決闘者の遺産R   作:びく太

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第十三話:勝利への可能性

「私のターン……ドロゥ」

 光の剣によって隔てられた向こう側で、サラが引いたカードを確認するのが見える。

 その表情は絶えず微笑しており、そこから彼女の精神状態や思考を窺うかがい知ることは出来ない。

 引いたカードは《大嵐》か《サイクロン》か。これらが出たらおしまいだ。

「カードを一枚セット。ターンエンド」

 ほっ、どうやら来なかったみたいだネ。

 

「ボクのターン、ドロー」

 とりあえず難所を越えたことに安堵しつつ、引いたカードを見る。

 良いのが来た――が、やはり伏せられたカードのプレッシャーか、ボクは次の手に迷う。

 分かっている、今出来ることなんて。

 場は《光の護封剣》が一枚だけ存在しているだけ、手札は《瞬きの封札剣》と引いたばかりの《ディナミス・ヴァルキリア》しかない。

 そして相手の場には《闇の鎖使い》が居て、ボクのライフはすでに650しかない。一撃受けた時点でジ・エンドだ。

 場にたった一枚残されている護封剣が命綱だ。しかもいつ切れてもおかしくない危うい生命線。

 この手札と場の状況から何をしろって、とりあえず召喚しておくしかないでしょ。

「手札から《デュナミス・ヴァルキリア》を召喚……」

 と、ここで迷うのは攻撃をするかどうかだ。

 もし《聖なるバリア-ミラーフォース》のような罠カードでも伏せられてた日にゃあ目も当てられない。

 しかしココで守勢に入るべきだろうか?

 否。劣勢のボクが今逃げるわけには行かない。劣勢ゆえにターンが過ぎるほど、こちらから攻めにくくなる。

 場に《光の護封剣》がある今なら、多少の無茶は許容範囲。ならば攻撃っ、攻撃あるのみだヨっ。

「《デュミナス・ヴァルキリア》で《闇の鎖使い》を攻撃っ!」

 攻撃宣言により、《デュナミス・ヴァルキリア》の両手から放たれた星屑のような輝きが敵を包み破壊した。

 

【サラ:LP1250】(-300)

 

 サラは動かない。どうやら伏せられたカードは攻撃をトリガーとするものではなさそうダ。

 ただ、今はまだボクの場に《光の護封剣》があるから、それを除去してから使おうとしている可能性もある。

 邪魔が消えてから切り札を使い、相手の戦力を一網打尽にした上で、体勢を整える間を与えず一気に勝負を仕掛ける……なんて可能性がネ。

「《闇の鎖使い》の効果により、デッキから《CURSE OF CHAIN》を攻撃表示で特殊召喚します」

 うっ……戦闘で破壊されてもモンスターが場に残るのか。サラの使っているカードは、ボクがあまり良く知らないモノが多い。やっぱアメリカと日本で、それぞれ別の主流があるのかナ。ま、それを言ったら光に特化したボクや、闇に特化したワタルのデッキだって主流とは言えないケドね。コレは『コダワリ』というものだ。

 そういえば『捕縛デッキ』って言ってたから、やっぱサラも『コダワリ』でマイナーカードを多用しているのかも。

「ターンエンドです」

 

「……ドロゥ」

 カードを引いて、サラは手札の裏から場を改めて覗き見る。

「……?」

 ぼくは首をかしげた。ナニか来たのかナ?

 いちおうボクの場には《光の護封剣》の効果が生きている。除去さえされなければ、まだ有効だからいきなり状況が覆るような事はないと思う……たぶん。

「《CURSE OF CHAIN》を生贄に、《鎖鎌の忍者-ドウセツ》を召喚」

「あうっ、生贄召喚……!?」

 現れ出でたのは、闇紫の忍装束に身を固め鎖鎌を構えたモンスター。その覆面の奥に紅く光る双眸は不気味な程に闇に溶け込んでいた。

 あ、いや……つか、何故にアメリカ人が忍者?

「ターンエンド」

 

 む……サラは追い討ちなしか。それならこっちにもまだまだチャンスはあるゾ。

 このターンで《光の護封剣》の効果が消えてしまう。何か対抗策になるカードがこないとマズい。

「よし、ドロー!」

 引いたカードを見た途端、息が詰まった。

 あ~……え~……その……まぢですか?

