決闘者の遺産R   作:びく太

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外伝-決闘者の王国編Episode-02:『決闘者の王国』

 決闘者の王国。

 デュエルモンスターズを生み出したインダストリアル・イリュージョン社が主催する公認大会であり、その会場となる島の名前でもある。

 島ひとつを舞台とする大規模で大胆な演出、その決闘場において全国の強豪デュエリスト達が互いの命たる「星」を奪い合う。

 奪うか奪われるか……そこは勝者と敗者を分かつ決闘のみが全てを決する力となる。

 闘いの場に降り立つひとりの少女。彼女がそこで見たのは、後に語り継がれる無敵のデュエリスト伝説、最初の闘いであった。

 

 ***

 

「ウェルカム、ようこそ決闘者の王国へ!」

 決闘者の王国大会の開会式は、主催者であるインダストリアル・イリュージョン社会長ペガサス・J・クロフォードの、そんなうさんくらい日本語の挨拶から始まった。

 デュエルグローブのこと、スターチップのこと、そして舞台が島全域であるという事と、ルールの説明が続く。

「ハテ?」

「どした?」

 小さく首をかしげたボクにワタルが目ざとく反応した。 

「あ……うん。なんで会場が島全域なんだろうなーって思ってサ。てっきりあの城の中でやるのかと思ってたから」

 それを聞いてワタルは腕を組み、うつむいて「うーん」と何かを考えるように唸ったかと思うと、神妙な顔つきでボクに振り向いた。なにか思いついたのカナ?

「俺が知るか」

 ボクの右拳がワタルの顔面を撃ち貫いた。

 ムカっとくるよりも早く手が動いているあたり、我ながら自然に身についた条件反射の恐ろしさを感じる。

 しかしたぶん第12724回目くらいの脳内会議では、新聞紙で叩いた虫のようにピクピク痙攣するワタルを完全に無視する法案が全会一致で可決されたので、それに従うことにした。有益な法案は即決即行に限るのダ。

「しくしく……」

 なんかワタルが泣いている。泣かぬなら泣かせてしまえホトトギス。昔の偉い人もそう言っている。古人の言葉は偉大なのダ。

「それは……いろいろ違う」

 なにやらこちらの心中を完璧に見抜いて何かを言ったようだが、すでに施行された法を覆すことは出来ないのダ。

 それは宇宙開闢から連綿と受け継がれる……えーと……たぶん、なにかの法則に違いないのダ。うん、そうに違いない!

「……絶対違う」

「―――ではデュエリスト諸君、健闘を祈ってマース!」

 あきらめたワタルが崩れ落ちるのと、ペガサス会長の開会式終了の言葉は、ほぼ同時だった。

 

 決闘者の王国――

 それは洋上にポツンと取り残された周囲5キロ程の小さな孤島。その中心にそびえる城が、いかにも「王国」という雰囲気を作り上げるのに一役買っている。

 島のところどころに設置されているデュエルシュミレーターボックス以外、一見して科学的な設備がどこにも見られないのも、たぶん演出のひとつなんだろう。

「で?」

「ナニが?」

「ナニがじゃねえよ。これからどうするかだよ。二人で一緒に行くのか、それぞれ別に行動するのか……まずはそこから。そんで一緒に行くならこれからどこへ向かうのか。別々に行くなら、いつどこで待ち合わせるか。片方が負けて片方が勝ち続けた場合はどうするかとか、色々考える事はあるだろっ!」

「おおー、さすがワタル。鍋奉行の異名はダテじゃないネ」

「完璧ダテだろ……それは。いや、そうじゃなくてだな……」

「ダイジョーブ、わかってるヨ。とりあえず一緒に行こ。初めての全国だし、舞台が島全域だし、ひとりで歩くにはお互い不安があるでしょ?」

「おう、アキラにしてはまともな答えだ。その意見には賛同しよう」

「ったく、偉そうに。ほら行くよ」

 ボクはプイと顔を背けると、聞きなれた足音を背に、ひとり先へと進んだ。

 ため息が聞こえたのは、たぶん空耳じゃないだろう。

 

「っと、ごめんよ」

 人ごみをかきわけて、ボク達はとある森の中のデュエルボックスに到着した。

 なんと、あの武藤遊戯が日本チャンピオンであるインセクター羽蛾と闘うというのダ。これは必見ということで走ってきたんだけど、どうやらデュエルは既に始まっていたようだった。

