決闘者の遺産R   作:びく太

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外伝-決闘者の王国編Episode-Final:『王の左手の栄光』

 王の左手の栄光。

 それは全き虚ろ。

 空白のイラストは何を表すのか。

 希望なき暗闇のロードか、栄光に彩られし輝きのロードか。

 しかし描かれる事のない空白のカードは、潰えた未来そのものを予見していたようにすら思える。

 全てを背負い、最終勝利を得し王の左手が掴んだものは何か。

 それは未来を掴めなかった敗者には分からない。

 

 ***

 

 よお、昨日ぶり。ん、間抜けな挨拶だって? いいじゃないかそんなこと。

 そうそう、急に来たのは電話で言った通り相談したいことがあるんだ。

 俺が解決できないことを自分が出来るわけがないって?

 逆だよ、逆。俺は門外漢だから、その道の専門家に話を聞かないとな。どうにも対処の仕方が分からない。

 ああ、そうだよ。この間のカードゲームのやつ。

 結果はとりあえず聞けたが、二人共これ以上ない悲惨な負け方をしたらしいんだ。片や調子に乗せられてからの仕組まれた逆転劇、片や手も足も出ずにパーフェクトゲーム食らったんだと。

 感心するなよ。それが今の全国の厳しさであっても、あいつらにとっては、あのカードゲームを続けるか辞めるかの瀬戸際に追い込んでしまう程の大事件なんだ。

 お前、あいつらの師匠みたいなもんだろ。なんか助言とか無いのか。なんつーか、もう痛々しくて見てられないんだよ。

 あの糞やかましかった妹が、一日中ふさぎ込んで部屋にこもってやがるんだ。普段が普段だけに急に静かになると不気味で仕方ねー。

 今朝、父さんとこっそり部屋の中を見たんだが、ベッドの上で膝抱えて座ったまま床をじっと見つめて動かないんだ。あの永久機関を内蔵しているようなエターナルアクティブヒューマンシスターが、だ。英語の使い方がおかしいとか突っ込むなよ。分かってて言ってんだ。

 まあ、それで……だ。動くのは飯と便所と風呂と寝る時だけなんだが……。半ば自動的で、飯食ってても味なんか分かってないね、あれは。それに便所から、スリッパ履いたままどこに行くかと思ったらそのままベッドまで入りやがるし、風呂に入ったと思ったらそのまま朝まで入ってて風邪引いたりするし、ようやく寝たと思ったら今度は何か中からすすり泣く声が聞こえるし。播州皿屋敷か、まったく。

 ああ、よっぽど悲惨な負け方だったんだろうな。あいつ負けず嫌いで馬鹿だから普通に負けたくらいじゃ強がったりするのにな。なのに今回のはだいぶ違う。なんつーか、心が折れちまってる。

 はあ!? 妹を心配して優しい兄貴だあ? 冗談言うな。俺はただあいつのせいで家の中の空気がピリピリしてるのが嫌なんだよ。とにかく気まず過ぎてどうにもならんから何とかしてくれ。

 ん、そうか。お前も考えてくれるか。助かるよ。あの気まずさったらないね、ほんと。

 由希にも協力してもらったけど、彼女でさえ取り付く島も無かったんだ。俺には無理だと悟ったね。

 そこで思い出したのがお前だ。良く考えたらお前が教えたカードゲームが原因でこうなったんだから、まずはお前に相談しなきゃいけなかったんだ。俺はカードゲームなんて知らないから、その事に気付くまで時間がかかっちまった。どういうゲームか良く知らねーが、それで世界を制したお前なら、たぶんあいつらの相談に乗れるんじゃないかと思ってな。こうしてやってきたわけだ。

 それで、解決できそうか? 本人達に話を聞いてみない事には分からないって? ああ……良く考えたらそりゃそうだ。

 頭抱えてどうしたって? お前……話聞いてたのか? 本人に話を聞くってことは、つまり俺もまたあの痛々しい馬鹿妹の姿を見なきゃいけないってことだ。こんな憂鬱なことはない。

 いや、だから笑うなって。これでも切実な悩みなんだ。父さんや母さんには俺が事情を話しておいたけど、とりあえず立ち直るまで下手に触れられない。あの二人じゃ、俺以上にやりにくいだろうしな。片や溢れる才能ゆえに料亭を追われた天才料理人、片や料亭の箱入り娘のくせに家を飛び出して父さんとかけおちして会社作って成功させやがった業界の新星だ。二人とも挫折なんかしてる暇もなかっただろうから、こういう事にはとんとダメみたいだ。

 は? お前も同じ? おいおい本当かよ……じゃあ一体いつまであの拷問みたいな引きこもりが続くんだ。気が滅入るぜ、ほんと。

 ……て、お前服着替えて何してんだ? 外出? どこへ? 俺んち?

