決闘者の遺産R   作:びく太

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第六話:テーブル越しの決闘

『デュエル!』

 互いの掛け声が交錯し、ボックス内のランプが先攻後攻を示すために点灯する。

 光ったのは偽遊戯の方だ。

 

「オレの先行か、ドローするぜ」

 テーブルに置かれたデッキから初期手札五枚を含め、合計六枚のカードをドローする。

 それを見ながら、俺も初期手札の五枚をドローし、手札越しに偽遊戯を見据える。

「オレは、裏守備モンスターを召喚、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 およ、淡白だな。序盤は様子見かな。

 ちなみにデュエルボックスでは、カードを表向きにしないと立体映像は出てこない。

 せっかく昨日デュエルディスクを手に入れたのに、今日はいつもどおりデュエルボックスでテーブルを挟んだデュエルだ。

 これじゃあ自分がデュエルディスクで闘った昨日の事が、なんだか夢みたいに感じてくるなあ。

 

「そんじゃ俺のドローだ」

 テーブルに置かれたデッキから、俺はカードを一枚ドローし、手札に加える。

 今の手札は、こんな感じだ。

《魂を漁る漆黒の翼》、《心変わり》、《深き森の狩人》、《竜闘士-ドラゴンマスター》、《精霊の鏡》

 そんで、今引いたカードが……よし、《魔狼ルーグ》だ。

「俺も裏守備モンスターを召喚して一枚セットしてターンエンド」

 うう~ん、やはりデュエルディスクの方が、何やっても立体映像が出てくる分、圧倒的に盛り上がるよなあ。

「ちょっと待った。エンドフェイズに《サイクロン》発動だ。お前の伏せカードを破壊するぜ」

 偽遊戯は俺のエンドフェイズ終了宣言と同時に、自分が伏せていた《サイクロン》を発動した。

「げっ、エンドサイクか。くそっ、《精霊の鏡》を破壊だ」

 ようやく立体映像の出番となり、渦巻く風が俺のセットカードの《精霊の鏡》を破壊する一連の過程を投影する。

 俺は舌打ちをしながら破壊されたカードを墓地に送った。

 これは一般に『エンドサイク』(エンドフェイズ・サイクロンの略)と呼ばれ、多くの人に親しまれているテクニックだ。俺もたまに使う。

 

「了解。では、オレのターン」

 偽遊戯は、デッキから流れるように滑らかにカードを引く。この滑らかなドローも本物を真似てるのか?

 でも、確か本物って気迫の込められた力強いドローだったような気がしたんだが……ま、どっちでも良いか。

「オレは《砦を守る翼竜》を攻撃表示で召喚。さらにカードを一枚セットしてターンエンドだ」

 ありゃ、攻撃しないのか。

 俺の裏守備モンスターを前に、まずは様子見をしようという魂胆か。

 どうもこっちの攻撃を誘っているような気もするし、あの伏せたカードも気になるなあ。

 最初のターンに召喚した裏守備モンスターもそのままか。となると、壁モンスターかリクルーターあたりか。

 

「俺のターン。ドロー」

 俺は偽遊戯の戦略を読みつつ、デッキからカードを一枚引いた。来たカードは《遺言状》だ。

 偽遊戯の場にはモンスター二体と、伏せカードが一枚あるが、今来たカードを考えると攻めても良いだろう。

「よし、俺は《魔狼ルーグ》を召喚。……と、優先権は?」

 プレイヤーは召喚直後に、そのモンスター効果を発動させる権利がある。これが優先権だ。

 俺が今召喚したモンスターは永続効果だが、その条件を満たしていないため効果を発動できない。

 つまりその時点で、俺は優先権を行使する意味がなく、偽遊戯に優先権を渡す。

 偽遊戯がモンスター召喚時などに発動できる罠カードを伏せていれば、ここでようやく使う事が許される。

 今、俺はその確認を行ったわけだ。この確認をする事はあまり無いが、相手がちゃんと優先権を理解しているかによっては、考えて行動しなければならない。そういうルールを逆に利用して、相手のミスを誘うような戦略を取るヤツもいるからな。

 もちろんもっと色々な場面で優先権は発生するが、この召喚時の優先権の問題が一番ややこしいからなあ。

 俺もアキラに何度も説明されてようやく理解したし。タンコブもたくさん出来たけどな。

「いや、特に無い。続けて構わないぜ」

 偽遊戯は事も無げに返事をした。なるほど。優先権は理解しているみたいだ。

 まあ、とりあえず手を進めるか。

 

「裏守備の《深き森の狩人》を反転召喚。ここで《魔狼ルーグ》の効果が発動、攻撃力と守備力が500ポイントアップだ」

「オーケー。こちらは特に何も無い。続けてくれ」

 さっき俺が優先権の確認をしたせいか、偽遊戯は先に自分から優先権の放棄を告げて次を促した。

 俺の場には、攻撃力1650の《深き森の狩人》と、自身の効果によって攻撃力が2200に上昇した《魔狼ルーグ》の二体が攻撃表示で佇んでいる。

「それじゃ、《魔狼ルーグ》で裏守備を、《深き森の狩人》で《砦を守る翼竜》を攻撃だ」

「ちっ、裏守備は《岩石の巨兵》だ。良いカンしてるな」

 俺の攻撃宣言と同時に飛び出した銀毛の大狼は、目の前に現れた岩山の如きモンスターに突進し打ち砕いた。

 これこそまさに"当たって砕けろ"だ……あれ、意味違ったか?