 最初からいたらしき人に聞いてみれば、まだファーストバトルが終わっただけらしい。最初から見れなかったのは残念だケド、遅れてきたにしては上出来だ。

 テーブルを挟んだ左には、テレビでも見たインセクター羽蛾の姿があった。インセクター羽蛾といえば、嫌らしい薄笑いと奇怪な笑い方を常とする実力者だが、その彼が悔しそうな表情を見せている。

 彼の表情を崩した武藤遊戯という奴はいったいどんな奴だとテーブルの右側見れば――

「ちょっとワタルワタル。あれあれ、あの人! あの人だよ! ほら、船の!」

 ボクは隣でぜーはー息をしているワタルの首根っこをつかみ上げると、デュエルボックスにその顔を押し付けた。

「ちょ……アキラ、やめ……いたいいたい! わかったから放せ!」

 力が入りすぎていた事に気付いてワタルを解放すると、ボクは改めてインセクター羽蛾の相手……武藤遊戯を指差した。

「いたた……しかしまさかあの人が武藤遊戯だったとはな」

 武藤遊戯の姿は、船でボクたちがぶつかったその人と同じだった。良く見れば、デュエルボックスの向こう側にはカードをトレードしたクシャミの彼もいた。

「ほら、ボケっとすんな。武藤遊戯がピンチだ」

 ワタルの声にはっとして、ボクは二人のデュエルに目を戻す。

 いかにも危うそうな伏せカードと、森のフィールドによってパワーアップしたインセクトカードに、武藤遊戯は防戦を強いられていた。

 さすが日本チャンピオン。いかに海馬瀬人を破った武藤遊戯とはいえ、場数ではインセクター羽蛾とは比べ物にならないだろう。そんな差か、はたから見ても武藤遊戯の劣勢は明らかだった。

「あー、順当にインセクター羽蛾の勝ちかナ?」

 安心半分、残念半分の微妙な心情でワタルを見ると、その顔は張り詰めた緊張が爆発するのを今か今かと構えているようだった。ボクの声も耳に入っていない。

「どしたの?」

「……まだだ」

「え?」

 そうひとことだけ言うと、聞き返すボクに応えずワタルは息を呑んだ。

『――今たしか<攻撃>と言ったよな』

 追い詰められていたはずの武藤遊戯の声色が変わった。その声にデュエルへと目を戻す。

 絶体絶命の状態から彼が翻したカードは――

「ここで《聖なるバリア-ミラーフォース》かよ……マジか」

「すごい……」

 場の状況を一変させる脅威の一枚。追い詰められていたはずの武藤遊戯は冷静に場を読んで、タクティシャンと呼ばれるインセクター羽蛾の読みのさらに上を行った。

 そして彼はさらにトドメのひとことを突き出す。

『ハッキリ言うぜ。お前、弱いだろ』

「ちょ……!」

 仮にも相手は日本チャンピオン。それを指差して「弱い」と言い切るとか凄すぎる。

「そこでそのセリフはキマりすぎだろ」

 食い入るようにデュエルに見入るワタルの口端が、ヒクヒクと痙攣したようにつりあがる。

 これが海馬瀬人を倒したという武藤遊戯の実力……日本チャンピオンを手玉に取っていた。

 と、思ったのもつかの間。インセクター羽蛾の逆襲が始まった。

 現れた《進化の繭》と、フィールドパワーによる能力強化によって、武藤遊戯にも手が出せなくなる最強モンスターへの布石が完成した。

「これは……一瞬も目が離せないな」

「そ、そうだネ……」

 武藤遊戯が劣勢を一気にひっくり返したかと思ったら、すぐにインセクター羽蛾も逆襲に転じ、両者のパワーバランスは中央で大きく揺らいでいる。これからどう転ぶか全く予想できない。

 今はわずかにインセクター羽蛾へと流れが来ている。しかし武藤遊戯もこのままでは終わらないだろう。全く目が離せない。

「でも……あの《進化の繭》の守備力を突破する方法なんてあるの?」

「……どうだろうな。少なくとも俺のデッキじゃ《ピラミッドの反転》が来ない限り無理だ。しかし俺じゃさっきの《昆虫人間》と《レーザー砲機甲鎧》とフィールドパワーの三段コンボだけでも十分ヤバい。それをダメージも無しでひっくり返すようなやつなら……何かがあるかも知れない」

