決闘者の遺産R   作:びく太

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第四話:最強との遭遇

《天使王カタストロフ》……それは終末を司る黄昏の天使。七つ星の上級カードだ。

 うーん、カッコイイ。

 なかなかの美形カードだとは思っていたけど、やっぱ立体映像は違うネ。

 鋭い眼光を放つ切れ長の目、風になびくように揺らぐ金色の髪、細く引き締まったしなやかな肉体……。

 それは実に天使と言うイメージを崩さない威厳と、高貴な雰囲気を作り出していた。

 外国産赤身肉みたいなマッチョとは、およそ比べ物にならない。

 まあ黒毛和牛サーロインステーキと外国産赤身肉を比べるだけ無駄だけどネ。

 

「ケッ、そんなの出すだけ無駄だぜ。罠カード発動《落とし穴》だ」

 マッチョは、デュエルディスクの伏せカード発動ボタンを押し、足下に投影されていたカードを翻す。

 同時に、カタストロフの足下に円状に光が走り、穴が開く――と思われたが、《落とし穴》は、そのエフェクトの途中で光が弾けて消えてしまった。

《天使王カタストロフ》には、何の影響も無い。

 

「な……なんでだ」

 マッチョの発動した《落とし穴》は、効果不発によりセメタリースペースへ送られた。

 正確には効果は発動した。だけどカタストロフには通用しなかったと言うだけ。

 いや、効果不発と言うよりは、効果素通りと言った方がイメージは近いかもしれない。

 

「残念でした。《天使王カタストロフ》には、対象を指定する魔法・罠・モンスター効果は通用しないヨ」

「なにぃ!?」

 やってから驚くくらいなら、最初からカード効果くらい確認すれば良いのに。

 確かデュエルディスクにはその機能があったハズだ。昨日、ワタルの説明書見たら、そんな事が書いてあったし。

 たまに居るよネ。自分のデッキには細心の注意を払うのに、他人のデッキは眼中に無い人とか。

 どんなカードが出てきても良いように、最低でも主要カードくらいのデータは調べておくものだ。

「さらに魔法カード《死者蘇生》を使って――」

 昨日、ワタルが見せたように、ボクの前に死者蘇生のカードが大きく投影され、それが電子の塵となって消えていく。

「墓地の《銀髪のユニコーン》を特殊召喚」

 そして今度は、その電子の塵が集まって、《銀髪のユニコーン》を新たに投影させた。

 

 これでボクの場にはモンスターが二体になったが、このまま攻撃してもマッチョを倒すには攻撃力が200足りない。

 しかし、ここで役立つのが《銀髪のユニコーン》の特殊効果だ。

 このカードはバフィールドに光属性モンスターしか存在しない場合、一度のバトルフェイズで二度の攻撃を行う事が出来る。

 今、フィールドに居るモンスターは二体とも光属性だ。

「それじゃ、ボクのバトルフェイズ――。《銀髪のユニコーン》の攻撃……閃光角の槍、二連撃!」

《銀髪のユニコーン》の角が輝き始め、その輝きがそのまま閃光の槍となって放たれた。

「ぐっ――うぐっ!」

 閃光の槍はマッチョの胸をつらぬき、間も置かず二撃目が再びその胸をつらぬいて虚空に消えた。

 

【マッチョ:LP1200】(LP-1400×2回)

 

 マッチョのライフは残り1200……あと一撃で終わる。

「続いて《天使王カタストロフ》の攻撃……」

 ボクの攻撃宣言に反応し、カタストロフは右手に持つ聖剣を天に掲げ、神の力をいざなう。

「神々の破局!」

 無数に降りた天雷が激しい音を立ててフィールドを暴れ周り、地を走って、容赦なくマッチョのフィールドを蹂躙する。

 そして天の雷に飲み込まれたマッチョは、断末魔の叫びをあげ……この気分の悪いデュエルが終わった。

 ボクの……勝ちだ。

 

【マッチョ:LP   0】(LP-2400)

 

「ケッ……ヘヘヘ……」

 尻餅をついていたマッチョは、うつむきながら不気味な笑いを浮かべる。

 うわ、嫌な予感。

「お前、良いカード持ってるじゃねぇか……」

 この不気味な含みを持つ言葉は、この後のマッチョの行動を予測させるのに十分だった。

 

 ボクは身構えてマッチョの動きを見据える。

 さっきみたいに感情的な状態のまま来るのであれば、逃げられるような状況を作り出す事は難しくない。

 しかし、今のように変に落ち着かれてしまうと、相手が冷静な分、逃げにくい上に体格差がモノを言う状況になりやすい。

 ちょっとマズったかな。今はワタルも居ないし……どうしよう。

 逃げるにしても、体力には自信あるケド、ダッシュ力は負けるかもしれない。

 

「へへ……調子こいたお前が悪いんだぜ。詫び料として、そのカードをよこしな」

 考えがまとまらない内に、マッチョはゆっくりとボクの目の前まで迫り、腕を振り上げた。

 逆に冷静さを欠いたボクは、腕を構えて目を閉じ衝撃に備えた。

 

 備えた。

 

 備えた……。

 

 ……アレ?

