『デュエル!』
俺とナオヤの勝負開始の掛け声が地を走り、互いにデッキから初期手札五枚を引いた。
互いのライフは4000からスタート……デュエルディスクのランプが点滅しているのは、どうやらこっちの方だ。
「俺の先行……ドロー!」
俺はデュエルディスクのデッキホルダーにはめ込んであるデッキの一番上からカードを一枚引き、手札に入れた。
そして手に持っている六枚のカードを改めて確認する。
《暗黒騎士ガイア》、《黒き森のウィッチ》、《死者への選別》、《死者蘇生》、《融合》、《魔狼ルーグ》の六枚か。
ふふふ、これはこれは。いきなり《暗黒騎士ガイア》が召喚できそうだ。
「俺は《黒き森のウィッチ》を召喚!」
次のターンのために攻撃力の低いウィッチを攻撃表示で出し、相手の攻撃を誘ってみる。
ヴゥン。
テレビのモニターに映像が映る時のようなくぐもった音と共に、黒き衣を着た伏眼の女性が目の前に現れた。
「おおおっ……すげっ!」
目の前に現れたのは、間違いなく《黒き森のウィッチ》だ。
これがスクリーンも無く中空に投影した三次元映像ってんだから、親父の会社は凄いとしか言いようがない。
「感動する気持ちは分かるが、早く続きをやってくれ」
「おおっと悪ぃ。そんじゃ、さらにカードを一枚セットして……」
ヴゥン。
デュエルディスクにカードをセットした途端、足下に伏せられた上体のカード映像が具現化する。
すっ……すげぇ。これは本当に子供の為の道具なんか?
何だか良く分からんが、科学の粋を集めた超凄ぇ機械としか思えん。
……いや、実際そうなんだろうけど。
「――って、何してんだワタル!」
「あ……いや、どうなってるのかなぁ……ってさ」
突っ込むナオヤの姿が、地面も含めて横に見える。
なぜなら今、俺は地面に顔をくっつけて、さっきセットしたカードの映像を下から見ているところだ。
セットしたカードが地面から少し浮いているから、もしかしたら下から見るとカードが分かっちゃうんじゃないかなぁ……と思ったわけだ。
結果は――見えなかった。
そりゃそうだ。見えたら伏せている意味が無くなるし、不正行為の原因にもなるからぁ。
「んじゃ、俺はターンエンドね」
「やれやれ、やっとこっちのターンか……ドロー!」
ナオヤはデッキからカードを一枚ドローし、手札に加えて少し考える。
どうせ、いつもの《ソニックバード》とかじゃないのか。ナオヤの魂のカードだし。
まあ、それだけじゃ芸が無いってことで、別の手を考えているのかも知れないけど。
「う~ん、やっぱコイツだな。《ソニックバード》召喚!」
ほらね。やっぱり。
出てきたのは、鳥獣族モンスターの《ソニックバード》。
こいつ儀式カードなんぞ入れてないのに、なぜかこのカード入れてんだよな。
儀式系のカードをデッキに入れて無ければ、《ソニックバード》なんてノーマルモンスターと変わらんのに。
「ウィッチに攻撃!」
ナオヤの攻撃宣言にモンスターが反応し、翼をはためかせて飛び上がる。
そして羽ばたく翼を広げ、滑空してウィッチに突進してきた。
「うおぁわっ!?」
《ソニックバード》は、名前通りの凄まじいスピードで突っ込んできて、ウィッチを貫通し、俺の身体をも突き抜けていく。
本物が迫ってくるような臨場感に俺は尻餅をついて倒れてしまった。
くっ、本当にリアルだな……マジでやられるかと思った。
【ワタル:LP3700】(LP-300)
ダメージは300か。
しかしデュエルディスクによるリアリティのせいか、それ以上のダメージを受けたような気がするぜ。
ま、それはともかくとして、とりあえず……ポチッとな。
「伏せカードオープン。《死者への餞別》」
俺はボタンを押し、足下にあったカードを発動させた。足下の伏せカード映像が翻る。
《死者への餞別》。
このカードの効果は自分の場のモンスターが破壊されると、お互いに手札から1枚のカードを捨てなくてはならない。
俺の捨てるカードは決まっているが、ナオヤはどうするんだろうか。
「なにっ!? く……仕方ない。俺は《ルイーズ》を捨てる」
ナオヤは口惜しそうに、手札から一枚のカードを抜き、デュエルディスクのセメタリースペースへと入れた。
《ルイーズ》を捨てるのが『仕方ない』って事は、もしかしてナオヤの手札には、他のモンスターカードが無いのか?
