決闘者の遺産R   作:びく太

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第八話:万事休す

「《ブラック・プリースト》か、面倒な。だが守備だけでは勝てないぜ」

 外のヤツらには無理だろうが、偽遊戯は落ち着いて冷静に場を把握する武藤遊戯を演じてはいるものの、デュエルボックス内の俺には声が僅かに上ずっているのが分かった。

「そうかもな。でも、高い攻撃力があれば相手を押し切れると思うのも大きな間違いだぜ。お前はデッキの対応力に幅がねえんだよ。だからプレイングが淡白になる。武藤遊戯を名乗るなら、一度くらい本物の生デュエルってのを見ておくべきだったな。一度でも見ていれば、たぶんもう少し違っていたと思うぜ。ああ、ちなみに俺は見たことあるぜ。王国大会でな」

 デュエルボックスの外でギャラリーを決め込んでいるヤツらには聞こえないよう、俺は偽遊戯に小さく言ってやった。

「――っ!」

 俺の言葉に偽遊戯が僅かに仰け反った。それは驚きだったのか、別の感情だったのかは分からない。

 ただ分かるのは偽遊戯が俺の言葉に動揺したってことだ。

 ……っと、《黒き森のウィッチ》の効果をまだやってなかったな。

 

「ウィッチ効果発動。デッキから……」

 さて、何を持ってくるか。相手が《ブラック・マジシャン》では、何を持ってきても一撃で倒される。

《ブラック・プリースト》は大丈夫だろうが、他に守備モンスターを持ってきても、やはり倒される事には変わらない。

 ならば、ここは攻撃力を重視したカードにするか。ガゼルとかエル剣を攻撃したら、それなりにダメージを与えられる。

 直後に《ブラック・マジシャン》に倒されるだろうが、一撃ならば耐えられるだけのライフは残っている。

 となると、持ってくるのは攻撃力1900の《神足の剣士》か――いや、待て待て。

 今手札にある《プチメテオン》の事を考えると《融合》の可能性も視野に入れておくべきか。

《融合》を考えるなら《破壊神ヴァサーゴ》が、まだデッキにあるから、それを持ってくる方が……いや、ダメだ。

 来るかどうかも分からないカードの為に単独で戦力にならないヴァサーゴを持ってくるワケには行かない。

 そうなると、やはり単体での戦力と《融合》の可能性を考えるならば……

「俺はデッキから《ナイト・オブ・ドラゴン》を手札に加える。そしてターンエンドだ」

 

「フン、オレのドローだ」

 偽遊戯は、どこか不機嫌そうに顔をゆがめてカードを引いた。

 もう、その顔には先ほどまでのような余裕は見られない。俺はようやく勝負を五分のところまで引き戻せたか。

 しかしあくまでも五分の状態だ。勝負の行方は未だ、指で弾いた天秤の如く不安定な揺らぎを見せている。

《ブラック・プリースト》を召喚したまでは良いが、手札にモンスターカードしかないのではその特殊能力も活かせない。

 ただ、守備力2500という数値は偽遊戯にとって邪魔な事この上ないだろう。自分の切り札でも倒せない数値だからな。

「ちっ、何もせずにターンエンドだ」

 偽遊戯は口惜しそうにターン終了を宣言する。

 おや? 《幻獣王ガゼル》と《エルフの剣士》を守備表示にしないのか。

 肉を切らせてってヤツか。ダメージ覚悟で攻撃を誘っているな。

 偽遊戯の伏せカードを考えなければ、俺の手札に《神足の剣士》が来れば勝ちだが……まあ、何か仕掛けがあるんだろうな。

 

「んじゃ、俺のターン」

 ヤツの場には上級モンスターが一体、下級モンスターが二体、そして伏せカードが一枚か。生贄召喚も可能だな。

 そんな事を考えながら俺はドローしたカードを見た。

「――!?」

 うわっ、やられた……《融合》だ。まさか本当に来るとは。

 それだったら《破壊神ヴァサーゴ》を手札に持ってきておけば良かったなあ。

 そうすれば《ブラック・プリースト》との融合が出来たのに……いや、これは仕方ない。余計な事は考えないようにしよう。

 必要なのは今ある手札で何が出来るかだ。

 手札には《プチメテオン》、《ナイト・オブ・ドラゴン》、《融合》の三枚がある。

 この三枚で一番最初に思いつくのは融合召喚だ。融合させれば攻撃力2300のモンスターが召喚できるが……それでも相手の場に《ブラック・マジシャン》が居る以上、1ターンの命でしかない。だからと言って手札にあるモンスターを単独で出しても、やはり同じだ。

