決闘者の遺産R   作:びく太

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第三話:アキラ初陣

「はい、アキラちゃん。お待ちどうさん」

「おじさん、ありがとう」

 ワタルのおじさんからデュエルディスクを手渡された。ボクが今居るのは、海馬コーポレーション一階のホールだ。

 元々、数年前までは軍需産業の会社だっただけに、社内は一部殺風景だったけど、どうやら会社の事業転換に際してイメージを一新しようと言う試みがそこここで見られた。

 軍需産業を連想させる分厚い扉や鉄機質な壁は隠され、傍目からはそれが分からないようリフォームされつつあった。

 

 昨日のワタルのデュエルを見て思ったけど、このデュエルディスクは凄い。海馬コーポレーションの科学技術の高さをうかがえる。

 CMで海馬コーポレーションが『世界最高峰の科学技術を集約した』と言っていたのも、うなづけるほどのリアリティだった。

 今回、ワタルも含めてボクがもらったデュエルディスクは、先行試作品……つまりベータ版だ。

 しかもテストプレイヤーとしての役目をボランティアで受けている事になるので、実は無料で手に入れている。

 正式販売が確定されれば、このベータ版デュエルディスクは回収され、それらの試験運用データを踏まえて微調整された正規版が貰える事になっている。

 うーん、これは役得と言うものだ。

 

 確か、会社の社長が変わってから、色々方向転換したんだっけ。

 しかも今の社長は、現在の「デュエルキング」最有力の一人と言われる海馬瀬人(かいば せと)だ。

 そんな人が社長になったんだから、会社が方向性を変えても確かにおかしくは無い。実際にそれで成功してるし。

 そもそもあの世界に三枚しかない《青眼の白竜》を、三枚とも持っているような人だしネ……ほとんど反則だヨ。

 実力もさることながら《青眼の白竜》を三枚も持っているんじゃ、誰も勝てないオニのような強さだったって話だし。

 

 でも、確か以前に開かれた大会で、海馬瀬人はデュエルモンスターズの創始者ペガサス・J・クロフォードに敗れた。

 青眼が三体あっても無敵ではないと言う事が証明された。

 だが、そのペガサスに勝った人がいる……その名は武藤 遊戯(むとう ゆうぎ)。彗星の如く現れた無敵のデュエリストだ。

武藤遊戯と海馬瀬人……現在「デュエルキング」の称号は、この二人が取り合っていると言っても過言ではない。

 実はボクも武藤遊戯がペガサスを倒して優勝した『決闘者の王国』大会に出たんだけどね。

 緒戦でいきなりダイナソー竜崎に負けて、ワタルの馬鹿もボクのスグ後に女の人に負けちゃって同じ船で帰ったし。

 全国の壁は厚いネ。今度こそ決勝大会まで勝ち進むぞ……と、ボクは気合を入れているワケだ。

 

 今日は日曜日。

 海馬コーポレーションは、近い内に何か大きなイベントを開く計画があるみたいで、ワタルのおじさんも休日返上で働いている。

 そんな時に、わざわざボクの玩具の為に時間を割いていて良いのかナ。

 ボクはそんな事をふと思い、おじさんの邪魔にならないよう話を切り上げて海馬コーポレーションを後にした。

《青眼の白竜》像が三つ並ぶ玄関前広場を通り過ぎ、空を見ながら 短い階段をのんびりと降りる。

 ここでサッサと家に戻ってワタルとデュエルをしたいところだけど、残念ながらワタルはお出かけ中だ。

 ワタルはデュエルディスク持って朝から有馬んところに行っちゃった。デュエルディスク使ってデュエル三昧だとサ。

 おにょれワタル。こんな可愛い幼馴染を待ってあげようとか、そんな事を考えないのか。

 

『知るか。つーか……誰が、何だって?』

 

 この場に居なくてもワタルの返す言葉は簡単に分かる。ダテに十年近く幼馴染をやっていない。

「むぅぅ……」

 なんとなく腹が立ってきた。

 ここでワタルが居れば、一発ポカリと行きたいところだけど、今は無理だ。うーん残念。

 

 どんっ!

 

「ぁいたっ……」

 急に視界が揺らぎ、バランスを崩してボクは尻餅をついた。

 見上げれば、体格の良い男の人のシルエットが太陽に重なって見えた。

 どうやら倒れたのはボクだけで、ぶつかった人は面倒くさそうにこちらを見下ろしていた。

 

「ああん? なにぶつかってんだよっ」

 あ……デュエルディスクだ。

 ボクは男の人が何か言っているのも気にせず、その左腕に装着されているデュエルディスクに目が行っていた。

「お……その手に持ってるのはデュエルディスクか」

 男の人も、ボクが脇に抱えて持っていたデュエルディスクのケースに目が留まった。

 どうやらこの男の人も、何らかの関係でベータ版のデュエルディスクを手に入れた人のようだった。

 