 

 マッチョの手が来ないゾ。

 不審に思ったボクは片目をゆっくりと開けた。

 

 あ――!?

 

 マッチョの手首を後ろからつかんでいる人がいた。

「このクズがっ」

 その人は、手に持ったジュラルミンケースでマッチョを豪快に殴りとばし、ついでとばかりに侮蔑の言葉を吐き捨てる。

「おい、お前。大丈夫か」

 ボクを助けてくれた人の後ろから、偉そうな態度の少年が顔を出した。二人とも見覚えのある顔だった。

 

「――ってぇな。てめぇ……んな硬いモンで殴りやがって。顔の形が変わったらどうしてくれるんだ、コラァ!」

 マッチョは殴られた場所を腕で拭って立ち上がる。

「フッ……負け犬ごときが顔の形を気にするとは驚きだ。むしろ変わった方が今より良いかもしれんぞ。ククク」

 うあ、噂では聞いてたケド、本当にこの人の言葉って容赦ないゾ。

 大胆不敵、天上天下唯我独尊、不遜にして尊大。しかし誰も文句は言えない。

 なぜなら――彼には、それだけの力と才能があるからだ。

 

「んだと、ふざけんなコラ。テメェ、俺と勝負だ!」

「うわ、ウソで――」

 ボクはマッチョの爆弾発言に、つい出た驚きの言葉を無理矢理飲み込んだ。

 なぜなら、もしかしたら見れるかもしれないと思ったからダ……彼のデュエルを。

「良いだろう。貴様のその獅子だと勘違いしている自信が、野良猫のそれに過ぎんことを教えてやる」

 その人は、少年から渡されたデュエルディスクを鮮やかに装着し、流れるような手つきでデッキをはめ込んだ。

 そして双方、五枚の初期手札をドローし、デュエルは開始された。

「行け、滅びの爆裂疾風弾!」

「うあぁぁぁぁぁぁ…………!」

 彼の代名詞とも言われる青き眼を持つ最強の竜……《青眼の白龍》。

 そのアギトから放たれる滅びのブレスには何者であっても屈する他は無い。

 案の定マッチョは瞬殺され、あまりの衝撃にデッキを散乱させて気を失ってしまった。

 この人のレベルって……。強すぎる。圧倒的だヨ。

 

《青眼の白龍》のような大型モンスターの入ったデッキには不利となるハズの《スーパーエキスパートルール》。

 それでも、何の遜色も無く、全く変わらぬ圧倒的な強さ。

 本当にこんな人に勝った人なんて居たのか、それはウソなんじゃないかと疑いたくなるほどに彼の実力に格の違いを感じた。

 流れるように展開する《青眼の白龍》速攻召喚の布石、いつの間にか敵を無防備にしてしまう戦略、そして……無理矢理にでも運命の女神を呼び込んでしまうかのような凄まじい引きの強さ。

 シャレになりまセン……この人に勝つなんて絶対無理。

 

「身の程を知らん野良猫ふぜいが、獅子に勝てる幻想でも抱いたか。ククク」

 彼は気を失ったマッチョにとどめの言葉を放つと、散乱したマッチョのデッキから2枚のカードを拾った。

「受け取れ」

「これは――」

 手裏剣を投げるように渡されたカードを反射的にキャッチできたのは我ながら凄い気がする。

 しかし手に取ったものは見ず、ボクの彼に投げかけようとした言葉は、唐突にカードを渡された戸惑いによって詰まってしまう。

「デュエリストとしてのプライド無き者にレアカードなど必要無い。クズにはクズにお似合いのカードをくれてやる」

 彼は道端で煙草をポイ捨てする大人のように二枚のカードを投げ捨てた。

 うあ、《キラー・マシーン》と《ゲール・ドグラ》だ。

 

 てか、なんでこんなピンポイントに中途半端なカードが都合よく手元に!?