ま、それはともかくとして俺が捨てるのは、もちろんこれだ。
「俺は《暗黒騎士ガイア》を捨てる」
「なっ……ガイアだって!?」
俺の宣言にナオヤは僅かに仰け反った。
ふっふっふ。どうやらナオヤの手札は、あまり良くないと見た。
それなら、町内大会準チャンプの実力を見せてやるぜ。
『相手の不利を悟って、ようやく見せられる実力って……ナニさ?』
唐突にアキラの突っ込みが聞こえた気がしたが、それはきっと空耳だ。
毎度毎度、良く聞くセリフだから、同じような状況になると、無意識にいつものフレーズが頭の中に浮かんでくる。
わかったわかった。わかったから、無意識の中でまでイチイチ突っ込むな。
「んじゃ、さらに《黒き森のウィッチ》の効果を発動……」
俺は一度デッキをホルダーから外し、ウィッチの効果条件に合う守備力1500以下のカードを探す。
うーん、ナオヤはたぶん手札にモンスターが無いんだろう。しかも手札も悪いと見た。
そうなると、次のターンに一気に攻め込みたいところ……となると、ここはこれだな。
「俺は《神速の剣士》をデッキから手札に加える」
選択したカードをナオヤに見せ、それを手札に入れる。そしてデッキをシャッフルしてホルダーに戻した。
「く……俺は一枚カードを伏せてターン終了だ」
「俺のターン……ドロー」
お……?
俺の引いたカードは《サイクロン》だった。
むふふ、これはナカナカ良い引きだ。
「ナオヤ。悪ぃけど、今日も俺の勝ちっぽいわ」
「えー……」
ナオヤは俺の言葉に露骨に嫌そうな声を出す。それはまるで敗北後の落胆を先取りしているかのようだった。
学校でも、ナオヤとは良くデュエルするが、手札事故でもない限りそれほど負けたことはない。
言い方を変えれば、ナオヤは俺にいつも負けている……と言うことだ。
そして、それは――今回も同じらしい。
俺は手札に入れたサイクロンを改めて取り出し、デュエルディスクにカードを差し込んだ。
「手札から《サイクロン》使用、そっちの伏せカードを破壊する」
カードからデータを読み取ったデュエルディスクは、新たなエフェクトを投影する為に、慌ただしく駆動音を鳴らし始めた。
ウィィィィィン……!
駆動音と同時に、突如ナオヤの伏せカードの上に風が渦巻き始める。
そしてそのカードは、発生した風渦に飲まれ、ガラスの様に砕け散った。
これがサイクロンのエフェクト映像か……さっきから何度も言ってる気がするが、やっぱ凄ぇな。
ちなみにナオヤの破壊された伏せカードは《融合》……つまり伏せカードはハッタリだ。
そして、俺のターンはまだ続いている。
「《神速の剣士》を召喚!」
ヴゥン。
現れ出でしは、抜刀術を得意としていた剣士。以前、アニメに出ていたキャラクターだ。
同作品のキャラクターグッズも海馬コーポレーションが扱っているせいか、時々こういったコラボレーションカードもある。
そう言う『遊び心』が、このデュエルモンスターズと言うカードゲームの人気の秘密のひとつなんだろうな。
「さらに《死者蘇生》発動。墓地の《暗黒騎士ガイア》を復活!」
俺の目の前に《死者蘇生》のカードが映し出され、それが塵となって消えていった。
そして、それが消えたと同時に、今度はその塵が巻き戻されるように集まって、黒き馬を駆る魔槍の暗黒騎士を形成していく。
なるほど。《死者蘇生》のエフェクトは、こんな風になってるのね。芸が細かいなぁ。
俺って、今こうやって何気なく使ってるけど、これを作った親父の会社って実は凄ぇところなんじゃねぇの?
とてもこの間まで、海外の企業から買収されそうになった……なんてニュースで話題になっていた会社とは思えんぞ。
ま、とにかくデュエルを進めよう。
「まず《神速の剣士》で《ソニックバード》に攻撃だ!」
攻撃宣言と同時に、剣士はまるで地を滑る様に移動し、一瞬にして間合いをつめると、鞘から剣を抜き放った。
斬。
《神速の剣士》の抜刀術は、《ソニックバード》を真っ二つに斬り裂き、返す刃でナオヤをも斬りつける。
「うわっ! ぐ……くそっ」
【ナオヤ:LP3500】(LP-500)
《ソニックバード》が消え、これでナオヤを守るカードは無い。
俺は続いて次の攻撃を宣言した。
ガイアが駆ける。騎士の象徴である暗黒の槍を構えて。
ここは見せ場だ。ガイア、カッコイイところを見せてくれっ!