「何かが……」

 ボクは張り詰めた空気に息苦しさを感じてゴクリと息を呑んだ。

 ターンが経過するごとに、武藤遊戯の表情が少しずつこわばっていく。さすがの彼も苦しそうだ。

「あと2ターンで、なんとか究極態が出てくるネ……」

「究極完全態だ」

「名前なんて飾りだヨ。偉い人にはそれが分からないんだよネ」

「わかったから黙ってろ」

「ぶー」

 ボケを殺されたボクは、不満のうなりをひとつ。仕方なくデュエルボックスに目を戻すと、明らかに武藤遊戯の動きが重かった。

 さすがの彼もここまでか。そう思っていると、向こう側でクシャミの彼が何かを武藤遊戯に叫んでいた。そこに打開策を見つけたのか、急に動きが軽くなると親指を立ててクシャミの彼にニヤリと笑う。

「まさか……ここで何かあるのか?」

「いや、さすがにすぐには――」

 と言いかけた口が止まった。

 武藤遊戯が出したのは《カース・オブ・ドラゴン》、そして《燃えさかる大地》のコンボ攻撃だった。

 ボク達を含むギャラリー全員が固まった。攻撃力2300の《暗黒騎士ガイア》でも貫けないものが、攻撃力2000のモンスターに何とかできるわけがない。

 それは単なるヤケクソの暴挙に見えた。

『無駄だって言ってるだろーが! その程度の攻撃力じゃ繭はビクともしない!』

 そう、インセクター羽蛾の言うとおりだ。たぶんここにいる誰もがそう思ったはず。

 しかし――

『フフ……誰が《進化の繭》に攻撃したと言ったよ。オレが攻撃したのは――』

 そう言って武藤遊戯がデュエルテーブルを指差す。

『森そのものさ!』

 指差す先にあったものは、森が焼け消えた《進化の繭》突破への道だった。

 そして《暗黒騎士ガイア》が、森だった場所を駆け抜け、フィールドパワーの恩恵を失った《進化の繭》を切り裂く。

「くあ……まさか森を攻撃とか。それをやった手際もすげえけど、それを思いつく発想がさらにすげえ」

 ワタルが感嘆に頭を抱える。ボクはというと、目の前で起きたことが信じられず、ただ固まっていた。現実の情報が頭へ入ってきているのに、思考の処理速度が全然追いついてこない。

 だけどそんなボクを待つことはなく、展開はさらに変貌していく。打ち破った繭から進化途中とはいえ強力なモンスターが現れたのだ。

 ここに来て、まだデュエルの行く先は見えてこない。彼らはどこまで遥かな高みで闘っているんだ……。

 武藤遊戯は飛行能力を持つ《グレート・モス》に対抗するため、《暗黒騎士ガイア》を《カース・オブ・ドラゴン》と融合させ、《竜騎士ガイア》を召喚する。

 しかし《グレート・モス》の能力によって攻撃力が下がり、ようやくここ終盤に来てデュエルの形勢が見えてきた。

「ねえ、ワタル」

「あん?」

「さすがにインセクター羽蛾の勝ちだよネ? さすがにここからひっくり返すのは無理……だよネ?」

「…………」

 デュエルの様子を食い入るように見ながら、ワタルは下唇を噛んだ。答えはない。

 まさか、ここからまだ何かがあるなんてこと……。

『《竜騎士ガイア》撃破!』

 攻撃力ダウンを《魔霧雨》のカードで止めたまでは良かったが、落ちた攻撃力は戻らず、《グレート・モス》の一撃で《竜騎士ガイア》は消滅。そして武藤遊戯の残りライフは、わずか100となる。