「おい、お前。俺と、そのデュエルディスクで闘って勝てば許してやる」

「はああ?」

 ナニを言っているんだ、この人わ。

「なんだ、何か文句でもあんのか」

「…………ありまくりデス」

「んだと! 人が甘い顔してればつけ上がりやがって!」

 ボク、頭痛くなってきたヨ。

「甘い顔? そんな外国産赤身肉みたいな、ただ硬いだけで何の旨味もヘッタクレも無いような顔してる人が、一体何のジョーダン言われますか。あっはっは」

 はい、棒読みー。

 とりあえず『甘い顔』とか言う前に、ちゃんと鏡を見てチョーダイ。間違ってもそんな顔には見えないから、わはははー。

 

「このアマ。調子乗るのもたいがいにしとけよ……」

「ぷっ……今どき"アマ"ってアンタ。二十年前の青春ドラマの不良じゃないんだから。いやはや、こんな化石みたいな人が居たんだネー。天然記念物並だねー。うんうん、貴重な存在だー」

 ボクは引き下がらない。こういう人は大っ嫌いだ。

 挑発しすることはあっても、抑えることなんか考えないネ。ダテに合気道やってないし。

 もし取っ組み合いになっても、相手を倒してそのまま勝ち逃げするだけの力は持っているつもりだ。

 

「野郎……勝負だっ!」

 男の人は、どうやら完全にキレたようだった。

 しかしそこで殴りかかってこない事だけは誉めるべきかナ。そもそもぶつかったのは双方の不注意によるもの。

 ここでボクが悪いと言うのなら、この人も悪い。それがナニを偉そうに『許してやる』とか何とかホザきますか、アンタわ。

 それとね……『野郎』とか言われても、ボクは女の子だゾ……まあ、いいケド。

 

 

 

『デュエル!』

 そんなこんなで色々(?)あって、デュエルは開始された。

 最初のライフは双方4000から……初期手札の五枚は双方先に引く。

 

「俺の先行だ!」

 マッチョな男の人……まあ、略してマッチョと命名しよう。

 そのマッチョは、デッキからカードをドローし、無駄に気合を入れまくる。

 そんなこと言わなくても分かるからサ……もっとスマートに進めて欲しいんだケド。

 

「へっへっへ……良い手札だ。すぐにぶっ殺してやるから待ってな」

 ごめん、先に謝っとく。明らかに年上であろう人に、こう言うのは何だけど……アンタ馬鹿でしょ。

 どっかの漫画かアニメで出てくる三流悪役みたいな立ち振る舞いを、そのまま地で行く人って初めて見たヨ。

 

「コイツで行くぜ! 俺は《ランプの魔精ラ・ジーン》を攻撃表示で召喚。ターンエンドだ」

 

 ヴゥン。

 

 マッチョの前にラ・ジーンが投影された……マッチョの前にラ・ジーン……うわ、暑苦しっ。

「ボクのターン、ドロー」

 ボクは熱くなるマッチョとは対称的に、ほぼ平常心でカードを引いた。

 これで手札は六枚だ。

《運勢の宝札》、《運命的な引き》、《心変わり》、《天使の施し》、《和睦の使者》、《いばらの拘束》。

 

 うあっ、手札にモンスター無いヨ。でも、施しと運勢があるから大丈夫か。

「ボクは、魔法カード《運勢の宝札》を使うヨ」

 カードをデュエルディスクに差し込み、魔法効果を発動させた。

 何も無い中空に姿を現したサイコロは、地面に落ちてコロコロと転がる。

 六が出れば三枚、五か四なら二枚、三か二なら一枚ドローできる。ちなみに一の場合は0枚、つまり不発だ。

 サイコロは転がり……そして止まった。

 

「五か。それじゃ二枚のドローだネ」

 ボクは出た目に従って、デッキからさらに二枚のカードを引いた。

 来たカードは、《強奪》と《串刺しの封札剣》……まだ事故ってるヨ。今日のボクって運悪いカモ。仕方ない。

「ボクはさらに《天使の施し》を発動、デッキから三枚ドローして……」

 ボクは、またカードをデュエルディスクに差し込んで、カードの効果を発動する。

 次に来たカードは、《銀髪のユニコーン》、《光のヘキサグラム》、《森深くに住むエルフの少女》の三枚だ。

「……《串刺しの封札剣》と《銀髪のユニコーン》を捨てるヨ。そして裏側守備表示モンスターを召喚、最後に一枚伏せてターンエンド」

 ボクは二枚のカードをセメタリースペースへと送り、デュエルディスクにモンスターとリバースカードをそれぞれ一枚セットした。

 

 ヴゥン。

 