 五つ星上級モンスターのクセに、四つ星下級モンスターにも劣る能力を持つ《キラー・マシーン》。

《スーパーエキスパートルール》に変わってから、最も使えないカードのひとつとして槍玉に上げられてるのを見た記憶がある。

 そして《ゲール・ドグラ》……ルールの改正に伴い、ライフを3000も支払いながら、墓地に融合モンスターを一体増やすだけの効果しか持たなくなった悲しいカード。以前ならば《死者蘇生》で、墓地に落とした融合モンスターを特殊召喚できたんだケドね。

 このカードをデッキに入れる人なんて居ない……居たとしたらギャグ以外のなにものでもないヨ。

 

「気にすることは無い、俺とお前の勝ち分だ。アンティルールだと思え。俺の分は要らん。そもそも――」

 戸惑うボクに、彼は背を向けてこう続けた。

「そんなカード36枚持ってるよ」

 な、なんだっテー!?

 この時のボクの表情は、きっとどこぞの不思議探求団体の団員のようだった事だろう。

 

 必要な事を言って満足したのか、彼は傍らの少年と海馬コーポレーションの本社ビルへ去っていった。

 そしてその後から、黒服とサングラスを着用した数名が続いて歩いて行く。

 わざわざデュエルしなくても、あの人たちに任せれば良かったんじゃ……。

 そんな事を思いながら、ボクは手にある二枚のカードの絵柄を改めて確認する。マッチョ……結構良いカード持ってたんだネ。

 渡されたカードは《ダイヤモンドドラゴン》と《右手に盾を左手に剣を》だ。

 

 言うまでも無く、両方ともかなりのレアカードだ。特に《ダイヤモンドドラゴン》のレア度は高い。

 ボクの《天使王カタストロフ》や、ワタルの《ブラック・プリースト》には及ばないケド。

「このカードを36枚も……」

 ジェラルミンケースを持って悠々と歩いていく白コートの背中を見送り、ボクは風で揺れる髪をかきあげた。

 

 彼の名は海馬瀬人(かいば せと)。

 海馬コーポレーションの社長にして、《青眼の白龍》を持つ《最強のデュエリスト》。

 きっと彼にとっては、今のマッチョなんて路上の石ころほどの障害にもならない。

 その目は遥か遠く……あのデュエルモンスターズ創始者のペガサス・J・クロフォードすら倒した男を見ているに違いない。

 あの《無敵のデュエリスト》の異名を持つ武藤遊戯(むとう ゆうぎ)を。

 

 世界でもナンバーワンと言われる二人の内の一人……最強の海馬瀬人。ボクは偶然とは言え、彼の力を見た。

 率直な感想――。レベルが違いすぎる。

 技術とかデッキ能力とか、そう言ったものを超越している。次元が違う。

 きっと彼は運命すらも操る。そう思わないとあの引きの強さは説明できない。

 そう言う強さダ。

 

 まあ、それはそれとして。

 他人のカードを勝手にもらっちゃって良いのかナ。しかも大層なレアカードを二枚も。

 ボクは横を見る。

 オバケ屋敷に出てくる山姥(やまんば)のような形相で、大の字になっているマッチョが転がっていた。

 まあ、マッチョが悪いんだし、悪事にはそれなりの罰則が必要……ってコトで納得するかナ。

 

「うんうん、それで納得しよう」

 脳内補完が終わったところで、マッチョに目を覚まされると面倒だから、その前にサッサと帰ることにした。

 後ろで倒れている外国産赤身肉男は……まあ、きっと誰かが何とかしてくれる……だろう。

 

 ボクは今日、二枚のレアカードを手に入れた。さらに《最強のデュエリスト》と遭遇すると言う貴重な体験もした。

 デュエルディスクを手に入れる為に、わざわざココまで来た甲斐があったというものダ。

 収穫は充分。明日はこのことをワタルの馬鹿に自慢してやろうっと。

 そう思いながら家路についたボクの足取りは、羽根のように軽かった。




●オリジナルカード解説
 「銀髪のユニコーン」(効果モンスター)
 ATK1400 DEF800 4ツ星 光属性 獣族
 効果:フィールド上に光属性モンスターしか存在しない時、このカードはバトルフェイズに二回攻撃を行う事ができる。
 「天使王カタストロフ」(効果モンスター)
 ATK2400 DEF2400 7ツ星 光属性 天使族
 効果:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカードは対象を指定する魔法・罠・モンスター効果の影響を受けない。
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