 来たのは《不死鳥-フェニックス》のカード。七ツ星の上級モンスター……つまり、生贄が足らんですタイ。

 全く使えない悪ドローに、ボクは九州なまりで落ち込む。ちっちっち、「何故に九州!?」と突っ込むなかれ。そこは乙女心というモノだ。

「……カードを一枚伏せてターンエンド」

 ボクは泣く泣くターン終了宣言をする。同時に、唯一の防護壁であった《光の護封剣》が役目を終え、電子の虚空へと消えていった。

 代わりといってはなんだケド、ほとんどハッタリで《瞬きの封殺剣》を伏せておいた。どれほどの効果があるかは推して知るべし。

 

「私のターン……ドロゥ」

 サラはドローするなり、呆れたように大きくため息をついた。今度はなんだろ?

「ふぅ……魔法カード《ハーピィの羽根箒》発動。ちょっと来るの遅い……」

 実に気の抜けた声でサラは魔法カードの発動を宣言する。

 ああ……伏せたカード使わないとね。使わないよりマシだし。ま、ハッタリカードで《ハーピィの羽根箒》使わせたと思えば良いか。

「リバースカード《瞬きの封殺剣》をオープン。左のカードを捕獲!」

 サラの頭上に光瞬く剣が現れ、ボクの指定した手札一枚を貫いてフィールドへと突き刺さる。

 ――どうか?

 その状況に、サラの表情がどう変化するのかを確認する。

「ノンノン。ノープロブレムよ、アキラ」

 立てた人差し指を軽く左右に振って、余裕満面の顔でウィンクされた。

 うわあい、全然効果ナッシングっすか……ボクって運悪い?

「こちらもセットカードをオープン。同じく《瞬きの封殺剣》――その一枚だけの手札を捕獲します」

 ぬあっ、サラも《瞬きの封殺剣》でスかー!?

 今度はボクの頭上から光瞬く剣が、空気を切り裂くように目の前を通過し、残された最後の手札を貫いてフィールドへと突き刺さった。

 貫かれたのは、もちろん《不死鳥-フェニックス》だ。

「そして《鎖鎌の忍者-ドウセツ》で、拘束されたカードを攻撃――鋼鉄のカマイタチっ!」

 波打つ鎖が伸び、その先端にギラリと光る鎌が大きく鎌首をもたげた。

「あうっ……」

 鋼鉄の鈍い輝きが軌跡を残し、剣に貫かれているカードが真っ二つに両断された。直後、叫びを上げる不死鳥が垣間姿を見せ、電子の塵となって消えた。

「――《Revival Phoenix》!?」

 英語版の名前を知っているということは、どうやらこのカードの効果も分かってるみたいだネ。

「ふふん。さんきゅー、サラ」

 ボクはお返しとばかりに、驚きに眉を顰めているサラに軽口を叩く。

 サラは「なかなかやるね」と言わんばかりにクイッと眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げると、口端を吊り上げてどこか楽しそうに、そして不敵に微笑んだ。

「ターンエンドです」

 

「ボクのターン、ドロー」

 手首を翻してドローカードを確認……ゾクセイノトッケン。

 そのまま固まった。

 スミマセン、今こんなカード全く要りませんデス。

「……どうしたの?」

 そのボクの様子を見て、サラは絹糸のような銀髪を揺らして小さく首をかしげた。

「あはは~……ど、どんとうぉーりぃ~」

 引きつりまくったボクの苦笑いに、サラはブルーの瞳をパチクリ。再び首をかしげた。

「とにかく……ドローフェイズを終了。スタンバイフェイズにて場の《デュナミス・ヴァルキリア》を生贄に――」

 電子の塵となって空に消えた《デュナミス・ヴァルキリア》の居た場所に、炎の渦が舞い上がる。

「《不死鳥-フェニックス》を墓地から特殊召喚!」

 熱気を感じてしまうような精巧な炎の立体映像の中から解き放たれたように翼を広げ、揺らめく炎の羽毛を纏った不死鳥が死の淵から蘇った。

 しかし残念。このターンは攻撃が出来ない。無駄とは知りつつも、ボクはさっき引いた《属性の特権》をハッタリで伏せておく。やらないよりはマシだろう。

「カードを一枚セット。ターン終了」

「私のターンです。ドロゥ……」

 特に意味も無く発動した《瞬きの封札剣》が消え、フィールドに括りつけられていたカードはサラの手札へと舞い戻る。

 さっき伏せたハッタリはまず通用しないだろう。だけど場に居座っている《不死鳥-フェニックス》の攻撃力は、そうそう簡単には破れない……と信じたい。

 ただ、さっき《サクリファイス》とか出してきたしなあ。何だか彼女のデッキは謎に満ちている。

 それに……と、ボクはサラの表情をうかがう。

 しかし反射した縁無し眼鏡がきらーんと白く光り、その瞳は隠される。見えるのは不敵にゆがむ口元だけ。

「カードを一枚セット。《鎖鎌の忍者-ドウセツ》は守備表示にして、ターンエンドです」

 ありゃ、何もこないで終わった。引いたカードが悪かったのかナ?