 ちょっと待った。話が見えないんだが、どういうことだ? 俺が言ったからって? いや、そりゃまあ確かに言ったけど、結局解決できないんじゃ。

 は? そんなことは言ってない? おまっ……! 文脈的にあそこは出来ないと考えるだろ、普通。トラップカード、時間差攻撃だ? 知るか。

 つまんねえこと言ってないで、行くならサッサとしろ。

 さあ、着替えろ、今着替えろ、すぐ着替えろ、四十秒で支度しろ。出来なかったら着替え中でも家まで引っ張って行ってやる。

 だから笑うなって。

 

 ボクがいけなかったんだ。自分の力も省みず不用意に挑んだりしたから。

 思えば今回のことの全てはそこにあったんだ。ボクがあそこであんな負け方してなかったら挑発もされなかった。ワタルも挑発に乗らなかった。

 え、違う? ううん、いいの。やっぱりボクが悪いんだ。

 あいたっ。

 なに? ひどいよ、頭にチョップなんて。え、兄貴が心配してたって?

 あー。そういえばこの前に由希さんが来たけど、あれは兄貴の差し金だったのか。自分の彼女に頼むとは、頭良くてもやっぱり兄貴は朴念仁だね。

 えー、酷くないよ。いつもボクをからかって面白がってるんだ。その内、由希さん仕込の合気道でヤキ入れてやらないとね。あはははは……。

 え? あ、うん、そうなんだ。別にボクが負けたことで悩んでるわけじゃないんだ。ボクのせいであんな辛い目に遭わされたワタルを想うとね。

 ボクたちは今回の王国大会をすごく楽しみにしてたんだ。初めて挑む全国大会だし、負けても悔いはないとは思ってたけど、どうしても勝ちたくなっちゃってね。しかも強敵に。

 え、何故かって? ほら、今回の大会であの創始者ペガサス・J・クロフォードをも破って優勝した武藤遊戯のデュエルを見ちゃったからね。彼のデュエルは凄かったんだ。実績で言えば比較にならないほど上にいたインセクター羽蛾を、その戦術、秘策、切り札全てを捌き切って鮮やかに勝ったんだ。あれにはボクたちも心が震えたんだ。ワタルなんかデッキの傾向が似ていることもあって、ボクの三倍くらいは感動してたと思うよ。

 あの時は全国に来て良かったと心底思ったよ。うん、すごく気分が乗ってた。絶好調の時に似た高揚感……て言うのかな。とにかくそれがあったんだ。だからその時は、ボクでも勝てるかも知れないって思ったんだよ。

 え? あ、そうか。そう言えばボクが誰に負けたのか言ってなかったっけ。そう、ダイナソー竜崎。うん、関西弁の。え、あの人と対戦した事あるの? 結果はどうだった?

 ……うそ。マッチ戦で、しかも二戦ともパーフェクトでストレート勝ち!?

 へえ、その時はあの人も全国は初めてだったんだ。その時に闘ったんだね。え、状況が誰かに似てないかって?

 あー。

 そう言えば、その時負けた竜崎はどうだった? え、悔しがって大泣き? しかもデュエルテーブルを叩いて壊すくらい悔しがってたんだ? 気持ちは分かるなあ。

 でも、ダイナソー竜崎はその時の屈辱に負けなかったんだね。この間の王国大会では決勝大会まで行けなかったみたいだけど、それでもその前の全国大会で準チャンピオンまでなったんだから凄い。

 え? ワタルは竜崎みたいに立ち直れるかって?

 ……そんなの分かんないよ。立ち直って欲しいけど、ボクのせいであんなことになっちゃって会わせる顔がない。

 ぴえっ!?

 いったーい。またチョップ!