 偽遊戯に少しでもダメージを与えるには……融合召喚しかないか。しかし今ココで動くのは危ない気がする。

 念のために《融合》を伏せておこう。本来ならばハッタリくらいにしかならないが。

「俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ。ふぅ……」

 俺はたまらず息継ぎをした。とにかく場の空気が重い。

《ブラック・プリースト》の召喚で場は膠着状態になり、身動きの取れない状態が続く。

 動きたくても動けないし、動かなくては勝つことも出来ないというジレンマの中で、運と勘を頼りに闘わなければならない。

 

「……ドローだ」

 偽遊戯は神妙な顔つきでデッキからカードを引く。どうやら手札の数はあっても決定力のあるこれといったカードが無いらしい。

 何も動かないところを見ると、たぶん手札はモンスターカードばかりなんだろうか。

「ちっ、仕方ない。オレは《幻獣王ガゼル》と《エルフの剣士》を守備表示にしてターンエンドだ。だが俺のデッキには強化魔法カードがある。お前の命はそれを引くまでだ」

 わかったわかった。そんな事はそのカードが来てから言ってくれ。来ないカードで強がられてもリアクションに困る。

 

「俺のターン。ドローだ」

 ヤツが手詰まりしている間に、こっちも体勢を整えておく必要がある。

 ……と、《和睦の使者》ときたか。

 ドローしたカードを見て、しばし考える。どうする?

 俺の場には表側守備表示で佇む《ブラック・プリースト》がいる。その効果で偽遊戯の意表を突くことも可能だ。

 考えろ考えろ。ヤツの場にはモンスターが三体いる、つまり生贄召喚をしてくる可能性もある。

 遊戯デッキで、さらに生贄召喚してくる事を考えると出てくるカードも自然に絞られてくる。

《カース・オブ・ドラゴン》、《デーモンの召喚》、《暗黒騎士ガイア》……あとは《カタパルト・タートル》あたりが予想できるだろう。

《デーモンの召喚》と《カタパルト・タートル》のレア度は高いからあまり見ない。これらは偽者に用意できるシロモノではないだろう。

《暗黒騎士ガイア》は、俺も持っているが手軽に手に入るほど普遍的なカードでもない。

 となると、偽遊戯がさらに生贄召喚をしてくる時は、消去法で残った《カース・オブ・ドラゴン》が出てくる可能性が高い。

 まあ、それならあまり問題は無いな。

 あとは融合するのは決定として、それを今するのか、意表を突いて相手ターンにカウンターで速攻融合するかだな。

 相手の場は守備表示モンスター二体と《ブラック・マジシャン》のみ。どうにかしてあの守備モン二体を起こしてやる必要があるな。

「カードを一枚セットして、守備モンスターを召喚。ターン終了だ」

 これしかやる事が無い。今の俺には、さまざまなコンボを生み出すために必要な手札が圧倒的に足りない。

 ぶっちゃけ、やはり俺には苦しい状況だ。

 