 ま、いっか。

 

「ボクのターン。ドローだヨ」

 引いたカードは《和睦の使者》だ。

 う~む、攻撃力の高いモンスターが場に居る時に来られてもなあ。しかしサラの場には伏せカードが不気味にたたずんでいる。

 手札は閑古鳥が鳴いているけど、和睦もあるし、あまり忍者を場に残しておきたくないから危険を承知で攻撃……してみるかナ?

「うしっ、《不死鳥-フェニックス》で《鎖鎌の忍者-ドウセツ》を攻撃!」

 ボクの攻撃宣言に甲高い鳴き声を天に上げ、不死鳥の羽ばたきは炎の渦となって忍者を飲み込まんとする。

「リバースカード、オープン、《Kunai with Chain》!」

 翻ったカードから鎖が飛び出し、羽ばたくフェニックスへと巻き付いて、その動きを拘束する。

 忍者はといえば、鎖の勢いに乗ってちゃっかり攻撃をかわしており、その片端をしっかりと握っていた……ちぇ。

 英語表記の《鎖付きブーメラン》……しかも《鎖鎌の忍者-ドウセツ》が装備でスか。そうでスか。

 いつの間にか、サラの捕縛デッキによって、場の《不死鳥-フェニックス》だけでなく、ボク自身ですらもシッカリと動きを封じられていた。

 手札には《和睦の使者》、しかしそれはもう効果を成さないと決められてしまったカード。手札すらも捕縛されていた。

 今さらながらの驚きと、最初から定められていたような敗北の気配が、ボクの心を黒く染め上げる。

 必死の抵抗をさばいている内に、いつの間にか立場が逆転している事に気付かされるワタルのような感覚とは違う。

 外堀を埋めるだけのリスクのはずが、気が付けば内堀まで埋められてしまっていたような、そんな感覚。

「これが捕縛デッキの力……」

 いかにも「罠に嵌まった」という精神的ショックが大きい。現にボクの戦意は萎えてきて、小さな呟きが漏れる。

 しかし例え敗北が決定的であろうとも、最後までデュエルを続ける姿勢を崩してはならないのがデュエリストだ。敵に背を向けて受ける傷より、立ち向かって受ける向こう傷がデュエリストの誇り。

「ボクはカードを一枚伏せて、ターン終了」

 残された戦意を奮い立たせ、最後の闘志を燃やす。

 相手が人間である以上、100パーセントは有り得ないのダ。例え小数点以下が天文学的桁数になろうとも、最後に1以上の数字が存在するならば勝敗は決まっていない。

 可能性が完全にゼロになるまでボクは引かない。

「私のターンです。ドロゥ」

 サラの場に《鎖付きブーメラン》を装備した《鎖鎌の忍者-ドウセツ》がいる限り、罠カードは使うだけ無駄だ。

 使われているカードのほぼ全てが『鎖』なせいか、まさに『捕縛』されているような、プレイの不自由さ、窮屈さを感じる。

 装備された《鎖付きブーメラン》により、攻撃力が2600となってしまっては、さすがの《不死鳥-フェニックス》も敵わない。

《和睦の使者》を使えば《鎖付きブーメラン》を引きはがすことは出来るケド、守備表示にされてしまっていては破壊されることに変わりは無い。たかが100、されど100の差。

「バトルフェイズ。《鎖鎌の忍者-ドウセツ》で《不死鳥-フェニックス》にアタック!」

 すでに捕縛されている《不死鳥-フェニックス》は、新たに放たれた鎖鎌の牙にかかり、その実を両断され、ひと鳴きと共に炎の塵となって虚空へと消えた。

 しかしサラは新たにモンスターを召喚しなかった。だったらまだ勝機は残されている。

 次のターンで《鎖鎌の忍者-ドウセツ》か《鎖付きブーメラン》を何とかできれば逆転の可能性も……

「さらに魔法カード《魂の解放》を発動。アキラのセメタリーから《不死鳥-フェニックス》、《時空剣士ホウライ》、《光を纏う聖騎士》、《黎明の天使-サリザエル》、《剣の精-ブレード・スピリッツ》の五枚を除外します」