 くぐもった音と共に、僕の前に二枚の裏向きカードが投影される。

 召喚したモンスターは《森深くに住むエルフの少女》で、伏せカードは《いばらの拘束》だ。

 マッチョは単純馬鹿そうだし、きっと何も考えないで攻撃してくるハズ。

《森深くに住むエルフの少女》は、フィールドから墓地に行った場合、デッキから光属性モンスターを一枚だけ持ってくることが出来る。

 これでボクの最強カードを手札に持ってくる予定だ。

 

「へっへっへ……俺のターン。ドロー」

 マッチョの勝ち誇った嫌らしい笑みに、ボクは顔をしかめた……気色悪っ。

「俺は《ミノタウルス》を召喚。さらにカードを二枚セットして《ミノタウルス》で攻撃」

 うあっ、また暑苦しそうなマッチョモンスターを出してきた。

 

 ヴゥン。

 

 フィールドに投影された《ミノタウルス》は両手で斧を握って振り上げ、ボクの裏守備カードに思いっきり振り下ろす。

 おかげでボクの《森深くに住むエルフの少女》は無残にも真っ二つ……ヒドイ人だ。

「ここで《森深くに住むエルフの少女》の効果を発動、デッキから光属性のカード《天使王カタストロフ》を手札に入れるヨ」

「何ぃ、《天使王カタストロフ》だとぉ。ふん、まあ良い。続いて《ランプの魔精ラ・ジーン》の攻撃だっ」

 マッチョの攻撃宣言と同時に、ラ・ジーンはボクの前まで移動し、息を吸って身体を大きく仰け反らせた。

 

「オラァ、魔精火炎葬だっ!」

 ラ・ジーンは吸い込んだ空気を炎と変えて、ボクに向かって放出した。

「うあああ……!」

 立体映像だと分かっていても、どうしても反射的に防御してしまう。やっぱり、炎が迫ってくると思うとちょっと怖い。

「きゃん……」

 ビックリしてバランスを崩し、ボクはまた尻餅をついてしまった。本日二回目だ。

 今日はスカートはいてこなくて良かったヨ。

 

【アキラ:LP2200】(LP-1800)

 

 しかし、暑苦しいマッチョモンスターに、暑苦しい炎攻撃……そうか、分かったゾ。

 この人のデッキテーマは『暑苦しいデッキ』だ。間違いない。

 

「これで俺はターンエンドだ」

 マッチョは自身の優勢を悟ったのか、その外国産赤身肉みたいな顔に自信を見せていた。

「ボクのターン。ドロー」

 およ、これは……。ふふん、これは勝ったネ。

 引いたカードは《死者蘇生》、グッドタイミングとはこの事だ。

 

「ボクは魔法カード《強奪》発動、《ミノタウルス》をもらうヨ!」

「甘ぇよ、伏せカードオープン、《マジック・ジャマー》だ。これで、お前の魔法カードは無効だぜ」

 マッチョは勝ち誇ったように伏せカードを翻す。

 

 ……でも。

 

「甘いのはそっちダヨ。チェーンしてこっちもオープン。カウンター罠カード《いばらの拘束》」

「なにぃ!?」

《いばらの拘束》は、相手の罠カードの発動を発動前の伏せた状態に戻してしまう。

 しかも戻されたカードは、そのターンにプレイすることが出来なってしまうと言うオマケ付きの効果を持つカウンター罠カードだ。

 これでマッチョの《マジック・ジャマー》は、このターン使う事は出来ない。

 つまり……

「ボクはさらに《心変わり》を発動。《ランプの魔精ラ・ジーン》もいただきダヨっ」

 と言うことになる。

 

 これで、ボクのデッキにそぐわない暑苦しいマッチョカード二枚が、こちらのフィールドに移動した。

 本当なら、ここでもう一体のモンスターを召喚して終わりなんだけど、相手のもう一枚の伏せカードを警戒しておく必要がある。

 ボクは、マッチョみたいに馬鹿じゃないからネ。

 

「ボクは、《ランプの魔精ラ・ジーン》と《ミノタウルス》を生け贄に捧げ……」

 マッチョからコントロールを奪った二体の暑苦しいモンスターは電子の塵となって消えていき、場に新たなモンスターを投影させていく。

「……《天使王カタストロフ》を召喚!」

 

 ヴゥン。

 

 ボクの場に新たに出でしは、右手に聖なる剣、左手に聖なる盾……そしてその背に輝くのは三対六枚の翼を持った天使。

 天軍を統括する偉大なる高位天使が、今ここに降臨した。




●オリジナルカード解説
 「運勢の宝札」(通常魔法)
 効果:サイコロを振り、出た目に応じて以下の枚数カードをドローできる。
 6の場合は三枚、5・4の場合は二枚、3・2の場合は一枚。1の場合は0枚。
 「森深くに住むエルフの少女」(効果モンスター)
 ATK1000 DEF1000 4ツ星 光属性 魔法使い族
 効果:このカードがフィールドから墓地に行った時、デッキから光属性のカードを1枚手札に入れる。その後デッキをシャッフルする。
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