撃力に劣る《時空剣士ホウライ》は《サクリファイス》の反撃によって角切りにされ、墓地へと送られた。
【アキラ:LP650】(-600)
倒した。あの武藤遊戯を追い詰めたモンスターを。
そしてサラは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、硬直なのか放心なのかは知らないけど、しばらく固まっていた。
「グレイト! 私の《サクリファイス》をこんな短時間で攻略するなんて!」
突然何を言い出すかと思えば、明らかに切り札的カードである《サクリファイス》を失っておきながら、サラは落胆するどころか喜んでボクを賞賛しはじめた。
え、え~と……ここは「ありがとう」とか言うところなのかナ?
まあ、兎にも角にも《サクリファイス》はゲームから除外されたから、とりあえずの脅威は去った。
しかし《聖なるバリア-ミラー・フォース》は破壊され、ボクは手札にも場にもモンスターが一枚もない無防備な状態だ。
ボクは手札から一枚のカードを抜き取る。あとは、このカードと次からのドローに賭けるしかない。
「ボクは魔法カード《光の護封剣》を発動。そしてターンエンド!」
発動と共に幾本もの光の剣が舞い降りる。サラ……ボクはマダマダ負けないよ。
●オリジナルカード解説
「光を纏う聖騎士」(通常モンスター)
攻2300 守2100 7ツ星 地属性 戦士族
説明:暗黒騎士ガイアと互角の能力を持つ最強の聖騎士。
「黎明の天使-サリザエル」(効果モンスター)
攻1850 守1500 4ツ星 光属性 天使族
効果:このカードは、以下の効果をデュエル中、それぞれ一度だけ使用できる。
●このカードがフィールドから墓地に送られたとき、自分の墓地に「黄昏の天使-サルセリエル」があれば、「黄昏の天使-サルセリエル」をフィールドに特殊召喚できる。
●このカードがフィールド上に表側表示で存在するとき、このカードは対象を指定しない魔法・罠・モンスター効果を免れることが出来る。
「THORNY RESTRAINT」(いばらの拘束)(カウンター罠)
効果:相手の罠カードの発動を無効にし、発動前の伏せた状態に戻す。
このカードの対象になった罠カードは、そのターンにプレイすることができない。
「闇の鎖使い」(効果モンスター)
ATK1500 守1200 4ツ星 闇属性 戦士族
効果:このカードが戦闘によって墓地に送られた時、デッキから名前に『鎖』と付く攻撃力1500以下のモンスターカードを1枚、
フィールド上に裏側守備表示で特殊召喚する事ができる。
「運勢の宝札」(通常魔法)
効果:サイコロを振り、出た目に応じた枚数のカードをドローできる。
6の場合は3枚、5・4の場合は2枚、3・2の場合は1枚。ただし1の場合はドローできない。
「侍少年ホウライ」(通常モンスター)
ATK1200 DEF600 3ツ星 地属性 戦士族
説明:頭の後ろで髪を一本に束ねた長髪の美少年侍。口は悪いが根は真面目でとても優しい。
「時空剣士ホウライ」(融合モンスター)
ATK1700 DEF1500 4ツ星 光属性 戦士族
「侍少年ホウライ」+「時の魔術師」
効果:このカードが融合召喚に成功したとき、相手の魔法・罠ゾーンにあるカード1枚を破壊することが出来る。
また、このカードと戦闘を行ったモンスターは、ダメージ計算後デュエルから除外される。