 さらに《深き森の狩人》が弓を引き、飛び回る《砦を守る翼竜》に狙いを定めて矢を放った。

 不思議な軌道を描く矢は、まるで磁石で引き合っているかのように、避けようとする翼竜にピッタリと軌道を合わせる。

 自動追尾ミサイルの如く避けようも無い矢に貫かれた翼竜の映像は電子の塵となって消え、矢はそのまま偽遊戯の胸へと突き刺さった。

 瞬間的に苦悶の声を上げた偽遊戯だったが、一息吐いて後、再び余裕を持った表情へと戻った。

 

【偽遊戯:LP3750】(LP-250)

 

「オレのターン」

 バトルフェイズが終わり、メインフェイズ2に何もやる事が無い俺は、そのままエンドフェイズも通り過ぎてターンの終了を宣言した。

 場のモンスターが一掃され、傍目にも俺の有利が見て取れるが、それでも偽遊戯は表情を崩さず、デッキから静かにカードをドローする。

 しかし……なんだ、あの落ち着きようは。

 本物を演じるためにもここで動揺する訳には行かないだろうが、それにしても妙だな。

「俺は守備モンスターを召喚。さらに一枚セットしてターンエンドだ」

 おいおい、攻撃無しか。それとも手札に良いモンスターが来ないのか。

 何の目的かは知らないけど、デュエル開始前の攻撃的姿勢とはうって変わったように、偽遊戯は静かに、淡々と手を進める。

 まあ良い。それなら今のうちに一気にペースをかっさらって行くだけだ。

 

「俺のターン。ドロー」

 引いたカードは《闇色の魔封輪》だ。今すぐに使うようなカードじゃないな……ま、いっか。

 問題はヤツの場に伏せてある二枚のカードだ。ここで《心変わり》を使うべきか。

 成功すれば、このターンで勝てるチャンスが訪れる。しかし伏せてあるのが和睦の使者だとか、本物お得意の《聖なるバリア-ミラーフォース》だったりする場合、俺は戦力と手札を一気に失うことになる。

 相手が《遊戯デッキ》だと言う事を考えると、どうしても《聖なるバリア-ミラーフォース》を警戒してしまう。

 このターンは勝負に出ないで、上級カードを召喚して安全策を取るか。

「モンスター二体を生け贄にして、俺は《竜闘士-ドラゴンマスター》を召喚」

 これで単独での攻撃力が2200になり、ヤツも手が出しにくくなるハズ。俺はさらに守備モンスターへの攻撃を宣言した。

「ふっ。悪いが守備モンスターは《デビルドラゴン》だ」

 偽遊戯が、攻撃対象となったモンスターを翻し、俺の攻撃の手を止める。

 でも《デビルドラゴン》……となると、ドラゴン族だな。

「へっ、だったら都合が良いぜ。《竜闘士-ドラゴンマスター》でダイレクトアタックだ」

 このカードはドラゴン族モンスターを攻撃対象に出来ない。つまり相手の場にドラゴン族しかいない場合、ダイレクトアタックが可能になる。

 ……って、ことで攻撃ぃ!

 

【偽遊戯:LP2650】(LP-1100)

 

 このカードは直接攻撃の場合、戦闘ダメージが半分になってしまうが、それでも充分な痛手を与えただろう。

 しかし偽遊戯は特に戸惑う事も無く、涼しい顔でダメージを受けたのが気にかかる。ここは保険としてコレを使っておくか。

「メインフェイズ2で《遺言状》を発動。デッキから……《黒き森のウィッチ》を守備表示で特殊召喚してエンドだ」

 

「オレのターンだ」

 偽遊戯は相変わらず涼しい顔をして淡々と手を進める。

 この状況は、明らかにヤツに苦しいはずだ。しかしあの涼しい顔は何だ。

 もしかして直接攻撃でも翻る事が無かった偽遊戯の二枚の伏せカードに、この状況を逆転する秘策でも込められているのか。

「オレは《暗黒の竜王》を召喚、《デビルドラゴン》を攻撃表示にしてターンエンドだ」

 なんだあ? 《黒き森のウィッチ》を攻撃せずに放置してターンエンドか。

 だいたい《暗黒の竜王》ってアンタ。なんだってそんな中途半端なモンスターを攻撃表示で出すんだ。

 確かに攻撃表示でも、相手が《竜闘士-ドラゴンマスター》なら攻撃対象にできな……

 

 ――しまった!

