妖怪の山に、新しく神社ができたらしい。幻想郷において神社といえば博麗神社を指していたのだが、これからは分けて呼ぶ必要があるようだ。
はてさて、博麗神社といえば大妖怪のたまり場として有名だが、今度の神社はどうだろうか。場所が妖怪の山という文字通りの妖怪の住処の山頂であるのは置いておいて、そこには博麗神社と違いれっきとした二柱の神がおわすという。おまけに、参道も妖怪の山だというのに昼間なら通ってもよいらしい。
ならば、一度ぐらい行ってみよう。そう思って神社に来たが、やはり参拝客は一人もいない。どうやら里の皆は自分で安全を確かめる腹積もりのようだ。寺子屋の先生を行かせればいいかと言う人もいるかもしれないが、あの人は先生で忙しい。一方の自分はまるで働いていないかのように床でごろごろ。どちらが行くべきかは明白である。弁当と供え物はきちんと渡されたので、それに文句はないし受け取った手前言えないのだが。
文句を腹の中で呟きながら、森の外から妖怪に見られながら、神社までの参道を登る。山道と言えるほどに整備はされているが、やはり山。鳥居の前の石造りの階段を上りきることには、すっかり汗をかいていた。濡れた下着が気持ち悪い。
だがしかし、大きな神社だ、特にしめ縄。
「参拝の方ですか?」
そう思いながら鳥居の下をくぐってみれば、何やら緑の巫女がいる。否、袴の色的には青の巫女か。博麗の巫女は赤だから、ある意味対照的だろう。姿勢もそうならばうれしいが。
そうです、と反応するだけではどうかと思ったので、巫女さんですかと質問をする。何を当たり前のことをと思われるかもしれないが、その時は袴の色について話せばいい。
「いえ、風祝です。珍しいでしょう? でも、基本的には巫女と同じだと思ってください」
そうなんですか。失礼ですが、お名前は?
「あ、すいません。東風谷早苗です」
どうかよろしく。
「こちらこそ」
どうしようか、話すことがなくなった。いや、聞けばこの神社は外から来たらしい。ならば、外のことについて聞くのも。いやいや、会ってすぐに質問攻めというのもどうか。
とりあえず、参拝しよう。この選択に間違いはあるまい。
東風谷さんにかるく頭を下げて賽銭箱の前に行き、二礼二拍手。そして一礼しようとし、ピタリと動きが止まってしまった。意識の先は、右手に持った瓶の酒。そう、供え物はどうするのか。地蔵ならまだしも、神社への供え方は知らないのだ。
賽銭箱の上に置く。横に置く。中に入れる。どれも絶対罰当たり。どうせなら、さっき渡しておくべきだった。といっても今更戻って渡すわけには。
「お供えものですか?」
まるで石のように固まった自分の心を読んだように、東風谷早苗の声が聞こえる。巫女でもなく風祝でもなく、彼女は救世主なのではないのだろうか。
ああそうです。お供え物のお酒です。そう言いながら、両手で渡す。
「はい、確かに。きちんと二人に渡しておきますね」
受け取ると、そう言いながら彼女は笑う。しかし、これで用事はなくなった。あとは帰るだけである。もう少し彼女と話したかったが、下山には多少なりとも時間がかかる。日が落ちるのは、御免こうむる。
また来よう。そして、できればもっと話そう、話したい。そう願い、一礼をして神社を去った。帰り道では、吹き上げる風に引き留められた。