「オレのターンだな。ドローだ」

 こう着状態でありながらも、やはり自身の優勢を感じているのか。偽遊戯に先ほどまでの動揺した雰囲気はそれほど感じられない。

 引いたカードを見た偽遊戯は、目だけを動かして俺の顔を確認し、そして手札に目を戻した。

 なんだ。何かあるのか。

「オレは《エルフの剣士》を生贄に捧げ、《カース・オブ・ドラゴン》を召喚。それと《幻獣王ガゼル》を攻撃表示に変更」

 うわ、本当に来やがった。しかも予想通りだよ。

 上級モンスターを出した事で、受けるダメージにも余裕ができたと考えたのか、偽遊戯は《幻獣王ガゼル》を再び攻撃表示に戻した。

 もちろん俺の攻撃を誘うためと思われる。確かにこの生贄召喚によって、やや苦しくなったのは確かだ。

 あのままならば《ブラック・マジシャン》を倒さずに勝つことも出来た。

 だが上級モンスターをさらに召喚されてしまった今、それをやるには明らかに手駒が足りない。

 せめてさっきのターン、偽遊戯の下級モンスターが守備表示じゃなかったら勝てていたんだけどなあ。伏せカードに引っかからなければ、だけど。

「そして裏守備モンスターへ《呪われし竜》の攻撃! 行けっ、地獄の火炎!」

 色を失った甲殻類のような姿をしたドラゴンは、偽遊戯の攻撃宣言に反応すると中空を軽やかに旋回して、狙いを定めてその口から炎を吐き出した。

 しかし俺は慌てない。

 このターン、俺は相手の下級モンスターを攻撃表示にさせる事が目的だ。そして守備モンスターも破壊させない。

「残念。リバースカードオープン!」

 

 ……ジャラン。

 

 場に錫杖の鳴る音が響く。《ブラック・プリースト》の効果発動だ。

 デュエルボックスは、伏せられたカードが淡く輝くエフェクトを投影し、そして俺はそれを翻した。

「魔法カード《融合》発動! 場の《プチメテオン》と手札の《ナイト・オブ・ドラゴン》を速攻融合……」

「速攻融合!? そうか《ブラック・プリースト》の効果か」

 偽遊戯は息を呑んだ。口から出そうになる驚嘆の声を無理矢理飲み込んだのだろう。

 場では攻撃されている最中、超高速で《融合》の流れが進んでいく。

 炎の中の黒い影は別の影と合体し、大きな黒い影となって新たな姿に生まれ変わる。

「《メテオ・ナイト・ドラゴン》を融合召喚!」

 俺の場に、マグマの血流を持つ流星のドラゴンが新たに生まれた。

 この特殊召喚によって偽遊戯の攻撃はリセットされ、再び《カース・オブ・ドラゴン》の攻撃対象を選択するステップまで巻き戻される。

「ちぃ、悪あがきを。《カース・オブ・ドラゴン》の攻撃対象は選択せずに終了だ。オレは《ブラック・マジシャン》で《メテオ・ナイト・ドラゴン》を攻撃!」

 しかし俺は二枚目の伏せカードを翻した。《和睦の使者》だ。

 思いもよらない事をされ、偽遊戯の表情が歪む。そしてそれを隠そうとする動揺が垣間見えた。

 やっぱ本物を名乗るには肝が座ってないヤツだ。

 本物はインセクター羽蛾戦で窮地に陥って驚く事はあっても、常に相手を見透かすような目の煌きを絶やす事はなかった。

 こうして偽者と比べると、改めて「やっぱ本物は凄かったんだな」と緊張したデュエルの最中、なんとなく思ってしまう。

 やはりこんなヤツに本物の名を汚させるわけには行かないな。

「ちぃ、仕方ない。一枚伏せてターンエンドだ」

《和睦の使者》で戦闘ダメージの全てを無効にした。偽遊戯は優勢でありながら、どうしても押し切れない。

 偽遊戯は、パズルを作り上げてあとひとつと言うところで、その最後のピースが見つからないような、そんな苛立ちを見せていた。

 そして俺は一見平静を装っているが内心は、大金を賭けたポーカーを手無しのハッタリでダブルアップ宣言をしているような、そんな綱渡り的緊張感が支配していた。

 

「俺のターン……」

 俺は緊張に震える手に気付かれないよう、努めて平静を装いながらデッキからカードを引いた。

 とりあえず結果的にノーダメージで相手の場のモンスターを全部攻撃表示にすることは成功した。

 問題は偽遊戯が伏せている二枚のカードだが、ここでそれを恐れてはいられない。

「《メテオ・ナイト・ドラゴン》で《幻獣王ガゼル》を攻撃!」

 これで800ポイントのダメージ……と思ったら、偽遊戯の伏せカードが翻った。

「リバースカードオープン《マジカルシルクハット》だ! オレはデッキからモンスター以外の二枚のカードを場に守備表示で置くぜ」

 うおっ、そうきたか。そう言えば《マジカルシルクハット》は、本物の十八番だと聞いた事がある。

 カード効果により、ヤツの場の《幻獣王ガゼル》がシルクハットの中に消え、そしてさらにふたつのシルクハットが場に投影される。

 しかしシルクハットはモンスターを一体しか隠せない。《幻獣王ガゼル》は隠されてしまったが、もう一体倒せるモンスターはいる。

「《メテオ・ナイト・ドラゴン》で《カース・オブ・ドラゴン》を攻撃! 食らえ、灼熱の流星弾!」

 大きく開けた口から小さな炎の塊が散弾銃のように吐き出され、《カース・オブ・ドラゴン》を粉砕した。

 

