チェックメイト~戦略の天才はISで何を求めるのか~   作:DRINK

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1.戦略の天才『天童 龍一』

『チェス』

 

 

 

 

 

それは縦横8マスのチェス盤の上で合計32個の駒を使う、スポーツであり、芸術であり、科学でもあると言われる。

 

また、日本の将棋とルールが似ている事から西洋将棋とも呼ばれていた。チェスの対局では主に、長期的な視野で計画を行う『戦略』と、短期的な作戦を行う『戦術』。この2つが勝敗を分けると言われている。

 

チェスの戦い方を表す格言として、「序盤は本のように、中盤は奇術師のように、終盤は機械のように指せ」という言葉がある。その位、最初は定跡通りに、途中で流れを展開させ、最後は冷静に読み通して指す必要があるのだ。

 

 

現在ではチェスを軍事戦略に応用する事も少なくは無い。将棋と違い、一度盤上から取り除かれた駒は再び置くことが出来ない。つまり、『一度死んだものは使えない』というルールが戦いに置いての考え方と似ているからでもある。

 

 

 

そんな、幅広い目的で行われているチェスは今日も人々を賑わせていた。

 

 

 

 

「チェックメイト」

 

 

大きな部屋の中央で1人の少年が呟いた。その瞬間、周りで観戦していた人々は感嘆の声を漏らす。

 

たった今、ロシアで開かれたチェスの世界大会で新たな優勝者が生まれた。競技人口、約七億人のトップに立ったのが中学生という異例の年齢なのだから、ここぞとばかりに報道陣が食いついたのは言うまでもない。

 

 

そして、優勝した少年が席から立ち上がると、とある日本人記者が駆けつけた。

彼女の名前は黛 渚子、雑誌『インフィニット・ストライプス』の副編集長である。本来、この雑誌はISという女性にしか使えない兵器を題材に取材をしていた。今回も、ISについての取材ではるばるロシアまでやって来たが、そこで少年の話題を耳にし、記者魂に火をつけた彼女はわざわざ帰国の日時をずらして体ひとつで訪れたのだった。

 

 

「すみません!黛 渚子と言いますが取材させて貰ってもよろしいでしょうか?」

 

 

慌てて名刺を取り出し、それを少年に渡すと取材交渉へと早速入る。

 

「取材ですか?いやぁ、困ったなー」

 

 

少年はチェスをしていた時とは違い、中学生らしい朗らかな笑みを浮かべた。取材という言葉を聞き、明らかに緊張する姿も初心で何処か母性をくすぐらせる。

 

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。何も取って食おうって話でも無いですし」

 

 

「そ、そうですよね。すみません、取材受けた経験が無くて…僕で良ければ何時でもどうぞ。」

 

 

「皆、最初はそんなものですよ。では、早速……まずは今回の対局を通して一言。」

 

 

そう言って、黛はボイスレコーダーのスイッチを入れる。いきなりの質問に少年は考えこむものの、やがて口を開く。

 

 

「うーん、今回の相手はとりあえずやりずらかったですね。正直、もう一回やっても勝てる自信が無いですし、序盤なんてほとんど思い通りに動けませんでしたよ。」

 

 

「なるほど。因みに、定跡を一切組まないやり方は異例中の異例とも言われていますが、何時もどの様に序盤、動かす駒を決めていますか?」

 

 

そう、黛が彼について調べた時、真っ先に出てきたのがその事だった。定跡通りに組まない。「序盤は本のように、中盤は奇術師のように、終盤は機械のように指せ」という言葉に則って言えば、「序盤は奇術師のように、中盤も奇術師のように、結局終盤も奇術師のように指す」と言う事だ。

 

 

毎回、記録される棋譜が違うのでは対策のしようも無い。しかし、そんな指し方は素人でも出来るのだ。だからこそ、彼が天才と呼ばれる由縁でもある。黛はこの取材の前に、以前に彼と対局した人と会っていた。そこで、彼について聞いてみたのだ。すると、その人は黛にこう言う。