「うえぇぇぇぇっ!?」

 驚愕が叫びに変わる。

 場のモンスター、手札のみならず、今度は墓地すらも捕縛されてしまった。プレイがひどく窮屈に感じる。首輪をかけられた犬のように、ボクの動きはどんどん制限されていく。

 まだ捕縛されていない場所はどこ? まだ生きているところは? まだ自由なところは……?

「ターンエンドです」

 サラは優麗な佇まいを崩さず、終始しなやかにプレイをしていた。銀色の髪を風に撫でられながら微笑を顔に残してターンの終了が宣言される。

 ――万事休す。

 まだ可能性は消えていない。しかしボクの心にはその言葉が自分を認めろと唸りをあげて暴れまわっていた。ええい、うるさいうるさい。まだボクは負けてない。負けてないんだ。

 

「ボクの、どろぉ……」

 心はすでに敗北を認めようとしているが、頭がそれを許さない。奮い立たない闘志に鞭打って、ボクはおそらく最後になるであろうドローをした。

「あ……!」

 喉から間の抜けた声が漏れた。小さな驚きに呆気にとられる。

 例えるなら、ハトが豆鉄砲を食らいそうになってイナバウアーでかわしたけど反り返った直後の視界には新たな豆鉄砲が凶悪なほどの至近距離で狙っていたみたいな……いや、そんな例えばどうでもいい。

 とにかく残っていた。捕縛されていない場所が。まだ……デッキはまだ捕縛されていなかった。

「あ、あはは……」

 しかしボクの口から漏れるのは、乾いたような苦笑いのみ。

 引いたカードはあまりにも分かりやす過ぎる。イチかバチか過ぎる。

 デュエルも終盤に来ておきながら状況を五分に戻してしまうか、自身の敗北を決定的なものにするか……全てはこのカード一枚に賭かっている。

 ボクの引いたカードは――




●オリジナルカード解説
  『闇の鎖使い』 (効果モンスター)
   ATK1500 DEF1200 4ツ星 闇属性 戦士族
   効果:このカードが相手プレイヤーによって墓地へ行った時、
      名前に『鎖(CHAIN)』とつく攻撃力1500以下のカードを場に裏向き守備表示でデッキから特殊召喚する事ができる。
  『CURSE OF CHAIN』(呪縛の鎖)(通常モンスター)
   ATK800 DEF1800 4ツ星 闇属性 悪魔族
   説明:かつて罪人を繋いでいたが幾人も縛りつけている内にその怨念が宿り、
      それを悪用しようとした魔道師によって呪いをかけられ、生きる鎖となった。
  『輝きの封殺剣』(通常罠)
   効果:相手の手札から1枚をランダムに選ぶ。
      そのカードを持ち主のフィールドに(魔法・罠の場合は、攻守0/闇/魔法使い族として扱う)
      強制的に1ターンの間、裏向き守備表示で召喚させる。
      ターン終了時にそのカードが破壊されていなければ、そのカードを持ち主の手札に戻す。
  『不死鳥-フェニックス』(Revival Phoenix)(効果モンスター)
   ATK2300 DEF2000 7ツ星 炎属性 鳥獣族
   効果:このカードがフィールド上から墓地へ行き、コントローラーのスタンバイフェイズ時に墓地に存在するとき、
      自分のフィールド上のモンスター1体を生贄にすることで特殊召喚できる。
      ただし、この効果によって特殊召喚をしたターン、このカードは攻撃宣言をする事ができない。
  『属性の特権』(永続罠)
   効果:発動時に属性を1つだけ宣言する。その属性のモンスターに限り、
      1ターンに一度300ライプポイントを払う事でモンスター1体を通常召喚する。
      この効果は自分ターンのメインフェイズ及び相手ターンのバトルフェイズのみ発動する事ができる。
  『鎖鎌の忍者-ドウセツ』 (効果モンスター)
   ATK2100 DEF2000 6ツ星 風属性 戦士族
   効果:このカードが『鎖付きブーメラン』を装備している時、
      このカードに装備されている『鎖付きブーメラン』を墓地に送る事で相手の罠カードの発動を無効にし破壊する。
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