【偽遊戯:LP 650】(-300)

 

 どうせ1ターンのみの命。俺にしてみればどっちを攻撃しても同じだ。

 次のターン、俺に《メテオ・ナイト・ドラゴン》を守る術は無い……が、もちろんタダで倒されるつもりは無い。

 さっき引いたカードは罠カードの《玉砕特攻》だ。勝てないまでも《ブラック・マジシャン》に致命的な手傷を負わせてやるぜ。

《ブラック・マジシャン》さえ攻略できれば、もうヤツに逆転する力は無いだろう。

「ターンエンドだ」

 

「オレのターン」

 シルクハットも消滅し、偽遊戯はデッキからカードを引く。俺はその手が僅かに震えていることに気付いた。

 たぶんコイツも同じ……いや、俺よりも強いプレッシャーを感じているはずだ。

 無敵のデュエリストと名高い武藤遊戯を名乗った手前、絶対に負けるわけにはいかない。

 今のターン開始宣言が小さかったのも、おそらくは緊張で声が震えることを懸念しての事だろう。

 偽遊戯は引いたカードを見て、それを手札に入れずそのまま場に出す。

「オレは裏守備モンスターを召喚。そして《ブラック・マジシャン》で《メテオ・ナイト・ドラゴン》に攻撃!」

 ――来たな。

「今だっ、リバースカードオープン。《玉砕特攻》だっ!」

 これでヤツの切り札を倒せる――と思った瞬間、偽遊戯の場の伏せカードがまたもや翻った。

「くっ……そのカードにチェーンだ。カウンター罠カード《神の宣告》! 《玉砕特攻》を無効化するぜっ!」

「う、あっ……!?」

《玉砕特攻》は消滅、そして《ブラック・マジシャン》の杖から黒い閃光が解き放たれた。

「黒・魔・導!」

 

【偽遊戯:LP 325】(LP半減)

【ワタル:LP 750】(-200)

 

 俺は、電子の塵と化した《メテオ・ナイト・ドラゴン》を、ただ呆然と見つめていた。

「く……」

 やられた。

 残りのライフでは上回っているが、俺のデッキにはヤツにダメージを与えられる力がもう僅かしか残っていない。

 偽遊戯は強化魔法があると言っていたから、このままではいずれ《ブラック・プリースト》の壁も破られるだろう。

「オレのターンはエンドだ」

 

「……俺のターン」

 デッキに伸ばす手がさらに重く感じる。もう俺に残された手は少ない。

 俺は……このまま負けるのか。




●オリジナルカード解説
  「ブラック・プリースト」(効果モンスター)
   攻2100 守2500 7ツ星 闇属性 魔法使い族
   効果:このカードが表向きで自分の場に存在する限り、場にセットされた通常魔法は速攻魔法とおなじタイミングで発動できる。
  「プチメテオン」(効果モンスター)
   攻1000 守1800 4ツ星 地属性 岩石族
   効果:このカードは守備表示の時、戦闘で破壊されない。攻撃を受けた場合、ダメージステップ終了時に表示形式を変更する。
  「ナイト・オブ・ドラゴン」(通常モンスター)
   攻1800 守1000 4ツ星 闇属性 ドラゴン族
  「メテオ・ナイト・ドラゴン」(融合モンスター)
   攻撃力 2300 守備力 2300 7ツ星 闇属性 ドラゴン族
   「プチメテオン」+「ナイト・オブ・ドラゴン」
  「玉砕特攻」(通常罠) 
   効果:相手モンスターが自分の攻撃表示モンスターと戦闘を行った時に発動できる。
   ダメージ計算後、相手の攻撃モンスターの元々の攻撃力・守備力から、
   攻撃対象モンスターの元々の攻撃力・守備力の半分の数値だけ、それぞれダウンさせる。
   この効果で攻撃モンスターの攻撃力・守備力いずれかの数値が0以下になった場合、そのモンスターは破壊される。
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