 

 

「彼、最初は素人同然の指し方なんですよ。それはもう不自然な位に…でも終盤なればなるほど、こちらの駒だけ少なくなっていくんですよね。で、キングを取られた時にやっと気付いたんです。負けたって、それはもうあっさり。

本当の天才って負けた事にすら気付かせてくれないんですよね。」

 

 

負けた事にすら気付かない。本当にそんな事は有り得るのかと疑問に思った黛だが、彼の先程の質問の回答で納得した。

 

 

「そうですね...序盤は特別な事はやってませんよ。ただ、相手がどんな人か探ってるだけです。何気ない質問を投げかけて、その回答を待つ。本人は無意識でも案外駒に現れるんですよ。」

 

 

 

本人はただ会話を楽しんでいるだけなのだ。

 

 

天性の嗅覚を目の当たりにして更に小一時間取材したいのだが、彼にも都合がある。少し名残惜しく感じながらも、最後の質問を投げかけた。

 

 

 

「それでは最後に…地元の日本に帰ったら真っ先にしたい事は何ですか?」

 

 

 

「そんなの決まってますよ。」

 

 

予め決まっていたのか、今までとは違い即答した。そして、その後の言葉に黛は思わず笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

________親友に報告します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「カンパーイ!!」」」

 

 

とある日本の一室で、ガラスの音が響き渡る。その先では、2人の少年と1人の女性が鍋を囲って和気あいあいとしていた。

 

 

 

 

先日、中学生にして七億人の頂点に立った少年『天童 龍一』、その親友の『織斑一夏』、そして一夏の姉である『織斑千冬』だ。

 

 

一夏は麦茶を一気に飲み干すと、龍一に話しかける。

 

 

「それにしても、あの龍一が世界一か……お!一繋がりじゃん!」

 

 

 

「あーハイハイ、そーだねー」

 

 

「冷た!?」

 

 

隣で抗議している一夏を無視し、龍一は肉を口に放り込む。そんな会話を聞いて呆れている千冬は、ビールを片手にため息をつく。

 

 

「全く、こんな阿呆が世界の頂点とはな……同じ頂点の者として恥ずかしい…」

 

 

「言いますね千冬さん!!流石、ブリュンヒルデ!」

 

 

 

調子に乗ってそんな事を言うと、龍一の頭に千冬の手が覆われる。その時、龍一はこの言葉が禁句であった事を悟った。蛇に睨まれたカエルの様に硬直し、全身から冷や汗が流れる。そして___

 

 

「いってぇぇぇぇ!!!」

 

 

悲劇(アイアンクロー)が彼を襲った。

 

 

数十秒後にやっとの思いで解放され、龍一は唸り声をあげながら頭を抑える。一方の千冬はと言うと、頭を抱えて再びため息を吐いた。

 

 

「ったく、お前という奴は…で?お前は今後どうするんだ?聞いた話によると海外からも高校のお誘いが来てるんだろ?」

 

 

「へ?そうなのか龍一?」

 

 

千冬の言葉に一夏は驚いた表情をする。確かに、あの大会で優勝した日を境に海外の高校から声がかかっているのは本当だ。

 

 

「あぁ、でも俺は藍越学園かなぁ。チェスは正直何処でも出来るし、やっぱり地元の方が良いな。」

 

 

「そうか!じゃあ俺と同じだな!まっ、腐れ縁同士仲良くやろうぜ!!」

 

麦茶を片手に持ちながら、一夏は嬉しそうに龍一と肩を組む。龍一もあの時まではそうなるだろうと思っていた。

 

 

 

 

 

そう、あの時までは_____

 

 

 

 

 

 




※チェスに関しての知識は実際に調べて書いていますが、『現在ではチェスを軍事戦略に~』の辺りは思いっきり想像で書いています。


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