 ……て。え? ちょっと。え? どこいくの? ワタルの家? え、待って。手、離して。引っ張らないでよー。

 

 あ、どうもっす。

 え? 元気が無い? あー、そうかも知れないっすね。ここ最近、何するにも気力が全然出ないんすよ。

 なんていうか、何か大事なものをあっちで失くしちまった気がします。なんか心にぽっかりと穴が空いたような感じですね。何をしても手につかないです。

 王国大会での俺の……ああ、もう聞いてるんすね。そうなんです。パーフェクトでアッサリ負けちゃいました。

 今まで頑張ってきた俺の時間と、あの時に湧き上がった怒りの全てが、結果によって敗者という烙印に捺し潰されちまったみたいでやりきれなかったです。

 俺は今まで何してたんだと自問自答……いや、答えてないから自問の日々ですかね。それはもしかして全て無駄だったんじゃないかと思うことが増えてきました。

 え、相手ですか? 孔雀舞って名前みたいですね。決勝大会まで勝ち残って、あの王国大会優勝者になった武藤遊戯と準決勝で死闘を演じたって増刊号に書いてありました。元ディーラーだって話です。どうやらカードのプロだったみたいですね。やっぱあれですかね。ただデュエルだけやってても結局は、ああいう特殊な技能と才能を持った人たちだけが上へ行けるんですかね?

 ああ、俺ですか? あれからカードには触ってすらいませんね。さっきも言ったように、もうあれから何もする気が起きないんですよ。宿題だってあるのにやる気無いからやってませんし。明日はたぶん先生に東京タワーを食らう事になるでしょうね。

 東京タワーですか? 両方のモミアゲをつまんで上に引っ張るんですよ。あれ見た目よりめちゃめちゃ痛いんですよ。名前の由来は……そうですね。たぶん東京タワーくらいの高さまで引っ張り上げてやるって意味じゃないですかね? 分からないですけど。

 え? アキラが心配してた?

 あー。

 でもたぶん、あいつの方が傷ついてるんじゃないですかね。どうせ自分のせいだとか思ってそうだし。

 あ、やっぱりそうすか。あいつ頭いいけど根が単純だから、そういうの分かりやすいですよね。

 え? 俺は単純そうに見えて根が複雑ですか? うーん……俺って複雑なのかなあ?

 ああ、そうなんですよね。こんな心境だけど、俺は何故かどこかが冷静ですね。心の方は深く沈んでる感じがするんですが、頭の方は冷たい視線で常に自分を他人のように見ている気がします。

 だからアキラみたいに落ち込むなら落ち込むで、ちゃんと落ち込みたいんですけど、なんだか変なところ冷静になってるせいでそれも出来ない。正直自分でも困ってます。

 ええ、そうですね。アキラみたいにしっかり落ち込んだ方が、立ち直りが早くなるって話ですよね。前にアキラが言ってました。

 デュエルですか? そうですね……今は何もやる気が起きないです。正直、このままデュエルをやめても良いんじゃないかな、と思ってたりもします。

 この間の大会で、俺はトップデュエリスト達とは、才能という大きな隔たりがあったのを痛感しました。そしてそれは埋められるレベルじゃないということも。

 例えば、孔雀舞との隔たりを二年かけてを埋めたとします。でも俺が追いつくのは、二年前の孔雀舞です。そして彼女は俺より二年先に進んでいます。俺とは違って、きっと武藤遊戯ら世界のトップ達と戦い続けるだろうから、俺が追いついた二年後には、彼女は俺の二年半か三年先を歩んでいるはずです。もし俺が彼女に追いつけるとしたら、きっとそれは孔雀舞のデュエリストの炎が消えてしまった後でしょうね。でも、それじゃ追いついたことにはならないわけです。

 結局、俺の目指す先にはもう天井が見えてきているんです。永遠に届くことの無いゴールを目指すか、朽ち果てたゴールにたどり着くかしかないのなら、俺の目指すものは結局なんなんだ……そう考えてしまいます。そうなると俺のやっていること自体が急に無意味なものに思えてきて、何もやる気が出なくなってしまうんですよ。

 え? ブラック・プリースト……ですか? 

 あの…………これは記念としてってのは駄目ですか?

 確かに……そうですね。デュエリストとしての炎を消した人間の慰みにされてしまうのなら、次のデュエリストに『最高位大神官』という可能性を与えてあげるべきですね。

 返したくないのかって?

 …………。

 え、デュエルで決めるんですか? その結果いかんではカードを返してもらう……って。無理ですよ。絶対に勝てないです。今までだってハンデもらっても勝てたことが無いんですから。

 く……選択権なしですか。良いですよ、闘いますよ。どうせ結果は分かってるんだ。つまり俺は、そういう儀式みたいなものを経て未練を断つしかないってことですね。

 デュエル。俺のターン、ドロー!