 しかし武藤遊戯は不敵に微笑んでいた。

「まさか……まだ?」

「静かにしてろ。たぶん最後の何かが来るぞ」

 武藤遊戯がカードをつかむ。きっとそれが最後のカードだ。何を出す。

「《デーモンの召喚》!?」

 出てきたカードは《グレート・モス》には及ばない攻撃力2500のカード。

 なぜ? 確かに《デーモンの召喚》の魔降雷なら、空中の《グレート・モス》を攻撃できる……出来るけど、攻撃力がおよばな――

「ああっ! あああああ……!」

「ちょ……どうしたアキラ」

 わかった……わかっちゃった。なんてことを考えるんだ、この人は。

「ワタル、ワタル……魔降雷、魔降雷だヨっ! 魔降雷なの!」

 ボクはワタルの袖をつかんで揺さぶった。

「落ち着け、落ち着けって。それで魔降雷がどうした――って……?」

 暴れるボクをなだめつけようとしたワタルが瞬間、何かに震えた。気付いた。

 見つめる驚きの顔にボクは大きく頷く。ワタルは戦慄に小さく笑いを漏らした。

「ふふふ……そうか、魔降雷か。それはすげえ……ふふふ……」

 ボクたちは未だかつて感じたことのない凄まじいものに心が震えていた。

 デュエルの結果は、ボクたちの予想通り、《魔霧雨》と《デーモンの召喚》とのコンボ攻撃によって武藤遊戯の勝利となる。

 終わってみれば、インセクター羽蛾の戦略、秘策、切り札、その全てを打ち破っての武藤遊戯の完勝だった。

 大会開始から二十分。

 王国最初の脱落者が日本チャンピオンだなんて……。

 

「凄かったネ、武藤遊戯」

 武藤遊戯とインセクター羽蛾のデュエルから一時間ほど。

 まだあのデュエルの興奮冷めやらぬボクたちは、自分達のデュエルフィールドを求めて島を歩いていた。

「だな。噂で聞いていた以上の実力者だってのが十分すぎるくらい分かったよ。引きの強さもさることながら、あの危機打開能力は脅威の一言だ。あれは運とか何とかを超えた才能と言っても過言じゃないだろうな。運でインセクター羽蛾をあそこまで手玉に取るのは絶対無理だ。こりゃあ、《青眼の白竜》三体を目の前にして、それを打ち破ったって噂も、あながち尾ヒレじゃないかもな」

 ワタルの声が珍しく弾んでいる。たぶんあのギャラリー達の中で、武藤遊戯のデュエルに一番感化されたのはワタルだろう。

 闇属性主体のデッキ構成は、ワタルのデッキにも共通する部分が多い。そしてその系統のデッキ使い最強であろう人のデュエルが見られたのダ。きっとワタルの心を大いに揺さぶったに違いない。デュエルを待ちきれず、うずうずしている感じが見てて伝わってくる。

「ところでワタル」

「んあ?」

「ワタルのデッキは、どのフィールドがベストなの?」

「俺のデッキは、悪魔族と魔法使い族と戦士族が混ざってるけど、悪魔族と魔法使い族のフィールドである闇フィールドの場所の見当がつかないから、戦士族に合わせて草原かな。アキラのはどうだ?」

「うーん、ボクのデッキは天使族と魔法使い族がメインだけど、同じく闇フィールドが見当たらないし、闇だと天使族が弱体化するからパスだネ。んで、天使族はフィールドパワーを得られないみたい。その代わり天使族は、相手モンスターが得たフィールドによるパワーアップの影響を受けないんだって。だからボクの場合、どこでやってもあまり変わらないネ」

 さっきのバトルで仕入れたフィールドパワーの情報を元に、自分達に有利な場所を探そうと思ったケド、ボクたちのデッキじゃあまり変わらないことが分かった。

「うーん、ボク達ほとんどフィールドパワー関係ないし、これって不利っぽくない?」

「かもな。でも不利だからって必ず負けるわけじゃないってのは、さっきの武藤遊戯のデュエルで証明済みだ」

「うん、そだね。よーし、ボクも頑張るぞー!」

 ボクは拳を天に突き上げて、草原のフィールドへと丘を駆け降りる。

「ちょ……待てよ!」

 後ろからいつもの声と足音が追ってくる。

 ようやく他の参加者達もデュエルボックスに入り始めた。闘いの場は変わってもデュエルは変わらない。

 ボクたちの闘いはこれから始まるのダ。

 

 ***

 

 初めて見た最強クラスの闘いに胸躍らせる二人。

 しかしそれは足元を見失い、己の力を錯覚させ過信を誘う甘い罠。

 ここは決闘者の王国――

 全国から有名無名選りすぐりの強者が集う無慈悲な戦場だということを、まだ二人は知らない。




●オリジナルカード解説

 「ピラミッドの反転」(通常罠)
 効果:自分のライフを十分の一にすることで、以下の効果のいずれかを選択し発動できる。(小数点以下切り捨て)
    ●1ターンの間、ダメージステップ時に互いのモンスターのぶつかり合う戦闘数値を入れ替える。
    ●このカードを「ピラミッドの反転」にチェーンした時、その効果を無効にし、破壊する。
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