「いけっ、螺旋槍殺!」
ガイアの槍がナオヤに突き刺さり、そこから螺旋状へと斬り裂いていく。これが《暗黒騎士ガイア》の必殺技だ。
ああ、もちろん立体映像だから、本当に刺さってるワケじゃないけどね。
「うああっ……!」
【ナオヤ:LP1200】(LP-2300)
ナオヤは苦悶の表情を見せる。
それはただの遊びとは思えない臨場感の中で、擬似的に体験できる真剣勝負だからこそ見せる事の出来る苦しみ。
しかしだからこそ、このいかにも『闘っている』と言う感覚が、俺たちを、世界中のデュエリスト達を熱くさせる。
これこそが『デュエル』……デュエリストに言葉は要らない。そこにはただ、闘いの場とデュエルがあるだけだ。
……って言ったら、ちょっとカッコつけ過ぎか。
「これで俺はターン終了だ」
「く……ドロー」
圧倒的な劣勢に陥った状態でのナオヤのドローだ。
ナオヤとしては、ここでこの劣勢を打開するカードを引きたいところだろう。
もし、ここで《強奪》とか出された日にゃあ、あんた……俺ぁ泣くぞ。
「ちっ、俺は裏守備モンスターを召喚して、カードを一枚セットしてエンドだ」
ほっ。良かった良かった。
「俺のターン。ドロー……」
ふむ。俺の引いたカードは《和睦の使者》か。今は必要ないなぁ。
まぁ、念の為に伏せとくか。
「俺はカードを1枚伏せて……と」
伏せられたカードの姿が足下に投影される。
さて、どうしたもんかな。
ナオヤの召喚したあの裏守備モンスター……何か怪しい気がするな。
手札を見る。
俺の手札は《魔狼ルーグ》と《融合》だけだ。こんな手札では、作戦を考えるまでも無いか。
ここは単純に行くのが良いかな。
俺はそう決めて、手札を一枚取り出した。
「《魔狼ルーグ》を召喚!」
ガイアの隣に、銀毛の大狼が投影される。
「今だ、伏せカードオープン! 《落とし穴》っ!」
セットしてあったナオヤの伏せカードが翻り、ルーグの足下が光った。
瞬間、《魔狼ルーグ》の姿を見失う。が、ルーグは突然足下に出来た穴に見事に落ちていた。
「くっ……やるな」
《魔狼ルーグ》は《落とし穴》の効果により破壊され、セメタリースペースへと送られた。
さて、これで俺の選択如何によって、このターンで勝てるか、このターンを堪えられるかが決まる事になった。
問題はナオヤの守備モンスターだ。《人喰い虫》とかのモンスター破壊効果を持ったヤツだと嫌だなぁ。
俺が考えるナオヤの裏守備モンスターの可能性は3つだ。
ひとつ。今の状況に対して何の影響力も無いモンスター……要するに、ただのハッタリモンスターだ。
ふたつ。ガイアの攻撃を凌げるカードとは思わないが、守備力2000級の壁モンスターとかもありそうだ。
みっつ。今の状況に対して、なんらかの有効効果を持った効果モンスターっての可能性もある。
俺はふたつめと見ているが、みっつめだった場合、確実に勝ちに行くには……これしかないか。
「《暗黒騎士ガイア》で裏守備モンスターを攻撃だ!」
これなら相手が《人喰い虫》であろうと《異次元の戦士》であろうと守備力2000級の壁モンスターであろうと、ナオヤにとっては厳しいはずだ。
《カオスポット》とかだったりして。
あれこれと考えている内に、ガイアの『螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)』はナオヤの裏守備モンスターに突き刺り……
「く……ダメだったか」
ナオヤはガックリを肩を落とした。
ガイアが切り裂いた裏守備モンスターは……典型的壁モンスター《プリヴェント・ラット》だった。
もしガイアでのトドメにこだわって、先に《神速の剣士》で攻撃してたら、ナオヤに一ターンの猶予を与える所だったぜ。
あぶないあぶない……いや、やっぱそんなにあぶなくないか。
「ほんじゃ、とどめに《神速の剣士》で攻撃!」
最後の攻撃宣言と同時に、剣士は再び地を滑る様に移動し、一瞬にしてナオヤとの間合いを詰め――
斬。
得意の抜刀術が、ナオヤの胴を薙いで両断した。
何度も言うけど立体映像だから本当に斬ってるワケじゃないよ。
「く……また俺の負けかぁ」
【ナオヤ:LP 0】(LP-1900)
「よっしゃあ! 俺の勝ちだっ」
ヴゥン。
ナオヤのライフが0になり勝負がつくと同時に、立体映像は風に溶けていくように消えていった。
そしてデュエルディスクのセンサーが、何やらピコピコと光っている……何だ?
あ……確か説明書に書いてあったな。コレは勝負のデータを記録してるんだったな、確か。
ま、何はともあれ……俺はデュエルディスクでの初勝利をものにした。
●オリジナルカード解説
「死者への餞別(せんべつ)」(通常罠)
効果:自分の場のモンスターが破壊されたフェイズ終了時に発動できる。破壊されたモンスター1体につきお互いに1枚づつ手札を捨てる。ただし、捨てるカードはお互いに自分が選ぶ。
「神足の剣士」(効果モンスター)
ATK1900 DEF1200 4ツ星 風属性 戦士族
効果:フィールド上に風属性モンスターしか存在しない場合、このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が守備表示モンスターの守備力を超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
「魔狼ルーグ」(効果モンスター)
ATK1700 DEF1300 4ツ星 地属性 獣族
効果:「深き森の狩人」がフィールド上に存在している時、攻撃力・守備力が500ポイントアップする。