 くっ……俺の《暗黒騎士ガイア》が。でもまだまだ……俺のターン!

 融合ですか……そして《竜騎士ガイア》って、あれ?

 罠カード発動、《ピラミッドの反転》だ。これで《竜騎士ガイア》を撃破! え……《ブラック・マジシャン》?

 まさかそのデッキ……あ、そうだ。罠カード《和睦の使者》です。

 いよし、来たっ! 《闇のペンタグラム》を発動、そして《ブラック・プリースト》守備表示で召喚! これでまだまだいけますよ。

 そうですね。そう簡単に渡すわけにはいかないですからね。

 え? でも次で終わり? あ……そ、そ、そのカードは……いや、そのデッキはやっぱり!

《カオス-黒魔術の儀式-》、そして《マジシャン・オブ・ブラックカオス》……それは武藤遊戯と同じデッキ!

 あああ……ああ……ああああああ……!

 負け……負けました。俺の負けです。そのまま持っていって下さい。俺の……魂のカード《ブラック・プリースト》を失った以上、今日限りでデュエルをやめます。

 今まで色々お世話になりました。すみません、最後になんか後味の悪いことにしてしまって。教えてもらったことも結局は無駄になってしまいました。

 ついでに俺のデッキも全部持って行って下さい。カードが目の前にあると未練が断ち切れないでしょうから。

 ああ、そうやってデッキを切ることは、もうないんですね、俺は。

 ……え?

 なんでまたデッキを俺の手に? 負けたらカードを返すって……そんなことは言っていない? 結果ではなく経過を見て決める?

 いや、でも……え?

 まだ《ブラック・プリースト》は、俺のデュエリストとしての炎が消えたことを認めていないって?

 彼女が、この程度の事でデュエリストの炎を消すなど許さんと言っている……ですか。は……ははは。そうですか。

 あはははははははは……。

 そうですね、俺は厳しいカードを選んじまったみたいです。そうか、この程度では許せないのか。あはははははは。

 ええ、分かってます。俺は続けますよ。やってやるよコノヤロウって感じですね。ははは、そうですね。半ばヤケクソです。

 それに俺が目指すゴールは、武藤遊戯や孔雀舞とは違うかも知れないと、ちょっと思いました。俺には俺の可能性があるような気がします。

 そうですね。もう少し地に足をつけて考えます。

 え? あー。なんだお前も居たのか。なるほどね。言われて隠れていたのか。

 ちっくしょう。なんか全部上手いこと乗せられた感じがするぜ、このやろう。

 おいアキラ、ウサ晴らしにデュエルするから付き合え。拒否は許さん。これから全勝して気分をスッキリさせてやる。主に俺の。

 なにぃ? 逆に全勝してボクがスッキリしてやるだぁ?

 おお、上等だ。やってやるよ。きやがれヘッポコ光デッキ。なに、ヘタレ闇デッキだと!?

 ふふふ……その言葉後悔するなよ。ほう、同じ言葉を返すってか?

 よく言った、だったらいくぜ!

 

 ――デュエル!

 

 ***

 

 本当に空白の未来は虚ろのままなのか。

 否。それは否であると信じたい。

 敗者に与えられし空白は、まだ描く余地を残しているということ。

 それはまだ描くには早すぎた、まだ形にできない決闘者たちの未来である。

 空白のカードは、いつか魂の筆と情熱のインクによって未来が描かれるのを待っているのだ。

 

 

 

 

決闘者の遺産・R

外伝-決闘者の王国編

 




●オリジナルカード解説

  「ブラック・プリースト」(効果モンスター)
   攻2100 守2500 7ツ星 闇属性 魔法使い族
   効果:このカードが表向きで自分の場に存在する限り、場にセットされた通常魔法は速攻魔法とおなじタイミングで発動できる。

  「ピラミッドの反転」(通常罠)
   効果:自分のライフを十分の一にすることで、以下の効果のいずれかを選択し発動できる。(小数点以下切り捨て)
    ●1ターンの間、ダメージステップ時に互いのモンスターのぶつかり合う戦闘数値を入れ替える。
    ●このカードを「ピラミッドの反転」にチェーンした時、その効果を無効にし、破壊する。

  「闇のペンタグラム」(フィールド魔法) 
   効果:このカードが場に出ている時、魔法使い族の生贄召喚の為の生贄は、通常より1体分少なくてもよい。
   ただしこのカードの効果で召喚されたカードは裏向き表示で召喚させる事は出来ない。
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