 

 偽遊戯の場にはモンスターが二体いる。

 両方ともドラゴン族だから《竜闘士-ドラゴンマスター》では破壊できないし、《黒き森のウィッチ》じゃ攻撃力が足りない。

 迂闊だった。どうやらカードの効果を逆手に取られたらしい。

 まずいっ、この俺のターンで何とかしなくては。

 

「俺のターンのドローだっ」

 表向きは平静を装いつつも、やはり俺の声には焦りが表れていた。デッキからカードを引く手も、どこか急いでいる感じがする。

 くっ……落ち着け、俺。

 焦る心を抑えつつ、今引いたカードを見た。《闇のペンタグラム》か……くそっ、今使ったら自滅以外なにものでもない。

 どうやらドローカードは役立たない。となると、ドローカードを除いた三枚の手札から対策を考えるしかない。

 手札には、《心変わり》、《闇色の魔封輪》、《魂を漁る漆黒の翼》、そして今引いた《闇のペンタグラム》がある。

 偽遊戯の伏せカード二枚が気になるけど、ここはコレしか無い。

「魔法カード《心変わり》を発動。お前の《デビルドラゴン》をいただくぜっ」

 俺のプレイに、偽遊戯はフッと小さく息を吐いて、伏せていたカードを翻した。

「甘いな、その《心変わり》にチェーン。罠カード《王宮の勅命》だ」

 俺は仰け反った。

 やられた。手札唯一の対抗策がアッサリつぶされたか……にゃろう。

 今までの闘いぶりを思い起こすと、こいつはかなり慎重な性格をしてるな。

 これも、より確実に"あのカード"を出すための戦略なのか……くそっ。

「ならば《竜闘士-ドラゴンマスター》でダイレクトアタック、そして《黒き森のウィッチ》で、《デビルドラゴン》に攻撃」

 直接攻撃によって、せめて少しでもヤツのライフを削り、ウィッチの効果で何か対策になるカードを引いてくる。今はコレしか無い。

 

【偽遊戯:LP1550】(LP-1100)

【ワタル:LP3600】(LP-400)

 

 互いのライフカウンターが動き、俺はウィッチが破壊されたので、その効果を使いデッキの中を見渡す。

 これしかないか。

「《黒き森のウィッチ》の効果で、俺はデッキから《ハーピィ・ダディ》を手札に加える。そして守備モンスターを召喚してターンエンドだ」

 俺の玉砕攻撃で少しざわついたギャラリーだったが、手札に入れたカードによって、偽遊戯の狙いに気付いた者もいたようだ。

 デュエルボックスの外からは「ああ、そうか」とか「なるほど」とかのヒソヒソ声が耳に届く。

 

「フフッ、俺のターンだ。ドロー」

 ドローカードを引く偽遊戯の口から小さく息が漏れる。

「まずは《王宮の勅命》は維持せずに破壊する。そして伏せていた《停戦協定》をオープン!」

「くっ……!」

 最初のターンに伏せたカードはこれだったのか。ライフが少しでも惜しいときに面倒なものを使いやがって。

 フィールドには効果モンスターは二体……《竜闘士-ドラゴンマスター》と出した《ハーピィ・ダディ》だ。

「うっ……守備モンスターは《ハーピィ・ダディ》だ」

「だったら効果モンスター二体で合計1000ダメージだな」

 

【ワタル:LP2600】(LP-1000)

 

 ちぃ……ライフは結構リードしてたのに一気に詰められちまった。

 まずいな。今"あのカード"を出されると、かなりヤバいことになる。

 唯一対策になるカードが場に出ているが、それで何とかならなかった場合、次のドローに全てを賭ける『運』のみで闘わなければならない。

 これはヤバイ。頼むぜ、今頼りにできるカードは《ハーピィ・ダディ》、お前だけだ。

「オレは場のモンスター二体を生贄に捧げ……」

 ヤツの場の二体のモンスターは電子の塵となって消えていき、その塵が螺旋を描いて新たな姿を構築していく。

 来るのか……やはり。

 

「……ブラック・マジシャンを召喚!」

 偽遊戯の高らかな宣言と共に、最上級魔術師の称号を持つ黒衣の魔術師が静かに現れた。

 俺は……コイツを倒せるのか。




●オリジナルカード解説
 「深き森の狩人」(通常モンスター)
  ATK1650 DEF1800 4ツ星 地属性 戦士族
 「竜闘士-ドラゴンマスター」(効果モンスター)
  攻2200 守2000 7ツ星 地属性 戦士族
  効果:このカードはドラゴン族モンスターを攻撃の対象にする事はできない。
  攻撃対象の裏向きモンスターがドラゴン族の場合、それを表向きにして対象を選び直す。
  このカードを攻撃の対象にしたドラゴン族モンスターは戦闘後にゲームから除外される。
  このカードが相手プレイヤーに直接攻撃をしたとき、その戦闘ダメージは半分になる。
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